国語施策・日本語教育

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次第 「改定現代仮名遣い(案)」に関して各界から寄せられた意見について(報告)

有光会長

 続いて本日の議事に入りたい。
 2月の総会で仮名遣い委員会の試案として公表することにした「改定現代仮名遣い(案)」については,その後,説明協議会の開催や資料配布,意見収集など,事務局の方で取り進めていただき,お手元の配布資料で御覧のとおり,各界からの意見も取りまとめられている。本日はまず,これらの経緯や意見の概況について事務局から報告していただき,その後でこういう世間の反応についての皆様方の御感想やお考えも伺いながら,今後の審議の進め方などについて御相談したい。
 初めに各界から寄せられた意見についての報告をお願いしたい。

後藤国語課長

 御報告申し上げる。2月20日,国語審議会総会に対して仮名遣い委員会から御報告のあった「改定現代仮名遣い(案)」は,仮名遣い委員会試案ということで新聞発表したわけである。その後の経緯については,お手元の資料1を御覧いただきたい。
 「「改定現代仮名遣い(案)」に関する趣旨説明と意見収集について」という資料に,「2 文書による意見提出の依頼」というところがある。2月20日以降,新聞発表し,またこれらの機関に「改定現代仮名遣い(案)」を送付した。各省庁関係36機関。都道府県,地方自治関係団体,53機関。報道,出版,印刷及び国語関係団体,59機関。都道府県教育委員会,教育関係団体,62機関。学術用語関係学会等,57機関。国公私立大学,短大,高専及び文部省所轄機関等が1,073機関。合計で1,340機関に資料をお送りし,意見を求めたわけである。そのほか,課の方へ資料を求めておいでになった方々にも差し上げた。
 その結果,各省庁から34回答があった。36のうち残る2機関は,内閣法制局,内閣総務課で,これは各省庁の意見を取りまとめる立場にあるので,回答はしていない。報道,出版,印刷及び国語関係団体は10機関からの御意見をいただいた。都道府県教育委員会,教育関係団体は3機関から御意見をいただいた。大学関係,学校関係は,千葉大学等,5か所から御意見をいただいた。ということで,合計52機関からの御意見をちょうだいしたわけである。
 それから個人から意見をちょうだいしたものは30件あった。
 それが資料2の冊子の中にまとめてある。資料の2をちょっと御覧いただきたい。
 目次中,「第1部」が,今申した関係機関,団体からの意見をまとめたものである。「第2部」は,個人からのもの──30件あったが──をまとめたものである。
 それでは,お目通しいただきながら概略について御説明申し上げたい。
 まず2ページの「省庁等」であるが,各省庁からは,原案のとおりでよろしい,意見はないという文書での回答が来ている。
 3ページ以降については,資料3を御覧いただきたい。
 まず全体的な評価をしていただいた機関が10団体ある。日本新聞協会,日本地方新聞協会,日本書籍出版協会,日本雑誌協会,日本専門新聞協会等であり,いろいろの意見があるが,大体原案で大筋において賛成という御意見をいただいている。
 二,三御紹介すると,日本新聞協会は日本語を仮名書きで表す場合に現代語の音韻に従うことを原則としている点は大筋として評価する。内容については,今後混乱を招くおそれがあるので改善を要望する。
 日本書籍出版協会は,「現代かなづかい」は大筋において改める必要はないものと判断したとする今回の案を基本的に評価し,支持する。
 これに対して,日本文芸家協会は批判の立場で,一般社会での使用状況が安定しているからといって,大筋において改める必要はないと判断できるものかどうか。現行の仮名遣いを是とする論理的説明はどこにも見いだせない。多くの矛盾と欠陥を持つ「現代かなづかい」を「よりどころ」という注釈付きであれそのまま国語の表記法として認めることに反対する。「現代かなづかい」の弱点を洗い出し,だれでも納得いく表記法を改めて考えることが必要だ,ということである。
 10機関のうちその他は賛成という立場である。
 それから前文所掲の事項であるが,まず仮名遣いという語の示す内容について,これは2団体から意見が出ており,いずれも評価していただいている。
 仮名遣いを仮名によって語を表記するときの決まりとしたことに賛成,これは日本書籍出版協会である。
 それから日本点字委員会からは仮名によって語を表記するときの決まり,という仮名遣いについての認識は高く評価できるとある。
 それから原則については,これも2機関から意見をいただいており,いずれも御賛成ということである。
 現代語の音韻に従うことを原則としている点は大筋として評価する。これは日本新聞協会である。
 日本地方新聞協会からも同じように支持の御意見をいただいている。
 それから「よりどころ」とすることについて,仮名遣いを規制するのではなく表記の「よりどころ」として発表したことに賛成,これは日本書籍出版協会である。
 それに対して日本文芸家協会からは,「よりどころ」とはあいまいな規定だ,字義どおり受け取ればこれを「よりどころ」にどのような表記を行っても構わないことになるし,他方「よりどころ」と言いながらも,これが告示として発表されれば事実上の強制力を伴うだろう,というような御意見をいただいている。
 適用分野については,3機関から御意見をいただいている。
 日本新聞協会からは,適用分野の除外例「及ぼそうとするものではない」とあるものとして,科学,技術,芸術その他の各種専門分野は挙げておく必要はない。日本雑誌協会からは,仮名遣いの場合,ことさら適用範囲を明記する必要があるとは思えないという趣旨の御意見をいただいている。
 他方,日本地方新聞協会からは,科学,技術,芸術等の分野の表記にまで及ぼそうとしないことに賛成,という御意見である。
 固有名詞,外来語・外来音を適用外としたことについては,それぞれ2機関から賛成の意見と反対の意見が出ている。
 それから特殊な方言音等の扱いについて,日本地方新聞協会からは,対象としないことに賛成。
 日本雑誌協会からは,例えば「おとっつぁん」,「はっつぁん」などに現れる「つぁ」が音韻表にないのはなぜか,特殊な方言音とみなしてのことであろうか,というような御意見が出ている。
 発音にゆれのある語について,これは3機関からいただいており,主として語例の示し方についての意見が出ている。

後藤国語課長

 例えば日本書籍出版協会であるが,発音にゆれのある語について,その発音をどちらかに決めようとするものではないとしたこと,すなわち語形の決定について規制するものではないとしたことは大いに賛成,ただ,その立場からすると,ゆれのある語形を一つの規定の事例として示すのはよくない。「ほお」「じんずうりき」など,すべて除いてほしい。ゆれのある語形については条項を別に掲げ,ゆれの実態を反映する複数の表記形を事例として示すことを提案する,という意見をいただいている。
 規則の立て方については,歴史的仮名遣いと対比した形で規則を立てることをやめて,規則の立て方を簡明にしたことは,国語を学ぶ学童や外国人にとってより一層便利になると判断する。これは日本地方新聞協会である。
 他も賛成意見である。
 助詞の「は」「へ」及びオ列の長音の「許容」を省いたことについては,日本点字委員会からは,これらの許容を従来どおり存続することを強く要望する。もし点字は別に取り扱えばよいというなら,その理由と対策を明確にし,改定案の中に明記してほしい。
 愛媛県教育委員会からは,省いたことは妥当であるという御意見をいただいている。
 二語の連合の意識の薄い語については,「じ・ず」を本則とし「ぢ・づ」を許容としたことについてであるが,日本新聞協会からは,許容を認めることは望ましくない。「じ・ず」で書くことは,報道界でも一般社会でも既に実行されているので混乱を招くだけである。
 日本地方新聞協会からは,「世界中」の「じゅう」を「ぢゅう」と書くことも認めるなど,「じ・ず」で書くことを本則としながら「ぢ・づ」で書くことも許容した今回の措置を高く評価する。
 日本文芸家協会からは,今回変わったことと言えば許容条項を設けたことくらいだ,許容条項を置くことによって批判をかわそうとしたととられても仕方があるまいという意見である。
 それから「えいせい(衛生)」のたぐいの仮名表記について付記1で示したことであるが,これについて,付記でエ列の長音と見られているものの表記の基準を示されたことについては,語の表音性と表意性の調和を図られたという意味で評価できる。これは日本点字委員会である。
 「てきかく(的確)」,「すいぞくかん(水族館)」などの仮名表記について付記2で示したことについて,日本新聞協会からは,改定案の書き方は現代語の音韻の状況と相反するものである。実態を踏まえた表現にした方がよい。具体案としては,完全に促音化した語例を多く示す。「てきかく」「すいぞくかん」のたぐいは「き」又は「く」と書いてもよいとする。今の案と反対の書き方をするように,ということである。当協会の案が採用されない場合には,付記2全体を削除することを望む。
 日本書籍出版協会は,付記2は削除すべきである。これらの語の発音は大いに揺れており,むしろ促音化が強まっているという実態に逆行するものである。また多くの類例をどう扱うかで混乱の生ずることが予想される。
 日本雑誌協会は,促音化するか,しないかの判断は個々人によっても異なり,また迷うものも多い。これらは書き手の判断,あるいは慣用にゆだねられるものなのか,そうでないのか,付記2に掲げられた例では余りにも少なく,判断のよりどころになりにくいので,例を可能な限り挙げられたい。
 日本点字委員会は,付記でいわゆる促音表記の基準を示されたことについても,語の表音性と表意性の調和を図られたという意味で評価できる。これは評価の方である。
 付表を設けたことについては,日本地方新聞協会,愛媛県教育委員会から,賛成の意見が出ている。
 学校教育については,日本新聞協会から,報道界も含めた,一般社会と学校教育における仮名遣いは一致することが望ましい。両者の関係にあいまいな点があってはならないということを強調すべきであるということで修正の意見が出ている。
 それから,本文・付表の内容等についての意見であるが,拗音・促音に用いる仮名の小書きについては,日本書籍出版協会等からは,「なるべく小書きにする」とあるが,「なるべく」は削除すべきだという御意見が出ている。
 助詞「を」「は」「へ」の規定の文言については,2団体から表現の修正が出ている。
 日本新聞協会からは,助詞の「は(ワ)」は,「は」と書く。
 日本軽印刷工業会からは,「わ」と発音される助詞の「は」は,「は」と書く,というような修正案が出ている。
 助詞「は」の語例について,日本書籍出版協会から,助詞の「は」は,副助詞と終助詞(または間投助詞)を区別し,副助詞は「は」,その他は「わ」とする,とした方が分かりやすい。
 日本軽印刷工業会からは,次のようなものは,この例に当たらないものとする,として「いまわの際,すわ一大事,降るわ降るわ,きれいだわ」を掲げているが,なぜそうなのかという理由を簡潔に示すべきだということである。
 ものを言うの「いう」については,2機関から意見が出ている。
 日本軽印刷工業会からは,動詞の「いう」は,「ゆう」と発音されている場合があっても「いう」と書く,という具合に改めてほしいという意見である。
 四つ仮名「じ・ぢ」「ず・づ」については,軽印刷工業会から「ぢ」「づ」は全く廃止すべきだという意見が出ている。
 日本地方新聞協会は,二語の連合の「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分けが明確になったことは,国語の整備において大きな前進と評価する。
 日本書籍出版協会からは,「じ・ぢ」「ず・づ」の事例について,語源,語構成の意識の有無を今後余りあれこれと論議すること,例えば「ときわず」か「ときわづ」かというようなことは,避けてほしい。
 日本文芸家協会は,いかなる根拠に基づいて二語の連合の意識の薄いものという判断が下せるのか,現行の表記法を踏襲しているにしてもその点の説明があってしかるべきだという意見である。
 オ列の長音の一本化については,3機関から意見をいただいているが,オ列の長音はすべて「お」とするとか,あるいは「う」とするとか,要するに統一してもらいたいという意見が出ている。
 付記についての具体的な修正案が日本新聞協会から出ており,付記1の用例に次の二語を追加する。「えい(えい)」「めい(姪)」──これは和語の関係であろうか──を追加してほしいということである。

後藤国語課長

 それから,付記2を次のように改めるということで,キ,ク,チ,ツで終わる字音が結合しているもののうち,完全に促音化したものは,その部分を促音の表記にして,なるべく小書きにするということで,「せっけん(石けん)」「てっき(敵機)」というものを挙げ,なお「てきかく(的確)」「きくか(菊花)」「さんかくけい(三角形)」「すいぞくかん(水族館)」のような結合の部分が促音化していると言いきれない語を,その部分を「き」又は「く」と書いてもよいというように修正してもらいたいということである。
 付表についての具体的な修正案であるが,付表冒頭に歴史的仮名遣いによる五十音図を掲げることが望ましい。また,歴史的仮名遣いにおける「きゅう」「くゎ」などの拗音・合拗音の示し方は,教育上,小書きで示しておく方がよい。教科書,辞典類でも小書きで示している実態を考えてほしい。これは日本書籍出版協会である。
 その他,仮名遣い以後の審議対象についての要望等は,省略させていただく。
 第2部であるが,個人から出された意見で──39ページにあるが──いろいろ意見が出ているので,お二人以上からの意見が出ている項目について御紹介する。
 「よりどころ」ということについては,大いに歓迎するという意見もあるが,仮名遣いについては規範性を緩めるべきではないという意見もある。
 適用分野については,芸術や個人の日記などは別として,科学,技術等は当然適用されてよいという意見もお二人から出ている。
 発音に近づけること,仮名遣いはできるだけ発音に近い書き方をすべきだという意見が,お二人から出ている。また「現代かなづかい」とは別に,言葉の索引や配列,ワープロやコンピュータなどの仮名入力に役立つような発音式の仮名の使い方の取り決めが必要だという意見もお一人から出ている。
 助詞の「は」「へ」については「わ」「え」と書くことにすべきという意見がお二人から出ている。それから「は」「へ」について,許容を認めず確定したことを高く評価するという意見がお一人から出ている。
 オ列の長音については,先ほどの2機関と同じように,「お」をつけて書くことに統一すべきだという意見,それから「おおきい」「こおり」なども「おうきい」「こうり」のように書くべきだ。「う」で統一するという御意見。それから,長音であることがはっきり分かって他と紛れることのないような長音の書き方を検討してほしい。それから,「お」で書く小数の語を許容を認めず確定したことを高く評価するという御意見がお一人ずつから出ている。
 付記2の「き」「く」の促音化については,混乱を招くおそれがあるので見直しをすべきだという御意見がお二人から出ている。
 歴史的仮名遣いについては,文語文は歴史的仮名遣いによるというルールを確立すべきである。字音仮名遣いは「現代かなづかい」式でよいが,国語仮名遣いについては,歴史的仮名遣いが正しいもので,これを本則とし,「現代かなづかい」は便宜上の仮名遣いであることを明らかにすべきである。歴史的仮名遣いの良さを見直すべきである。現在の生活で使う仮名遣いを昔のままにしろというのは全くばかげている。というような意見がお一人ずつから出ている。
 四つ仮名の「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分けについては,二語の連合の意識の薄いものとして「じ・ず」で書くことを本則とされている「いなずま」「ぬかずく」「せかいじゅう」などについて「ぢ・づ」で書くべきである。意識が薄いというのは,主観的で妥当でない。「ぢ・づ」の方が自然である。子供にも教えやすい「ぢ・づ」の方を本則とし,「じ・ず」を許容とすべきだ。四つ仮名については歴史的仮名遣いに戻すべきであるなどの意見がある。また,書き分けについては合理的な仕分けをすべきであり,許容は設けるべきでない。はっきりできる根拠が必要で子供の疑問に答えられないようなものは困る。元の意味がはっきりしないものはどちらを書いてもよいとすべきだ。現状追認が望ましいが,拘束性は薄めて,教育などはどちらでも好きな方を使わせるようにしたい。今のままでいくほかない,はっきり決めた上で適用に含みを持たせればよい。試案の考え方は一応理解できる。「いなずま」は「ず」でよい,むしろ「もとづく」を「づ」で書くのが気になる。そのほかいろいろ御意見が出ている。
 なお,個人から出された意見のうち長文で御意見をいただいた三人の方については,全文をここに載せてある。(19)ページからのものは大阪大学の教授でいらっしゃる池田和義先生のかなり詳しい御意見である。それから,見坊豪紀先生からも──(58)ページから5ページにわたって──いただいた御意見を載せてある。それから,京都の文教短期大学の先生でいらっしゃる若井勲夫先生からいただいた御意見も全文をここに載せさせていただいた。
 そのほか,新聞発表当時,朝日,毎日,読売,日経,サンケイ,東京などいろいろ社説が載ったが,それは一番後ろに付録として載せてあり,当時の「声」欄に載った意見もなるべく網羅するようにいたした次第である。
 社説については,中央紙は,原案どおり賛成であるという意見であったように思う。ただ,神社新報──歴史的仮名遣いを用いて表記している新聞であるが──は,この案に反対という御意見である。そのほかいろいろ意見が出ているが,賛否両論なるべく公平に網羅するように努めた。
 大体以上である。

有光会長

 機関,団体から寄せられた意見と,個人から文書で寄せられた意見の概要は,ただいま報告のあったとおりであるが,どれもまじめに検討された意見だと思われるので,国語審議会としては十分に参考にしていかなければならないと思う。

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