国語施策・日本語教育

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次第 「改定現代仮名遣い(案)」説明協議会について(報告)

有光会長

 次に説明協議会の状況についての報告をお願いする。五つの会場すべてにお出掛けいただいた林主査と,二つの会場にお加わりいただいた松村副主査からもお話を伺えたらと思う。

後藤国語課長

 事務局の方から御報告申し上げる。
 資料1を御覧いただきたい。資料1に「「改定現代仮名遣い(案)」説明会の開催」というところがある。
 北海道・東北地区については,福島県文化センターで2月28日に開催した。参加者が276人あった。関東・甲信越については,東京の九段会館で3月19日に開催し,819人の参加者があった。東海・北陸・近畿については,大阪府青少年会館で3月20日に開き,582人の参加者があった。中国・四国地区については,香川県庁ホールで3月25日に開催し,420人の参加者があった。九州地区については,福岡市「ももちパレス」で3月8日に開き,403人の参加者があった。合計2,500人の参加者があったわけである。
 それから,5月8日には各省庁の文書担当官に集まっていただき,総理府で説明協議会を開催した。
 この意見は,資料2の冊子の第3部にまとめてある。49ページからであるが,後ほど,林主査あるいは松村副主査から話があるかと思うので,簡単に申し上げる。
 東京・大阪会場については,歴史的仮名遣いを是とする立場からの御意見がかなり出た。
 56ページを御覧いただきたい。「歴史的仮名遣いと古典の継承」というところで,例えば英語とかフランス語の場合を例としての古典を尊重すべきだという御意見や,森おう外とか大正の山田孝雄博士の御意見を引用して歴史的仮名遣いを尊重すべきだという御意見。
 それから50ページを御覧いただきたい。国語審議会は,国語仮名遣いと字音仮名遣いを区別しないで取り扱う方針をとっているが,漢字仮名交じり文では漢語は一般に漢字で表されるから字音仮名遣いはさして重要でない。この両者は分けて考えるべきではないかとか,仮名遣いという語の示す内容の項で述べられていることは,単なる見方の広い狭いの問題ではなく,もっと根本的な考え方の違いだと思う。このような重大な変更が行われなければならなかった理由は何かとか,現行の「現代語音」という用語は定着せず非学問的なものだったが,今回の「現代語の音韻」はそれとどう異なるのか,また,音韻をどんな手順で定めたかなどの詳しい説明がほしいとか,歴史的仮名遣いを是とする立場からのいろいろな御質問なり御意見なりがあった。が,一方,57ページであるが,古典が読めなくなるのが心配な点は,私も同感だ。しかし,だから仮名遣いを歴史的仮名遣いに戻せというのはおかしい。歴史的仮名遣いのものを読むことは,教え方さえ誤らなければ,外人にも難しくない。いずれにしろ,この場では,歴史的仮名遣いをどうしろというようなことではなく「現代かなづかい」をどう改めるかについて議論する方がよい。情報化社会を迎えて,学生の言語生活も以前と比べて格段に幅広くなった。その中で育った学生は,古文や旧仮名・旧漢字の文学作品なども結構うまくこなしている。その点は余り心配ないので,国語審議会は国民の日常的なコミュニケーションのための表記の原理原則を打ち出すことに専念すればよい。現在の審議会の審議は,大体まともな方向に近づいている。それを一歩でも二歩でも先に進めていただきたい。というような意見も出ているわけである。
 そのほか,他の三会場,東京会場,大阪会場でも一番出た意見は,四つ仮名の「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分けについてのかなりいろいろな意見である。そのように見られるわけである。
 以上である。

有光会長

 続いて,林主査からお話を伺いたいと思う。

林(大)主査

 ただいまお聞きになったようなわけで,5会場で説明会が行われたが,私は,5会場に参って説明をした。説明会は,大体私が1時間ほど説明をして,その後,質疑応答の形で来会者からいろいろ話があったわけであるけれども,質疑応答という形をとったので,質問に対しては,安永主任国語調査官が司会をされ,国語課長,あるいは調査官自身,あるいは私,また松村委員がお答えをしたというわけである。説明会という場であるので,全体としては一通り受け取る形でお聞きになったことであると思う。質問の際に自然それぞれの立場や意見が表明されることがあったけれども,それは大体私の方のお答えとの間のやりとりであり,参会者の間での討論という形にはならなかった。幾らか,「ただいまの発言については」というようなこともあったけれども,大体においてはそれぞれ一人一人の御質問という形になったわけである。

林(大)主査

 全体的な印象としては,細部はともかくとして,一通りは今回の案が受け入れられているというふうに私は感じている。
 今,国語課長からの御説明にあったとおりであるが,この意見書の横書きの部分の50ページからのところに,大体分類をして質問の様子が書かれている。それを御覧願えればいいわけであるけれども,仮名遣いについての認識について一体どういうふうに考えているか,また,後の方に出てくるが,ただいまお話があったとおり,歴史的仮名遣いと古典の継承というところで私の考え方について御質問を受け,口頭試問を受けるような形になることもあった。
 それから改定試案の性格とか,具体的に直音,拗音に用いる仮名の表であるとか,あるいは五十音図との関係についてとかの質問がある。
 それから具体的な表記の問題は,小書きの「や」「ゆ」「よ」「つ」の問題,助詞の「は」「へ」の問題,「いう」の問題,一番大きいのが「じ・ぢ」「ず・づ」の使い分けであった。そういうようなことである。一々これを御紹介しないが,私としては,幾つかの点にまとめてみると,原理的な問題で,歴史的原理をどう考えるかというような御質問については,この改定案が表音原理をとっているということで,表音原理かしからざれば歴史的原理というふうに割り切って考えようとするお考えが質問者の中にはあったのではないかというふうに思っている。
 一方では,表音原理に徹底せよという御意見の質問もあった。
 適用の範囲については,新聞協会その他の御意見の中にもあったように科学・技術に関するものを入れるか入れないかというようなことについての問題,外来語についての問題があった。
 規範性の問題としては,先ほど国語課長の説明にあったように,許容を設けたことについての賛成・不賛成,あるいは「なるべく」という表現についての問題が出ている。
 それから内容については細かいところがいろいろあるが,印象的に申し上げると,私どもが委員会で議論をいたしていた,それぞれに賛成したり,反対をしたりして意見を戦わせたその問題の範囲で御質問があったように思う。それ以外から何か私が驚くような質問というのはなかったように感じている。
 私が多少期待していたのはオ列長音をめぐる問題であるけれども,それは「おお」と書くか「おう」と書くかというところの問題であるが,ここで新しい長音符号を考えてはどうかというような質問はついに出なかったように思う。そういう意見が出てしかるべきか,御意見としてはあるべきかと思うけれども,それは出なかった。
 それから,付表というのは必要がないのではないかという御意見も出るかと思ったけれども,付表についてはあってしかるべきように皆様お受け取りになっていたように思う。
 教育の問題は,こちらでは簡単に希望を述べるという形で説明をしているわけであるが,それについていろいろ具体的に,採点はどうするつもりだとか,教授法をどうするかという御質問もないわけではなかった。
 その他の問題として私が考えなければならないと思った問題は,これを我々は漢字仮名交じり文における仮名遣いということでは考えていたが,他の文字形に対する変換の問題をどう考えているかという御質問についてである。一つは点字との関係で,これは非常に重要な問題であると思う。我々もその問題は考えていないわけではなかったけれども,差し当たりそれを問題にしていなかった。盲人の方々からすると,点字と仮名遣いとの間の関係を一筋に明瞭にしてほしいという御希望があるということが分かった。ローマ字との変換については,余り問題がなかったように思うが,同時にただいまのワープロにおける仮名漢字変換,あるいはローマ字仮名漢字変換という点で問題があるわけである。それについては2か所でちょっとした御発言があり,これはやはり問題のことを御指摘になっていると思った。
 十分取りまとめた形になっていないけれども,説明会に私が出て質疑応答をしたその印象は以上のようなところである。あと松村委員からも補足をしていただくと,また別の御印象があると思うので,よろしくお願いしたい。

有光会長

 それでは松村副主査からもどうぞお願いしたい。

松村副主査

 私は東京会場及び大阪会場の2会場だけに出たわけであるが,それも質疑応答の時間を中心に林主査と一緒にお答えをしたわけである。両会場の全体のことは既に,国語課長の方からの御報告,また林主査からの御報告に出ているので,私がその場に出て印象的だったことを少し付け加えさせていただくだけにしたいと思う。
 両会場とも非常にたくさんの方が御出席になり,質問も非常に活発に行われて,時間が足りないくらいだった。ただ両会場については,このように非常に活発な質問が出たわけであるが,そのほとんど多くのものが,歴史的仮名遣いを是とする立場の人々からの発言であった。したがって,その御意見は試案の個々の具体的な細かい問題についてというよりは,むしろ基本的な姿勢などについて御意見をお述べになり,我々の考え方を聞く,そういうものであった。ただ,この質疑応答は何しろ試案をめぐっての説明会であるので,私どもとしては,もちろん,そういう種類の御質問に対して私どもの意見を述べるというふうな立場でないし,こういう試案をまとめるまでに至った経過とか,私どもの試案をまとめるまでのいろいろ考えたことを説明するということを中心に答えたわけであるので,当然十分御納得いただけたとは思えない。だから,活発に質疑応答が行われたわけであるけれども,どちらかと言えば,それぞれの意見なり,それに対する私どもの説明なりは,それぞれバラバラに行われたということである。
 ただ,東京会場及び大阪会場でのそういう歴史的立場からする人の御発言は,どうも全体としては非常に共通している面が多いようである。その具体的なことは,大阪会場で実際にお出になって御質問,御意見をお述べになった若井さんの文章がその後個人の形で国語課にも寄せられていて,この意見書の後ろの(62)ページ以降に載せられている。大体こういうようなことが相当,会場でも私どもに向かって御意見,御質問という形で出たのである。
 そういうことで,両会場ともたくさんの方がお集まりくださり,非常に熱心に時間いっぱい協議が行われたが,試案の個々の具体的なことについて,特に私どもが新しく気が付くとか考えさせられるという問題は余りなかった。かつ試案に御賛成の方からは,余り細かい具体的な御提案・御質問はなかったように思った。

有光会長

 前田副会長には東京会場でごあいさつをしていただいたが,何か御感想でも伺えるようであったら,お願いしたい。

前田副会長

 私は,ただいまのお話にあったように,東京の会場に出席し,この協議会の趣旨というものの御説明を簡単に申し述べさせていただいた。それから林主査の2時間ぐらいの御説明も聞かせていただいた。
 ただ,今回の協議会は仮名遣い委員会案をまず発表して,それに対する各方面からの反響をいただいた上で,また改めて総会その他で審議するという,言わば中間の御報告なので,そのけじめをはっきりさせるために,総会の副会長の私が討論の場所にいて,万一私に対する質問が来たときに,私の立場がちょっと難しくなるので,私は前半だけしか出席していない。
 したがって,内容については何も申し上げることがないが,ただ一つの私の非常に感銘を受けたことは,今,松村副主査からのお話にもあったように,非常に大勢の方が見えていたことである。当日はまだ3月の寒い日で,しかも雨が降っていた。ああいう天気のときに,八百何十人という人が集まるということに感心した。
 今,東京ではほかのメディアがあるから,講演会などに集まる人は普通少ないのであるが,悪天候で寒いときに,大勢の方が開会時刻少し前からいっぱいになっている,それからまた林主査の御説明の間もみな非常に熱心に聞いておられるのを見て,やはり国語問題というのはすべての国民にとって関心深いものなのでみな一生懸命になっておられるのだと感じた。私ども国語審議会の委員として,国民の皆様の熱意にこたえるために,今後とも真剣に審議を進めていかなければならないと痛感した。
 私から申し上げることは,それだけである。

有光会長

 各会場とも活気のある説明協議だったように伺い,各委員のお骨折りに深く感謝申し上げる。

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