国語施策・日本語教育

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次第 外来語表記委員会の審議状況について(報告)

坂本会長

 続いて,本日の議事に入りたい。
 前回の総会以後,外来語表記委員会では大変難しい問題に精力的に取り組まれた御様子を,送っていただいた議事要旨でも拝見しているわけだが,これからだんだん取りまとめの段階に入っていくと思われるので,本日はまず,御検討いただいた状況について中間的な御報告を伺い,その後,御報告を巡って協議という形で皆さんの御意見をいろいろ伺わせていただきたいと思う。
 では,林主査,よろしくお願いする。

林(大)主査

 では,8月以降の審議状況について,あらましを御報告申し上げる。
 8月以降,外来語表記委員会を3回,また小委員会を4回開催して,いろいろと御議論を願った。
 その間,前の総会で御報告した審議に引き続き,外来語の音と仮名表記の問題について検討を行ったわけである。その際表記の実態と慣用を考慮しながら,外来語及び外国の地名・人名を表記するものとしての仮名の分類を行い,それに基づいて規則の立て方を検討した。規則について考える前提として,今回作成する案の性格,規範性や適用分野等の問題について話合いをした。
 以下,3「仮名の分類について」,4「規則の立て方について」,5「性格(規範性)や適用分野等について」がある。それについて大体のところを順に申し上げようと思う。
 これらのことは,前期以来アンケート等で伺った御意見を尊重してきたつもりであるので,御意見の大勢からは逸脱していないものと考えている。
 まず,「仮名の分類」であるが,ここで「仮名」と言うのは,もちろん外来語を表記するための仮名である。「現代仮名遣い」では,ア,イ,ウ,エ,オとかカ,キ,ク,ケ,コのような直音,キャ,キュ,キョといった拗音,ガとかザとかいう濁音,こういう音について,100の音を取り上げている。そのほかに撥(はつ)音,促音,長音というものも認めているが,直音,拗音,清音,濁音というものについては,ちょうど100になるわけである。音としては,100であるが,仮名の表記としては106になる。その6というのは,特別の条件において用いる仮名である。
 外来語の表記をするとしても,100の音,それから撥音,促音,長音といったものを外来語の表記に用いるのは当然のことであるが,そのほか従来いろいろな書き方が工夫されてきている。その外来語表記のための仮名を見渡して,分類したわけである。それが3の項目の(1),(2),(3)である。
 すなわち,和語・漢語の音としてはないが,外来語としてその音が入っていると認められる音について,多くの人の聞き慣れ,言い慣れの程度や,その表記がどれくらい目慣れているかというようなことを考慮して,3類に分けてみたわけである。
 (1),外来音として国語の中に取り入れられており,言い分けることも聞き分けることも余り無理がなく,多くの人にとって,発音のし分けも,耳での聞き分けもできると考えられる音に対して,次のような仮名があるというふうに考えた。それは「シェ,ジェ」「チェ」「ツァ,ツェ,ツォ」「ティ,ディ」「デュ」「ファ,フィ,フェ,フォ」といったようなものである。
 ここに*印が付けてあるが,これは注に書いてあるように,昭和29年の「外来語の表記」の「外来語を書くときに用いるかなと符号の表」に掲げられているものである。
 「シェ,ジェ」の例は,「シェーカー」「ジェットエンジン」「シェフィールド」「アルジェリア」「ジェームズ」,「チェ」の例は,「チェーン」「チェス」「カンチェンジュンガ」「チェーホフ」といったふうにお読み取りいただきたいと思う。
 この中で,Dの「デュ」については,「デュ」を採るなら「テュ」もあってもいいではないかという御意見もあろうかと思うし,確かに小委員会でもその御意見が出たわけである。
 それに関連しては,「デュ」は既に29年に採用されているので,(1)類にしているが,「テュ」の同類として(2)類へ持っていくことも考えられないではないという議論もある。
 なお,「仮名」と言っているので,ここでは外してあるが,外来語の表記では長音を書き表すのに長音符号「ー」を使っている。これは「現代仮名遣い」にはないのだが,外来語表記の慣習としては固定していると考えられるものなので,強いてここには書いていない。それは当然使われることになるものと考えているわけである。

林(大)主査

 (2)類は,外来語としてある程度国語の中に取り入れられているとは認められるものの,言い分けたり,聞き分けたりする上では,ただいまの第1類に示すものほど,安定しているとは考えにくい音に対する仮名表記である。
 それは,@,「イェーツ」とか「イェスペルセン」というときの「イェ」。
 Aは,「ウィ,ウェ,ウォ」。これは昭和29年のときにも取り上げられているが,「ウォーミングアップ」とか,「ウィーン」とか,「ミルウォーキー」とか,「ダーウィン」,「ヘミングウェイ」などに使う仮名としてこういうものがある。
 次のページ,Bは「クァ,クィ,クェ,クォ」で,「クァルテット」「クィンテット」「クェスチョンマーク」「クォータリー」などに使うものである。
 Cはその濁音で,「グァテマラ」というときの「グァ」,それから「グィ」「グェ」「グォ」。
 Dが,「ソルジェニーツィン」「ティツィアーノ」というときの「ツィ」。
 Eは「テュ」。楽器の「テューバ」とか,「テュニジア」などに使うもので,先ほど申した「プロデューサー」の「デュ」と形式的には対応するわけである。
 Fは,「トゥ,ドゥ」。「ドゥシャンベ」「ハチャトゥリヤン」の「トゥ,ドゥ」である。
 Gは,「フュ」。「フューダリズム」「フュージョン」「フュースリ」の「フュ」。
 Hの「ヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォ」。「ヴァイオリン」とか,「ヴィーナス」とか,「ヴェール」とか,「ヴォルガ」とか,「ヴラマンク」といったたぐいの語に用いられる仮名である。
 Iは「ヴュ」で,「レヴュー」「インタヴュー」などに用いられるもの。
 Jは「スィ」「ズィ」。
 こういったものであるが,この中には,書く習慣も広がっており,かなり目につきやすいが,これを1音に発音するということになると,多少問題があるかもしれないというものがある。例えば「ウィ」,「ウェ」,「ウォ」などは発音はそれほど一般化しているとは認められないかもしれないが,書き方だけは非常に普及している。
 それから,A,B,Cといって,最後のJの「スィ」「ズィ」は,比較的発音しやすいが,しかし世間では「シ」「ジ」と書くことが多く「スィ」「ズィ」の表記は余り一般化していないように思われる。
 第2類に置いたものは,比較的目慣れているが,言い分け,聞き分けが確立しているとは必ずしも言えないものである。「スィ」「ズィ」は,聞き慣れ,言い慣れてはいるが,書く上での習慣が余りないように思われる。
 (3),第3類であるが,これは外来音として考えると,国語の中に取り入れられているとは考えられず,言い分けや,聞き分けをする習慣も余りない音であるが,それに対する仮名表記として,時たま表れるというようなものである。
 @は「イュ」。
 Aは「ウュ,スュ,ズュ,ツュ」。
 Bは「キェ,ギェ,ニェ,ヒェ,ビェ,ピェ,ミェ,リェ」といったようなもの。
 Cは「フャ,フョ」。
 Dが「ヴャ,ヴョ」。
 Eが「ウァ」。これは国語の中に「ワ」があるけれども,その「ワ」の頭にもう少し唇の狭めをつくった「ウァ」というのを表したい場合には,こういう表記があるかと思う。
 外来語を片仮名で書き表そうというときにはこういうものが表れやすい,また地名・人名などの場合にはこういうものが表れることがあるが,一般的には余り国語の中では用いられていないと考えられるものである。
 このような仮名を第1類,第2類,第3類というふうに分類して,仮名全体の見渡しをしてみたわけである。

林(大)主査

 次に,「規則の立て方について」である。仮名の表記,一々の性質は,ただいま御覧になったとおりであるが,これらのグループについて御説明申し上げる。
 (1),上記3の(1)類の仮名は,現代仮名遣いに掲げる101の仮名,先ほど申した100に「ン」を含めて101としたわけであるが,101の仮名とともに,最も一般的に外来語や外国語の地名・人名を書き表すのに用いる仮名とする,こういう考えである。すなわち,一般的な外来語のためには,いわば「現代仮名遣い」の100の仮名に──第1類には6種類13挙げているので,その仮名を加えて,113の仮名で外来語を書き表すということになるわけである。
 それから,(2)類に示している仮名は,(1)類のほかで,従来の慣用によって,外国語の原音あるいは原つづりになるべく近いものに当てて外来語や外国語の地名・人名を書き表す場合に用いる仮名とする。
 (3)類に示す仮名も,これに準ずるものであるが,これは一層特別な語,主として地名・人名に限って用いる仮名とするという考えである。
 (2)類及び(3)類に示している仮名は,それらの仮名を用いる必要がない場合には──つまり,外国語の原音や原つづりになるべく近い表記をする必要がない場合,また従来の慣用があるとしても,それをそれほど尊重しなくてもいいといった場合には,「現代仮名遣い」に掲げる,先ほどの百幾つの仮名で書き換えて書き表すことができることにしたい。
 例えば「イェ」は「イエ」と2拍に発音するような書き方をしてもよろしい。それから第2類の「ウォ」は「ウオ」というふうに2字に分けて書いてもよろしい。そう発音してもよろしい。それから「トゥ」というのは,「ト」とか「ツ」とかいうふうに書き換えてもいい。それから「ヴァ」は「バ」と書いてもよろしい。これらは昭和29年の「原則」の書き方をしてよろしいということになるわけである。
 また,第1類,第2類,第3類,以上の3類に当たらない特別な音の書き表し方については,自由とする。ここでは取決めを行わない。
 これらの音は,恐らく外国語そのものの音であり,日本語の中に外来語として取り入れられた音とは言えないようなものであろうと思うが,それらの音の書き表し方について,ここでは取決めを行わないというふうに考えている。
 それから(4),これらの仮名によって実際に外来語や外国の地名・人名を書き表す場合の留意事項として,原則的な項目,細則的な項目を示す必要があろうと考えている。
 その原則的な項目というのは,例えば次のようなものである。
 現代の漢字仮名交じり文の中では,外来語を片仮名で書き表すというのが一般的な原則であるけれども,一般社会には「背広」というふうに漢字で書く語もある。「たばこ」のように,片仮名ではなく平仮名で書くこともある。例えば「センチメートル」を「cm」と書いたり,「ピーピーエム」というような発音で「ppm」と書いたり,ローマ字そのものを使っている場合もないわけではない。しかし,ここでは外来語を片仮名で書き表す場合のことを扱っているということを原則的に書いておく必要があろうというわけである。
 A,外来語の語形やその書き表し方については,慣用が既に定まっているものは,改める必要はないものと考えているということである。分野によって異なる慣用が定まっている場合には,それぞれの慣用によって差し支えない。例えば化学界の方では既に表記が決められていて,その制度が確立しているわけだが,それに対してはその慣用を尊重するということで,我々がここで考えたものをその方面へ押し付けるというようなことは考えていないわけである。それから,分野によらないでも慣用が定まっているものがいろいろあるので,それは慣用を尊重する。
 B,外来語には,「ハンカチ」と「ハンケチ」,「グローブ」と「グラブ」といったように,語形にゆれのあるものが比較的多くある。ここではこの種のものについて,これから「ハンケチ」は「ハンカチ」と言おうとか,「グローブ」は「グラブ」と言おうというように,どちらかの語形を採ろうと考えているわけではないということを示しておく必要があろうというわけである。この点では,地名・人名についても,「ベニス」と言うのか,「ベネチア」と言うのかといったゆれもあるが,そのどちらを採ろうかということは,もちろんここでは問題にしないということである。
 C,外来語のうち,国語化の程度の高いものは,「現代仮名遣い」に掲げる101(100プラス「ン」)の仮名のほか,おおむね(1)類によって──先ほど113と申したが,その間で書き表すことができるものと考えている。しかし,国語化の程度がそれほど高くないもの,ある程度外国語に近く書き表す必要のあるもの──特に地名・人名の場合──は,(2),(3)の類によって書き表すことができる。そのために(2)類,(3)類というものを設けているということを注記しておく。
 D,中国,韓国等の地名・人名を原音に基づいてどう片仮名表記するかという問題があるが,それはここでは直接の対象としていない。
 E,「ヰ」「ヱ」「ヲ」「ヂ」「ヅ」というのは,一応「現代仮名遣い」のときに排除され,または条件付きで認められた字であるが,これらの仮名やまた「ワ゛」「ヰ゛」「ヱ゛」「ヲ゛」など,明治以来,外来語の表記に用いられなかったわけではないものについてもここでは取り上げていない。
 そういうことを原則的な項目として注記しておこうというわけである。また,細則的な項目としては,撥音,促音,長音,拗音等の書き表し方に関するものを注記する必要があろうかと思うし,それぞれの仮名について,語例や注記を示すことになるであろうと思う。「示すことになるであろうと思う」と言うのは最終的に決定して世間に出すときのものには,そういう注記が必要になるであろうということである。それから,付録として語例集を添えることも検討中である。どれくらいの規模の語例集にするかなど,いろいろ話合いをしている段階である。
 これが「規則の立て方について」である。
 5,「性格(規範性)や適用分野等について」。
 これは従来の考え方を踏襲する。従来の考え方と言うのは,「常用漢字表」「改定現代仮名遣い」「送り仮名の付け方」等が既に出ているが,その際に考えられた方針をここでも踏襲しようということである。これについては,この審議会の前期以来のアンケート,その他の委員の皆様方のお考えも,大体においてその方向であろうと承知している。
 (1),性格(規範性)については,目安,よりどころという考え方をとり,制限的な,あるいは,排他的な考え方はとらない。
 (2),適用分野については,「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活」ということが,「常用漢字表」「送り仮名の付け方」以来の方針に取り上げられているが,やはり同様に考えてよかろうというわけである。
 同時に(3),「科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」これも従来の諸案の中でそれが明記されているので,このたびもそれでよろしかろうと考えている。
 以上,お分かりにくいところが多々あるかと思うが,御質問をいただき,また十分御意見を承らせていただきたいと思う。

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