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次第 「常用漢字表案」に関して各界から寄せられた意見について(報告)

福島会長

 それでは,本日の議事に入りたい。初めに「常用漢字表案」に関して,各界から寄せられた意見の概要を事務局から報告願いたい。

室屋国語課長

 「常用漢字表案」に関して,各界から寄せられた意見について,概略御説明申し上げる。
 昨年3月30日に中間答申された「常用漢字表案」を広く関係機関・団体に送付して,趣旨・内容を吟味の上,意見があれば文書で提出していただきたい旨,昨年5月25日,文化庁次長名で依頼した。依頼先は,「新漢字表試案」のときとほぼ同様で,各省庁,各都道府県,各教育委員会,報道出版関係,それから文字印刷関係,国語関係団体,教育関係団体,学会,大学など200余に及んでいる。その他,「常用漢字表案」は,各方面に多数送付されている。
 その結果,先日,各委員に送付したとおりの意見が各界から文書で提出されている。意見を提出した機関・団体名は,本日お配りしてある「「常用漢字表案」に関する各界からの意見の提出状況」という一覧表にまとめてある。
 提出された意見は,既に御覧いただいたと思うが,「常用漢字表案」作成の適否の問題から,個々の字の賛否に関する具体的な問題まで,非常に広範多岐にわたっている。資料には各団体・機関の意見をそっくり生のまま取り込んであるので,これを事項ごとに分類して御説明申し上げたい。
 まず基本的な性格に関してであるが,制限から「目安」に変わったことについては賛成であるとする意見が多い。それぞれの表現に差があるが,具体的には書籍出版協会,新聞協会,雑誌協会,国語問題協議会,高松市,仙台市等が賛成意見を出している。高松市,仙台市というのは,全国都市教育長協議会の五つのブロックからそれぞれ個別的に意見が出されたものである。
 端的に賛成だとするものだけではなく,例えば,次のような言い方をしているところもある。「「目安」という柔軟な考え方を示したのはまことによい。幾つかの代表的な事例をれ例記して,「目安」の趣旨をもっと強調してはどうか。」という高松市からの意見とか,「「目安」には賛成,ただし無制限な漢字使用を助長しないような方策が望まれる。」という仙台市の意見とか,「「目安」については概念があいまいだという意見もあるが,制限的色彩を改めようとする意図には,一応賛意を表する。」という日本雑誌協会の意見などがある。また,「運用に当たっては,法令・公用文,教育など,公共的分野において,「目安」が野放しと受け取られることのないよう留意すべきである。」という意見も新聞協会から出されている。
 一方,「「目安」ということで,各方面に異なった表記の基準が設定されることは,一面,国語の混乱に通ずるので,原則的な基準は決めておくべきである。機械処理による情報伝達が多くなると,ますますその必要が強まる。」という国会図書館の意見,「「目安」の解釈を明確にし,ある程度の基準性を持たせるようにしてほしい。」という福島市の意見,「法令・公用文書と新聞,雑誌等民間の文書とは同列に扱うべきではない。「常用漢字表」は,法令・公用文書には,「目安」ではなく,実行を義務づけるべきである。「目安」は,民間に実行を勧める場合だけの言葉とすべきである。」というカナモジカイの意見がある。
 また,「「目安」としたことは,既に漢字を習得している者には問題がないが,これから漢字を習得する児童たちにとってはどうであろうか。「目安」の拡大解釈で,使用する漢字が増えていく懸念がある。」とする全国小学校国語教育研究会の意見,「「目安」というあいまいな表現は混乱を招くおそれがある。」という全日本印刷工業組合連合会の意見もある。
 反対意見としては,「「目安」は漢字乱用につながり,法令・公用文の平明化は望めないので反対。」という意見が,日本コトバの会,日教組,日本作文の会主催第28回作文教育研究大会などから寄せられている。
 一方,「漢字制限は撤廃すべきである。」という日本音声学会,富士を守る会の意見,「内閣告示訓令として実施される以上,「目安」も社会的強制力を持つことになってしまう。」という荒魂之会などの意見が出されている。
 2番目に,字種・字数について申し上げる。字種・字数については,いろいろな意見が非常に多く出されており,大別すると,大幅に増やすべきだという意見と,逆に減らすべきだという意見,中間答申の字数を超えるべきではないという意見,「当用漢字表」にあって「常用漢字表案」にない19字についての復活を希望する意見等,いろいろある。
 大幅に増やすべきであるという意見を寄せているのは,文芸家協会で,「前回,「目安」としての表の複数化,最低の「目安」として215字の追加,音訓表の廃止を要望したが,ほとんど顧みられなかったのは遺憾である。改めて100字の追加を要望する。」ということで,具体的に100字の字種を提示している。
 逆に,減らすべきだという意見として「漢字表に加える字が,除く字数を超えないようにすべきである。」というカナモジカイの意見,「1900字ぐらいが適当である。」という仙台市の意見,「「目安」であるなら,日常的でない字を省いてはどうか。」という堺市の意見などがある。
 先ほど申し上げた中間答申の字数を超えるべきでないという意見は,新聞協会から出されており,「最終的に中間答申の字数を超えない方向で検討されることが望ましい。」というものである。
 次に,おおむね妥当とするという意見であるが,「字種の選定の考え方はおおむね妥当である。個々の字の拾い方には異論があるだろうが,「目安」の考えに立つ以上,一字一字の当不当には余り重きを置くことはあるまい。」という国語問題協議会の意見,「字種については,社会的に慣用されてきた漢字も多く取り入れられて便利になり,文章表現もしやすくなった。19字減,95字増となったが,増えた漢字については全く適切であるように思われる。」という全国小学校国語教育研究会の意見がある。

室屋国語課長

 次に,「当用漢字表」にあって「常用漢字表案」にない19字の復活についても,いろいろな意見が出されている。「当用漢字で削除された19字については,第2表などの形でもよいから残すべきである。」という日本雑誌協会の意見,「「当用漢字表」にあった字で削除された「且」の字などの19字は,おおむね常識的な歴史知識や表現に不可欠な重要漢字である,削るべきでない。」という富士を守る会などの意見,「「目安」と言いながら,当用漢字の中にあるものまで削除しているのは理解に苦しむ。特に憲法ゆかりの文字を子弟に教えずに,いかなる法治国家が成り立つであろうか。」とする荒魂之会の意見がある。また,全国高等学校国語教育研究連合会から寄せられた意見は東京で大会を開催した際,会員にアンケート調査をした結果に基づいたものであるが,「常用漢字表案」にあって「当用漢字表」にない95字については,支持率が高いということで,75%が賛成したというデータが出されている。一方,「当用漢字表」にある漢字を削ることはかなり批判的であるということで,これもアンケートの結果,不適当であるとする者が50.8%,つまり半数を超えたことが述べられている。
 字種については,具体的にいろいろあり,追加要望字が,先ほど申し上げた文芸家協会の100字を含め合計149字,削除要望字が合計76字になっている。それらは個人からの要望も含めてである。個別的には省略するが,「翁],「奴」,「隷」,「婆」,「薪」などには復活の要望が多く出されている。また,19字をすべて表に残すべきだという意見も出ている。なお,削除希望については,「屯」が多いのみである。
 次に,音訓について申し上げる。「音訓選定の考え方はおおむね妥当」という国語問題協議会等の意見がある。一方,「音訓表の廃止を要望したが,顧みられなかったのは遺憾である。」という文芸家協会の意見,「音訓と用例について再検討すべきである。」という正書法を考える会の意見,「音訓の増加や付表の熟字訓・当て字の例は,漢字使用を複雑なものに引きもどすものであるから,反対。」という日教組の意見,「漢字の訓については,昭和23年の旧音訓表の線まで減らすべきである。」というカナモジカイの意見などが出されている。
 次に,字体についてであるが,おおむね好評で,「字体についての考え方や解説を付したことは適切である。」とするものが非常に多い。例えば,書籍出版協会,雑誌協会,国語問題協議会,堺市などから賛意が表明されている。
 しかし,「骨組みとデザインの境界について更に明確な説明が必要ではないか。また,漢字表に使用された活字は一例であって,標準ではない旨の一層の強調を望む。」という全日本印刷工業組合連合会の意見,「康煕(こうき)字典体の活字は字体変更があるものすべてに付記すべきである。」という書籍出版協会,国語問題協議会の意見,また「部首について基準を立てるべきである。」という全日本印刷工業組合連合会の意見などもある。
 次に,教育の問題についてであるが,「児童生徒の負担が重くならないよう適切な措置を望む。」という意見が多く出されている。これは,国語教育関係団体からが多く,福島市,千葉市,境市,全国小学校国語教育研究会,全日本中学校長会などから出されている。また,「義務教育用の漢字として1000字から1500字の基本漢字の選定が大切である。」という日本音声学会からの意見がある。それから,「新しい教育漢字については,読むべき漢字と書くべき漢字の範囲を明確に区別すべきである。」という仙台市の意見,一方,「別表の廃止は,義務教育における負担の増加を招くものである。」という日教組,日本作文の会などの意見,「国語審議会で義務教育用の漢字を選定すべきである。」というカナモジカイ,正書法を考える会の意見,「国語審議会としては,教育漢字の在り方について更に積極的な意見の開陳をすべきである。」という国語問題協議会などの意見が出されている。
 次に,人名用の漢字についてであるが,これに対しては,法務省民事行政審議会の人名用漢字の制限方式続行の方針に反対である旨の意見が,文芸家協会,国語問題協議会,荒魂之会などから出されている。また,「人名漢字に関する措置が,「常用漢字表」と歩調を合わせて決定されることを望む。」という日本書籍出版協会,日本雑誌協会などの意見がある。
 その他,いろいろな意見が個別的に出されている。「県名の漢字(表に入っていないもの11字)については,表内に入れるように考慮すべきである。」という雑誌協会,国会図書館の意見,それから,「姓に用いる漢字で使用頻(ひん)度の高いもの,例えば,「藤」,「岡」,「伊」,「阿」,「」などは表に入れておくべきである。」という国会図書館などの意見もある。
 次に,「出版界が適切に対応できるよう,国語審議会の今後のスケジュールと最終答申の時期等について,あらかじめ公表されるよう望む。」という書籍出版協会の意見,「組み版の形式は,正式答申の際には,横組みではなく縦組みにすることを望む。」という国語問題協議会の意見などがある。
 また,全体的に,「常用漢字表」作成の適否に関する事柄として,「「常用漢字表」の答申は取りやめるべきである。」という意見が,日本コトバの会,児童言語研究会第16回夏季アカデミー参加者,日教組,日本作文の会主催第28回作文教育研究大会から出されている。
 最後に,国語審議会の審議に関する要望事項として,「審議に当たっては,拙速を避け,これまで以上に関係各界の声を聞きながら,慎重に検討されるよう望む。」という日本新聞協会の意見,「将来も時代の推移に伴い字種の改定が必要となることが予想されるが,頻繁な改定は,学力低下,習得意欲の減退を招くので,慎重にしてもらいたい。」という全国小学校国語教育研究会の意見,「正しく美しい国語の擁護には一層の努力を期待する。」という日本私立大学連盟の意見等がある。
 次に,個人から文書で寄せられた意見に関してその概要を申し上げる。字種・字体・音訓に関するものが多く,その他いろいろな意見が付加されている。
 字種については,追加希望,復活希望の字として,「翁」,「薪」,「婆」,その他「当用漢字表」にあって「常用漢字表案」にない19字を列挙しているものがある半面,削除すべきだという字を具体的に列挙しているものもある。
 次に,音訓については,具体的な追加希望を示したものや,付表の語についてその一部は本表の音訓欄に掲げるべきだというような技術的な意見なども出されており,字体については,「簡略化の検討を望む。」として,具体的に私案を寄せているものもある。
 そのほか,「目安」に関連して,「「目安」とはなるべくこの表に沿って表記することが望ましいということでなくてはならない。」などの意見が出されている。
 なお,個人から文書で寄せられた意見は,直接文化庁に寄せられたものと,教育モニター等から寄せられたものとを含んでいる。
 以上,機関・団体,個人から寄せられた意見の概要の説明を申し上げた。

福島会長

 機関・団体から寄せられた意見と個人から文書で寄せられた意見の概要は,報告のあったとおりである。非常にまじめに検討された意見が多いと思われるので,国語審議会として,十分検討を加えなければならないと考えている。

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