国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第17期国語審議会 > 第5回総会 > 次第

次第 外来語表記委員会の審議状況及びアンケートの結果について(報告)

坂本会長

 続いて,本日の議題に入りたいと思うが,前回の総会以後,外来語の表記委員会ではアンケートの原案について御協議いただくとともに,外来語の表記の問題について,いろいろ御検討いただいたわけであるが,このアンケートのまとめは,私も送っていただいた資料を拝見したのだが,思いの外と言うとしかられるかもしれないが,多数の先生方から御回答いただき,今後の審議を進めていく上で大変参考になったのではないかと考えている。
 先日3月17日に運営委員会を開いて,御相談したのであるが,今日は林主査から,外来語表記委員会の審議状況と,ただいま申し上げたアンケートの結果について,まず御報告いただき,その後協議に入りたいと思う。
 また,今後の外来語の表記委員会の審議の進め方などについても,お話しいただけるというふうに考えている。
 では,林主査,よろしくお願いする。

林(大)主査

 御報告として,三つのことを申し上げることになると思う。まず,外来語表記委員会の前回総会以後の状況を御報告申し上げること,それから,御回答いただいたアンケートの取りまとめについて申し上げること,また,それを受けて,表記委員会が今後どういうふうに進めたらいいと考えているか,そういうところを申し上げたいと考えている。
 まず,外来語表記委員会の審議状況であるが,先ほど事務局からお話があったとおりで,外来語表記委員会を,第7回,第8回,第9回と3回開催した。第7回,第8回においてアンケートの原案について協議して,そして第8回で大体決めてアンケートを実施した。そのほか,表記委員会の席上では,「小型国語辞典に採録されている外来語」というものが冊子になっているが,その中から多少のサンプルを取り,具体的な語例を見ながら問題点の所在を探るという作業を試みた。これはどういう問題があるかということを探ったということで,4月以降こういう作業を継続して行い,その結果を7月ごろの総会に御報告することになろうかと思う。また,表記委員会の席上でも,アンケートのまとめ,これは完全にまだ集まっていない段階であったが,それについて意見交換をした。それがこの3回の表記委員会の審議状況である。
 次に,アンケートそのものについて申し上げようと思う。
 先ほどお話があったように,アンケートは全体で39通いただいた。それについて,これから大体のまとめを申し上げたいと思うが,最初に,アンケートの問1から問4までの結果について申し上げ,その次に問5,これは自由に御意見をお述べいただくようになっているが,その御意見の大体をまとめて御報告しようと思う。
 問1から問4までは,それぞれ選択肢について,どれかを選択していただくという形であって,それに御意見が加わっているわけである。それぞれに申し上げるが,御意見の全部はこの資料には挙げておらず,その御意見の要点をこの四角の囲みの中に挙げてある。これはお書きになった言葉のとおりであるとは限らず,要点をつまんだものと御承知いただきたい。
 さて,問1であるが,問1は「一般の外来語のほかに,地名・人名の表記についても取り上げる必要があるかどうか」という問いであった。それに対して,アの選択肢,「取り上げる必要がある」とお答えになったのが36通あって,圧倒的多数である。「取り上げる必要はない」という回答は少なくて,2通ということになっている。
 さて,そのお書き添えになったご意見をざっとまとめると,次のとおりで,「取り上げる必要がある」という回答にお書き添えになった御意見は,マスコミ等で各種の表記が混在しているので一定の目安を設けることが必要である,学校教育の上で統一が必要である,報道関係,教育関係でそのように要望がある,こういうふうな御意見。
 それから,言語生活の中で頻繁に用いられる地名・人名を審議から除外するというのは実際的でない,地名や人名のついた普通名詞もあるし,一般の外来語と地名・人名の表記に関する原則の多くは共通した点があって,原理は一貫させた方がよろしい,こういう御意見があったわけである。そのほかに,地名・人名を特別扱いする必要はない,区別するのはおかしい,こういうようなお書き添えもあった。
 一方,「取り上げる必要はない」という方へ御回答になったそのお書き添えの御意見は,地名はともかくとして,人名の読み方や発音には特有のものが多いので,統一したり原則を示したりするのは難しい,こういう御意見。また,新聞協会,NHKなど,他の機関で研究・決定しているものがあるので,それに任せておけばよいという御意見もあった。これが問1に対するお答えである。
 次に,問2は,地名・人名の表記についても「取り上げる必要がある」ということになった場合の,取り上げる手順であるが,「一般の外来語についてまず取り上げるが,その際,地名・人名については全く考慮の外に置くのではなく,ある程度考慮しながら進めるのがよい」という回答が22通。これは選択肢ではウであった。そのほか,「一般の外来語も地名・人名も併せて取り上げるのがよい」という回答が10通,「一般の外来語についてまず取り上げ,地名・人名については後回しとするのがよい」という回答が8通あって,22通,10通,8通というように,それぞれ相当あるわけである。
 最初の,「ある程度考慮しながら進める」という回答に添えられた御意見としては,一般の外来語と地名・人名との複合語等もあるからという御意見。これは先ほどもちょっと触れたが,地名・人名が一般の外来語と複合していて,全体としては一般語になっているものもあるから,地名・人名を外すわけにはいくまいということである。それから,ある程度地名・人名についても考慮しながら進めておけば,後で地名・人名を取り上げる場合にも楽なのではないかという御意見。まず一般の外来語の表記のルールと仮名表を地名・人名も視野に入れつつ定め,しかる後に地名・人名の表記のルールを定めるのがよいというご意見。それから,現在の審議の状況から,これが現実的な対応であろうとお書き添えになった方もあった。
 次に,「併せて取り上げる」という回答に添えられた御意見としては,地名・人名は一般表記と基本的には同じ問題であって,別の原理を立てる必要はないという御意見や,外来語の表記としては同時に見渡しておく必要があるというふうな御意見がある。
 それから,「後回しにする」という御回答8通のうち,御意見としては,余力があれば,の程度でよろしかろうというお書き添えがあった。

林(大)主査

 以上が,地名・人名を取り上げる場合に,一般の外来語との関係をどうするかということについての御意見である。
 次に,問3は,地名・人名の表記についても取り上げるということになった場合,地名と人名のうちではどちらを先に取り上げるかという問題である。これについては,「どちらを先にということではなく併せて取り上げるのがよい」という回答が23通と多かったが,「地名から先に取り上げるのがよい」という回答も相当あり,15通であった。
 それにお書き添えの御意見としては,「併せて取り上げる」の方では,原理的に同じであって区別する必要がないという御意見,教科書で取り扱うような主なものについては地名・人名とも併せて取り上げるのがよいという御意見のほか,地名と人名とでは若干の違いはあるだろうからそれを考慮することは必要だろうと思うけれども,併せて取り上げるのがよいという御意見もあった。
 それから,「地名から先に」という回答にお添えになった御意見には,地名の方が範囲を定めやすいし,見通しが付けやすい。また,人名に比べて「ゆれ」が少ない。こういう御意見があった。これは,特に英米関係では,地名の読み方は確立しているけれども,人名の方はどうも「ゆれ」が多いので,細かい配慮が必要だろう。そこで,地名の方は割合に簡単に取り上げることができるであろうという御意見かと思われる。もう一つは,新聞用語懇談会で現在地名の方を取り上げているから,ここで地名から先に取り上げると便利であろうという御意見である。
 問4は,地名・人名の表記についても取り上げるということになった場合に,中国・韓国等の漢字を使っている国の地名・人名の原音による表記についてはどうするかという問題である。これについては,「何らかの形で取り上げる必要がある」という回答が18通,「何らかの形で取り上げる必要があるが,後回し又は別の機会にするのがよい」という回答が18通。これは全く同数であった。それから,「取り上げなくてよい」という回答は少なくて,3通であった。
 この場合,漢字国の地名・人名の片仮名表記というのは,中国・韓国の地名・人名は片仮名表記によるとか,あるいは漢字のままにしようという御意見もあるわけで,後で述べるが,漢字のままか,片仮名にするか,どっちかという選択論と,それからどちらも併用しておこうじゃないか,両方書いておけばいいという御意見,両方がいずれにしてもあるのではないかと思う。
 まず,「何らかの形で取り上げる必要がある」という回答に添えられた御意見としては,いろいろな複雑な問題も絡むので,慎重に扱う方がよいという御意見,漢字表記と併用するのが望ましいという御意見,国際交流の緊密化に伴い使われることが多くなると思われるので,片仮名表記を取り上げる必要があるという御意見,いずれ問題になるなら,今回取り上げておいた方がいいという御意見などがあった。また,片仮名表記にするという上では,中国なり韓国の方にピンインとかハングルの表音的な取り決めがあるわけだから,それとの対応としての仮名化を原理的には同時に見渡しておくべきであるという意見もある。
 それから,漢字名が中国人のときは仮名表記が問題にならないのに韓国のときは問題になるのはおかしいという御意見。実は私,ここの意味の取り方については,ちょっとまだ分からないところがあるので,後ほど御意見をお加えいただければありがたいと思っている。中国人のときは仮名表記が問題にならない──中国人が問題にしていないという意味なのか,日本人が問題にしていないのか,韓国のときは問題になるというのは,日本人が問題にするわけであろうか。その辺がちょっとくみ取りかねたが,そのままここに書いておいた。
 次に,「後回し又は別の機会にするのがよい」という回答に添えられた御意見は,漢字表記の伝統も強いので取り上げるにしても別の機会にしたいという御意見,片仮名書きについてはその方面の識者の意見を十分に聞いた上で決めるべきであるという御意見,昨年以降急速に新しい慣行が生まれているので,もう一両年たってから検討する方が生産的であるという実際的な面からの御指摘,また,急ぐことはないという御意見,それから,中国・韓国の人名についても,国際的に通行している英語読みと原音との対照をする作業が必要である,こういう御意見がある。
 次に,「取り上げなくてよい」という回答に添えられた御意見には,中国については漢字表記日本読み,韓国については,漢字のあるものは漢字表記原音読み,漢字のないものは片仮名表記原音読みという方針が既にあるので,今さら取り上げなくてもよいというもの。これは現在報道方面でこういう習慣でやっておられるのだが,既にその方針があるから,ここでは取り上げなくてよいという御意見である。
 それから,人名の読み方に対する中国の要求の仕方と韓国の要求の仕方とは全く違うので,一般に取り上げることができないであろうという御意見もある。
 以上が,問1から問4までの御回答の数のまとめと,書き添えられた御意見の要点の御紹介である。
 次に,問5に,その他の御意見を御自由にお書きくださるようにお願いしていたが,その中に,やはり地名・人名に関することを取り立てて別にお書きになった方があるので,それを地名・人名の問題のところへ付け足して御紹介したい。問5には(1)から(43)まで御意見が書いてあるが,その中の(31)から(37)までが地名・人名に関しての御意見である。
 (31)一般的に,地名・人名は原音に近い表記にするということにすればよい。定着している誤った表記については原音に近い表記と併せて例示する。
 ただし,どちらを使うべきであるという強制はすべきではない。
 (32)原則として現地読み。明治以来の英語発音はやめるべきである。──これは,例に挙げておられるように,「リスボン」は,現地の発音のとおり「リズボア」とする方がいい。「マドリッド」は,「マドリ」,「ヴェニス」とか「ベニス」と言っているのは「ヴェネチア」とする方がいいという御意見である。
 (33)外国地名は,外国支配,外国との交流の歴史的経過を考えに入れる必要があるので,択一的決的は避けるべきである。
 (34)地名・人名の表記については,原音よりも,国際的に通用している発音に基づくことが望ましい。

林(大)主査

 (35)漢字圏(東アジア)は,それぞれ勝手に漢字名を呼ぶべきである。ヨーロッパは現にそれをしている。
 (36)中国の場合,漢字のみで一般化している「洛陽」や「長安」など(歴史的地名・人名を含む。)は無理に現代語音に改める必要は認められない。韓国等の場合,現代韓国語音のみでは日本人にとって理解困難な場合も多く,日本漢字音を併用することが望ましいのではないか。
 (37)我が国の文献に残されている「巴里」「西班牙」「倫敦」などの漢字表記を無理に仮名表記に統一することなく,当分は併用することも国語教育に趣味性を涵養するのによいと思う。
 以上が,問5の中の地名・人名に関する御意見であるが,これをもう一度まとめ直すと,地名・人名に関しては,現地音主義という考え方,国際通用主義という考え方,それから歴史主義,伝統主義というか,昔からやってきたものを尊重することが必要であろうという三方向の御意見が出ているように思う。
 中国,韓国等の地名・人名については,現代音に改める必要はないという考え方,韓国等の場合日本漢字音も併用する,「プーシャン」だけでなく「フザン」も併用することが望ましいという御意見が出ている。
 今回のアンケートは,問1から問4までは主として地名・人名に関することについての御意見を伺ったので,問5の方の中の地名・人名に関するもののまとめを,今ついでに申し上げたわけである。
 次に,問5であるが,問5は外来語の表記と外国語学習や国際化などとの関連について,その他,外来語の表記をめぐる問題について,御記述をお願いした。それに対してお書きいただいたものの要旨・抜粋が以下に記してあるわけである。これを御紹介して,大体の方向をまとめさせていただこうと思うが,一々の御意見については,事務局の方に読んでもらうことにするので,よろしくお願いする。

事務局朗読

〔外国語学習や国際化などとの関連〕

(1)  外国語が滔々と日常生活の中に入り込んでいる現在,それらが外来語として定着すると否とにかかわらず,国民のよりどころとしてどういう表記法が望ましいかということを従来の慣用をも踏まえつつ十分検討し決定すべきものと思う。
(2)  ローマ字・洋語が今後の日本語の歴史にとってどういう位置を持つか,その入口のところに仮名による洋語表現の問題があるように思う。余り神経質に規制する発想は避けたい。英語とのかかわりにおいて考えれば,ヴァ,ファなどを設けることを考える程度のことになろう。
(3)  日本語化の進んだ外来語と日本語化していないあるいは新しいカタカナ語は分離して考える必要がある。よく日本語化した外来語の表記法をそのまま,十分日本語化していないカタカナ語に適用すると,適切だという感じが得られないことになろう。外来語,カタカナ語,地名,人名を含めて,全体としてフレキシブルな表記体系を考えてみる必要がある。
(4)  今後ますます外国語に接する機会が多くなることが当然考えられるので,外来語表記のきまりを考えていく場合に,ある程度ゆとりをもったものとしておくことが必要だろう。
(5)  今の若い人たちは,従来の日本人の発音や日本語の表現にはなかった“国際的な”表現も可能になっている。そんな時代の流れを見すえて,できるだけゆるやかで柔軟なワクや目安にすることを心掛けたい。
(6)  外来語は,外国語ではなく,あくまで国語である。原音に忠実であるべきは当然だが,それには限度がある。国語として流通性をもたせるにも目安としての原則を決める方がよいと思われる。義務教育の段階ではことにそれが要望される。
(7)  今後,ワープロ,パソコン,翻訳機などで外来語が自動的に変換されることも多くなるので,地名・人名を含めて外来語の変換ソフトの作成面でも表記の統一が急がれる。
(8)  分野によって用語が異なることは珍しくないが,国際協力研究などが学際的に進められている現状から考えて,少なくとも外来語については,それらを統一する努力が必要である。
(9)  外国語学習や国際化の問題が日本語の中の外来語の表記原理をリードする形にならぬようにすべきだと思う。
(10)  外来語と呼べるからには,日本語化したものと判断できる。したがって外国語学習上の問題とは,一応切り離して考えた方がよいと思う。
(11)  外国語未習の小学校の段階と学習開始後の中学校以降とでは扱い方を変えてもよいのではないか。例えば,メキシコシティーを小学生全員に強制することは問題があるかもしれないが,メキシコシチーを高校生に強制するのもおかしい。
(12)  義務教育における学校教科書の表記はなるべく尊重する。
(13)  外国語学習については日本におけるこれまでの経験あるいは外国における経験をもとに,おそくとも小学校5〜6年から学習を始めるべきであろう。
(14)  誤った外来語の表記は,外国語学習や国際化の障害になると思う。
(15)  外国人に対する日本語教育の上で,外来語仮名表記は学習上の問題ではあるが,それを国語表記の問題の中で取り立てて考慮する必要はなかろう。
(16)  和製語及び外来語として日本で原語とのずれの大きい意味で用いられているものは,日本人の外国語学習にも外国人の日本語学習にも支障になる。これらをどのように扱うかについて議論することも重要であろう。

事務局朗読

(17)  和製英語や短縮語(マスコミ,テレビ,ナイター)などは中国人の日本語学習のいちばん困ることの一つだという。国際化の障害を取り除くためにも,こうした外来語のありようを議論する場が必要ではないか。
(18)  新しい仮名を作る必要はないが,ヴァ行など既存の仮名は利用して外来語のもとのスペリングを示す自由を認める方がよい。(ヴォイス←ボイス)
(19)  国際化の時代に備え,外来語の表記の原則は一段と音韻を広げる方向に進むのが望ましい。場合によっては,新しい仮名表示の導入も考えるべきだろう。
(20)  ヴもトゥも発音できないという認識に立つのなら,義務教育から英語(独,仏語)を外すべきである。
(21)  外来語と外国語は一応分けて考えるべきだろうが,外国語学習や国際化などの問題を考えれば,できるだけ原音に近い表記を考えるべきであろう。
(22)  外国語学習や国際化が進んできているので,できるだけ原音に近づけたいが,外来語は外国語ではないので,日本人の大部分が発音できる表記がよいと思う。
(23)  外国語教育における発音と,外来語の発音・表記とは異なったものであり,両者を混同するような外来語表記における過度の原音主義は好ましくない。
(24)  外来語である限り,日本人の音韻意識に基づくべきで,こうしたとき外国語学習や,外国人の日本語学習に差し障りが出て,ひいて国際化の障害になるということはない。
(25)  外国語の原音を日本語の発音として取り入れるには,1できるだけ原音に沿う,2外国人の発音の聞こえ,日本人の聞き分けに従って区別する,3日本人の日常会話で発音及び聞きとりの区別のできるものを取り入れるという方向があるが,2または3の方をとるべきものと思う。
(26)  ティ,トゥ,テュなどは,今や日本人には発音可能であり,また聞き分けもできるので認めてよいと思う(ファ・・・も)。ただ,ヴァ・・・は日本語の音素として確立していないVを含むので認めるべきではない。
(27)  本当の仕事は,日本語の中の外来語の発音と,それを表記する文字との対応を目安として定めることにとどまるべきだと思う。語形(発音)のゆれはゆれのままということ。
(28)  欧米中心主義でなく日本と交流の深い東アジアをはじめ広くその他の諸地域の言語にも視野を広げ,それを受け入れる門戸を開いたルールづくりをすることが望まれる。
(29)  新しい片仮名まで作って表記しても,完全に原音の表記ができるとも思わないので,新しい仮名を作ることには反対である。
(30)  外来語は片仮名で写すことに賛成。
 (〔地名・人名について〕(31)〜(37)は省略)
〔いわゆる氾濫の問題,その他〕
(38)  外来語の氾濫,乱れにどう対処するか,何らかの指針になるような見解が出せないものか。特に教育界はこのことを期待していると思う。
(39)  片仮名言葉の氾濫の問題については,最近のみの現象でなく,大正期,戦後初期など,何度かのピークがあるものだから,長期的な日本の諸世代の国際化志向を見通しつつ,制限的にでなく,相互批評的に取り扱っていけばよいと考える。
(40)  現在外国語の過度の氾濫があるが,これは日本人の言語生活の一断面にすぎず,必ず自然に淘汰され,必要なものが必要な量で定着していくであろう。
(41)  海外で日本語学習が盛んになっている時,外来語をやたらと使用することは考え直さねばなるまい。特に日本人の老人には外来語の意味が分からないことが多い。漢字を用いた翻訳語は効率もよいので,翻訳のくふうをすべきであろう。
(42)  日本人の姓名をローマ字で書く場合に欧米流に名・姓の順に従うのは不見識ではないかとの説がある。問題提起の意味で国語審議会でも議論してはどうか。
(43)  外来語の表記や外国語学習,外国人の日本語学習などを中心課題にした特別会議を常設して,随時,自由討議を行ってはどうか。
 日本語のローマ字表記に不統一があるので外国人への日本語教育に不都合が生じていると聞いたが,これなども一つのテーマとなる。

林(大)主査

 以上が,問5及びその他に記述された御意見の要旨・抜粋である。なお,御意見の順序は,大体において内容的に関連のあるものをまとめてあるが,精密に順序をつけたわけではない。
 これについて再度のまとめをさせていただくと,ここにはいろいろのことがあるが,まず,この審議会の仕事の目標については,国民のよりどころとして望ましい表記法を立てる必要がある,国語として流通性を持たせるために,目安としての原則を決める必要がある,特に義務教育の段階でその必要があろうという御意見がある。
 もう一つは,日本語の歴史,表記の歴史の上で,我々が取り扱おうとする問題の位置づけを考える必要があるだろう,当面の審議会の議題ではないかもしれないが,それを考える必要があるだろうという御意見がある。
 次に,外国語と外来語の問題であるが,これは当然分離して考えるというお考えが何人の方からか述べられている。
 それから,外国語が外来語として定着しているかどうかにかかわらずに問題を考える必要があるという御意見もある。
 もう一つは,日本語化の進んだ外来語とまだ日本語化していない,あるいは新しい片仮名語とは分離して考える必要がある。今の表記の混乱は,29年に外来語について定めたところが,不当にというか,まだ十分国語化していない,外来語になっていないものについてまで及ぼされているところに混乱が起こっているんだという御意見があるわけである。

林(大)主査

 それから,目安を立てて統一する必要があるということについてだが,機械化,自動処理のために目安を立てて統一をする必要がある,それから教科書のため,学校のために必要がある,また学際的に用語の統一をする必要がある。そういうお考えが見えている。
 それから,目安を立てる方針については,いろいろ御意見があって,まず慣習を尊重するという御意見がある。それから,欧米中心でなくて,諸地域の言語についても開かれた目でルールを立てる必要があるという御意見がある。それから,教科書表記を尊重する,義務教育の教科書の表記を尊重するという御意見もある。
 それから,神経質な規制は避けたい,フレキシブルに考えたい,ゆとりを持たせたい,こういうことが何人もの方から述べられている。
 外国語学習や国際化ということについては,一方で,誤った表記が外国語学習や国際化の障害になる,だから誤った表記でない方がよろしいという御意見がある。また,一方では,外国語学習とか国際化ということが,我々の外来語表記をリードする形にならないようにしたいという御意見がある。
 そこで,原音主義というのが出てまいるが,特に原音主義についてはできるだけ原音に近づけようという御意見があるわけである。また,国語としての音韻であるが,その音韻を従来の音韻に固定しないで,広げる方向へ進めたいというお考えがある。
 それに対して,原音主義にも限度がある。だから外国語教育と混同するような過度の原音主義は好ましくない。外国語学習ではこうだからといって,原音を主張するというような過度の原音主義は好ましくない。その限度については日本人の大部分が発音できる表記,聞き分けられるものを限度にしよう。それを具体的にいうと,ヴァとかファなどを設ける程度であろう。それからティ,トゥ,テュ,ファなどは発音も聞き分けもできる。しかし,ヴァは認めるべきではないというふうに具体的に示された御意見もある。
 それから,場合によっては,新しい仮名表示を考えることもできよう。こういう御意見と同時に,新しい仮名を作る必要はないとおっしゃる方もある。
 それから,既存の仮名を利用して,もとのスペリングを示す自由を認める。発音ということだけでなしに,もとのスペリングが示されるような自由を認めておきたいという御意見もあった。
 それから,外国語学習の現状をよく理解して,問題を取り上げる必要があるであろうとか,小学校の段階と中学校以後の段階での外来語表記の取扱い方を変えるということも考えられはしないかという御意見がある。
 外国人に対する日本語教育については,ここの問題とは切り離そうという御意見もあるが,一方日本語教育の上で,例えば和製英語であるとか,切りつぎの「マスコミ」といったような語とか,意味や使い方が原語とずれている語などはやはり問題があるので,議論する必要があるという御意見もある。
 外国語学習そのものの問題だが,外国語学習は遅くとも小学校の5〜6年から始めるのがよかろうという御意見もある。また,ヴァ,トゥという発音ができないとするなら,義務教育から外国語を外すべきであろうという御意見もある。これは,ヴァ,トゥぐらいは発音できるじゃないかという御意見ではないかと思うが,そうお書きになった。
 以上が,外来語の語形について,表記法についての問題であるが,その次に氾濫等の問題があって,氾濫についても素通りはできない,何らかの指針,見解を出せないものかという御意見,翻訳の工夫をすることが必要であろうという御意見,外来語に対しては制限的ではなくて相互批評的に取り扱う必要があろうという御意見がある。また,これは自然の推移に任せるべきものではないか,自然の定着に待つべきものではないか,この外来語は止まらない勢いがあるというふうに問題を考えられた方もある。
 さて,それが氾濫で,その他に審議会の問題にすべきものを御指摘になったのが,例えばローマ字の問題で,日本人の姓名のローマ字表記が,英語流に名・姓という順になっているけれども,それについて議論する機会があってもよかろうという御意見,それから,日本語のローマ字表記に不統一があるようである,これについても議論する必要があるであろうという御意見。この不統一と申すのは,例えばヘボン式とか訓令式とかいうような不統一かと思うが,それについてはお書きになっていない。
 それから,特別の会議を常設することはどうか。外来語の表記とか,外国語の学習とか,日本語学習,日本語教育という問題,そこに表れてくるいろいろな問題を中心課題とした特別の会議を常設してはどうかという御提案があった。
 ただいま問5について,(1)から(43)まで並べてあるのを私の言葉で並べ替え,まとめてみたところを,今申し上げたわけである。
 以上が,アンケートに対するまとめの御報告である。
 こういういろいろな御意見については,一応表記委員会でもお話し合い願ったが,全体がまだそろわない段階だったので,今日また,これについていろいろ御意見が出るものと思う。
 今後の表記委員会の進め方について,ちょっと申し上げると,「小型国語辞典に採録されている外来語」を主な資料として,具体的な問題点の検討を今まで2回ばかりやっているが,それをもう少し細かく具体的に見渡しをしてみたい。外来語,外来音を表記するのにどのような仮名表記が必要か,あるいは29年の原則がその適用面でどのような問題を持っているかというようなことを検討してまいりたい。
 それから,地名・人名等の固有名詞の問題は,今後のアンケートでいろいろ御意見を承ったが,このアンケートの結果,また今日の御意見等をある程度考慮いたしながら,進めてまいりたい。地名・人名等をある程度考慮しながらということである。
 それから,小型国語辞典の検討を表記委員会でやっているが,実に細かい検討をするので,大変時間を取るわけである。そこで,外来語表記委員会の中に,八,九名程度の方をお願いして,作業グループとしての小委員会を設置することとして,その小委員会で細かい検討を進めさせていただきたいと思っている。
 次回の総会は7月ごろと思うが,次回の総会までに委員会と小委員会とをそれぞれ3回ずつの程度で開催いたして,進めたいと思っている。細かいことは小委員会で検討していただき,それを表記委員会で更に見ていただくことにして,次の総会に御報告という段取りと考えている。これが表記委員会の今後の進め方である。

坂本会長

 大変複雑なアンケート,その他の問題を整理して御報告いただいた。

トップページへ

ページトップへ