国語施策・日本語教育

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次第 協議

坂本会長

 ただいまの御説明について,御質問や御意見があれば,おっしゃっていただきたい。外来語表記委員会の皆様方に,非常に御熱心に御審議をいただいて,今ごらんいただいているような形にまとめられたところであるが,事柄が事柄であるから,この際,できるだけ御遠慮なく御発言をいただきたいと思う。
 なお,御意見は記録にとどめさせていただき,4月以降,各方面から寄せられる御意見と併せて御審議いただくことになろうかと思う。
 今の御説明の中で,「性格」の項に注記を加えたところは,皆様方も御承知のように,全員協議会の席で,江藤委員から御発言があり,関連していろいろ御議論があったわけだが,それらをこのような形でまとめていただいたものである。きょうは残念ながら江藤委員は御欠席であるが,運営委員会に御出席になって,この取扱い方については一応御満足いただいた旨の御発言をいただいてはいる。併せて御報告をしておく。
 これから,これを試案として各方面に説明し,意見を求めるということなので,それと併せて,またいろいろと委員の先生方の御意見を承りながら,成案をまとめるようにしていきたいと思う。せっかくの機会であるから,御遠慮なしに,御自由におっしゃっていただきたい。

秋山委員

 ただいま林先生から御説明があったように,私,書面でも意見を申し上げたのだが,きょうの「外来語の表記(案)」の8ページ,「留意事項その2」の「第1表に示す『シェ』以下の仮名に関するもの」として,「『シェ』『ジェ』は,外来音のシェ,ジェに対応する」とあるのは,「シェ」「ジェ」の文字で表記される音はあくまでも国語の音であるから,これはどうしてもおかしいのではないかと思うわけである。「シェ,ジェと聞き取れる外来音」とでもしないと,不正確ではないかという気がするが,いかがか。

坂本会長

 「『シェ』『ジェ』は,外来音シェ,ジェに対応する仮名である」という表現が不十分だということか。

秋山委員

 その述べ方がおかしいのではないかという印象である。「シェ」「ジェ」の文字で表記される音は,国語の音であって,外来音ではない。だから,「シェ,ジェと聞き取れる外来音」としないとおかしいのではないかということを申し上げた。

坂本会長

 いかがか。今の秋山委員の御意見について,ほかの委員の方で,御反論等があれば……。

石綿委員

 今の御意見に対する質問であるが,おっしゃったことの意味は,外来音というのは,例えば第1表に「シャ」「シュ」「ショ」というのがあるが,国語で使う音とは別なものであって,日本語では今まで使ってこなかった音ということなのか。

秋山委員

 お尋ねの意味がよく分からないが,つまり,8ページのところの「外来音シェ,ジェ」という言い方が,おかしいのではないかと言っているわけである。「シェ」「ジェ」と片仮名で表記される音は,国語の表記だろうと思う。それを「外来音」としてしまっていいのか。これは「シェ,ジェと日本人が聞き取れる外来音」としないと,おかしいのではないかということである。

石綿委員

 「シェ」というのは,「シャ」「シュ」「ショ」と違って,和語や漢語の発音にはほとんど現れないかもしれないけれども,2番の「チェ」もやはり同じように扱われると思うが,「チェ」というのも国語の音ではないというふうにお考えなのかどうかということである。

坂本会長

 秋山委員は,「外来音でそう聞こえる」ということと同じことになるのか,少し質問を広げると,この問題は「シェ」「ジェ」だけではないのではないかということになるわけか。

秋山委員

 そうである。

坂本会長

 それは林主査の方で,専門的な何か……。

林(大)主査

 ここで「外来音」と申したのは,外国語の音とは違うもので,国語の中に入っている音というつもりである。もとは外国語の音であるが,それを日本語の中へ取り入れて,日本人として発音している音というような意味で「外来音」という言葉を使ったのである。だから,外国語の発音ではないつもりである。
 それを,「外来音シェ,ジェ」のように,片仮名で書いているので,外来音というのは,どんな音なのかもう少しはっきりさせろという御意見もあろうかと思うが,一応皆さんの御了解の上で,片仮名のまま表記してあるということである。

井上(和)委員

 一つ関連の質問をさせていただく。先ほど,後から出された書面での御意見の中に,発音記号とか,そういうのを使ってはどうかというのがあったというふうに伺ったが,それと同じ問題かもしれないと思う。これは外国語の音だと思った場合には,国際音声字母かなにかを使ったらいいわけだが,そうではなくて,国語の中へ入った音と考えておられるのだから,殊更難しくしないで,仮名表記にしたいという御趣旨だったと思ったが,ちょっと確認させていただきたい。

林(大)主査

 ただいまおっしゃっていただいたとおりに私は考えている。

坂本会長

 本来なら,「外来音シェ,ジェ」というところに,発音記号で,書けば分かりやすいのではないかという御意見が経過の中であったのを,表記としては「シェ」と日本の仮名を使ってまとめたという御報告かと思うが,そういうことか。
 きょうの御発言は,4月以降の審議の中で,また御議論いただくということがあってもしかるべきかとは思うが,この段階では,そういう説明で一応御納得いただけるということであれば,そういうことにさせていただきたいと思う。

坂本会長

 ほかに何か御意見はあるか。

広瀬委員

 用例集に関連しての御質問であるが,国の名前で,「ベトナム」というのがあって,新聞は「ベトナム」と書いているが,外務省の発表の文は「ヴィエトナム」になっているように思う。新聞社内部などでは大変扱いの難しい地名であるが,用例集でいけば,これはどちらが適当だということになるのか。

坂本会長

 今の御指摘の語は,用例集には入っていないようであるが。

広瀬委員

 入れるとすれば,「ベトナム」の方を入れるのか。それとも「ヴィエトナム」の方を入れるのか。

林(大)主査

 それは,どちらかに決めようという立場をとっていないので,「ベトナム」ということが慣用になっている方面では,「ベトナム」であろうというふうに考える。外務省の方で別の表記をされているとすると,そういう方面ではそれでよろしいかと思う。ここには例として挙げていないが,そういうふうに考えている。

広瀬委員

 それで満足するが,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において書き表すためのよりどころなのに,「ヴィエトナム」が公用文書にあり,新聞が「ベトナム」といっている場合に,どちらがよりどころなのかという疑問が現場では当然出ると思う。

林(大)主査

 それは慣習上,両方認めないわけにはいかないのではないかということである。私は,よく分からないが,新聞の方が「ベトナム」でやっていらっしゃるのを,これは間違いであるというわけにもいかないし,外務省の方は外務省で,外交上の文書として「ヴィエトナム」を使っておられるとすれば,その方面ではそういうことになる。
 我々はゆれをなるべく少なくしようという考え方があったけれども,無理に統一することのできないものについては,両様を認めるということになろうかと思っている。

広瀬委員

 了解した。

林(大)主査

 殊に国名のようなものについては,ただいまのように,外交上の問題等があるので,国名をどう呼称するかということについて,改めて別の御審議があってもしかるべきかと思うが,それが国語審議会の仕事であるかどうかとなると,またちょっと違う点があろうかと思っている。

坂本会長

 今の主査の御説明のように,4ページの文芸家協会の御意見に基づいて「ガリワ゛ー旅行記」その他の例が挙がっているのもその趣旨で,今後といえども,文芸作品の中でこういうふうな字をお使いになることは作者の御自由であるという意味合いだという説明を伺っているので,今の広瀬委員の御質問も,それぞれの立場でということで,今のところは御了解いただけたらと思うが。

広瀬委員

 おっしゃることは分かりながら,ちょっと違うと思うのは,一方は文芸作品である。一方は,外務省が新聞などで発表する公用の文書である。それと新聞の表記とが違っている場合に,新聞としてどうするかということは当然決めていると思うが。

石井委員

 今の関連だが,17期の国語審議会が始まるときに,多くの新聞は,見出しに「外来語の表記」という問題を取り上げるんだとしていた。それで広瀬先生のお話のように,一番分かりやすい例として「ベトナム」か「ヴェトナム」かという問題も挙げたのだが,その答えがここにないとすると,何のための審議か分からなくなってしまうというような読者の素朴な疑問があるのではないか。
 例えば,「ビクトリア」も,「ビバルディ」も,ゆれがあるときにはどちらでもいいんだということが用例集で分かるので,「ベトナム」の問題も,そのように示してくださった方が,新聞の読者ばかりではないけれども,読者には分かりやすかったんじゃないかと思う。

石綿委員

 今のことに関連したことだが,今,広瀬委員と石井委員がおっしゃったのは,11ページの7番に関係していると思う。
 11ページの7番のところは,「ベトナム」は地名なので,地名のところだけ拾ってみると,「ヴィクトリア」「ヴェルサイユ」「ヴォルガ」というふうに,「ヴ」の表記は,「ヴ」という外国語に近い表記で書きたい場合にはこういうふうに書いてくださいということで,ここに挙がっているわけだ。
 ただし,一般的には,「バ」「ビ」「ブ」「ベ」「ボ」と書くことができる。これは一般の外来語の場合は,「バイオリン」のような書き方が普通じゃないかということで挙げてある。したがって,その下の地名・人名も全く同じように考えていいかどうかは,多少問題があるかと思うが,全く同じ言葉で,「ビクトリア」「ベルサイユ」という書き方もあるのだということが言われているということで,先ほど林主査が言われたことを繰り返すことになるが,この案では,外国語に近い書き方をしたい場合にはこういうふうに書くことができる。純日本語化した書き方としてはこういう書き方ができる,両様の書き方を挙げているのであって,どちらかにしろという態度はなるべく避けた提案であるというふうに考えてはどうかと思うが,いかがか。

坂本会長

 ほかに御意見なり,御反論なり,ないか。

紅野委員

 4ページの「注」のところで,このようにしていただいて,いろいろな意味で大変ありがたく思っている。
 ただ,「明治以来の文芸作品」という表現であるが,明治・大正期,特に明治は「文芸」の意味が非常に広く,例えば池邊三山のような新聞人のものも,広い意味で文学のジャンルに加わっているわけである。それから,小野梓のような人の文章も,『明治文学全集』では文学という形で取り入れられているわけである。
 だから,「文芸」というのも,現在の「文芸」とはちょっと違うと言うか,もっと広い意味での「文芸」という形でひとつお考えいただければ,先ほどの新聞の「ベトナム」の問題も,結局,同じじゃなかろうかというふうに思うが,いかがか。

坂本会長

 「文芸作品等」と「等」が入っているから,紅野委員のおっしゃるような御趣旨にも合うわけだ。

林(大)主査

 例として「文芸作品」の例を挙げているが,過去に行われた様々な表記は,「文芸作品」の例だけであるというふうには考えていない。だから,何が文芸作品に入るか,入らないか,そういう議論ではなくて,私どもがここへ例を挙げさせていただくのに,文芸作品の例を取り上げさせていただいたということである。とにかく,過去に行われたものを否定するというわけではないということである。

坂本会長

 ほかに御意見はないか。

築島委員

 細かなことで恐縮であるが,用例集の中に書かれた語例を検討すると,ほとんど大部分は片仮名書きであるけれども,14ページの「ウエスト」と16ページの「ジュース」「ツアー」,それから,「ボーリング」「ルクス」の五つについては,もとのつづりが付けられているわけである。
 「ツアー」については,11ページの例のところに括弧付きで書かれているようであるけれども,なぜここだけにもとのつづりが添えてあるのか,ちょっとなじまないような気がする。例えば括弧を付けるとか,あるいは特別のものについてだけもとのつづりを入れるとかいうような注記でもあれば,一層分かりやすいのではなかろうかという感じがした。

坂本会長

 何かそこら辺の御説明がいただけるか。

林(大)委員

 片仮名だけでは,必ずしも意味がはっきりしない場合があると思ったので,意味の注記ということで,原語を書き添えたわけである。人名なり,地名なり,そのほかのものは大体片仮名だけで訳が分かるが,こういうものは同音語があったり──例えば「ジュース」というのは,どっちの「ジュース」だという議論が起こるといけないから,飲み物の「ジュース」も,テニスの「ジュース」も,両方とも入るということで,注記を加えているということである。
 体裁上は括弧でもした方がいいという御意見も今承ったけれども,それは今後の検討のときに注意させていただきたいと思う。

諏訪委員

 用例集に採用された用例だが,中には「ガス」とか「カーテン」とか,すっかり定着してしまって,ゆれがないのが随分ある。ゆれている部分もある。これはどういう基準で選ばれたのか,よく分からないが,例えば「スキー」とか「スープ」というのはちゃんと日常で定着して,ほかの書きようがないから,これは数が限られているものだから,29年のときの表記と違う部分とか,さっきの「ベトナム」みたいにゆれている部分とか,こう表記してもいいんだよというところを中心に,お取り上げになった方が親切じゃないかという気がする。

坂本会長

 特に御説明はないか。

林(大)主査

 それは御意見を伺っておいて,ただいま反論するということはしない。ただ,いろいろ分かりやすいようにしなければならないというところで,伺わせていただきたいと思う。

広瀬委員

 参考のために,今ここで見ればいいのだが,29年の表記と違った点を,この用例集で,今事務局から御指摘願えればありがたい。

坂本会長

 何かそういうものはあるか。

林(大)主査

 ここには,29年の案に出ている語もかなり挙がっていて,基本的には29年と変わりがないと申してよろしいかと思う。
 詳しく申すと,29年の用例集には,380語挙がっていたそうであるが,そのうちから約180語ここへ選んだ。

河上国語課長

 事務局の方からちょっと補足をさせていただく。
 用例集には500語ある。このうちの320が一般語であって,地名が100,人名が80,そういう仕分けになっている。そして29年には,地名・人名はないから,一般語であって,29年のうちから今は使っていないような語は外して,約180語がこの320の中に入っているわけである。
 地名については,本文の方の「留意事項その2」の中に,仮名の使用例として挙げたもののほか,中学や高校の教科書で使っているような地名を挙げてある。
 人名の方は,「留意事項」の方で挙げた人名のほか,中学,高校の教科書に現れるような人名を挙げてある。
 一般語の方は,先ほど申したように,昭和29年の報告にあったものに加え国立国語研究所の報告にある児童の作文の使用語彙,あるいは小型国語辞典に採録されているような語などを参考にして,できるだけ日常的な平易な用語を取り上げたということである。
 14ページの「凡例」のところに「ここには,日常よく用いられる外来語を主に,本文の留意事項その2の各項に例示した語や,その他の地名・人名の例などを五十音順に掲げた」というふうに書いてある。
 いずれにしても,余り難しい,使わないような外来語を用例に掲げると,外来語の氾濫を助長するという批判も招くのではないかということで,なるべく日常使われている語を中心に掲げたというのが,表記委員会の御審議の結果である。

林(大)主査

 ただいま29年と違った点とおっしゃったときに,私,大体違っていないということを申した。
 例を申すと,「ウイスキー」というのも29年のとおりである。「ウィ」は「ウイ」と書くという項目があって,その例に「ウイスキー」があるのを,今回も載せている。
 それから,29年の,「ファ」「フィ」「フェ」「フォ」は,なるべく「ハ」「ヒ」「ヘ」「ホ」と書くという例に,「ホルマリン」が載っているけれども,「ホルマリン」も,今度の用例集では「ホルマリン」として挙げてある。
 それから,野球の「チーム」というのは,29年に「チーム」で挙がっているが,それは固定して慣用が成立していると考え,この用例集でも「チーム」にしてある。
 というようなわけで,29年のものは,語としては大体変化がないと考えてよろしかろうと思う。
 「ウイスキー/ウィスキー」のように,他の書き方も併せて示してある点が29年と違うけれども,その他の点では変わりはないと申し上げてよろしいかと思う。

関口委員

 事務局側に聞きたいが,この案の前文の一番最後のところ,5ページに,「その他」として「学校教育においては,この趣旨を考慮して適切な取扱いをすることが望ましい」と書いてある。
 今回の試案は,先ほど主査が言われたように,ゆれの範囲をなるべく認めるという非常に寛大な案だが,さて,学校教育の方では一体どっちの方をとるのかということが非常に気掛かりなわけだ。
 例えば,第2表に示す仮名に関するものの中に,2種類の書き方が書いてあるけれども,どっちを採るのかという問題があるわけだ。先ほどの「ベトナム」にしても,「ヴェトナム」にしても,両方あるわけである。それに限らず,そのほかのところにも随分あると思うけれども,教科書ではどっちを使うのか。英語教育をやっていないところでも,やはり「ヴィ」を使うのかという問題が出てくるんじゃないかと思う。文化庁の中には教科書課はないから,文部省当局にどっちを採るのか聞いていただきたい。

坂本会長

 この際,そのことの御答弁は難しいかと思うが。

関口委員

 次回までに聞いておいていただきたい。

河上国語課長

 学校教育について触れているのは,これまでの「現代仮名遣い」についても,「常用漢字表」のときでも「送り仮名の付け方」のときでも同様であって,国語審議会で答申を出すと,学校教育の方でも,その趣旨を踏まえて適切な対応をしてほしいという文章が入っている。それを受けて,文部省初等中等教育局の方で,学校教育で教育的配慮のもとにどうしたらいいのかということを検討し,別途,基準なら基準を定めるということが行われている。
 現在は,今「ベトナム」の話が出たけれども,国名については外務省の「世界の国一覧表」を使ってやってくださいとか,慣用を尊重してほしいということが教科書の検定基準にある。
 そういうことで,国語審議会の答申が来年出ると,恐らく初中局の方で検討が行われることになるかと思うが,既に私どもの方としては初中局の方に説明をしており,こちらの審議に並行して検討が進められるのではないかと思っている。

坂本会長

 もしほかに御意見がないようであれば,この辺で,「外来語の表記(案)」を外来語表記委員会の試案として公表することについてお諮りしたいと思うが,いかがか。

辻村委員

 その前に,一つ気が付いたことだけれども,私,小委員会委員になっているので,今こんなことを申し上げるのはおかしいのだけれども,昭和29年の用例集と今度の用例集との比較の話が出たが,改めて前の用例集と今度の用例集とを比べると,違う点は,前のは,もとの英語とか,フランス語とか,ドイツ語のつづりを出してあり,今度のはそういうものは出していないというのが一つ。
 これはお手元の空色のファイルの一番後ろの方に載っているので,ごらんいただければいいと思うが,「外来語の表記について」(昭和29年3月15日国語審議会表記部会報告)の終わりの方を見ていただくと,今申したように,それぞれ原語のつづりが書いてあって,英語ならEとか,ドイツ語ならDとか書いてある。
 それから,もう一つ欄があって,12とか,7とか,10とか,8とか,数字が書いてある。これは前の原則のところのどれに当たるかを説明しているので,それを見ると,こういうことで,この言葉はこういうふうにつづることに決めたんだなというのが割合にはっきり分かるわけだ。今度のは,ただ例が挙がっているだけで,そういうのが一切入っていないから,どうしてこういうのを挙げたのかというのが一般の人には分かりにくいかもしれない。少なくとも数字を挙げて,どこの項目に該当するのかというのは挙げておいた方がよかったかなという感じを今持ったので,それだけ申し上げたいと思う。
 英語やドイツ語やフランス語のつづりは,私は必要ないと思っている。つまり,原語を書くのではなくて,外来語で日本語化したものについて挙げているのだから,これは要らないと思う。さっきの秋山委員の御質問ともちょっと関連するが,外国語の音を書くのではなくて,外来語の音──それを「外来音」という言葉で表現しているから,一々それを示す必要はないというように考える。
 ただ,中にローマ字で書いたものがあるのは,例えば「ジュース」の場合に,同じ書き方だけれども,違う場合があるとか,「ボウリング」「ボーリング」というのは同じようであるけれども,ちょっと違っている。それは言葉として違うからだということを説明するために載せたのだったと思う。

村松(定)委員

 一つだけ,辻村委員に刺激されたわけじゃないんだけれども,別に反論でも何でもないんだが,用例の14ページのところに,「ウイスキー/ウィスキー」がある。これは非常に簡単なことなんだが,戦前,つまり60歳以上の方々は御存じと思うが,戦前の活字には小文字がなかったから,そのときは「ウイスキー」と書いたんだが,決して「ウイスキー」とは言わなくて,我々はちゃんと「ウィスキー」と発音していた。ただ表記は,そのころの活字本が小文字がなかった。
 だから,林先生が地方や東京で御説明になるときに,昔は「ウイスキー」と言って,今度は「ウィスキー」と,発音が変わったんだというふうにおっしゃらないで,表記が二つあるんだ,60歳以上の人でそういうふうに覚えた人はそれでもいい,というふうにおっしゃるといいのではないか。
 ちょっと気が付いたので,勝手なことを申し上げた。

坂本会長

 ほかに御意見はないか。

古田委員

 前の方に返るけれども,変わっているか,変わっていないかということで申すと,見方の違いによるかと思うが,前は,例えば「シェ」「ジェ」の場合はなるべく「セ」「ゼ」と書く,あるいは「ファ」「フィ」などの場合は「ハ」「ヒ」と書くというふうに書いてあって,今回は,「シェ」「ジェ」は,外来音シェ,ジェに対応する,あるいは「ファ」「フィ」は,外来音ファ,フィに対応する仮名であるというぐあいで,これだとある程度態度は変わっているというふうに私は思うけれども,いかがか。

林(大)主査

 態度は変わっているわけである。態度は変わらないということは,私,申し上げていない。
 しかし,29年に代わるものとしてこれを立てようとしたわけではなくて,新たな考え方でやってみて,それを29年に照らし合わせてみるということはしている。

古田委員

 違いはどういうところにあるかという御質問が前にあったので,そういうふうに申し上げた。

松村副主査

 これは,こういうところでお答えすることはないかもしれないが,私どもがこの審議を継続する基本的態度として,29年の「外来語の表記について」というのは,重要な参考資料とはいたしたけれども,あれを改定するとか,どうするとかいうことではない。あれはあの時期における国語審議会の部会の報告であって,国語審議会の正式な答申になっていないので,私どもはあれをもとにして,あれを改定するとか,そういう態度ではないということをまず基本の態度にした。
 それでは,基本的なものはないという前提に立って,今の時点で外来語の表記をどういうふうにしたらいいか,「現代仮名遣い」とか,ああいうものとの延長においてどうするかということで出発したわけだ。基本的には,あれとは全然別のものを新しく作るということで出発して,いろいろやった結果が,今日のこれである。
 ただし,私どもがそういうものをやる前提に,仮名と音との表記の対応をまず基本的にしっかり押さえると同時に,国語の表記として,従来の慣用をできるだけ尊重するという基本的な態度があるわけだ。
 29年の「外来語の表記について」によって従来の外来語の表記はなされているから,実際的には,29年の「外来語の表記について」による外来語の表記が,もう相当慣用と申すか,広く行われているという現実があるわけだ。それは,慣用を尊重するということで,ほとんど取り入れられていて,29年の書き方でやろうとすれば,その書き方でもできるし,むしろ基本的にはほとんどダブっている。
 ただし,それ以外に,新たに外来語音として,一般的に読んだり聞いたりして分かる範囲の音が相当できている。そういうものについても書けるようにしようということで,そういうものが少し加わっている。そういうふうな性格のものであるから,これはちょっと御留意いただきたいと思う。

坂本会長

 したがって,これを一応試案として,これから本格的な国語審議会の答申案に至る経過の中で,外部からの御意見も承っていくという姿勢での本日のまとめということで御了解いただけるか。

(拍手)

坂本会長

 それでは,そういうことで取り進めさせていただく。
 何はともあれ,先生方から大変たくさんの貴重な御意見をいただき,また,林主査,松村副主査にいろいろ御苦労をおかけしたことを,この席をお借りして私としては御礼申し上げたいと思う。また今後,各方面に説明するについても,お二人にお骨折りいただくわけだが,何分よろしくお願いいたしたいと思う。
 なお,次の総会は,試案に対する各界の意見などを取りまとめた上で,一応6月ごろに開催することになろうかと思うが,日取りその他は,決定次第また御通知する。

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