国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第17期国語審議会 > 第7回総会 > 次第

次第 外来語表記委員会の審議経過について(報告)

坂本会長

 続いて,本日の議題に入りたいと思う。本日の総会の運びについては,一昨日,運営委員会を開いて,御相談申し上げたところであるが,外来語表記委員会の審議経過について御報告を伺い,それについて御協議をいただいた上で,次の審議会に引き継ぐという運びにしたいと考えている。
 先般の全員協議会以後,皆さんの御意見等によって調整された箇所などを中心に,林主査から御報告をお願いし,またこの機会に必要な御説明があれば,承っておきたいと考える次第である。
 林主査の御報告の前に,事務局から朗読をお願いする。

林(大)主査

 別紙のように,経過報告をまとめているが,その全文については事務局の方で朗読をしてもらい,その後,説明を加えさせていただこうと思っている。

松本国語課長補佐

 それでは,朗読をさせていただく。(朗読)


昭和63年12月8日
第17期国語審議会第7回総会


外来語表記委員会の審議経過について(報告)

第1 概 況

1  審議の状況
 外来語表記委員会は,昭和62年3月10日の第2回総会で,外来語の表記の諸問題について専門的・技術的な検討を行うための委員会として設置が決まり,同年4月以降計16回の会議を開いて審議を行った。また,昭和63年4月には,特に専門的な検討を行うために外来語表記委員会の中に小委員会を設置し,小委員会は合計6回の会議を開いて審議を行った。
 外来語表記委員会の審議の状況は,以下のとおりである。
 第1回〜第3回:外来語の表記をめぐる諸問題について自由討議を行い,その概要を第3回総会(昭和62.7.23)に報告した。
 第4回〜第6回:引き続き外来語の表記をめぐる諸問題について自由討議を行った。委員会に所属していない委員から文書で提出された意見も参考にしながら,問題点の整理を行い,その概要を第4回総会(昭和62.12.3)に報告した。
 第7回〜第9回:外来語の表記の具体的な実例について検討を試みるとともに,地名・人名の表記の取扱い方等に関し,全委員に対してアンケート(第1回)の形で意見調査を行い,その結果をまとめて第5回総会(昭和63.3.24)に報告した。
 第10回〜第12回:小委員会(第1回〜第4回)での作業に基づき,国語の音韻の中に外来語音としてどのようなものを取り入れることができるか,その仮名表記にはどのようなものがあるかについて検討を行い,また,外来語の具体的な実例について,その表記や語形の安定しているもの,ゆれているものの状況について検討を行った。そして,これらの概要を第6回総会(昭和63.7.20)に報告した。
 第13回〜第16回:外来語の表記に使用される仮名のうち,これまで総会や委員会でしばしば話題になっていたものの扱い方,また,外来語の表記について取決めをする場合の規範性や適用分野の問題等に関し,全委員に対してアンケート(第2回)の形で意見調査を行い,その結果をまとめるとともに,小委員会(第5回,第6回)での検討を経て,今期の外来語表記委員会の審議経過について取りまとめた。

2  審議資料等
 外来語表記委員会での審議においては,昭和29年の国語審議会部会報告「外来語の表記について」をはじめ,外来語の表記及び外国の地名・人名の書き方に関する明治以来の諸案,日本新聞協会や日本放送協会等で定めている現行の諸基準を参考にするとともに,外来語の表記に関連した研究や実態調査の結果等を収集することに努めた。また,日本書籍出版協会,教科書協会,日本新聞協会編集委員会から寄せられた要望書,日本雑誌協会表記委員会から寄せられた「外来語の表記についてのアンケート結果」も参照した。
 なお,外来語の表記の具体的な実例について検討するために,現代の小型国語辞典に採録されている外来語(約6,800語)を取り出した資料を用意して,これを主な検討の素材とした。
 このほか,官報,省庁の白書,小学校・中学校・高等学校の教科書の中に出現する外来語及び外国の地名・人名等の調査については,専門調査員により作業が進められている。

第2 外来語の表記をめぐる問題点とその取扱い
 外来語表記委員会では,外来語の表記をめぐる基本的な問題として,以下のように問題点を整理するとともに,総会での論議,所属外の委員から寄せられた意見,全委員に対するアンケートの形での意見調査等を参考にして,審議の方向付けを行った。
1  外来語とは何か。どのようなものを取り上げるか。
 (1)外来語の定義。 (2)外来語と外国語の区別。 (3)漢字仮名交じり文の中でのアルファベット表記(A組,B型など)や,原語のローマ字つづりをそのまま用いて書かれている語(Kioskなど)の取扱いについて。
 これらの問題については,いろいろな考え方がある(第3−1参照)が,当面,考察の対象とするのは,現代語中心の小型国語辞典に片仮名で採録されているような語と考えることとした。また,片仮名で書く場合を対象とし,アルファベット表記や原語のローマ字つづりをそのまま用いて書かれている語については,外来語の表記ということでは対象外とすることとした。なお,外来語の中には,いわゆる和製英語の類(ガソリンスタンド,テーブルスピーチなど)も含めて考えることとした。
2  地名・人名の表記の取扱い方について
 (1)  地名・人名の表記についても取り上げるかどうか。
 (2)  取り上げる場合,一般の外来語とは別に取り扱うか,一緒に取り扱うか。また,取り上げる場合,地名と人名のうちではどちらを先に取り上げるか。
 (3)  中国,韓国等の地名・人名の片仮名(原音)表記についてはどう取り扱うか。
 これらの問題については,アンケート(第1回)の結果により,第5回総会の議を経て,次のように審議の方針を定めた。
 (1)  一般の外来語のほかに,地名・人名の表記についても取り上げる。
 (2)  取り上げる手順としては,一般の外来語についてまず取り上げることとするが,その際,地名・人名についてもある程度考慮しながら検討を進める。なお,アンケートの結果では,地名と人名については,どちらを先にというのではなく,併せて取り上げるのがよいという意見が比較的多かったが,地名から先に取り上げるのがよいという意見も相当あった。
 (3)  中国・韓国等の地名・人名の表記の問題については,なお今後,その取扱い方について慎重に検討する。

松本国語課長補佐

3  外来語の表記における慣用とゆれについて
 (1)  慣用が固定しているものには,どのようなものがあるか。
 (2)  慣用が固定せずゆれているものには,どのようなものがあるか。
 (3)  ゆれているものについては,どのような扱いをすればよいか。
 (4)  分野による慣用の違いについては,どのように考えればよいか。(一般用語と専門用語。専門分野ごとの違い。)
 これらの問題については,慣用が固定しているものはそれを尊重するという方向としたが,ゆれているものの扱い等については,アンケート(第2回)の形で意見調査をした。(第4−2−(12)参照)

4  外来語の表記について,どのような表記原則を立てるか。
 (1)発音と表記の関係について。 (2)音韻に従って表記するという原則について。 (3)外来音と国語音。外来音としてどのようなものを国語の中に取り入れるか。 (4)原音,原つづり主義について。 (5)新しい仮名の考案が必要かどうか。 (6)外来語は片仮名で書くことを原則とするかどうか。 (7)つなぎの符号について。
 これらの問題については,外来語表記委員会及び小委員会で検討を行った(第3−2〜4参照)が,(5)(6)(7)等の問題については,アンケート(第2回)の形で意見調査をした。(第4−2−(1)(7)(8)参照)

5  外来語の表記についての取決めをすることについて
 (1)取決めをする必要の有無。また,どういう方面で取決めを必要としているか。 (2)規範性について。 (3)適用分野について。
 これらの問題については,取決めをすることは必要であるということになったが,その規範性や適用分野等の問題については,アンケート(第2回)の形で意見調査をした。(第4−2−(9)(10)(11)参照)

6  外来語,外国語のいわゆる氾(はん)濫の問題について
 この問題は直接表記に結びつくものではないが,関連する問題として総会を中心に論議された。第4回総会に報告したように,国語審議会としての対応については次のような意見がある。
 (1)  必要以上に使うことは望ましいことではないぐらいの記述はあってもよい,無思慮に外国語を使用することには国語審議会として苦言を呈してもよい等,この問題について何らかの言及があってよいとする意見。
 (2)  良識にまつべき問題であり,国語審議会としては取り上げる必要はない,好みの問題について是非の意思表示を国語審議会がするのはよろしくない等,この問題は審議の対象外であるとする意見。
 また,アンケート(第1回)に付記された意見や第5回総会等での論議には,次のようなものがある。
 ア  この問題は,長期的な日本の諸世代の国際化志向を見通しつつ,制限的にでなく,相互批評的に取り扱っていけばよい。
 イ  日本人の言語生活の一断面に過ぎず,必ず自然に淘汰(とうた)され,必要なものが必要な量で定着していくであろう。
 ウ  アルファベットや原語のローマ字つづりが漢字仮名交じり文の中に恣(し)意的に入ってきている現状は憂慮すべきものがある。
 エ  漢字を用いた翻訳語は効率もよいので,翻訳の工夫をすべきである。
 この問題は,外来語表記委員会でなく総会の問題として今後とも扱っていくことが適切だと考えられる。

7  外来語の表記と外国語学習や国際化の進展などとの関連について
 この問題は,アンケート(第1回)で自由記述の項目としたものである。記述された意見については第5回総会に報告したが,主な意見は次のようなものである。
 ア  国際化の進展に伴って外国語に接する機会が増え,若い世代はそれに適応できるようになっていく。こういう時代の流れを考慮に入れると,なるべくゆとりのある柔軟なきまりを考えておくのがよい。
 イ  外国語学習や国際化の問題が外来語の表記原理をリードする形にならないようにすべきである。外国語学習や外国人に対する日本語教育の問題とは一応切り離して考えてよい。
 ウ  外来語の適切でない表記や和製英語,短縮語,原語とは異なる意味で用いられる語などが,外国語学習や国際化,外国人に対する日本語教育等で支障となっている。
 エ  外国語学習や国際化の進んでいる状況に応じて,外来語の表記は一段と音韻を広げる方向に進むべきであり,原音や原つづりに近い表記をとるべきである。
 オ  外国語学習における発音と,外来語の発音・表記とは異なったものであり,過度の原音主義は好ましくない。外来語である限り,日本人の音韻意識に基づくべきである。

松本国語課長補佐

第3 外来語の表記についての基本的な考え方

1  外来語とは何か。
 外国語から国語に取り入れた語を外来語と言う。漢語は古く中国語から取り入れたものであるが,慣用として外来語の中には含めない。我が国は室町末期以降,ポルトガル語,オランダ語から,江戸末期以降は英語,ドイツ語,フランス語その他の欧米諸言語から多くの語を取り入れた。そこで,外来語と言えば主としてこれら欧米系の諸言語に由来するものを指すことが多い。外来語を「洋語」と呼ぶことがあるのもこのためである。現代では,その中でも英米語系の外来語の占める割合が非常に大きいが,「シューマイ」「マージャン」「オンドル」「キセル」など近隣の東洋諸言語に由来する外来語もある。
 外来語は,元の外国語から国語に取り入れられるとき,国語の構造に合わせて,発音や語形,意味,用法に変化が生ずる,すなわち,国語化するのが普通である。この国語化の程度によって,外来語をおよそ次のように分けることができる。
 (1)  国語に取り入れた時代が古く,国語に融合しきっていて,外国語に由来する感じが余り残っていないもの。例えば,「たばこ」「てんぷら」「じゅばん」など。
 (2)  既に国語として熟しているが,なお外国語に由来するという感じが残っているもの。例えば,「ラジオ」「ナイフ」「スタート」など。
 (3)  外国語の感じが多分に残っているもの。例えば,「ジレンマ」「フィクション」「エトランゼ」など。
 一方,現代の我々は,国語の文章や談話の中に外国語の語句をそのまま取り入れて使用することがある。このようなものは,外国語と呼んで,外来語とは区別すべきものであり,また,我々の取り上げる直接の対象には含めないでよいと考えられる。ただし,この種の外国語と,上記(3)の類の外来語との境界は,必ずしも判然としたものではない。

2  外来語表記の沿革
 上に述べたような外来語の三種の区別を国語表記の現状に照らして考えると,そこに,対応した相違が見られる。
 (1)の類は,「たばこ,煙草」「てんぷら,天麩羅」「じゅばん,襦袢」など,平仮名や漢字で書かれることも多く,語形についても,書き表し方についても,十分に国語化している。
 (2)の類は,語形のゆれが比較的少なく,比較的よく国語化した語形に基づいて,片仮名で書き表す。
 (3)の類は,語形にゆれのあるものが多く見られる。外国語の原形に対する顧慮から語形を正そうとする力が働きやすく,「ジレンマ」に対して「ディレンマ」,「エトランゼ」に対して「エトランジェ」のようなゆれが生じる。現代の和語や漢語にない音が用いられることもある。
 現代の外来語は片仮名で書き表すのが一般的であるが,外来語表記の歴史を見ると,この傾向はそれほど古いものではない。欧米系の外来語が流入し始めた室町末期から江戸初期の国語の文献では,外国語や外来語の表記は,漢字であったり,平仮名であったり,時には片仮名であったりして,一定していなかった。外来語を漢字で書くことは明治以後も続き,語によっては戦後まで残った。
 漢字平仮名交じり文の中に外国語・外来語を片仮名で書くことを組織的に行った例は新井白石の著述に見られる(西洋紀聞−18世紀初め)。蘭学の文献ではこれを受け継ぎ,明治期の外来語急増に伴って,外来語を片仮名で書く習慣が確立した。(国定読本においては,明治43年から使用した第2期国定読本以後,片仮名書きが大勢となった。)その後,大正から昭和にかけて,新しい外来語が増加し,戦後の外来語急増期に外来語の片仮名表記が決定的となった。
3  外来語の音と仮名表記
 国語の音韻は,「現代仮名遣い」に掲げる仮名の表に示すように,仮名の一字一字(また,これに準ずる仮名の組)に対応する音を基本単位とする。その種類は,現代のいわゆる和語と漢語については,直音,拗(よう)音合わせて100,これに特殊なものとして撥(はつ)音,促音,長音が加わる。
 外国語が外来語として国語化するについても,基本的にはこの範囲の音が用いられているが,場合によっては,外国語の原音に応じて,現代の和語や漢語にはない音が取り入れられ,それに当たる特別の仮名表記が工夫されてきた。例えば「フィルム」の「フィ」,「メロディー」の「ディ」のようなものである。
 このような,外来語の仮名表記については,従来,国語審議会をはじめとして各方面で論議され,いろいろな取決めが立案され実施されてきた。しかし,それらは必ずしも一致したものではないし,また,それらの取決めに合わない書き方も世間では行われている。そこで,改めて現代にふさわしいその在り方を考えてみる必要があるわけである。
 外来語の表記を検討するには,次のような問題がある。
 (1)  どのようなものを外来語の音として国語の中に取り入れるか。
 (2)  取り入れるとすれば,どのような仮名表記をそれに当てるか。
 (3)  取り入れないとすれば,その音を従来の国語の音韻のうちのどれに当てるか。

 そこで,まず,国語の中に取り入れるか取り入れないかを検討すべきものとして,外来語表記委員会では,第6回総会に報告したように,次のような音を取り上げた。

 (1)  シェ,ジェ  (8)  テュ,デュ
 (2)  ツァ,ツィ,ツェ,ツォ  (9)  フュ,ヴュ
 (3)  チェ  (10)  ウィ,ウェ,ウォ
 (4)  ティ,ディ  (11)  クァ,クィ,クェ,クォ;グァ,
 (5)  トゥ,ドゥ  グィ,グェ,グォ
 (6)  ファ,フィ,フェ,フォ  (12)  その他(スィ,ズィ,イェなど。)
 (7)  ヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォ

 また,「ヂ,ヅ;ヰ,ヱ,ヲ;ワ゛,ヰ゛,ヱ゛,ヲ゛」等の仮名も,外来語を表記するものとして話題になった。(第4−2−(2)(3)(4)参照)
 なお,長音については,従来,外来語の片仮名表記としては,和語,漢語の場合と異なり,長音符号「ー」を用いることがほぼ定着している。

松本国語課長補佐

4  外来語の仮名表記の考え方
 外来語の仮名表記を検討するに当たっては,語形や表記形の既に固定しているものを改めて問題にすることはないとして,基本的には,仮名を音韻との対応において用いるという考え方に立つことになるであろう。しかし,慣習では,若干の仮名表記を,国語としての音韻上の区別のためではなく,外来語のもとになる外国語の原音又は原つづりに対応させるために用いてきた例がある。例えば,英語のviolinに対する外来語形について,発音上必ずしもbとvとを区別しないにもかかわらず,特にヴァイオリンという仮名表記を用いるという場合がそれである。このような慣習については,新しい音(例えばvの音)を国語の音韻として積極的に取り入れるという,一方の考え方と合わせて,十分検討することが必要である。(第4−2−(5)(6)参照)
第4 意見調査による委員の意見の概要
1  外来語表記委員会では,昭和63年9月から10月にかけて,審議会所属の全委員に対して「外来語の表記の検討に関するアンケート」と題してアンケートの形による2回目の意見調査を行った。このアンケートの項目の(1)〜(8)では,従来,総会や委員会でしばしば話題になった仮名の問題を中心に取り上げ,(9)〜(12)では外来語の表記について取決めをする場合の規範性や適用分野の問題,慣用のゆれているものの取扱いの問題を取り上げた。このアンケートには,全委員数の8割を超える回答が寄せられた。
2  項目ごとの意見の分布は,おおむね以下のとおりである。
 (1)  外来語を書き表す場合のために,新しい仮名を考案することについては,「新しい仮名を考案する必要はない。」という意見が多くを占めており,「新しい仮名を考案することもあってよい。」という意見は少ない。なお,どういう新しい仮名があり得るのか検討すること自体はよいという意見もある。
 (2)  外来語を書き表す場合に,仮名「ヰ」「ヱ」「ヲ」を使うかどうかについては,「使わないでよい。」という意見が多くを占めており,「使うことにする方がよい。」という意見は少ない。なお,括弧付きで字母表に入れておくとよいという意見もある。
 (3)  外来語を書き表す場合に,仮名「ヂ」「ヅ」を使うかどうかについては,「使わないでよい。」という意見が多くを占めており,「使うことにする方がよい。」という意見は少ない。なお,地名・人名の場合には使うことがあってもよい,許容してはどうか等の意見もある。
 (4)  外来語を書き表す場合に,仮名「ワ゛」「ヰ゛」「ヱ゛」「ヲ゛」を使うかどうかについては,「使わないでよい。」という意見が多くを占めており,「使うことにする方がよい。」という意見は少ない。
 (5)  外来語を書き表す場合に,ヴァ行の仮名(「ヴァ」「ヴィ」「ヴ」「ヴェ」「ヴォ」)を使うかどうかについては,〔A〕一般の外来語の場合と,〔B〕地名・人名の場合とに分けて尋ねた。
 〔A〕  まず,一般の外来語の場合については,「ある程度は使うことにする方がよい。(例えば,例外的又は許容的に使う。)」という意見が多くを占めている。「積極的に使うことにする方がよい。(例えば,本則的に使う。)」という意見もかなりあり,「使わないでよい。」という意見を上回っている。
 〔B〕  地名・人名の場合についても,「ある程度は使うことにする方がよい。(例えば,例外的又は許容的に使う。)」という意見が多くを占めている。「積極的に使うことにする方がよい。(例えば,本則的に使う。)」という意見もかなりあり,「使わないでよい。」という意見を上回っている。なお,〔A〕の場合に比べて,〔B〕では,「ある程度は使うことにする方がよい。」という意見の数が減っており,その分だけ,「積極的に使うことにする方でよい。」という意見と,「使わないでよい。」という意見の数が増えている。
 (6)  ヴァ行の仮名を使う場合の考え方については,「ヴァ行の仮名は,発音(音韻)の上でも,バ行の仮名と区別する方がよいと考える。」という意見と,「ヴァ行の仮名は,発音(音韻)の上では,バ行の仮名と必ずしも区別をしなくてよいと考える。」という意見とがそれぞれ相当あり,伯仲している。
 (7)  「外来語は原則として片仮名で書く」という方針(ここでは,中国,韓国等の語の場合を除く。)については,「「原則として」であり,慣用的なもの等の除外例は当然認められるのであるから,この方針でよい。」という意見が多くを占めており,「片仮名で書く場合の表記の仕方を考えるのであって,「原則として片仮名で書く」というようなことは言わなくてよい。」という意見は少ない。なお,前文で外来語表記の歴史と現状を報告書風に述べるだけでよい等の意見もある。
 (8)  つなぎの符号(「・」「−」「=」など)については,「外来語の表記の問題として取り上げて検討する方がよい。」という意見が多くを占めているが,「取り上げなくてよい。(慣用を尊重する。)」という意見も相当ある。
 (9)  外来語の表記について取決めをする場合の規範性(性格)については,「「常用漢字表」や「現代仮名遣い」の「目安」「よりどころ」の趣旨のような,緩やかな規範と考えたい。」とする意見が多くを占めており,「是非これに従うべきものという強い規範と考えたい。」という意見は少ない。
 (10)  適用分野(どういう分野を対象として考えるか)については,「「常用漢字表」や「現代仮名遣い」のように,「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活」としておくのがよい。」という意見が多くを占めており,「適用分野を特定しないでよい。」という意見は少ない。
 (11)  専門分野や個々人の表記との関係については,「「常用漢字表」や「現代仮名遣い」のように,「科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない」としておくのがよい。」という意見が多くを占めているが,「特に言及しないでよい。」という意見もかなりある。なお,専門分野も含めて考えるべきだが,個々人の表記には言及する必要がないという意見もある。
 (12)  外来語の表記において,慣用が固定せず,ゆれているものの扱い方については,「複数のものを認めておいて,そのうちの一つを代表的なものとするという方向で考えたい。」という意見が多くを占めている。そのほか,「なるべく一つのものだけを選ぶという方向で考えたい。」という意見,「複数のものを認めておいて,そのうちのどれでもよいとするという方向で考えたい。」という意見,「こういうゆれの問題については触れない方がよい。(ほうっておく。)」という意見がそれぞれある。

松本国語課長補佐

第5 まとめ
 以上のように,外来語表記委員会は,外来語の表記をめぐる基本的な問題や具体的な問題についていろいろな面から検討を行い,さらに,広く審議会の各委員の意見を聞いて,共通理解を深めながら,審議の方向付けを行い,また,今後にわたる審議の参考とすることに努めた。第2回のアンケートの結果を見ると,各委員の意見の傾向は多くの点で大体一致しているが,問題によっては傾向の分かれるものもある。今期は外来語の表記についての成案を取りまとめるには至らなかったが,今期の審議を土台として,今後,慎重な検討が進められることを期待するものである。

坂本会長

 ここで,政務次官は御退席になる。ありがとうございました。

〔船田政務次官退席〕

坂本会長

 引き続き,林主査から説明をお願いする。

林(大)主査

 ただいまお聞き取りいただいたものが,外来語表記委員会の審議経過についての報告である。
 この報告の原案については,さきに全員協議会で一通り説明を申し上げて,その際,いろいろ御意見をいただいた。それに基づいて,先月25日の第16回の表記委員会でいろいろ検討をさせていただいた結果,全員協議会でお目にかけたところを多少修正した。その点について,ただいま御説明申し上げようと思う。
 それは5点ほどあって,まず第1ページの下の方に「審議資料等」という項目があるが,その4行目のところに,「また,日本書籍出版協会,教科書協会」の次に「日本新聞協会編集委員会」という1項目を入れさせていただいた。これは先ほども御説明があったとおり,編集委員会からお寄せくださったものを皆様にお配りもし,また25日の委員会でもそれを拝見したわけであって,ここへそれを加えさせていただいた。
 次に,2ページの下の方,4であるが,「外来語の表記について,どのような表記原則を立てるか。」というところに,(1)から(7)まであるが,その(5)「新しい仮名の考案が必要かどうか。」は,「新しい仮名の考案について」というふうに原案ではしていたが,御注意があって,このように改めた。
 「新しい仮名」ということについては,説明を要するところであったかと思うが,これについては,このままの形でアンケートもお願いしているので,「新しい仮名」ということについては,そのままにして,原案ではいかにも「新しい仮名」の考案をすることが決定的方向であるかのような印象を与えるおそれがあるので,「新しい仮名の考案が必要かどうか」という問題提起の形にいたしたわけである。
 第3番目は,5ページの4である。4に「外来語の仮名表記の考え方」というところがある。これについては,元の方は読む必要もないかと思うが,2行目に「現代仮名遣いの場合と同様,仮名を音韻との対応において用いるという考え方に立つ」というところがあって,この「現代仮名遣いの場合と同様」というようなことは不必要であろう,取った方がよかろうという御意見が出て,ごもっともということで,これは削除した。
 それから,元は「用いるという考え方に立つべきである」というふうに決めつけたような言い方をしていたところを「基本的には,……用いるという考え方に立つことになるであろう」というふうに,和らげた表現に改めた。
 また,1行目に,「語形や表記形の既に固定しているものは別として」と簡単に言ってあったが,それは「語形や表記形の既に固定しているものを改めて問題にすることはないとして」というふうに直した。これは,既に慣用の定まっているものをここで改めるというようなことを考えているものではないということを念のために書き添えているわけである。
 第4番目には,5ページの下半分から6ページの終わりにかけてのところであるが,ここでは御意見の分布について,全員協議会の際には,こちらが,37通,こちらが1通,あるいは17通,18通といったような実数を挙げておいたが,今日の報告では,それらの数は除かせていただいた。
 なお,以上のほかに,送り仮名の付け方であるとか,「常用漢字表」にない漢字に振り仮名を振るというような,公用文のしきたりに従った表記上の調整をさせていただいている。
 全員協議会以後,ただいま申し上げたような修正を加えた。こうして今日これを御報告といたそうとしているわけである。
 どうぞよろしくお願いする。

坂本会長

 外来語表記委員会では,大変難しい問題について,分かりやすく問題点をおまとめいただけたと思う。大変お骨折りだったと思う。また,度々アンケートについて委員の各位に御協力いただいて,御意見の趣を適切な形で伺うことができて,大変有意義であったというふうに理解している。

トップページへ

ページトップへ