国語施策・日本語教育

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表記部会長報告

これは,国語審議会・表記部会(後に,述語部会と合同)での審議の結果を,国語審議会(昭29.3.15)に報告したものである。なお,表記部会としては,これを,文部大臣あて建議するよう総会に提出したが,総会で審議の結果,報告にとどめることとなった。

外来語の表記について

国語審議会


 国語審議会は,外来語について,その書き表し方が様々になっている現状にかんがみ,その基準を定める必要を認めて,述語・表記合同部会で審議してきた。昭和29年3月第20回総会で別紙のとおり部会における審議の結果が報告された。
 ついては,この趣意がひろく社会に普及し,一般に実行されることが望ましい。



表記部会長報告

(述語・表記部会審議経過)


 表記部会は,昭和27年7月成立し,まず外来語表記の原則を審議することを決めたが,たまたま学術用語分科審議会から国語審議会に対し,学術用語の表記法に関する質問があったので,同年10月から12月まで,述語部会と合同してこれを審議し,12月18日成案を国語審議会の総会に提出,決定を見た。そのうち,外来語の表記に関する事項は次のとおりである。

  1. 外来語をかながきにする場合,さしつかえないかぎり,「ファ」「フィ」「フェ」「フォ」・「ヴァ」「ヴィ」「ヴ」「ヴェ」「ヴォ」の代わりに,「ハ」「ヒ」「ヘ」「ホ」・「バ」「ビ」「ブ」「ベ」「ボ」と書く。
  2. 外来語をかながきにする場合,さしつかえないかぎり,「ティ」「ディ」の代わりに,「チ」「ジ」と書く。
  3. 外来語および外国語の地名・人名をかながきにする場合,原語のつづりにおけるiaのaは原則として「ア」と書く。
  4. 原語のつづりの終りのer,or,arなどをかながきにする場合には,長音符号「ー」を用いる。ただし,省く慣用のあるものや,これから造る述語では必ずしもつけなくてもよい。
  5. 外来語および外国の地名・人名の表記の一般方針については,今後なお審議する予定である。

 表記部会は引き続き述語部会と合同で,外来語表記の一般方針を審議した。審議の経過においては,外来語を表記するのに,原語の発音に即した表記を採るべきか,あるいは,国語に外国語を取り入れた際に起る国語化した発音をもとにした平易な表記を採るべきか,の根本態度について,しばしば論議がくり返された。
 原語の発音に即すべきものとする説の根拠は,
 「ことばはその内容を的確に理解し,また,これをもって社会にその用を便ずるために教育されるべきであり,外来語に関しても,外国語の教育と関連をもたせた教育が必要である。しかるに,明治以来漢字音をかなで教育してきたため,日本語の音韻は少なくされており,外来語の発音としては,くずれた発音が国民の間に行われている。いま,外来語を原語の発音に近づけるということは,日本人の発音として努力することができる最大限をつくることになる。」というところにある。
 これに対して,
 「原語にも,英語・ドイツ語・フランス語などいろいろあって,その字に対する発音がそれぞれ異なっているから,それらに忠実に外来語を書き表すということは不可能である。したがって原語の発音に即した表記を採っても,原語でなく,また日本語でもないものを新しく日本語に加えることになるだけである。また,国語の厳密な発音指導が行われていない現在,原語の音に基く教育を義務教育課程にまで施すことは,理想論というべきである。国語施策は,国民のすべてが協力することができるものを決めるべきであり,その見地から,ことばにおける慣用,その国民的傾向は尊重されなければならない。」という意見が多数であった。なお,
 「これからの国語を考えるとき,ある種の外来語音を,しだいに国語に取り入れる用意をしておいてもよいのではないか。」という意見も出た。
 けっきょく,多数意見に基いて,

  1. その表記が国民一般に行われやすいことをたてまえとする。
  2. その表記の社会における慣用の,濃い薄いを合わせ考える。
  3. 表記が二様にわたり,まだ固定しない語が多いため,それらの語については一々について審議する。

という方針で,新聞・辞書・放送関係等,各方面の資料から,社会一般に通用している度合いの高いと思われる語を選び,具体的に審議を進め,19項にわたる原則を得た。
 しかし,外来語は,その伝来の経路が多様であり,また,その歴史も語によって異なるので,その書き表し方の原則は,これらに対処することができるよう,配慮されなければならない。したがって表記が二様にわたる語については,原語の発音としてわれわれが聞き取る音を基準とし,これが国語音に近づいて平易になったものを採ることを原則としたが,慣用の固定したもの,または,原語の発音に近く書く慣用の久しく行われているものは,これに従った。多くの原則に例外があるのは,このためである。なお,一々の語の書き表し方に,この原則をどの程度に適用するかについては,別に,表記上迷いやすい語について「外来語用例集」を設けて,そこに具体的に示すことにした。
 部会の審議経過は以上のようなものであるが,この原案についてじゅうぶん御審議願いたい。また総会の承認を得た場合は,これが社会一般に普及するよう,必要な処置をとられることを文部大臣に建議することについても,あわせてお話合い願えれば幸である。

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