国語施策・日本語教育

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次第  「常用漢字表案」説明協議会について(報告)

福島会長

 文書で寄せられた意見のほかに,御承知のとおり,全国5地区で開催した「常用漢字表案」説明協議会においても,各方面の意見を求めたので,その点について,事務局から報告をお願いしたい。
 なお,私はこの期間病気で入院中のため,出席できなかった。古賀副会長には全会場,三根谷委員には4会場に御出席をいただき,また頼委員,林大委員にもお加わりいただいた会場があるので,各委員から説明を補足していただければ,なお結構である。
 まず,全体の状況について御報告を願いたい。

室屋国語課長

 説明協議会についての概要,そこで出された意見・質問の概要等について御説明を申し上げる。
 「常用漢字表案」の趣旨・内容を説明し,併せて広く関係者の意見を聞くための説明協議会を全国5か所で実施した。
 順を追って申し上げると,まず関東・甲信越・静地区は東京の久保講堂で6月7日に開催した。650名ほど参加して,非常に多くの意見が出され活発であった。それを皮切りとして,九州地区が福岡で6月22日,東海・北陸・近畿地区が岐阜で6月25日,北海道・東北地区が仙台で7月4日,最後に中国・四国地区が岡山で7月10日に行われたわけであるが,いずれの地区においても非常に盛会で,それぞれ数百名の参加者があった。古賀副会長には5会場とも御出席いただき,三根谷漢字表委員会前主査には4会場に,また,会場によっては頼漢字表委員会前副主査,林大委員にも御参加をいただいた。
 「常用漢字表案」の趣旨については古賀副会長から,内容については三根谷委員,頼委員から御説明いただき,また,質問にお答えいただいた。事務局ももちろん参加している。
 参加者の意見・質問等については,先般お送りした資料にまとめてあるので,個別的な詳細は省略して,大綱だけを申し上げる。
 まず,「目安」という漢字表の性格は,一般に好感を持って受け止められていたようである。例えば,「「常用漢字表案」における「目安」という考え方を高く評価したい。」(埼玉県銀行員),「漢字の制限は,過去の文化・伝統の継承に支障を来す。一方,国際化・情報化社会の見地から漢字の簡略化や効率化も必要であろう。今回の「常用漢字表案」が「目安」と性格づけられたのは,この二面性を国語審議会でよく考え合わせた結果であろうと思い,賛成する。」(福島県・教員)というような意見などが印象的であった。
 しかし一方,別な観点から,「「目安」でも,新聞製作の技術から言うと,使用する字種は制限的にならざるを得ない。「常用漢字表」が「目安」になったということで,他の面,特に法令・公用文で漢字の自由な使用が行われると混乱を来すと思われる。」(宮城県・新聞社勤務)という懸念を表明した意見もあった。更に,「なぜ「当用漢字表」を改定する必要があるのか。」とか,「「当用漢字表」を制定以来,今日まで,どんな弊害があったのか。」という疑問を投げかけた人も,東京会場にいた。このように,「目安」については,一般的には非常に好意を持って迎えられているが,運用の面等から,質問や意見が表明されている。
 2番目に,字種・字数については,新しい字種の追加を求める意見,「当用漢字表」にあって「常用漢字表案」にない字の復活の要望などが出された半面,限られた分野でしか使われない字種が入っている──「屯」という字を挙げている──などの意見も出され,非常に活発であった。
 字体については,これも各会場において,特に教育の面からの関心が強く,字体についての許容性,康煕字典体の扱い等についていろいろな質問が出された。全体として,「常用漢字表案」が,字体について詳細な解説を掲げ,ゆとりのある扱いを示していることは,非常に好感を持って迎えられているという印象を深くした。
 次に,教育との関連については,学校教育で将来どのような扱いがなされるのかということについて強い関心があり,その方面の質問が非常に多かった。その中で,義務教育で教える漢字と一般社会で使われる漢字との間のギャップが大きくなることは問題である,という意見も出されていた。
 以上,概略御説明申し上げた。

福島会長

 説明協議会には,古賀副会長,三根谷委員,頼委員,林大委員に御出席いただき,また御説明もいただいた。何かお話しいただければありがたい。

古賀副会長

 説明協議会では,私のような素人がなぜ説明を行うのかというような不審を抱く向きもあろうかと思ったので,私は門外漢であるけれども,違った分野の仕事をしている方々の一部を代表して,こうした存在も多少お役に立つ場合もあろうかと思い,求めに応じて参加しているのであるということを最初にお断りした。
 次に,質問の内容に入る前に,出席者に,まず「はしがき」を読んで趣旨をよく了解していただきたい,各委員の方々が非常に苦心して仕事をしてくださった内容を理解していただくためには,ぜひ御覧を願いたいということを述べて,特に「はしがき」の部分は,事務当局の方に朗読していただいて,話を始めることにした。
 この説明会に出た質疑等の内容は,先ほど国語課長から詳しい説明があったとおりで大体その中に含まれている。
 私は,今までに,この種の説明会としては,音訓・送り仮名,新漢字表試案,それから今度の中間答申案と,3回参加したわけであるが,実は今回は説明会を実施する前に,一部の方の中に,説明会のようなものをわざわざやるほどの意味は余りないのではないかというような心配を述べられる向きもあった。
 しかし,実際の質疑等を聞いていて,むしろ意外に感じたくらいに,参加者が大変熱心に,建設的にいろいろやりとりをしてくださったことは,大変ありがたかった。特に,どこかの会場で,最終の段階で,何かサクラをお願いしたのではないかと疑われそうなくらいに,非常に熱のある感謝の意を表せられるということがあったが,私はこれを,審議会の委員の皆様の苦労を十分理解して発言された言葉と受け取った。
 そういったようなことで,事前に多少の心配はしていたけれども,それどころではない,やはりこういうことを催して大変意味があったということを感じた。詳しい事柄については,この後三根谷委員をはじめ,他の委員からお話があると思うが,とりあえず前座を努めた者として,一応の概況を御説明申し上げた。

福島会長

 三根谷委員にもお伺いすることがあればお願いしたい。

三根谷委員

 5会場で開催された説明協議会のうち,福岡会場を頼委員にお願いし,他の4会場には私が出席して説明を行った。文部大臣の諮問が出されてから,今回の「常用漢字表案」の中間答申に至るまでの経緯,漢字表の基本的性格である「目安」のことなどについては,古賀副会長から詳しく説明があった。経験豊かであり,また専門分野でも非常に大きな功績を挙げておられる副会長からのお話は,重いものを感じさせ,出席者に非常な感銘を与えたようである。
 その後を受け,私はまず「常用漢字表案」の前文に述べてある基本的な考え方について説明し,それから字種と音訓に関する問題,字体の問題,教育との関連,人名用漢字の問題というように,漢字表案の前文に書かれている諸項目にわたって,できるだけ詳しく説明をした。
 その中で,字種・字体に関しては,第11期以来の検討の過程を織り込んで,できるだけ詳しく具体的に説明したつもりである。特に,「新漢字表試案」に対して各方面から寄せられた意見を漢字表委員会や総会等で慎重に検討した結果が,1926字から成る中間答申になったことについて説明をした。試案の中で解決するに至らず,問題の残っていた点,特に教育との関連については,ある程度説明をしたつもりであるが,説明内容が多くて時間が足りなくなったので,時には大事なこともはしょって,午後の質問に対する答えの中でそれを述べるというようなこともあった。
 午後の質疑応答では,副会長にも,東京会場では更に林大委員にも答えていただいた。また,専門的な問題については,文化庁の方に答えていただいた。これは予想していたことであるが,出席者からは全く相反するような意見の開陳もあった。しかしとにかく出席者は,非常に熱心に協議に参加し意見を述べて,討論が進められた。
 会場によっては,学校の教員が多かったためもあって,教育との関連に質問が集中した。前文の中に,学校教育用の漢字について,「その扱いを別途の教育上の適切な措置にゆだねる。」とあるが,国語審議会の漢字表案についての基本的な考え方が十分に反映するように努力してほしい,というような意見がたびたび聞かれた。中には誤解に類するようなこともあり,例えばこれもやはり前文の中の「当用漢字別表は,これを廃止するのが適当である。」という文言について,それでは教育において漢字が野放しになる,といったような読み方がなされたこともあった。これに対しては,御承知のように,現在は学年別漢字配当表があって,既に当用漢字別表はなくても差し支えない状態になっていることを説明した。そういう読み違い,誤解を解くことができたということもこの協議会の一つの成果であったと考えられる。
 それから自分が好ましいと思う字が入っていないというところに関心が集中して,こういう字は追加してもらいたいというような,具体的な字種を挙げての意見の開陳がかなり中心的な問題となっていたように思われる。これは,既にお配りしてある「「常用漢字表案」説明協議会における意見・質問等」の中に記録されている。
 字体に関しては,先ほど説明があったように,窮屈な見方をしていないという点で賛成意見が多かったように思う。ただ,筆写の楷書における書き方の習慣を改めようとするものではないという前文の考え方がまだ十分に行き届かない点があったようで,相変わらず多くの方から,学校教育で非常に細かな書き方,点画の組み合せの仕方等を正誤の問題として取り上げていることに対する批判や反対意見が表明された。これに対しても,我々が筆写の習慣というものをもっと緩やかなものとして考えていること,今日一般に使用されている明朝体活字で,微細なところで形の相違の見られるものは,いずれもデザインの違いであって字体の違いではないと考えられること,また,特に現行の字体は変更しないこととしたことなどを説明して,了解が得られたように思っている。
 以上,大体において,字種の問題を除くと,基本的な考え方が制限的な方針から「目安」という方向に進むにしても,それが非常に大きな変革,大きな表記法の改定につながるような問題ではない,という見方が割合に多くの方の共感を呼ぶものであったと考えている。

福島会長

 頼委員の御報告を伺いたい。

頼委員

 ただいまの三根谷委員の御報告でほとんど尽きているが,私の分担したところを御報告申し上げる。古賀副会長,林大委員並びに文化庁の方々の御列席を得て,私はただわずかの説明をしたにすぎないが,今度の会に参加して,一般の人がどういうふうに「常用漢字表案」を見ているか,それを知るのに大変よい機会であったと痛感している。
 先ほど国語課長から説明があった項目にのっとって申し上げると,今度の漢字表案について,性格・運用の面では,実際にそれに縛られて使っている人々からの意見が目についた。つまり,文章の実務・校正などに携わる立場の人からすると,「目安」という言葉の持つ玉虫色の色彩がいろいろ疑念を持たれている面もあるように受け取れた。それを解くための努力をしたつもりだし,御列席の諸先生も適切に御説明くださったが,そこに問題点があることは事実だと考えた。
 その次に,字種・字数の件については,福岡の会場では,大体納得されているように思えた。ただ,実務に当たっている新聞社関係の人々の意見によると,漢字テレタイプの容量などの関係で,字数が増えて2,000字を超えるようなことになるのは余り好ましくない。別にこの漢字表が2,000字を超えているわけではないが,何かそういうことを心配している向きがあるということも分かった。
 それから,音訓についていろいろ議論が出たが,これは当面余り問題は深刻でないと判断した。
 3番目に,字体であるが,これも先ほど来いろいろお話があったように,大体納得されているようである。ただ,学識のある方が参会しておられ,とかく字源問題が出て,字源との関係をないがしろにするような漢字表の字体は困るという意見が出された。しかし,これについても,国語審議会の方針をるる説明して,その場ではともかく納得していただけたのではないかと考えている。
 4番目の教育との関連,これはいろいろの意見があった。特に学校教育用の漢字,あるいはそれに関連して人名用の漢字を国語審議会が直接審議しないのは,質問者の言葉を借りると,責任回避ではないかというような強い意見も出て,私なりの説明はしたつもりであるが,一般の受け止め方としては,そういう空気が世の中にあるのではないかということをひそかに感じた。
 ただ1か所の経験であるが,大体以上である。

福島会長

 林委員,いかがか。

林(大)委員林

 ただいま,古賀副会長,三根谷委員,頼委員からお話があったが,私としては,別段付け加えることはない。
 印象としては,説明協議会の説明の趣旨,あるいは国語審議会の前書きの趣旨というものは一通り理解をしてもらえているという印象を持った。
 ただ,先ほど三根谷委員,頼委員のお話の中にも出たように,ある誤解をもって参会した方もあったように思うが,賛成されるにせよ,反対されるにせよ,国語審議会の考えたことについては理解がいただけたと思う。

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