国語施策・日本語教育

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次第 協議

坂本会長

 それでは,以上御報告いただいた各界からの御意見や説明協議会の状況などについて,御質問なり御感想なりあったらお伺いしたいと思う。いかがか。

椎名委員

 私,コンピューター屋なので,御専門の方々からは門外漢のように思われるかもしれないけれども,これを拝見いたしても,既に皆さん方が御意見をお出しになったように,長年にわたっての御審議の内容は大変すばらしいものだと思うし,日本のいわゆるグローバリゼーションがどんどん進んでいく中で,外来語はますます日常生活に取り入れられていくわけである。一日も早く答申案ができることを期待したいと思う。
 私,飽くまでも我々のコンピューターということで発言させていただくけれども,拝見すると,既に皆様方の御意見の中にも取り入れられているようなので,重複する点もあるかと思うが,気がついたところを二,三申し上げる。
 まず,「外来語の表記(案)」の4ページの一番上に,「「外来語の表記(案)」は,科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」ということがあって,この御趣旨も分かるけれども,我々業界の場合には,特別な言葉はほとんど英語が基になっているから,「コンピュータ」とか,「プリンタ」とか,「プログラマ」とか,常時使われている。これは御存じだと思うけれども,JIS規格で既に制定されていて,どういうわけか,長音が全部省かれている。だから,「コンピューター」は「コンピュータ」であって,「プリンター」は「プリンタ」,「プログラマー」は「プログラマ」である。どういういきさつでこうなったのか知らないけれども,そのようなことで,業界では一般に使われている。
 ただし,今回の場合には,原音に近い表記という御趣旨と,それから用例集にも「コンピューター/コンピュータ」と二つあるが,産業界でもJISで表記されているようなことが我々が日常使う言葉と余りにもかけ離れているという認識と,それから,学校の先生方もこのごろはどっちを使っていいか分からないというお言葉があったりして,これは学術用語ではあるけれども,日常用語に近くなっているときにはどうしたらいいのかということがやや気になる。
 それから,13ページの8,「複合した語であることを示すための,つなぎの符号の用い方については,それぞれの分野の慣用に従うものとし,ここでは取決めを行わない。」とあって,「ケース バイ ケース」と間をあける,あるいは「ケース・バイ・ケース」と,中に中黒を入れるのがあるが,我々の業界では,例えば,「マスタコンフィギュレーションファイル」とか,「ファイルシステムスーパーブロック」とか,「コンピュータアーキテクチャ」なんていうのはよく使われている。「ネットワークコントロールプログラム」とか,「システムインテグレーションサービス」とか,横文字をただ羅列して使っているようなのがたくさんある。これも慣用がないものだから,今申し上げたのは,間をあけてなかったり,中黒がなかったりということで,大変読みづらい。また意味をなさないということもあるものだから,ここら辺もちょっと配慮していただけたらということである。
 最後に,用例集だけれども,コンピューター屋からすれば,たまたま一つだけ「コンピューター」という言葉しか載っていないということで,大変寂しい思いをしているわけである。
 以上,意見を述べさせていただいた。

坂本会長

 ほかに何か御質問なり何なりないか。
 今の御指摘については,検討させていただくことになろうかと思うけれども。

諏訪委員

 今のお話で思い出したが,確かにワープロなんかでやっていると,JISがある。そういうワープロ等のJISを決めるのは何省になるのか。今度の場合,そこからは意見は来ていないのか。

河上国語課長

 JISを所管しているのは通産省であるが,特に意見はなかった。

坂本会長

 よろしいか。特に意見はなかったということである。

坂本会長

 ほかに御意見はないか。
 実は,昨日運営委員会を開いて,御相談したところであるけれども,今後の審議の進め方としては,当然のことではあるけれども,ただいまのように各方面から寄せていただいた御意見を検討して,取り上げるべき点は取り上げるというようなことで,任期中に答申を取りまとめていくことになろうかと思う。
 外来語表記委員会も,7月から再開して,そういう検討作業に入っていただくことになっているわけである。したがって,各委員が寄せられた意見をお読みになって,また今の報告をお聞きになって,特にいろいろと御発言をいただいて,今後の表記委員会での検討を進めていく上に参考にしなければならないというふうに思っているので,どのようなことでも結構であるから,是非ひとつ御意見を承らせていただきたいと思う。よろしくお願いする。
 なお,今の椎名委員の御発言に,私なりの回答をしたんだけれども,林主査,その他,御専門の方で何か補足するところがあったら,おっしゃっていただきたいと思う。

林(大)主査

 御指摘のところは確かに問題であって,その辺のところは,今後表記委員会の方でまた検討させていただくというような御返事を,ただいまはさせていただきたいと思う。

坂本会長

 ほかにいかがか。
 まとめられた外来語表記の案に寄せられた意見というのは,多少勉強すると,頭の中がこんがらがってきて,どうしたらいいのかなということになりかねないけれども,教育との関係で非常に関心を持つということは私は当然のことではないかと思う。先ほどの国語課長の説明の中で,文部省の方でも協力者会議を設けて検討を始めたとおっしゃっていただけているので,それとのかかわりを一層よろしくお願いしたいと思う。国語審議会で決めたんだけれども,実際の教育の運営ではそれが理解されていないということになると,これは全く独り芝居になりかねないおそれがあるので……。
 ただ,いろんなところからいただいた御意見の中でも,正反対というか,多少のゆれがあることに賛意を表していただけているのと,逆に,ゆれているのはけしからぬ,一つにまとめろというのと,正反対の御意見があって,こういう点は,ちょっと生意気な言い方になるけれども,我々がどこかで見識を示すことになるのかなというふうに思わないでもないので,委員の皆様方の格段の御協力をひとつお願いしたいと思う。

広瀬委員

 今,会長が言われたことと同じことになるけれども,このように,国語審議会なり,ある権威ある機関が一つの案を出して,それに対する意見を世間一般から広く聴取する場合の問題であるけれども,大事な問題,基本的な問題については,賛否両論があって,どちらを採用しても一方は反対するというわけで,平均的に採用するわけにはいかないわけである。
 特別な問題については,少数の人から目に付く意見が出るけれども,これは大勢的な問題ではなしに小さな問題。そこで,小さな問題について目立ち,大きな問題について埋没するということになって,もともと意見を聴取することはどういうことなのか,分からなくなる。
 選挙なら多数で決めればいいんだけれども,選挙をやっているわけではないんで,結局,意見を聞くことが不必要だとか,悪いというつもりはないけれども,余りに人々の意見に耳を傾け過ぎると,審議会というものの意味がなくなってしまう。私たちは世論調査機関ではないと思うので,今おっしゃったように,見識というものに自信を持って今後取りまとめをされると結構だと思う。漫然とした感じだが,希望を申しておく。

辻村委員

 「外来語の表記(案)」に寄せられた意見というのは,拝見して,それぞれの御意見,いろいろな御意見があるものだなというふうに感じたけれども,私の近辺でどんなふうな考えがあるかなと思って,ごく最近,早稲田大学国語学会という学会があったので,そこで今度の案について,特に問題になるようなことに関して,どういうふうな意見が寄せられるかと思って,石綿さんと連名でアンケートの形をとってみた。
 どういうふうなことをしたかというと,今回の外来語表記案に,前に含まれていなかった地名や人名を含めたことについて,どういうふうに考えられるかというようなことを尋ねた。人数はそんなに多くないので,本当に御参考にということだけれども,37人が回答をくれて,そのうち36人が「当然である。」というような答えであった。
 それから,細かいことで申すと,案の4ページ,3の「内容」のところで,特に昭和29年の報告と違ったことを取り立てて書いてある。3の(2)と3の(3)のところだが,これは見ていただければ分かるので,私がずっと読んでも仕方がないと思うが,「昭和29年の報告では「シェ,ジェ」「ティ,ディ」「ファ,フィ,フェ,フォ」は,なるべく「セ,ゼ」「チ,ジ」「ハ,ヒ,ヘ,ホ」と書き,「デュ」は「ジュ」と書くとしていた。」とあるのに対して,今度は「「シェ,ジェ」「ティ,ディ」「ファ,フィ,フェ,フォ」「デュ」の仮名は,外来語や外国の地名・人名を書き表すのに一般的に用いる仮名とした。」とある。
 そういうところをどういうふうに考えるかということを聞いたら,それに対しても,37人のうち,36人が今度の案がいいというふうに答えていた。
 もう一つ,(3)の「ウィ,ウェ,ウォ」云々のところだけれども,それは前のほど絶対的ではなかったが,27人が今回の案がいいといって,昭和29年の案の方がよかったと答えた人は7人であった。数が全部で37人になっていないのは,答えなかった人もあったわけである。
 ほかの質問もいたしたけれども,かなめになるようなところを尋ねたら,今度の案がいいという意見が多かったというふうに受け取っていただいていいかと思う。
 ただ,表現の問題で少し意見が出たのは,留意事項のところにいろいろ書いてあるけれども,そこで「何々と書く慣用のある場合には,それによる。」とか,「何々と書く慣用もある。」というような書き方,それから,「一般的には何々と書くことができる。」というふうに,非常に神経を使って表現を工夫したわけだけれども,読む人からすると,かえって分かりにくい。むしろすっきりさせるような表現ではどうだろうかというようなことが割に出ていた。
 そんなことをちょっと申し上げる。

坂本会長

 我々の今後のまとめに参考にさせていただく御意見というふうに拝聴した。

坂本会長

 ほかに御意見,その他……。

村松(定)委員

 内容についてというよりも,今後の審議会の運営のことについての質問であるが,先ほど人々からのそれぞれの御意見に一々引きずられるほどのこともないのではないかという意味の御意見もあったが,この中に,国語学会の方々の意見が一括して出ていて,その中にはここの委員の築島先生とか,私の同僚の渡辺実さんとか,そういう方々のものがある。
 築島先生は御出席だから,それに触れる必要はないが,例えば58ページ,渡辺さんのものを見ると,「原音や原つづりに」の「や原つづり」を取るとか,これも表記上の内容というよりも,表現上の問題だと思うが,「ある程度外国語に近く……」のところは「ある程度原音に」とした方がいいとか,そういうことが出ている。
 それで,我々がこの前お示しいただいたときに,特にこの会場ではその質問がなかったのだが,こういう文書によって出てきたことについて,どういうふうな手続でそれを修正するのか,あるいは元のままでよいなら,それはこういう理由でそのままにしたいというようなことを,どういうふうにお考えになっていらっしゃるのか,そういう運用の問題についてお伺いしたいと思う。

坂本会長

 現実の問題になると,的確にお答えできるかどうか分からないのだけれども,せっかくこれだけの御意見をお寄せいただいたことであるから,今おっしゃるようなことについて,こういうわけでこうだというような御回答をそれぞれの方々にできれば申し分ないかと思う。しかし,現実の問題にあると,答申案を作って答申を発表するという段階も,今後の日程の中でかなり過密であるので,そこら辺のことはここではっきりお答えすると申し上げることは難しいんじゃないかと思う。

村松(定)委員

 もちろん,難しいのではあるけれども,ここの委員でいらっしゃる方からこういうふうにしてほしいというような意見が文書で出ている場合,そのまま素通りしないで,これはやっぱりこのままにしておいてほしいとか,それをこういうふうに変えたということについて,全体の委員に納得のいくような手続があった方がいいのではないか,そういうことである。

坂本会長

 それは最終的な結論を出す段階では,当然そういうことの心配りはすべきだろうと思っている。

林(大)主査

 表記委員会はこれから何回か続けてお願いすることになると思うが,そこでそれぞれ検討していただくことになろうと思う。そしてそこで直したのは,こそこそと直したのではなくて,いずれまた総会もあるし,全員協議会もあるので,そこでどういうふうにして直したかということは,御説明をしなければならなくなるだろうと思っている。
 これは運営委員会の皆様方がどういうふうにお考えになるかであるから,結論的にはそこで考えていただくことになると思う。

紅野委員

 先ほど辻村先生からお話があったけれども,私たち日本近代文学会は,近代100年の文学作品の言葉との格闘をやっている学会である。そこで理事が現在10名ばかりいるわけであるが,雑談的にこの話を私が代表をやっている関係で申し上げてみたら,その場には猪野謙二さんとか,十川信介さんとか,筑波の平岡敏夫さんなどもおられたが,おおよそ文芸家協会の姿勢と一緒に考えていこう,こういうような形である。
 それだけ御報告させていただく。

築島委員

 先ほどコンピューター関係の委員の方からの御発言があって,それと関係することになるかと思うが,私素人なので,ピント外れかもしれないが,お許しいただきたいと思う。
 申すまでもないけれども,今後情報社会で,特にワープロ,パソコンなどはいよいよ一般的に普及していくと思うのであって,この外来語の表記に関しても,国語教育と並んで非常に重要な社会的な比重を占めるかと思うのである。
 コンピューター関係のJIS規格とか,ワープロ,パソコンなどに内蔵されるいわゆる第1水準,第2水準,こういうものは恐らく通産省の管轄の中にあるのだろうと思うが,聞くところによると,将来,第3水準というものも準備中であるということを伺っている。
 外来語の場合については,主として仮名で書かれることが多いわけだから,直接,関係が複雑に生ずるということは杞(き)憂にすぎないかもしれない。しかし,この第3水準なるものが,どんな形で発表されるのかは承知しないが,私の希望することは,さっきの御報告によると,通産省から特に何の意見もないという御回答があるようだけれども,もしできたら,やっぱりその関係の部局の方と直接ないしは間接の交流を図っていただいて,我々国語審議会の審議の内容ないしは答申の内容というものが,通産省の方の規格とうまく連動するようにお計らいになっていただくことができたら,いろんな点で好都合ではないか。
 これは私の素人考えであるけれども,あえて一言申し上げさせていただく次第である。

関口委員

 ただいまの意見と先ほどの諏訪委員の点とちょっと関係するんだけれども,例のJISの問題である。実は現在新聞協会の用語懇談会では,人名漢字の問題をやっている。したがって,この外来語の問題とは全く関係はないと思うけれども,漢字の字体の問題で非常に苦労しているということがある。
 常用漢字は文部省,人名漢字は法務省,JIS漢字は通産省,そういうことのために,字体──字のデザインだけれども,これが微妙なところで違っている。これは是非いつか国語審議会の席で,何か統一できるような具合にしていただきたいと思う。それが一つである。
 したがって,通産省にしても,今回の件について何も疑問を出してこないというのはおかしいと思うけれども,ひとつその辺調整していただきたいと思う。
 もう一つは要望だけれども,仮に我々が答申を出した場合,関係の省庁は自分たちの表記をどの程度変えるつもりなのか。答申を出せば,各省庁がこれに大体従うというふうに我々は思うんだけれども,例えば外務省では,前から「ベトナム」の表記は「ヴィエトナム」,外交青書はみんなこれでやっている。
 仮に我々がこの答申を出した場合に,外務省はそれに従うのか,そういうものを使うのか,あるいは用例の中に「ベトナム」の表記がないから,従来と同じように「ヴィエトナム」でいくのか。この強制力の問題をどの程度に考えているのか。各省庁が今までの自分たちの表記をどの程度直すというか,その辺の感触を聞きたいなと思う。

河上国語課長

 JIS規格の問題については,事務局でお答えすべきかどうか分からないけれども,表記委員会の方と連絡を取り合って対処してまいることではないかと思っている。
 それから,関係省庁の方でどうこれを考えているか,変える気があるのかといった問題については,資料1にあるが,5月8日に関係省庁に対する説明協議会を行って,将来この答申が出た後,告示あるいは内閣訓令を出す場合の日程が,従来の例に倣えば,あるわけであるけれども,その場合にどうするかといったようなことについて意見を聞く機会があって,今後は内閣法制局,内閣官房と十分連絡を取り合って,関係省庁でどうこれに対処するかといったことについて検討していこう,こういうことになっている。

坂本会長

 国語審議会が答申したものが,同じ政府の中で参考程度に取り扱われるというのであれば,我々何のために2年も3年もこうやって議論をしているのか,私自身としても,それはちょっとうべなえないと思う。強制力があるのかどうか,法律的なことになると,人名の問題などもその一つの例かと思うけれども,そういう点は是非ひとつ文化庁にも腰を据えて対応してもらいたいとは思う。

永田委員

 ワープロの問題が出たので,関連して意見を言わせていただきたいのだが,私もこの総会の初めの方でワープロの問題を提起したと思う。漢字のJISの問題も非常に重要だが,もう一つは,企業が勝手にいろいろワープロの変換をやっている結果,こちらで例えば「ヴァイオリン」の「ヴ」を使ってもいいといっても,それが変換できないとか,いろいろ実際にユーザーとしては不便な面がある。聞いてみると,ワープロに内蔵されているものを辞書というが,あの段階ではかなり企業秘密的なところがあって,なかなか外へ出さない。特に我々ユーザーは全然分からない。その辺も考えてみればおかしな話だが,もしできたら,メーカーの辞書を作られている方をお招きして,オフレコでもいいから,一体どういうふうな標準で作っているのか,国語審議会ではこういうことをやっているんだが,どうかと,そういうディスカッションをやってみたらいかがか。できればの話だが,そういうふうに思う。

坂本会長

 そういう問題は,今ここで私がそうしましょうという即答はしかねると思う。

林(大)主査

 私,今大分お話が出たことについて,非常に気になってはいるのである。これは表記委員会の主査として申すのではなくて,私のかねがね感じていることとしてお聞き取りいただきたいんだけれども,「科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」といっていることがどうなんであろうかという気がしているわけだ。
 「芸術」という中にはもちろん文芸が入る。芸術,文芸の方には及ぼそうとするものではないということは,私も協調してよろしいかと思っているわけであるけれども,科学,技術に及ぼすものではないということになると,ただいまのお話だと,通産省はこれでいいやと思って,ああ,自分のところは自分でやればいいんだなというふうに考えられたとすれば,それでいいことになってしまうのだが,その辺の問題があるんじゃないかなと思っているわけである。それは一つの問題点だと思っている。
 この「科学,技術,芸術その他の……」というところは,従来の「常用漢字表」「送り仮名」「仮名遣い」といったものを含めて,ずっと同じ文言で来ているわけで,それを変えなかったわけだけれども,多少そこに問題がありはしないか。とにかく,なるべくゆれは少なくしようというのが科学,技術の方の考えである。どっちに決めるかということはあるけれども,ゆれは差し控えたいというお考え。それから,芸術,文芸の方は,もちろん自由とお考えになる。これはどうしたらいいのかなあと私考えていることを申し上げておく。

坂本会長

 そういう具体的な問題,今ここで即答しかねる点はひとつ御了解いただいて,検討させていただきたいと思うが,よろしいか。

河上国語課長

 先ほどの御説明に補足をさせていただくが,官庁の関係は,この試案にある「性格」のところで,「この「外来語の表記(案)」は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表すための「外来語表記」のよりどころを示すものである。」ということで,公用文書にはこれがよりどころとして適用されるというふうにこの「表記(案)」ではなっているので,これを踏まえて,今後関係省庁と連絡を取ってまいりたいと思っている。

林(大)主査

 もう一つ,私個人の考えていることで皆様に御質問をしたいと思うのは,例の「ヴ」の問題であって,これの取扱いをどういうふうにするか,私は私なりの考えがあるけれども,それは申すところではなくて,これは実は音を表しているのか,ただ表記だけなのであるかという点で,少し我々はあいまいにしてきていたのではないかという気がするわけである。それをほうっておくと,多分教育の方でこれからある協力者会議あたりで,ちょっと困られるんじゃないかという気がする。その発音を教えないでもいいのか,発音はどうでもいいといって教えるのか,これは今度の御意見の中にも出ているけれども,その辺のところをどう考えていくのかということだ。もし皆様方の御意見を伺えれば有り難いと思う。
 それも問題にするかどうかは,表記委員会が始まってからのことではあるけれども,私自身としては皆様に伺っておきたいような気がする。

坂本会長

 今の林主査の御発言に対して,何か御発言があるか……。
 「ヴ」は多少泣きどころのところがあるものだから,説明する方は非常に御苦心があるところかと思う。反面,「ヴ」が今度認められるということについては,大方賛成の向きが多いようには了察はしているのだけれども,そこを突き詰めていくと,今のようなところにぶつかる。

江藤委員

 以前にもあるいは申し上げたことがあろうかと思うが,教育面の御配慮ということについて,これは初等中等教育だと思うけれども,もし学校教育で答えは一つという形に統一されないと教えにくいというお考えであるならば,この3年半ぐらいかかって作ってきた答申案は,そういうような考え方は採らないということを内包した答申案ではなかろうかと思う。つまり,これは算術の答えではないので,自国語というようなことに関しては,1か0かというふうに統一しない,ある緩みを持たせて言語の表記ということを考えよう。
 今,林主査が「ヴ」について一体音なのか,ただの表記なのかとおっしゃって,それは非常に肯綮(けい)にあたる御意見ではあるけれども,音であると考えることもできるし,表記だと考えることもできる。それを実際にブレイクダウンして,教師用の何か指導書のようなものをお作りになるときには,今までのようにはいかないという点はあろう。
 しかし,そういう可能性も含んでこの答申案が作成されていると私は考えているわけである。
 御参考になればと思って,申し上げた。

広瀬委員

 実際の言葉の発音で「V」の音がどの程度使われているのか,よく分からないけれども,私の感じでは,大変まれだと思う。
 「ヴァイオリン」と書くべきだと,またそう書いている方も,実際は「バイオリン」と言っているんじゃないかと思う。そういう意味で,音と表記とは一致しなければならないわけはないというふうに解釈する。
 この「寄せられた意見」という資料の65ページにも,「「ヴァイオリン」と「バイオリン」では発音が違うと考えているのか。それとも,「ヴァイオリン」と書いても発音の上では「バイオリン」でよいと考えているのか。」という問題提起があるけれども,私は「ヴァイオリン」と書きたい人は,「ヴァイオリン」と書いて,発音の上では「バイオリン」と言っていても,それはそれでいいのではないかと思う。
 つまり,江藤委員の御意見と全く同じなのだが,どちらでもいいというのは,逃げ場として設けたのじゃなくて,言葉というものはそういうものなので,本来,今の言葉で言えば「ファジー」なものなので,言葉というものはそういうものだということを教育の場で教えていただけるといいと思う。
 それから,「どちらでもいい。」というのでは,よりどころがないじゃないかという意見が出るかもしれないけれども,「どちらでもよい。」というのがよりどころだと思う。それは言葉の上で大事なことだと思う。
 主として教育の分野からの御意見で,例えばこの資料の61ページの下の方にある「学校教育での扱い」というところでは,そういう意見がたくさんある。「どの程度の統一が期待できるのか。」とか,「もっと統一する方がよい。」とか,「子供が迷うだろう。」とか,「学校現場でもどれが間違いとは言えなくなってくるが,それでよいか。」──どれが間違いと言ってはいけないので,どちらも正しいというのが教育だと思う。
 だから,私は,そういうファジーなものであるという積極的な意思を持ってこの答申案は作られていると解釈する。

坂本会長

 いかがか,ほかに……。
 「ヴ」は,かなり議論をして一応今日の形にまとまったので,この点は私も両立すべきだろうというふうには思っている。
 今後の議論の中でまた林主査にいろいろと負担をかけることが多いかと思うが,この場では御了解をいただきたいと……。
 いろいろと御意見をいただいたけれども,今のこの場での御意見ももちろん参考にさせていただくし,また御自由に御提言いただいて,外来語表記委員会で検討を重ねていきたいと思う。
 今後のスケジュールとしては,大体次回の総会は10月の末に開催することになるだろうと思う。そういうことで日取りなどは,決定次第,それぞれ皆様方に通知することにする。
 本日はこの辺で閉会にさせていただいてよろしいか。
 それでは,これをもって閉会とする。

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