国語施策・日本語教育

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次第 「外来語の表記(案)」に関して各界から寄せられた意見について(報告)

坂本会長

 続いて,本日の議題に入る。
 3月1日の総会で,外来語表記委員会の試案として公表することにした「外来語の表記(案)」については,その後,説明協議会の開催や資料配布,意見収集など,事務局の方で取り進められ,お手元の資料で御覧のとおり,各界からの意見も取りまとめられている。
 本日は,まずこれらの経緯や寄せられた意見などの概要について,事務局から報告してもらい,その後で,こういう世間の反応についての皆様方の御感想やお考えも伺いながら,今後の審議の進め方などについて御相談したいと思う。
 初めに,各界から寄せられた意見についての報告をお願いする。

河上国語課長

 資料1を御覧いただきたい。資料1は「「外来語の表記(案)」に関する趣旨説明と意見収集について」というタイトルになっている。
 その真ん中あたりの2であるが,「文書による意見提出の依頼」ということで,試案が公表されてから関係機関・団体等にこれをお送りして,意見の提出方を依頼したわけである。お送りしたところは,そこに掲げてある方面であって,全部で1,466の機関・団体にお送りした。機関・団体から寄せられた御意見の数は合計13件であった。なお,このほかに個人から寄せられた御意見が22件あった。
 これらの御意見は,資料2の「「外来語の表記(案)」に寄せられた意見」という冊子にすべてそのまま掲載したわけであるが,委員の方々にはあらかじめお送りしてあるので,お読みいただいていると思う。ここでは団体,個人別になっているが,これを主な項目別に整理して,これから少し時間をいただいて,簡単に御紹介をさせていただきたいと思う。
 資料3に,「寄せられた意見の項目」というふうに表題を付けて,項目を整理してある。これに沿って,どんな意見があったかということを主なところを御紹介いたしたいと思う。
 まず,第1の「全体的な評価について」であるが,団体の方々は,おおむねこれを評価してくださる御意見であった。
 例えば日本書籍出版協会からは,基本的に今回の案に賛成であるという御意見,日本雑誌協会からは,仮名を音との対応において用いるという考え方に立ち,それとともに,慣用を尊重することを基本的な方針とされたことに賛意を表するという御意見,日本文芸家協会からは,試案はおおむね当協会の要望を満たしていると考える,とりわけ表記にゆれを認め,強制的な規範を設けなかったことは,評価し歓迎する,こういった御意見をいただいている。
 このほか個人の方々からは,賛成,大変結構だという御意見をたくさんいただいているが,一方では,ほとんど現状を追認しているだけのように見えるという御意見,あるいは何ら具体的な指針としての意味がないのではないかという御意見,あるいはまた,示された規範は極めて緩やかなもので,これではどう書いてもいいことになり,案を出す意味がなくなるのではないかといった御意見もあった。
 第2の「前文に掲げる事項について」について,まず,1の「一般の外来語の表記と地名・人名の表記」に関しては,外国の地名・人名の表記は,外来語とは区別して示すべきではないかという御意見があった。また,外国の地名・人名の書き方を取り上げたことは評価できるといった御意見もあった。
 2の「中国・韓国等の地名・人名の表記」に関しては,中国・韓国などの漢字文化圏の地名・人名について表記の基準を示す必要があるという御意見があった。
 3の「アルファベット表記」についてであるが,アルファベットの呼称の基準の設定,並びにPTA,CM,s等のアルファベット表記の公認も本案の中で含めて考えるべきであるという御意見があった。
 4の「適用分野」に関しては,雑誌協会から,雑誌は適用分野から除外すべきであるという意見が根強くあるので,「新聞・雑誌」とあるところを「新聞・雑誌の一般記事など」と改めて,現実に即応した形で規定することを要望する,という御意見があった。
 5の「法令,公用文書」に関しては,行政機関における表記方法の統一を図るように文化庁の方で配慮してほしいという御意見,また,各省庁間において,外国の地名・人名の表記の統一を行ってほしいという御意見があった。
 6の「学術用語」に関しては,文部省で編集している「学術用語集」との整合性も併せて考慮されるよう要望するという御意見があった。
 7の「過去に行われた表記」に関しては,「性格」の項の(3)の「注」のところで,過去の表記の例が示されているが,これは不要ではないかという御意見もあった。

河上国語課長

 8の「学校教育での取扱い」であるが,これについては,各団体から御意見があった。日本新聞協会からは,学校教育における取扱いについて,新聞協会加盟の新聞・通信・放送各社は大きな関心を持っているが,平成3年の正式答申までに文部省当局がどのように答申の内容に対応していくのか,具体的に明らかにされるよう国語審議会から強く働きかけるよう求める,こういう御意見が寄せられた。
 これについてコメントを申し上げると,文部省の初等中等教育局の方では,去る5月から省内に18名の協力者による調査研究協力者会議を設け,学校教育で外来語の表記をどのように指導するかということについて,来年3月まで検討するということになり,すでに検討が始まっている。その主査には,この審議会の斎賀委員が当たっておられる。
 なお,「学校教育での取扱い」に関して,このほか,文部省に対しもっと具体的な要望を別途にでも提出してほしい,本則的なものと許容的なものの区別を明確にしておかないと,教育現場で混乱が生じる可能性が高いという書籍出版協会の御意見がある。
 教科書協会からは,学校教育,特に小学校における片仮名指導に,第1表の右の欄の13音と第2表の20音の仮名の発音をどう取り扱うのか,明らかにする必要がある,学校教育においては,発達段階を考慮して,原則を明らかにし,混乱が起こらないよう配慮する必要がある,という御意見である。
 次に,9の「いわゆる氾濫の問題」に関してであるが,現在のままでは,いずれ外来語の量が我々の理解の能力を超えるのではないかと危惧(ぐ)するという御意見があった。また,氾濫の問題に触れる以上は,単なる意見の併記ではなく,語の使用の可否に関しては飽くまでも国民の良識にゆだねるべきであるといったことを記すべきである,こういう御意見もある。
 それから,第3の「仮名と符号の表について」に関する御意見。今回示された第1表,第2表ともに穏当であると考えるという御意見もあったが,第1表と第2表の規定の仕方について,第1表は,一般の社会生活で外来語を書き表すための仮名と符号の表とする,第2表は,第1表を使用しない場合及び主として外国の地名・人名を書き表すのに使う仮名の表,というふうに明記したらどうかという御意見がある。
 それから,第1表,第2表という分け方をしないで,第2表のものは括弧に入れた上で,全体を一つの体系にまとめて示すのがよいという御意見もあった。
 また,「特別な音の書き表し方については,取決めを行わず,自由とする。」とあるが,「自由とする。」は適切な表現に改めるべきであるという御意見があった。
 次に,第4の「留意事項その1について」であるが,語形にゆれのあるものや分野によって異なる慣用がある場合など,複数の表現を認めているけれども,これは社会的に混乱を招くおそれがあるので,外来語は一語に対し一つの表現に統一してほしいという御意見があった。

河上国語課長

 次に,第5の「留意事項その2について」である。
 第1の「記述の仕方」については,「送り仮名の付け方」などと同じように,本則,例外,許容の形にして区別する方が分かりやすいという御意見,それから,形式的な統一や簡潔さよりは,分かりやすさ,親切さを優先させるべきであるという御意見,それから,29年の報告では問題点を挙げて,「何々と書く。」「何々と書いてもよい。」と規範を明示しているのに対して,今回の案は体系的,全体的な記述主義で終わっているという御意見があった。
 2の「T 第1表に示す「シェ」以下の仮名に関するもの」に関してであるが,注で「何々と書く慣用のある場合は,それによる。」という文言があるけれども,これは誤解を招きやすい,その書き方に限るかのように受け取られるという御意見があった。「何々と書く慣用のある場合は,それによる。」,それから「一般的には何々と書くことができる。」「何々と書く慣用が強い。」「何々と書く慣用もある。」などのように,注の表現が多様であるため,理解しにくく,誤解を招きやすいので,明快な表現に整理すべきであるという御意見もあった。
 次に,3の「U 第2表に示す仮名に関するもの」については,「一般的には何々と書くことができる。」という表現があるが,これがあいまいではないか,「一般には何々と書くものである。」とするなど,表現上の工夫が欲しいという御意見があった。
 それから,「クァ,グァ」に関して,「クァ,グァ」でなくて「クヮ,グヮ」の方が原音に近いのではないかとか,「クヮ,グヮ」とすべきだという御意見があった。
 それから,「ヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォ」の仮名については,慣用としてのみ用いるべきことを何らかの形で説明してほしいという御意見,「ヴァ,ヴィ,ヴィ,ヴェ,ヴォ」については,29年の報告の扱いぐらいでよいと思うという御意見,それから,「ヴ」については,実際は皆バ行で発音しているのだから,教育面で表記上の混乱を招かないよう実際の発音を優先させる方がよいという御意見,学校教育でも,V音とB音の識別を教えることは必要であるという御意見もあった。
 それから,「ヴュ,テュ,フュ」についてであるが,これは必要性を認めず,表内に記載すべきものではない,社会で用いる人は,個人の表記の問題として自由にさせればよいという御意見があった。
 「シェ,ジェ,トゥ,ドゥ」などについては,現在,広く行われている表記を採用したことは評価できるという御意見があった。
 4の「V 撥(はつ)音,促音,長音その他に関するもの」については,撥音,促音,長音,あるいはギリシャ,ペルシャ,英語のつづりの−(i)umに関する記述,英語のつづりのXに当たる表現,つなぎの符号,それぞれについて御意見があった。これは省略する。
 最後に,「用例集について」であるが,一般語と固有名詞を区別して掲げてほしい,また,ゆれ表記に関して,本文にあって用例集にないものがあるが,それらは用例集にすべて入れるか,あるいは用例集は本則的な一形のみを掲げるか,どちらかに徹底しないと本案を理解する上で混乱を生じるという御意見があった。
 それから,用例集に対する期待は大きいので,更に用例数を増やし,それを引くだけで本文,内容が理解できるような利用価値の高い用例集にすることを要望する,用例集には,それぞれ原語のつづりを併記してほしい,また,その原語の言語名も併記してほしい,こういう御意見もあった。
 以上,主なところを御紹介させていただいた。

坂本会長

 いろんな機関とか団体から寄せられた御意見と,個人から文書で寄せられた御意見の概要については,ただいま事務局の方から報告のあったとおりである。
 細かい御指摘はいろいろあるようだが,大筋においては,試案の方向は認めていただけたような印象を受けた。しかし,これらの御意見については,国語審議会としては十分参考にしていかなければならないというふうに考えている。

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