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次第 協議

福島会長

 ただいま国語課長並びに諸委員から御報告をいただいたが,これについて感想なり,質問なりがあったら,どうぞ。

宇野委員

 後ほどまとめて申し上げたいと思ったが,今のお話に関連したことだけお尋ねしたい。
 「協議会における意見・質問等」の9ページに,「人名用の漢字について」という項目があるが,そこに「法務省の民事行政審議会が人名用漢字について今後も制限的方針でいくことを決めたようだが,国語審議会としてはこれをどう考えるか。」という質問が出ている。これに対して,説明協議会に御出席の委員の方々がどういうような説明をされたか,もしお差し支えなければ承りたいが,それに関連して私の意見を申し上げておきたい。
 前回の総会の節にるる申し上げたことは,国語審議会としては,民事行政審議会に対して,お任せした我々の趣旨とはどうも違うと思うから,遺憾の意を是非表明していただきたいということである。
 そのとき,なぜそう申したかというと,古い話であるが,昭和21年に当用漢字表ができた後,現在の法務省に当たるところで戸籍法及び戸籍法施行規則が昭和22年12月に制定されたが,そこに,人名用の漢字は常用平易な文字として当用漢字に限る,という意味のことが出ている。しかし,当用漢字表の「まえがき」には,固有名詞については別に考えることとした,ということがちゃんと書いてあるわけであるから,国語審議会としては当然それに対して抗議を申し込むべきであった。それをしなかったのは怠慢であるか,あるいは勘ぐればむしろ国語審議会の圧力がかかったのではないかということを,実はかつて印刷物に書いたことがある。
 私は,自ら省みて,それは少し勇み足であったかと思う一方,やはり怪しいと思っていた。ところが,先般,ある印刷物に,座談会のような形式であったが,法務省の係の方の発言があり,自分としては──というのは法務省の方である──そういうことはやりたくない,国語審議会でもっと審議を重ねた上でしかるべき処理をしたいと思っていたが,国語審議会から早くあれを決めてくれというかなり強い圧力がかかった。そのためやむを得ずそういう案を作ったのである,という意味の発言をしている。手元にその印刷物がないので大意を申し上げるにとどめるが,そういう趣旨の発言がある。
 今回は,そういうことがなかったことを確信しているが,以前そういうことがあるので,今回は,国語審議会として,法務省の民事行政審議会に,決められた方針は遺憾であるという趣旨のことを是非会長名で意思表示していただきたい。こういうことを前回申したわけである。そのときは,会長が御欠席であったので,副会長から会長にそのことは伝えておくという話であった。説明協議会に関する報告中のたった1行の「人名用の漢字について」という宮城県の無職の方の意見であるけれども,私は非常に関心を持っているので,それに対してどういう説明をされたか承りたい。

福島会長

 確かに前回の総会でそのような御発言があり,その点を問題点として検討する必要があるというお話は承っている。
 ただ,人名用漢字の問題だけを先に取り上げるか,どうか。今回,各方面から,まじめに検討された資料をたくさん頂いているので,審議会としても,各方面の意見に対して一々返事するかしないかは別として,全体的に十分検討を加えた方がよかろうという感じがする。
 そのために,今後,問題点整理委員会,あるいは漢字表委員会の発足を願うというつもりである。字種とか,字体とかの問題については,いずれ漢字表委員会で御検討いただき,改めて総会にその御報告を聞かせていただけると思う。ただ,その字種・字数の問題や,目安の問題を含めて,ただいま御報告のあったような問題は,各方面から寄せられた意見の中にもある問題であるから,問題点整理委員会で,その中から,もう一遍検討する必要のある,あるいは説明について工夫を加える必要のある点の御検討を願って,これまた総会でその御報告を承って審議をするという過程が,これから必要なのだと思う。
 法務省の人名漢字の問題点は,「目安」という原則の考え方にかかわる問題であろうが,「目安」の原則それ自体についてなり,あるいはその説明の方式なりについて,もう少し丁寧に検討するという件もあろうかと思うので,それらの問題と併せて,人名用漢字の問題についても,審議会としての態度を検討する必要があるかもしれないと考えている。
 そういうことで,大変御苦労をおかけするが,法務省の問題なども含めて,どういう問題点があるかということを,まず問題点整理委員会で整理をお願いし,その上で,それをどういうふうに考えていくか,ということが,これからの審議会の問題となるであろう。その一連の関係の中で,当然ただいま宇野委員から御指摘のあったような問題も取り上げて考えてみるということになるのではないか,と私は思っている。
 ただいま御発言のあった問題も含めて,御意見があったら,どうぞ。

木内委員

 所用のため,中座しなければならないので,今後の審議の運び方について,希望だけを申しておきたい。
 前回の総会では,最終答申とせず,もう少し世間の反響を聞くということになって,今日にきたわけである。大体どういう反響があったかは今日伺ったが,反響を聞いた以上は,これを十分に丁寧に処理しなければならない。意見を聞いたけれどもやっぱり元のままで結構だとか,聞いてみたら直すべき点を発見したとか,どっちかにならなければならない。
 一年間世間の反響を聞いてみた結果として,原案には直すべき点があるのかないのかということを決めるのが問題であるから,問題点整理委員会でもいいが,やはり漢字表委員会の仕事だろうと思う。そこで,漢字表委員会を至急に開くことを決めて,それに,いわば拡大漢字表委員会的な性格を持たして,今までの規則もそうなっているが,どなたも出席して発言ができるようにすればよい。そういう会を至急開くように取り運んでいただいたらいいと思う。
 もう一つは,今の宇野委員の御発言がそうであるが,これがいよいよ最終答申になるそのときに合わせて同時処理すべき問題があるのかないのか,あるとすればどうするかという問題である。今の人名用漢字の問題にしても,こちらが,制限ではない「目安」だと言った以上は,法務省が,あるいは戸籍の実務に当たる人が迷うのは当たり前であるから,それに対してどうするかは,関連して処理すべきことである。人名用漢字の問題が一番大きいであろうが,教育用の漢字についても,当用漢字別表は廃止するのが適当であるとする以上は,後はどうするのかという問題が必然的に顔を出してくるわけである。
 それから,漢字表の性格を「目安」ということに変える以上は,今まで,いろいろの委員会を作って,学術用語に至るまで,難しい漢字はやめて,漢字なしでいくようにしようという非常な努力をしてきたわけであるが,これをどうするかということをきっちり言うべきであると思う。
 そういうことが関連事項として処理すべきことであるが,処理すべき事項は何かをピックアップするという目的だけにしぼってピックアップすればいい。あとは次の問題になる。それだけのことなら一回でできるはずであるから,拡大された漢字表委員会を早く開いていただきたい。
 非常に時間がたっているということについてそれほどお思いにならない方もあるかと思うが,私は,国のためから考えてよくないことだと思う。中村文部大臣の諮問が出されたのは昭和41年である。慎重審議をしたのは結構であるし,その間に世間が熟したということもあって,これは必ずしも悪くはなかったのであるが,今のままでは,日がたてばたつほど,世間が国語政策というものに対してそっぽを向くことになる。これは決していいことではない。我々委員としても,いやな気持ちがする。だから,日を余り空費しないように,できるだけハイピッチで,きちんきちんと整理していくということを,今後の運営に望みたい。

福島会長

 先ほど来申しているように,両委員会に担当の問題について早めに御検討いただき,いずれかの時点で,総会でそれを考えるというつもりである。それは,木内委員の言われた趣旨にも沿うものと思う。
 ともかく,どういう問題点があるかということは,総会で一々考えていくわけにもいかないだろうから,問題点整理委員会にお願いし,また,字種・字数に関連する部門については,恐縮ではあるが,漢字表委員会に検討していただきたいと考えている。
 今後の審議会の運び方は,その上での問題ということになると思う。念のために申し上げると,今期の審議会の任期は来年の5月末日までである。しかし,できれば,3月・4月という区切りも考えておくことが望ましいと思うので,これまでかなり十分な審議を尽くしてきたあげくのことであるし,本年内にでも,大体審議会としての考えがまとまるような運びにすることが望ましいのではないかと思っている。その上で,今期は少なくとも最終答申を出す,ということにもっていきたい。
 しかし,審議会の内部では十分了解がついているであろうから,原則を変えようということは考えていないが,公表する場合に誤解のないよう,もう少し丁寧な説明をした方がいい点があるということは,各方面の意見を一読させていただいた中で私も感じているので,今後,答申案についての改善点の発見とか,あるいは問題点の発見とかの手続をとってまいりたい。
 いずれにしても,これだけ熱心な要望を各方面からいただいたのであるから,時間の制限もあるし,人力の制限もあるが,極力丁寧な検討を加えて,審議会としての結論にもっていきたいと考えている。
 ただいままで二人の委員の御意見をいただいたのであるが,ほかに御意見があったら,どうぞ。

三根谷委員

 宇野委員からの御質問にお答えしておきたい。
 まず,「常用漢字表案」の前文にある人名用の漢字の取扱いを法務省にゆだねたということについての説明は,事務局の方から適切にしていただいた。しかし,法務省が今後も制限的な方針でいくと報道されたことに関する国語審議会の意見については,国語審議会としての一致した意見がまとまっていないので,回答を差し控えておいた。以上である。

福島会長

 確かに,理屈から申せば,現在の「常用漢字表案」で「目安」ということに方針を決めて今日まで検討してきたことは事実である。最終答申にもその形で出るはずだと思うが,現在は最終答申が出ていない段階であり,法務省の方から聞かれても,そういうことに決まる方向で目下審議中だ,ということしか言えないであろう,という気もするから,それでやむを得ないかと思う。
 これから先,漢字表委員会なり,あるいは問題点整理委員会なりに御苦労願うわけであるが,そのほか,その前に総会として御意向を承っておかなければならないことがあったら,どうぞ。

志田委員

 ただいま会長のお話にもあったように,今度出されている意見は,右から左までとでも言うか,強い反対の意見も一方で出ている反面,一方では非常に積極的に賛成する向きもあり,それを更にある方向に進めてほしいという意見もあって,非常に多種多様のように思われる。これについて,こういう席で議論をしようとしても,具体的に何から取り上げたらよいか,なかなか容易ではないような気がする。その意味では,漢字表委員会を開くということが最初にしなければならないことのように思う。漢字表委員会としては,ただ,こういうさまざまの意見をどうするかと言われても困るという面が一方であると思うが,具体的な検討をずっと続けてきているわけであるから,とにかくそういうことで進めるほかはないような気がする。
 その漢字表委員会で当面ひっかかるのではないかと思う点の一つは,字数の問題ではないかという気がする。ところが,「目安」と言っても,漢字表を決めるからには,字数はこの辺までとか,あるいは多少増えてもやむを得ないとか,更に減らすべきではないかとか,いろいろな考え方がこれから考えられてくると思うが,委員の各位がそれについてどのように受け止めているかということは,漢字表委員会としては分からないわけである。そこで,今回各方面から提出された意見を踏まえて,更に字数についてどのように考えるかということを問題点整理委員会でお取り上げになるのであれば,その中の項目の一つとして,字数を現在どおりにするかしないかということについての御意見を各委員から集めていただく,ということをしたらいかがであろうか。漢字表委員会で具体的な検討を進めていく段階で,そこで出た御意見どおりには必ずしもならないかもしれないが,そういう一つの指標が与えられていれば,そのことを含みながら作業を進めることができるような気がする。
 問題点整理委員会でその項目がもし取り上げていただけるのであれば,お願いし,漢字表委員会では,とにかく一応今度の意見全体をあずかってそれについての検討を始めるというふうにしていただく。当面考えていることはそのようなことである。

福島会長

 各方面から寄せられた意見に対してはまじめに取り扱ってみるという態度はどうしても必要であろう。取り上げてみても,御希望のような結論には達しなかった案件であるということになれば,それはそれでやむを得ないわけであるが,とにかくこれだけの意見が寄せられたという事実にかんがみて,審議会としては各方面の意見を総合的にまた個別的に検討してみるべきであろう。その全体的な検討は,問題点整理委員会にお願いし,直接,字種なり字体なりに関する要望等については,漢字表委員会で取り上げてもらうということになるかと思う。問題点整理委員会から問題点として上がってきたもののうち,漢字表委員会にお願いできるものであればお願いし,そうもいかないという問題であれば審議会としては改めてどういうふうにそれを取り上げていくかということを御相談するということになるだろうと思う。
 漢字表委員会及び問題点整理委員会で御検討をいただいて,総会という段取りになるのは,恐らく7月ごろということになろう。その後,9月,11月ごろの総会という段階を経ていくわけである。両委員会には早速本日にでも,主査・副主査をお決めいただいて,御検討をいただくような手配をしていただきたい。その上で総会で問題ごとに御意見を伺いながら整理していくということになると思う。そのためにも,更に御意見があったら御発言をいただきたい。

林(四)委員

 会長から,次回の総会は7月の予定であるということを伺ったが,私は,漢字表委員会の一員として,総会をもう少し早く1か月後ぐらいに開いていただいた方がいいのではないかと思う。というのは,これから漢字表委員会が資料をもとに字数の問題や要望された字の採否等について検討していくわけであるが,漢字表委員会としては,検討がどうしても個々のことになると思う。それ以前に,もう少しレベルの高いところで,漢字表委員会では,かくかくの点に留意しつつ検討せよ,という総会としての注文が出るべきであろうと思う。漢字表委員会が技術的に資料を見ていくのに,より高い次元の見方があるわけである。ただそれを本日伺おうとしても,最近手元に届いたばかりで,各委員は資料をそんなに細かく読んでおられないと思われるので,次回に回すほかないが,各委員がこれを御覧になって,大勢を察知なさり,この中からどれだけのことを特に留意して漢字表委員会に検討してほしいかという注文を頂くのが7月だというのでは遅いと思う。そこで,1か月後ぐらいにそういった総会を開いていただきたいと思う。

村松委員

 ちょっと明確にしておいていただきたいと思うのは,さっき木内委員から,各方面から寄せられた意見に基づいて,漢字表委員会がその対応策を講ずべきだという御意見があって,それは漢字表委員会としては当然おやりいただくことであるが,その前に,長年かかって漢字表委員会が審議検討し,全体の国語審議会委員が是認した常用漢字表案を,簡単に各方面からの意見で動かす方がいいのか,あるいはこのままでいいのか,ということなどについてのアンケートを問題点整理委員会等で取った上でお願いする,というのが順序ではないかと思う。

福島会長

 仰せの点はかなり大事な点である。長年月をかけて漢字表委員会に御苦心を願ったのだから,漢字表委員会に,従来の検討に加えて今回提出された意見をどうするかという問題をお願いするというのも,非常に気がひけるわけである。しかしさりとて各団体あるいは個人から寄せられたいろいろな意見を従来これだけの時間と努力をかけて検討してあるので,漢字表委員会の案をやたらに変える意思はないと,原則的に片づけられるかどうか。一つ一つの意見については既に検討済みのものが大部分だろうと思うが,検討した結果,従来の案でよいということで結構であるから,各方面の意見に対して,一応一つずつ丁寧に検討に応じるということが必要ではないかと,私は考えている。しかし,原則問題として,漢字表委員会の今日までの御苦心と御努力はよく分かるので,仰せの点は十分に考えてみなければいけないと思っている。

鷹取委員

 説明協議会の御報告を聞き,それから各団体等からの意見を見ると,先ほど国語課長からも詳細に分類して説明があったが,大きく分けると,いわゆる知識階級の方──学者あるいは文学者──は,「目安」という範囲をなるべく広くと考えており,また,なるべく漢字を増やした方がいいというような考えが強いように思う。それから,一般の庶民は「目安」という言葉を一つのものさしとして考えて難しい文字はなるべく増やさないで,我々の読みやすい,書きやすい日本語にしてほしい,と要望しているように感じた。
 そこで,これから,問題点整理委員会あるいは漢字表委員会で御検討になるときには,古典を勉強しているごく限られた学者とか,あるいは非常にデリケートな文学作品を作っている方のためだけではなしに,一般の大多数の日本人,特に日常,書類を扱い,契約文書を書き,生産をし,経済運営のために汗脂をしぼっている人たちの漢字の取扱方に対し,慎重な,そして温かい御配慮を頂きたいと,切にお願いしたい。
 特に私の年来の主張を,国立国会図書館が寄せているが,当用漢字が30年実施されてきて,しかも,その当用漢字で教育された者が人口の50%にも達している現状である。会社では,我々のような,明治・大正初期の者はそろそろいなくなって,当用漢字で教育された者が,部長,課長として今日の日本経済を支える中心人物になっている。それにしては,今回,各方面から寄せられた意見の中には,地方でも,経済をやっている人,農業界の人とか,地方の商工会議所,あるいは工業団体の生産面を担当しており,商業の文書でコミュニケーションを行っている人とかの意見が余り出ていない。教育関係,学者関係の意見が多いが,その中でも,日教組からの意見,教育現場で子供たちをあずかっている専門家の考え方というものも非常に尊重しなくてはいけないのではないかと思う。
 国語審議会の各専門委員会で御検討になるには,できるだけ多くの国民のこと,一般庶民の立場を対象として考えていただきたいと思う。
 漢字は日本人がこれを使い,ある意味において日本文字になっているが,やっぱりこれは中国の文字であって,日本人の作った文字は,片仮名と平仮名である。そして厳然として我々日本人の和語というものがあるのであるが,ここに,漢語という難しいものが入ってきた。漢語は非常に長い歴史を持っているように見えるが,恐らく徳川時代までは,浄瑠璃その他の本を御覧になっても,みんな平仮名で書いてあって余り漢語を使っていない。近松門左衛門の作品その他,そして遠く紫式部とか清少納言は,立派な作品を平仮名で書いているわけで,難しい漢字を使って表現はしていない。漢語が入ってきたのは明治になってからであるが,その漢語を非常に多く使った明治時代の文芸作家たちの作品を,近ごろの若い人はほとんど読んでいないのではないかと思う。
 だから,こういった時代の流れから見て,学者とか文芸作家ではなくて,大多数の国民のコミュニケーションのためには,一世代が替わるまで余り変えてはいけないと思う。国立国会図書館の意見のように,国民の50%が当用漢字で教育された人たちであるし,教育現場の日教組から子供たちのために,余り負担をかけるようなことをしてはいけないという意見も出ている。このことについて慎重な御配慮の上で「常用漢字表案」を扱っていただきたいと思う。
 そして,福島会長の御決断によって,今度全国5地区で国民の声を聞き,各団体から意見を聞いたわけであるが,先ほど申し上げたように,日本の農業界とか,工業界とか,あるいは経済界とか,地方のそういった方の意見がまだ出ていない。まだまだ結論を急ぐべきではない。文芸家であっても,山本有三先生のように,漢字を極力減らしていくのがこれからの日本の文芸作品だということで,国会でも大変御尽力になった方もあるわけであるから,国語審議会の審議の内容を随時適当にまとめて世間に発表すれば,世間からまたそれの反応はあると思う。もっとそういう意見を聞いていくことがいいのではないか。国民の一人一人の意思のコミュニケーションのためのものであるから,一部の学者や文芸家の考え方だけで決めるのではなく,もっと慎重に時間をかけて御検討いただきたいということをお願いする。

福島会長

 確かにお説のような議論もあるわけであるが,我々としては今日までの審議の過程で,性格についても「目安」といったようなことでここまできたわけであるので,従来の方針に基づいて行き着くところまでなるべく早くもっていきたいという希望がある。ただ「目安」という表現は,いろいろな幅のあるような形になっている。「常用漢字表」ができて「目安」として使ってほしいという場合に,「目安」について,かなり幅の広いものであるという考え方と,「目安」という感じからいってそんなに幅のあるものではないという考え方とがありうると思う。
 しかし,国語審議会が答申で「目安」という言葉を使ったときには,どういうつもりでその言葉を使ったのかくらいは審議会としての意向がまとまらないものか。人それぞれによって考え方に幅があるという説明では話にならないのではないかという気もする。そのことを含めて,各方面から寄せられた意見の中で,今後審議会として検討すべき問題点があるかないかということを,直接総会というわけにもいかないので,問題点整理委員会にお願いしようかというつもりである。
 急ぐか,急がないかという問題もあるが,これから,御苦労さまであるが,両委員会に御発足いただいて,土台となる検討をしていただいた上で,次の総会の段取りを考えていくことにしたいと思っている。次の総会の開催は7月ごろという一応の案があるが,決定しているわけでもないし,両委員会の御検討の様子をみた上で考えたいと思う。
 この答申案の一番重要な点は「目安」という点にあることは,御承知のとおりであるが,「目安」とは何か,ということについて,審議会の意見は,いろいろの考えがありうるということではどうにもならない。いろいろな考え方のある問題であろうけれども,審議会としてはこういうつもりで使ったということに意見の調整ができないものかというように感じている。今後,審議会としてはこの問題を中心にして総会で態度を決めていくということになるのではないだろうかと感じている。

木庭委員

 「目安」についての考え方であるが,「目安」というのが,どういう意味で昔から使われてきたかといった一般的な問題から始まって,ひいてはこの審議会で「目安」という言葉をどういう意味で使い出し,また使ってきたか,それがこういうふうになったという,この「目安」という言葉の審議会における沿革について簡単な御報告をどなたかにしていただいて,それをもとにして,漢字表委員会か何か,あるいはできれば全員の合意を先にとる,そういうことをした方がうまくまとまるのではないかと考える。

福島会長

 ごもっともだと思う。確かに「目安」という言葉には,昔からいろいろな解釈の仕方もあるはずだと思うが,この審議会の答申の中にその言葉を使う以上は,審議会としてはこういうつもりで使ったということが決まっていなければ,都合が悪いと思う。それについて,仰せのとおり,昔からの考え方,また審議会始まって以来の考え方を十分参考にして考える必要もあろうが,いずれにしても,国語審議会が出す答申であるから,この「目安」というものをこういうつもりで使っているということくらいは決まっていなければならないというのが,私の感じである。

木庭委員

 その報告書は外に示すものではなくて,我々の一致のための資料として内部で使うものというつもりで私は申した。

福島会長

 外にも示さなければならないこともあると思う。答申を外の人が読んで,ここの「目安」とはどういう意味かと聞かれたときに,返事をしないというわけにもいかないので,言葉の解釈としては,いろいろあるであろうが,少なくとも審議会としてはこういうつもりである,ということをできるならばまとめておきたい。その過程においては,確かにみだりに発表する必要もないかもしれないが,こういうつもりである,そのつもりで読んでほしい,ということは言わなければならないと思う。

木庭委員

 それはそのとおりだと思う。

福島会長

 それでは今後の問題を,とりあえず問題点整理委員会,漢字表委員会で御検討いただくということを前提にして,その進行状況などもにらみ合わせながら,次の総会の日程を考えていくようにしたい。あまり時間もないが,何かこの際御発言があったら,どうぞ。(発言なし。)
 何遍も申し上げるようであるが,問題点整理委員会と漢字表委員会の発足をお願いしたいと思う。
 それでは,本日の総会はこれで閉会とする。

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