国語施策・日本語教育

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次第 外来語表記委員会の審議状況について(報告)

坂本会長

 前回の総会以後,外来語表記委員会では,小委員会を設置するなどして,外来語の表記に関する具体的な問題に取り組んで,御検討をいただいている。今日は林主査から,その審議状況について御報告を伺って,その後協議に入ることにさせていただきたいと思う。今後の外来語表記委員会の審議の御予定などについてもお話しいただけると考えている。
 実は,昨日運営委員会を開いて御相談したことであるが,任期中にどのような形で報告などをまとめて,区切りをつけるかということについては,資料の2に記してあるように,12月上旬の第7回総会,これが第17期の最後の総会になるわけだが,この総会に外来語表記委員会から審議経過報告という形でのおまとめを御報告願って,これを次期審議会に引き継ぐということにしてはどうかというふうに,現在考えている次第である。そういう前提で,これから審議に入らせていただきたいと思う。
 では,林主査,よろしくお願いする。

林(大)主査

 まず,資料1「外来語表記委員会の審議状況について」によって御報告申し上げる。
 4月以降,外来語表記委員会を3回開いた。それから小委員会のメンバーを4月8日の表記委員会で決め,お願いをして,小委員会を4回開催した。表記委員会,あるいは小委員会の委員の方々には,大変お忙しいところを頻繁にお集まりいただき,御審議をいただいたわけであるが,それについて大体のところを以下に申し上げる。
 まず,2であるが,国語の音韻の中に外来語音としてどのようなものを採り入れることができるか,その仮名表記にはどういうものがあるかということを当面の課題にした。
 それについては,主な材料として,前からアンケートなどのお答えの中にも,外来語といっても漠然としたものでは大変だから,小型国語辞典というようなものに取り上げられている範囲で考えてはどうかという御意見があり,それに従って,事務当局の方で三つの小型国語辞典を材料にして外来語の表を作ってもらった。それを見ると,外来語として片仮名で見出しが出ているものには,三つの辞典で表記が皆同じであるもの,語形の安定しているものもあるし,ゆれているもの,辞典によって書き方がちょっと違っているというものもある。
 その三つの国語辞典に載せられている片仮名の外来語を全部数えて見ると,異なりで6,800語ぐらいあった。その中に,三つの辞典でともに採っていて,しかも表記の共通しているものが2,200語ばかり,それから三つの辞典でともに採っている語だが,ある辞典はこう書いてあり,ある辞典はこう書いてあるといったように,書き方が違っているものが350語ばかりということになっている。その中で,外来語として書かれている片仮名の書かれ方からして,当面,問題になる音韻,日本語の中にそういう音を採り入れられるかどうかということを考えるべき音韻が出てくる。それが4−1にあるように12種類に分類してある。
 ちょっと御説明すると,「現代仮名遣い」の最初のところに,現代の国語の音韻の表が出ている。直音,拗音,長音,撥音,促音といったものがあるが,長音,撥音,促音を除くと,実は見事に100ちょうどなのである。音声学的なことを申すと,多少の問題はあるかもしれないが,仮名遣いに対して音韻というふうに考えると,100である。そこで,長音,促音,撥音の三つを入れて103である。
 その表にあわせて考えると,辞典に出てくるような外来語の書き方の中で,音韻として先の103以外のものはこんなものではないか。それがこの4−1の(1)から(12)のところに書いてあるわけである。
 それで,4−2の方から申し上げさせていただくが,ただいま申したような現代仮名遣いの音韻,国語の音韻というものを拍──我々の国語学の方で使う言葉をここで使用させていただいているが,「ハーモニカ」は5拍であるとか,「キャラメル」は4拍であるとか,字では5文字であるが,「キャラメル」は四つであるというふうに数える一つ一つを「拍」と呼ぶわけである。で,拍を単位として考えることをまず前提にするが,しかし,その拍は子音と母音との結合体であるので,母音をどうするか,子音をどうするかという問題は別にある。
 外国語の母音は,日本語の母音と違って,いろいろ複雑なものがあるし,子音の方も日本語にはない子音がいろいろあるわけだが,それをどのように受け入れるか。
 母音の受け入れ方は,やはり日本語としては5母音である。アイウエオという五つの母音であって,そのほかに考えることは今のところできないだろうということであるが,それが一つの問題である。
 そして外国語には,アイとか,エイとか,オウといったような重母音があるが,それをどのように扱うか。それから鼻母音。例えばフランス語などのナポレオンというときの「オン」という鼻にかかったものを,我々は「オン」と発音しているが,それの扱い。それから半母音。半母音というのは結局拗音の性質を与えるところの音韻である。半母音が入っているもの,ヤ行の方はまだよろしいけれども,ワ行の拗音に当たるもの,クァとか,クィとか,クェとか,グィといったようなものの取扱い,これは半母音としての取扱いであって,それを考えなければならない。
 それから子音の受け入れ方としては,日本語の子音は,五十音図で言うと,九つとか八つとかいうことであるが,もう少し細かく言うと,16ぐらいあることになるかと思う。
 しかし,外国語には非常に違った音韻があって,例えば英語で言うと,我々がサシスセソで言っているものの中に「th」の発音があるわけである。「th」の澄んだのと濁ったのというか,「ス」であるものと「ズ」であるものとがある。
 それからまた,ラリルレロに当たるところは,Rの音とLの音とがある。

林(大)主査

 Fの音,ファ,フィ,フ,フェ,フォになるもの,これは非常に一般化しているが,これを受け入れるようにしなければいけないんじゃないか。それから,問題はVの音であって,ヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォというようなものをどうするかということがあるわけである。
 それらを考えるのに,外来音として,外国語にはいろいろ細かい違いがあるけれども,日本語の中へ外来語音として受け入れるには,どういう拍を国語として設けておいたらよろしいか,受け皿としての国語の拍をどのように作ったらよかろうかという見渡しをした。その結果,従来の音韻は先ほど申したように103ある。その103のほかに,音韻表のいろいろなところへ埋めていくべき候補として,資料4−1の(1)から(12)までの12種類の音韻が取り出されたわけである。(1)から(7)までは,主として子音にかかわる問題であり,(8)から(11)までは半母音を含む問題であるが,それらについては,具体的な言葉の例は2枚目の方に書いてある。
 ざっと申すと,(1)は,シェとかジェとかいうもの。セとかゼとかいうもののほかに,シェ,ジェは外来語音として採り入れていいのではないか,その必要はないかというような問題がある。
 以下,同じように,これはこう書くつもりであるということを決めたわけでもないし,これを採用しようということを決めたわけでもないが,問題として,こういう音韻があるだろうということを並べたわけである。
 (2)は,ツァ,ツィ,ツェ,ツォ。このツァとかツォとかいうものは,方言を考えると,日本語の中にもあり,「おとっつぁん」とか,「ごっつぉさん」とかいうときに,「ツォ」とか「ツァ」とかいうのは聞かれるわけであるが,標準的なものとは認められていなかったものである。
 (3)のチェも同様であって,舌打ち音なんかでは「チェッ」というのはよく耳にし,かつ書かれてもいるものだろうと思う。
 (4)は,ティとかディとかいう発音,古代にはティとかディとかいう発音があったかもしれないが,現在では国語の音韻の中には存在しない。
 (5)のトゥとかドゥとかいうもの。これも昔はあったかもしれないが,中世からその音はすっかり変わっている。しかし,外来語としてトゥ,ドゥをどうするかということがある。例えば「ツーリストビューロー」などと普通には書いている。29年の外来語の表記の規則では,「ツ」とか「ト」とか書くことになっているので,今は「ツーリスト」「ツアー」,と言ったり,また「クリスマストリー」とか「クリスマスツリー」とか言っている。トゥとかドゥとかいうのは,29年の規則では,認められていないものである。
 (6)のファ,フィ,フェ,フォ。これは非常に安定して使われているものであるが,国語の音韻にはないから,この際考える必要がある。
 (7)のヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォ。これが一番問題になる音である。これを音韻として認めるか,そして表記をどうするかということが問題になるであろうというので,ここに書いてある。
 (8)のテュ,デュ。これは普通にテュ,デュとは書かないで,チュ,ジュと書くということを決めたものもあるわけだが,これが一つの問題。
 (9)のフュ,ヴュというようなものもある。
 なお,「フュ」に関連して,昭和58年にNHKの「外来語のカナ表記」という規則が出ているが,そこにはフャという発音,それからフョというのがある。フャの方は,私,ちょっと用例が出てこないが,フョの方は,ノルウェーの地形の峡湾という深い入江のことを我々は「フィヨルド」と習ったが,それを英語流に言うと「フョード」になる。その「フョ」に当たるものかと思う。外国語の発音を仮名で書くというならば,それも問題になるが,外来語としてそれを入れるにはちょっと難しいのではなかろうかと思う。
 (10)は,ウィ,ウェ,ウォ。(11)は,クァ,クィ,クェ,クォ,グァ,グィ,グェ,グォ。これを1拍の発音として,1拍の音韻として認めるかどうかということが問題になるわけである。つまり,(10),(11)のようなものは,2拍に開いて,ウイとか,ウエとか,ウオとか,グア,グイ,こういうふうに言うことも考えられるわけであるが,とにかくこの辺に問題があるということで取り上げたわけである。
 (12)その他として,ほとんど今まで外来語の音としては認められていないが,スィとか,ズィとかいう発音がある。それからイェというのは,「イェナ」とか「イェール」とかいうときに出てくるものであるが,これを1拍のものとして認めるかどうか。それに続いて,キェという発音も外国語にはある。それからニェというのも1拍に当たる音として外国語にはある。そういうものもあろうし,またヂ,ヅというものも一応委員会では話題になった。ただし,これらは外来語のための音韻として日本語の中へ入れるのには余り重要ではなかろうと考えられるものであって,これは(12)に一括して,その他と言っている。
 で,(1)から(12)を含めて,この中で取り上げられる音韻は何かということをまず考える必要があるだろう。これは検討すべき候補としてこういうものを出してみたわけである。
 さて,先ほど三つの小型国語辞典を資料にしたと申したが,その中で,三つの辞典に共通にその言葉が挙げられていて,しかもその書き方が変わっていない,三つとも同じであるというものが2,200ばかりあった。これの中には「ガス」というような,もちろん三つの辞典で変わりようがないものも含んでいる。
 それから,語形にゆれがあって,ある辞典はこう書いているが,ある辞典はこう書いているといったように,統一がない,三つの辞典で違いがあるもの,そういうものを5−1の(2)で,表記や語形にゆれのあるものとして列挙すると,@からQまで分類できるわけである。それについては,3枚目に語例が挙がっているので,こちらをごらんいただこうかと思う。

林(大)主査

 「5−1の語例等」としてあるが,これは主として三つの小型国語辞典に採録されている外来語の中から取り出した。
 (1)から言うと,(1)は,ゆれがない,どの辞書も同じであるもの。「エネルギー」は三つの辞典とも「エネルギー」と書いてある。「オードブル」も,「コーヒー」もそうで,「シャツ」「トマト」「ビジネス」「モルタル」も同様である。外国語表記ならば,「ビズネス」というのも出てきてもよさそうだが,三つの辞典とも「ビジネス」となっている。これらはゆれがないものである。
 それから,(2)の表記や語形にゆれのあるもの。これが全体で語数としては約350という数が出ている。
 その中でどういう違いが生じているかと言うと,@では長音の有無。ある辞典は「ネックレース」と書いてあるが,ある辞典は「ネックレス」と書いてある。「ネックレス」の方が二つの辞典で,「ネックレース」の方が一つの辞典というふうに,優勢な方に▲印がついている。ここに丸で印がしてあるのは辞典の方ではなく29年の「外来語の表記」,新聞協会の「外来語の書き方」,NHKの「外来語のカナ表記」で採っている形を示したものである。「ソファー」というのと「ソファ」とがある。「パーティー」と「パーティ」とがある。「コンピューター」と「コンピュータ」とがある。こういうようなことである。
 最後の「コンピューター」か「コンピュータ」かというのは,学術用語としてはいろいろ問題があり,電気工学などの方面では一番最後の長音記号を外しているが,他の学問ではまだ長い棒「ー」をつけている分野もあって,専門界でもいろいろ違いがあるようである。
 次に,「クーラー,セーター,ドア」としてあるのは,3辞典とも同様に,「クーラー」「セーター」「ドア」としてあるということである。
 A,促音の有無。
 「アッピール」と「アピール」,「アップリケ」と「アプリケ」,「ピーナッツ」と「ピーナツ」というようなもの。「キッス」と「キス」というのもあるだろうと思う。「シャッター」とか,「バッター」とか,「トス」とかいうのは,3辞典とも変わりがない。
 B,撥音の有無。
 「コンマーシャル」「コマーシャル」,「コンミュニケ」「コミュニケ」,「サンマータイム」「サマータイム」というようなのがある。29年のときの原則では,原語のつづりに引かれて「ン」を添えて書き表したものは,「ン」を使わないとなっているから,▲印がついている「コマーシャル」「コミュニケ」「サマータイム」という方が,29年の原則には合致しているわけであるが,なお,「ン」を使う習慣もあるので,辞典によってはそれを取り上げているということである。
 C,「ア」か「ヤ」か。
 これは,下の「原則」というところにあるように,イ列,エ列の音の次に「ア」が来るもの,「イア」とか,「エア」とかいうようなものについて,「ピアノ」か「ピヤノ」か,「ベアリング」か「ベヤリング」か,「ベニア板」か「ベニヤ板」か,「ダイアモンド」か「ダイヤモンド」か,こういうようなことになって,29年には,例外はあるが「ア」と書くと決めてある。その例外として,「ベニヤ」だの「ダイヤモンド」というのが出てくるのかと思う。後にあるように,「ダイヤ(グラム)」,「ハイヤー」というようなものは,3辞典とも「ヤ」を使っている。
 D,「チ」か「ティ」か。
 英語で申しますと,「ti」に当たるところのもの。「チケット」「ティケット」,「チンパニー」「ティンパニー」,「ネガチブ」「ネガティブ」というふうになって,「ティ」の音はなるべく「チ」と書くと書いてある。29年の決め方は,「チ」と書いておいて「ティ」と読んでもいいということなのかどうか,ちょっとその辺がはっきりしないが,こういう規則があって,なるべく「チ」と書くとあるけれども,近ごろは割合に「ティ」という発音,「ティ」と書いたものが目につくように思う。これはゆれている。
 なお,「ツィ」と書くか,「チ」と書くかという問題もあって,原音の発音で言うと,「インテリゲンチア」というものも,本来は「ツィ」なのかと思うが,これを「チ」と書いている。「ナチス」もそうで,「ナツィ」を「ナチ」と我々は言っている。「ナツィ」と書いてある例は全く見かけないが,そういう問題もあるんじゃないかと思う。
 Eは,「di」の問題である。
 近ごろは「ディ」と書く例も見当たるが,29年の原則では「デ」とか「ジ」とかに直している。「ラジオ」は「ジ」で定着していると思う。それから「デ」は,よく「ディジタル」なんかを「デジタル」というふうに書いてあるのを見受けるが,ここにあるように「アコーデオン」か「アコーディオン」か,「ハンデキャップ」か「ハンディキャップ」か,「クレジット」か「クレディット」か,こういうようなゆれが辞典の中にも見られるわけである。
 F,「チュア」か「チャー」か。
 「カルチュア」「カルチャー」,「ゼスチュア」「ゼスチャー」,「ゼ」のところにもゆれがあるが,「チュア」「チャー」,両用のものがある。これは,どういう外国の発音を入れるかにもよるかと思う。
 G,「X」を伴う言葉,「キサ」「キシ」か「クサ」「クシ」か。
 これは「エキサイト」か「エクサイト」か,「テキスト」か「テクスト」か,「フレキシブル」か「フレクシブル」かというのがあって,ここにも多少問題がある。ただ,「ボクシング」というのは,「ボックス」「ボクサー」というふうに,「クス」である。それから,「エキスパート」とか「ミキサー」というのは「キサ」の方を使っているわけである。これについては,化学の方では「キ」の方に統一している。「オキシダント」とか「オキシフル」とかいったような「キシ」である。
 次の頁にまいって,H,「カ」か「キャ」か。
 これも発音上の問題をどういうふうに受けとめるかであるが,「カンバス」か「キャンバス」か,「カスタネット」か「キャスタネット」か,「カビネ」か「キャビネ」かという問題である。
 なお,これに関連して,語尾を「ク」にするか「キ」にするかという問題があって,これは大体語によって決まっているかもしれない。「ビフテキ」というときの「キ」,「ステッキ」というときの「キ」は,「ステーク」「スティック」などというふうに言わないだろうと思う。そういう古くから入っているものは「キ」がしばしばあって,新しく入ってきたようなものは大体は「ク」であると言ってよろしいかと思う。そういう種類のゆれもあるわけである。

林(大)主査

 I,「ハ」行か「ファ」行か。
 これは29年の原則では,原音における「ファ」「フィ」「フェ」「フォ」の音は,なるべく「ハ」「ヒ」「ヘ」「ホ」と書くとあるのだが,多くのものが現在は「ファ」「フィ」「フェ」「フォ」で書かれているように思うし,そういう発音ができているように思う。ここにはゆれているものは,「セロハン」と「セロファン」,ナイフとフォークと言うときの「ホーク」と「フォーク」,それから,これは化学用語の方であろうが,「ホルマリン」と「フォルマリン」,それから「メガフォン」と「メガホン」,「テレフォン」もそういったような例になるかと思う。
 J,「バ」行か「ヴァ」行か。
 「バイオリン」「ヴァイオリン」,「ビタミン」「ヴィタミン」,「アベック」「アヴェック」,「ベランダ」「ヴェランダ」,これにつけ加えると,「カーブ」と「カーヴ」というものがあるかと思うが,ここにあるような例は,辞典でもそう書いてあるわけである。これは「書いてある」ということであって,そういうふうには発音しないということかもしれない。
 先ほども例があったが,実はこれについてはいろいろ議論をした。「ヴァ」というのは,表記の上では強く主張される方があって,ぜひこれは入れろという御意見もあるわけであるが,音韻としての観点から見ると,日本人の多くの者が平易にこれを発音できるか,発音はできてもそれを聞き分けることができるかという問題としては,これはなお議論を尽くさなければならないということである。とにかく,これは問題であるとしてここに掲げてある。
 K,「セ」「ゼ」か「シェ」「ジェ」か。
 「セパード」か「シェパード」か,「ゼネレーション」か「ジェネレーション」か,「ゼリー」「ジェリー」,「ゼントルマン」「ジェントルマン」。「ゼネラルストライキ」というときは,「ゼネラル」だけのように思う。「ゼネスト」と言って,「ジェネスト」とは言っていないように思うが,「ゼ」で固定しているのもあるし,「ゼ」と「ジェ」とでゆれているものもあるということかと思う。
 L,清音か濁音か。
 「スムース」「スムーズ」は,英語の時間にはよく直されたが,日本語に入れたときに両用の言い方がある。「ベット」か「ベッド」か,「ペタル」か「ペダル」か,こんなようなゆれが見られる。後の方に,「ニュース」「セールスマン」「グロッキー」とあるが,原音で申すと,「ニューズ」と言うべきだとか,「セールズマン」と言うべきだ,「グロッギー」と言うべきだということになるのかもしれないが,三つの辞典ともすべて清音で挙げてある。
 M,母音のとらえ方等。
 「ハンカチ」「ハンケチ」,「タンバリン」「タンブリン」,「レポート」「リポート」。「カ」か「ケ」か,「バ」か「ブ」か,「レ」か「リ」かというふうに違うわけである。
 次は,「レーンコート」か「レインコート」か,「ウエートレス」か「ウエイトレス」か,「キャンペーン」か「キャンペイン」か,こういうようなことがあって,29年には,二重母音の「エイ」「オウ」は長音とみなす。長い棒「ー」を引っ張るということにしてあるわけであるが,実際上は「イ」を使いたいというところがある。大体は「ン」の前は「イ」を書きたいというのが一般的傾向じゃないかと思うが,必ずしもそうはいかないのもあるように思う。
 N,「イ」か「ウィ」か,「ウォ」か「ウオ」か等。
 これは1拍で表してしまうか,あるいは2拍に開くかという問題があって,Wの問題である。「スイング」と言うか「スウィング」と言うか,「ストップウォッチ」と言うか「ストップウオッチ」と言うか,「スリークォーター」と言うか「スリークオーター」と言うか,「クォータリー」と言うか「クオータリー」と言うか,などというような問題である。
 Oは,原つづりで「〜um」と書いてあるもの。
 特にその前にもう一つ「i」であるもの,「〜ium」というものが問題になると思うけれども,「アルミニウム」か「アルミニューム」か,「サナトリウム」か「サナトリューム」か。「サナトリアム」というふうに「アム」にすれば,これはちょっと語形が変わってくるので,表記の問題ではなくなるし,発音上は大分大きな変化だと思う。
 P,連声の有無。
 これは「パイナップル」のたぐいであって,「パイナップル」と書くか「パインアップル」と書くか,「クリーンアップ」と言うか,「クリーンナップ」と言うか,こういうような例が時々ある。辞典の中ではこんなものであった。
 Q,その他,語形の異同など。
 これは,野球で「グローブ」と言うのか「グラブ」と言うのか。私どもが子供のときは,「グラーブ」と言っていたような気がするけれども,こういう語形が違っているもの。それから食べ物の「プディング」を「プリン」と言っている。これも,物は同じだけれども,呼び方が違う。それから,「モーター」と「モートル」,「ライラック」と「リラ」。これは大分言葉の形が変わっている。この語形が大きく変わっているものは,我々としては余り問題にならないのではないか。そこに新しい音が入ってくれば問題だけれども,そうでなければ語形の異同を問題にすることはない。「ライラック」は,これから「リラ」ということにしようなどということは,問題にならないだろうというふうに考えられるわけである。
 以上のようなことは,問題点を取り上げてみたもので,これだけの例を挙げるのに,三つの辞典を使って取り上げると,こんな例があるということであって,これはこうしようというようなことは,これから御意見を伺って,決められるものは決めていくということになろうかと思う。
 それで,1枚目の5−2のところに戻っていただくと,いろいろ慣用があって,もう慣用が全く決まってしまっているもの,問題のないものがありますし,慣用といっても,あちらの慣用とこちらの慣用が違っているというものもあるし,どちらがどちらか,まだ分からないのもあるというようなことである。慣用ということをどう考えるか。慣用が固定していれば,それを尊重する,改める必要はなかろうと思う。
 例えば,鳥打ち帽子のことを辞典では「ハンチング」と書いてあって,これは全く違いがない。しかし,狩りをする意味になると,「ハンティング」と書いてある。これを,今度は「ti」を「ティ」にするのだからといって,鳥打ち帽子のことを「ハンティング」と言え,書けというわけにはいかないのじゃなかろうか。こういうことである。
 しかし,慣用が固定していると認める──「ハンチング」の場合には固定していると認めていいのであるけれども,そのほかでは,慣用が固定しているというのはどういうことかということについて,多少議論を尽くさなければならないところがあるかと思う。

林(大)主査

 それから,ゆれているものの扱いをどうするか。
 これは,ゆれたまま皆認めてしまうという形もあるだろう。しかし,一方ではどれか一つを採ろうではないかという,統一を目指す考え方もあるだろうし,それから,多様性を認めた上で優先順位をつけておいた方がよかろう,学校の教科書あたりではどちらを採った方がいいというようなことを,ある手引を与えておく必要があるのではないか。それから,どちらがどちらということを言うためには,原音,外国の音になるべく近い方で,しかも日本人に発音できる,そういうものの方を採る,こういうことと,それから,日本人にとってなるべく平易な方を採るというようなこともある。
 具体的に例を申すと,「バイオリン」か「ヴァイオリン」かというようなことであって,原音に近い方を採ると言えば,「ヴァイオリン」を採ることになるわけであるし,なるべく平易な方を採ると言えば,現在の日本人として発音し分け,また聞き分けることが余り十分でないのだから,平易な方で「バイオリン」を採っておいた方がいいんじゃないかという意見もあるだろうと思う。こういうゆれているものの取扱いをもう少しはっきりさせていきたい。そして,これらの問題を一括してそういうことが言えるか,その問題の点についてそれぞれに言えるか,そういうことであろうかと思うわけである。
 先ほども申したけれども,表記のゆれと語形のゆれ,先ほどの「ブディング」と「プリン」,「ライラック」と「リラ」といったようなものは,語形が違うと考えられるから,これは問題がないが,表記のゆれか,語形のゆれかというのは,多少問題になるところがあるかもしれないと思われる。
 表記委員会ないし小委員会では,以上のようなことを問題にしてまいったわけで,それを私流にまとめて,御報告した。委員会としては,こういうふうに決めようという具体的な決定をしたわけではなくて,問題点を皆取り上げて,今後の多くの委員の方々の御意見を問うということにいたしたいというわけである。
 そこで,今後の予定であるけれども,資料の2をごらんいただきたい。先ほども会長から最後の総会,12月上旬とお話も出ているが,それまでのところ,外来語表記委員会としては,9月から10月にかけて,委員の先生方全員を対象とするアンケートをお願いしたいと考えている。そのために9月の上旬に外来語表記委員会をいたして,原案について協議し,そしてアンケートは9月の中旬から10月の中旬にかけてお伺いをいたしたい。それで,下旬になって,外来語表記委員会でアンケート結果のまとめをして,全体の審議経過報告の起草を始めたい。11月の上旬には外来語表記委員会で審議経過報告の案を検討していただいて,11月中旬の全員協議会にこれを提出するというように考えている。
 全員協議会で御意見が出たところを,11月下旬に表記委員会に戻って,なお修正すべきところを修正して,最後の12月上旬の総会に御報告をしようというふうに大体考えているわけである。
 なお,このほか必要に応じて表記委員会や小委員会を随時開催しなければならないかもしれないと思っている。
 それから,アンケートにどういうようなものを考えているかという御質問がすぐ出るかと思うが,先ほど来申したようなことで,表記における慣用のゆれについて,どういう御意見があろうか,具体的な例についてお考えを伺いたいということが一つある。前々から抽象的にはいろいろ御意見が出ているけれども,少し具体的な語例を添えて御意見を伺うことができればと思うわけである。
 それから,どのような表記原則を立てるか。片仮名として──これも御意見が出ていて,外来語は片仮名で書くのを原則とするということを申したところが,そういうことを書く必要はないという御意見も前にいただいたわけであるが,そういう問題をもう少し委員の先生方の総意としてどういうふうにお考えかを伺いたいという気がする。
 それから,仮名を使うのに「ヴ」を使うか使わないか,「ヂ」を使うか使わないかというようなこともあるわけである。それから,つなぎの符号のようなものをどうするかということもある。
 それから,その適用分野については,「常用漢字表」や「現代かなづかい」と同じ扱いとするということでよろしいかどうか。大体,目安,よりどころでよいという御意見が前々のアンケートには出ているけれども,外来語の表記ということになると,専門分野との関係をどういうふうに考えるかという問題もどうしても出てくるのではないかと思っている。これはアンケートでどのようにお伺いできるか問題だが,御質問するとすれば,こういうことも問題になるというわけである。
 ただ,これらはまだ表記委員会の方では具体的に御相談をいたしていないので,だんだん審議を進めている間に出てきたようなことを,事務局との間で私がまとめたようなものである。これを考えさせていただきたいと思っている。
 以上大体御報告いたしたことは,従来の経過とその内容,今後の日程,アンケートのことというようなことである。
 大変長いこと時間をとったが,これで一応とどめたいと思う。

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