国語施策・日本語教育

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次第 仮名遣い委員会の審議状況について(報告)

有光会長

 続いて,本日の議事に入りたい。
 前回6月25日の第4回総会後,仮名遣い委員会を再開していただいた。7月,8月,9月と,ちょうど暑いさなかだったが,委員会では,各方面から寄せられた意見等に基づいて,試案についていろいろ検討してこられた。その審議の状況について,林主査から御報告を伺い,その後協議に入りたいと思う。

林主査

 それでは,仮名遣い委員会の審議状況について,御報告を申し上げる。
 お手元に刷り物にしてあるものを,そのまま申し上げようと思っている。
 まず,概況であるが,前回の総会後,仮名遣い委員会を4回,7月9日,23日,8月27日,9月17日に開き,また,その間に小委員会を4回,7月16日,8月2日,9月3日,10日に開いて,各方面から寄せられた意見に基づいて,試案について見直すべきところ,修正すべきところはないか,検討を行った次第である。
 なお,いろいろな意見に対しては,審議会の考え方を説明できるようにしておきたいと考えており,そのためには,前文等の中で言葉を加えておく方がよい場合もあるかと考えている。
 これから主な項目について御報告申し上げるが,その手順は,会議用のとじ込みのはじめに第4回の総会の議事要録があるが,そのすぐ次に,「寄せられた意見の項目(概要説明用メモ)」という1枚が資料3としてある。その項目に従って申し上げていくこととする。とじ込みの中には意見の項目だけがあるわけだが,意見を要約したものを8月のうちにお手元にお届けしてあるかと思うので,御覧いただいておることと思う。
 それでは,大きく3部に分け,第1は全体的な評価について,第2は前文に掲げる事項について,第3は本文と付表の内容についての意見,これらの意見のそれぞれについて検討した結果を,以下に述べることにする。
 まず第1の「全体的な評価」であるが,全体的な評価として全く立場を異にする考え方というものも御意見の中には出てきているが,しかし試案は大体世間に受け入れられたと判断してよろしかろうと考えている。
 次に,第2の「前文に掲げる事項」について申し上げるが,1の「「仮名遣い」という語の示す内容について」,それから2の「現代語の音韻に従うという原則について」,これらについては,国語仮名遣いと字音仮名遣いは分けて考えるべきだという御意見も寄せられているが,まず試案の考え方が受け入れられていると見てよろしかろうと考えている。
 それから3の「よりどころ」という言葉についてだが,「よりどころ」という規定はあいまいだという意見も寄せられている。しかし,この「よりどころ」という言葉は,48年に出た「送り仮名の付け方」以来使われている語であり,強いてこれを改める必要はないと考えられている。ただ誤解を生じないように十分共通理解をしておく必要があるかもしれないと考えている。「よりどころ」という言葉は,辞書的な意味においては,例えば「基づく所。根拠」というふうに簡単に辞書に書いてあるが,「根拠」を引くと,「よりどころ」と出ているようなわけで,なかなか定義も難しいかと思うが,「根拠規定」「基づくところの規定」というふうに考えるのがよいのではないかと,私は思っている。
 次に,4の適用分野について,適用分野を明記する必要があるのかどうか,我々の前文においては適用分野は,「〜にまで及ぼそうとするものではない」といったような言及があるわけだが,適用分野を明記する必要があるのかどうか。それから「及ぼそうとするものではない」とある中に,「科学,技術,芸術その他の各種専門分野」というものが挙げてあるが,それを挙げておく必要があるのかどうかというような問題について,御意見がいろいろあり,それをめぐって委員会の中でもいろいろ意見の交換があった。しかし「送り仮名の付け方」と「常用漢字表」,既に出ているこれらの規定との整合性の問題もあり,一応試案のとおりにしておくことが適切であるという方向になっている。
 次に,5の固有名詞の扱いについては,固有名詞の仮名遣いについて積極的なよりどころを示すべきだという御意見が寄せられている。しかし,これも,大体試案の考え方でよいと考えられている。なお,仮名書きの固有名詞の問題,片仮名で書いている固有名詞,平仮名のは少ないが,それと漢字書きの固有名詞の読み方を仮名で示す場合の問題とは性格が多少異なる点があるので,誤解を生じないように前文等で言葉を加えておく方がよいかもしれないと考えている。

林主査

 それから,6の「外来語・外来音の扱いについて」,それから7の「特殊な方言音等の扱いについて」,これには若干の御意見は寄せられていたが,試案の考え方でよかろうと考えている。
 8の発音のゆれのある語については,発音上ああも発音し,こうも発音するというようなゆれがあるもの,語形の二つあるようなものと仮名遣いとの対応に関する説明や例示の仕方について,意見が寄せられている。これについては,委員会でなお検討を加えているところである。これは前文のところでは「ホオ・ホホ(頬)」という例が挙げてあるわけだが,それらに関しての問題である。
 9の規則の立て方について,全体の規則の立て方についてだが,試案の規則の立て方については,現行の「現代かなづかい」は歴史的仮名遣いと対比させる形で述べられているが,それよりも「改定現代仮名遣い(案)」の方が分かりやすいという趣旨の意見が寄せられており,試案の考え方でよいと考えられる。
 10の助詞の「は」「へ」及びオ列の長音について,現行の「現代かなづかい」にある許容というものを省いたが,それについて,許容は存続すべきだという御意見がある。これは主として日本点字委員会から寄せられた御意見であるが,これも試案の考え方でよかろうと考えている。なお,今回の仮名遣いは国語を仮名で書く場合のこととして考えたものであり,点字やローマ字は,仮名とは別の体系だと考えるべきものだとして,その旨を前文等で言及しておく方が御理解がいただけるかもしれないと考えている。ローマ字と仮名との変換の問題,それから点字と仮名・漢字への変換の問題があるが,それは体系の違ったものをお互いに変換する上での問題と考えられ,必ずしもパラレルに考えなくてもよかろうと思われる。
 11の二語の連合の意識の薄い語については,「じ」「ず」を本則とし,「ぢ」「づ」も許容するということにしていることについて,許容は認めない方がいい,許容を認めることは望ましくないという意見も寄せられているが,これは試案の考えでよいと考えられている。
 これについては,なお,本文の方でもう一度申し上げる。
 12の付記の1で示したことについては,「えいせい(衛生)」の類の仮名表記についてであるが,特に反対意見は寄せられていない。これは試案の考え方をお認めくださっていると考えている。
 13の「てきかく(的確)」「すいぞくかん(水族館)」などの仮名表記については,付記の2で示してあるが,これについては,大分反対の御意見や修正の御意見が寄せられており,委員会でも大分議論をしたが,なお,検討を加えているところである。
 これは後で,もう一度触れる。
 14は本文に対して付表を設けたことについてである。付表は歴史的仮名遣いとの対照だが,この付表を設けたことについては,特に反対意見は寄せられていない。試案の考え方でよかろうと考えている。
 それから15の学校教育についての言及は,前文の文言について修正意見が寄せられているが,大体趣旨としては,試案のとおりでよいという方向である。
 次に,第3の「本文と付表の内容等」について申し上げる。まず,1の拗(よう)音・促音に用いる仮名だが,「つ」という仮名を「なるべく小書きにする」としてあるが,その「なるべく」は削るべきだという意見が多く寄せられている。しかし,これは試案のとおりでよいと考えているところである。
 それから,2,3,4だが,助詞の「を」「は」「へ」の規定の文言,それから助詞「は」の語例について,「言う」という動詞について,それぞれ修正意見が寄せられているが,大体,試案のとおりでよいという方向である。
 次に,5の「じ・ぢ」「ず・づ」の書き分けについてだが,これについては,用語,説明の仕方,用例等についていろいろな御意見が寄せられており,個々の語の取扱いについても,繰り返し議論をしたが,結局,書き分けについては試案のとおりでよいという方向であるが,説明の仕方等については,委員会でなお検討を加えているところである。
 それから,6のオ列の長音をめぐる問題について,これもいろいろ御意見が寄せられているが,これも試案どおりでよいという方向である。
 それから,7の付記の1,2についてだが,先ほど申し述べたように,付記の1については,問題がない。付記の1というのは,「えいせい(衛生)」の例をさっき申し上げたが,「エー」と長音にも発音するものを「えい」と書いておくということで,これについては問題がない。
 付記の2はキとクの問題,促音化していると考えられるキとクなどについての問題だが,これについては,委員会でなお検討を加えているところである。
 なお,8の付表についての具体的な修正の問題があるが,語例のうち,表外字を含むものの扱い等いろいろ御注意もあり,これはなお検討中で,手を入れようと考えているところである。
 以上が具体的な項目についての審議の状況であるが,なお,検討中と申し上げたものが四,五件ある。つまり,「じ・ぢ」「ず・づ」の問題,語形のゆれの問題,それに関連して,付記の2のキ,クの問題,それに付表の表し方というようなところが,なお検討中と申し上げたものである。
 なお,全体的に寄せられた御意見の中にも,歴史的仮名遣いの取扱いについてはっきり示せというような御意見も個人からは寄せられているが,私どもとしては,委員会で「現代かなづかい」について検討してきたので,歴史的仮名遣いについては,特段ここで触れることはないと考えた。
 以上が,前回の総会以後,委員会及び小委員会で審議をしてきた経過の概要である。

有光会長

 委員会では大変努力され,各方面から寄せられた意見について,主要な項目ごとに様々な角度から検討された様子を伺った。項目によって,考え方の方向を示していただいたところと,まだ具体的に検討を重ねておられる審議未了の問題とがあるわけであるが,本日皆様からいろいろ御意見や御感想をお聞かせいただければ,それを参考にして,今後更に委員会として検討を進めていただけるものと思われる。

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