国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第15期国語審議会 > 仮名遣い委員会の審議経過報告について(主査報告資料)

仮名遣い委員会の審議経過報告について(主査報告資料)

第3 仮名遣いについての基本的な考え方

 仮名遣い委員会では,第4回総会の後,小委員会を設けて仮名遣いについての基本的な考え方,すなわち,「仮名遣い」という語の示す内容,現代語音,音韻と仮名との対応,構成配列等の問題を論議した。これらは,仮名遣いのきまりを考えるに当たっての基本的な事柄であって,理解を共通にしておく必要があると考えたからである。

1 「仮名遣い」という語の示す内容

 国語施策として常用漢字表に並べて仮名遣いを考えるに当たっては,漢字表が,漢字を用いて国語を表記するときの目安というきまりを示すのに対して,仮名遣いは,仮名によって国語を表記するときのきまりと考えておくのがよかろうと思われる。それは,従来一般に,仮名遣いは同音の仮名を語によって使い分けることと考えられてきたにの比すれば,広い見方であるが,同音の仮名の書き分けが,主要な部分としてそこに含まれることは言うまでもない。

2 仮名遣いの沿革

 仮名によって日本語を表記するということは,漢字の表音的使用,すなわち,漢字を万葉仮名(真仮名)として用いたところから始まったのであるが,その初めは,表音の原理があっただけで,同音の漢字がいくらあっても,それを使い分ける何らかのきまりが立てられていたとは認めがたい。9世紀に至って,草体及び略体の仮名文字が行われるようになり,11世紀のころ,いろは歌による仮名体系が成立したが,その後の音韻の変化によって,「いろは」の中に同音のものを生じてその使い分けが問題になり,1200年前後に藤原定家を中心として,その使い分けのきまりを立てる考え方が生じた。すなわちいわゆる定家仮名遣いである。定家仮名遣いは,その原理には疑いを持たれながらも,後世長く歌道の世界を支配した。次に,1700年ごろになって,契沖が,「いろは」を上代の万葉仮名の文献に当てはめて,語ごとにきまった仮名の使い方のあったことを明らかにし,それ以後,古代における先例が,国学者を中心とする文筆家の表記のよりどころとなった。一方,漢字音について,中国の韻書に基づいて仮名表記を定める研究が1800年代に進んだ。この字音仮名遣いと契沖以来の和語の仮名遣いとを合わせて,今日普通に歴史的仮名遣いと呼んでいる。
 明治の新政府が成立すると,公用文や教科書には,歴史的仮名遣いが主として用いられることになり,それ以来約80年間は,歴史的仮名遣いが国家的,国民的な基準であった。しかしその間には,表音原理による仮名遣いの改定がしばしば論議され,また,字音については,小学校教科書に表音式仮名遣いが数年間実施されたことがある。そして,昭和21年,それまでの歴史的仮名遣いに代わるものとして「現代かなづかい」が制定され,その後約40年間,この表音原理による仮名遣いが,官庁,報道関係,教育その他の各方面に一般に用いられて今日に至っているわけである。

3 表音原理と例外

 「現代かなづかい」は,その表音原理を「大体,現代語音にもとづいて,現代語をかなで書きあらわす」と表現しているとおり,実際上例外的な条項を含んでいる。これは,新しいきまりを行われやすいものとするために,従来の表記の習慣を考慮したものと言うことができる。その例外には,使用頻度の高い助詞のような,個々の語である場合もあり,また,同音の連呼や二語の連合というような,語構成に関することを目印とする場合もある。なお,そのほかに細則の適用に問題のあるものもある。このたびの検討は,主としてこの例外的事項と適用に問題のある事項の処理に関して行われるべきものである。

4 現代語音

 「現代かなづかい」のいう「現代語音」は,現代語の標準的な音韻と言い換えてよかろう。ここには,特殊な方言音や擬音・擬態の表現における特殊な発音は,含まないものとする。すなわち,これらの表記は,きまりに強いて当てはめる必要のないものと考える。また,外来語の表記は重要な課題であるが,外来語の原音と国語の音韻との間には単純に取り扱うことのできない面があるので,外来語の仮名表記については,別の検討を期することとする。
 現代語の音韻の単位としては,直音・拗音及び清音・濁音の短い音節(100種)とそれに対するそれぞれの長音があり,そのほかに促音と撥(はつ)音とがある。

5 音韻と仮名との対応

 上に述べたような音韻に対して,仮名の一つ若しくはその連続又はそれらの仮名に濁点・半濁点の補助符号を伴ったものを,それぞれ対応させようとしたのが「現代かなづかい」の表音原理である。ところで,仮名の種類を「いろは」47文字と「ん」の範囲とすると,それらのうち,現代語音に当てて同音になるものに次の組がある。 い−ゐ え−ゑ お−を じ−ぢ ず−づ
 「現代かなづかい」では,以上のうち,「ゐ,ゑ」を全く用いないこととし,「を」は助詞の場合にのみ,「ぢ,づ」は同音の連呼,二語の連合の場合にのみ用いることとした。
 また,歴史的仮名遣いの場合,語頭以外の「は,ひ,ふ,へ,ほ」は,それぞれ「わ,い,う,え,お」と同音に読まれることが多く,また「ふ」はある場合に「お」と同音になった。「現代かなづかい」では,助詞の「は,へ」を除いて,これらの「は,ひ,ふ,へ,ほ」がハ行音以外に読まれることを排した。また,歴史的仮名遣いでは,ウ列拗音,オ列音及びオ列拗音のそれぞれの長音に,様々な仮名連続形式が書き分けられているが,「現代かなづかい」では,同じ長音に対しては一通りの仮名連続形式を用いている。
 これが,一つの音韻は一つの表記をとり,一つの表記は一つの音韻で読まれるようにするという「現代かなづかい」における表音原理の適用の実際である。
 なお,「現代かなづかい」には,エ列長音,オ列長音などという場合に,現代語音として,それに該当するかどうか,実際の発音にゆれがあったり,その解釈に疑義があったりするものがある。細則の適用に問題があるというのは,これらの類である。

6 構成配列

 仮名遣いのきまりを考えるに当たっては,その構成配列が問題になる。「現代かなづかい」ではまえがき3か条のほかに,発音と新旧の仮名遣いを対照した四つの表,細則33か条,注意2か条,備考10か条を示している。細則には語例が添えられている。これらにはおおむね歴史的仮名遣いで書き分けのあったものについて,表音原理による新しい書き方を示しているものであるが,その記述の仕方において必ずしも一貫していないところがある。すなわち,細則の第1から第9までは表音原理による歴史的仮名遣いの改定という形をとっており,第10から第33までは,現代語音をどう書き表すかという形をとっている。また,細則に添えられている語例は,歴史的仮名遣いで同音の書き分けがあったものを逐一網羅的に掲げてあり,その結果,「現代かなづかい」の細則の部分は一見複雑な様相を呈している。仮名遣いの検討は,記述の仕方を一貫したものにするとか,語例の掲げ方を簡明なものにする等,構成配列の面からも行われるべきものと考えられる。

トップページへ

ページトップへ