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次第 外来語表記委員会の審議状況について(報告)

坂本会長

 続いて本日の議事に入る。
 前回の総会以後,外来語表記委員会を再開していただき,委員会では,各方面から寄せられた意見などに基づいて,この試案につき,いろいろ検討してこられたわけだが,その審議の状況について林主査から御報告を伺い,それから協議に入りたいと思う。

林(大)主査

 それでは,お手元の「外来語表記委員会の審議状況について」について,御報告をさせていただく。
 なお,試案そのものが,とじ込みの最初にとじ込んであるので,その方も御参照いただければ幸いである。
 まず,「概況」について。前回の総会の後で外来語表記委員会を7月6日,7月20日,9月21日,10月26日の4回,それから,その間に小委員会を8月21日,9月7日,10月9日の3回開いて,試案の発表後,各方面から寄せられた御意見やこの総会で提出された御意見に基づいて,見直すべきところ,修正すべきところはないか,検討を行ったわけである。
 それで,これから御説明申し上げるように,全体的には,試案を大筋として,そのままにいたしたいと考えるわけである。
 各方面の御意見について,全体的な評価を見ると,試案は世間に大体受け入れられたと見てよいと考える。いろいろ御意見はあるが,大体においては妥当なものとして認められたと考えている。
 それから,「前文」に掲げる事項であるが,試案の考え方を特に変更しなければならないものはないと考えられる。
 なお,一部分,適用分野について,試案の3ページの「性格」の欄に書いてあることに関して,日本雑誌協会から「新聞,雑誌」しかじかとある,その「雑誌」をここから外した方がいいという方向の御意見が出ていたが,これは従来の「常用漢字表」ないし「現代仮名遣い」のときの線にそのまましたがって,文言を改めない方がよいと考える次第である。それで,そのまま「新聞,雑誌」と,「雑誌」を挙げておくことにした。
 それから,その他,細かい表現上の問題があろうけれども,それは今後答申用に書き直す際に考慮することにしたいと思っている。
 次に,7ページ以降の「本文」について申し上げる。仮名と符号の表が試案の7ページにあり,その表の上に4項目ある。そのうちの第2項,第3項の文言について特に検討したが,これは試案のとおりでよいという結論になった。
 第2項というのは,「第2表に示す仮名は,外来語や外国の地名・人名を原音や原つづりになるべく近く書き表そうとする場合に用いる仮名とする。」というもの,第3項というのは,1・2表に載せていない書き方について,「ここでは取決めを行わず,自由とする。」というものであるが,それらの文言は試案のままにしておきたいという結論である。
 それから,8ページの「留意事項その1」について。その第2項,「ハンカチ」と「ハンケチ」,「グローブ」と「グラブ」のように,語形にゆれのあるものについてのことが書いてあるが,その例として,固有名詞の例を挙げるかどうか。ここには,「ハンカチ」「ハンケチ」「グローブ」「グラブ」という物の名だけが挙がっているが,固有名詞の例を挙げてはどうかという御意見もあった。しかし,この際は試案のとおり,このままにしておこう,あるいは問題もあるかもしれないけれども,ここでは強いて挙げておかなくてもよいだろうということになったわけである。
 それから,第5項は,枠の中に引用してあるが,「第2表に示す仮名は,それらの仮名を用いる必要がない場合は,第1表に示す仮名の範囲で書き表すことができる」というもので,文言を多少整理して,「第2表に示す仮名を用いる必要がない場合は,」で十分だから,くどく言う必要はなかろうというので,その7文字ばかりを削除することにした。例の方は変更がない。
 ウの「その他の各項」と申すのは,ここに6項あるうちの,その他の4項についてもそれぞれに検討したということだが,それらについては試案のとおりでよいという結論になった。
 8ページの中ほどから下の「留意事項その2−T」について。第1項に「「シェ」「ジェ」は,外来音シェ,ジェに対応する仮名である。」という文言がある。この書き方は,「しかじかは,外来音しかじかに対応する仮名である。」ということが,各項とも共通にあるわけで,それについて議論したが,括弧でくくったものは仮名表記を表しており,仮名で「シェ」「ジェ」と書いたものは,外来音シェ,ジェに対応する仮名であるというふうに読みとっていただこうということで,試案のままにすることにした。
 なお,「外来音シェ,ジェ」というところを,発音記号を使うなり何なりしてはどうかという御意見もあったわけであるが,発音記号にしても,その音が実際にはどういうふうに発音されるのかということについては,改めて説明をしなければならないことにもなるし,片仮名で書いておいても,五十音図式の組織が出ているので,それで類推して分かっていただけるものというふうに考えるわけである。「シェ,ジェは,「シェ」「ジェ」と書く。」というのは,何だか読むとおかしいけれども,この仮名はこの音に当たるんだということで,試案のままにすることになった。
 ただし,「外来音シェ,ジェに対応する仮名である。」という「外来音」という言葉がここに出てくるわけだが,それの定義がないという御指摘があった。そこで,そのためには「前文」の3ページの「外来語の音と仮名表記」というところに,ちょっと言葉を付け加えることとしたわけである。
 それは枠の中にあるとおりで,「国語の音は,「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」「キャ」「キュ」「キョ」「ジャ」「ジュ」「ジョ」などの仮名に対応する音を基本単位とする。その種類は,現代のいわゆる和語と漢語については,直音,拗(よう)音合わせて100,これに撥(はつ)音,促音,長音が加わる。」,これについての説明は,前に試案のときに御説明したことなので,繰り返さない。

林(大)主査

 次に,「外国語が外来語として国語化するについても,基本的にはこれらの音が用いられているが,さらに,外国語の原音に応じて,現代の和語や漢語にはない音が取り入れられ」としてあったところを,「現代の和語や漢語にはない音が外来音として国語の中に取り入れられ」として,ここに「外来音」という言葉を出すことにしたわけである。こうすれば,「外来音」が定義されたものと認められるだろう。「外来音」というのは,「外国語の原音に応じて,現代の和語や漢語にはない音が国語の中に取り入れられたもの」,こういうような定義になるので,ここへこういう文言を入れておくことにした。そこで,「それに当たる特別の仮名表記が工夫されたきた。」と続き,それを我々はいろいろ議論したわけである。
 そういうふうに,「外来音」という言葉の定義に当たる説明を「前文」の方で手当てをしておくことにしたわけである。
 その他,1項から6項までそれぞれの注や語例について検討したが,これらはすべて試案のとおりということに相なった。
 次に,10ページ,「留意事項その2−U」について。第1項の「「イェ」は,外来音イェに対応する仮名である。」と書いてあるところの注に,「一般的には,「イエ」又は「エ」と書くことができる。」とある。この注の文言は,「イェ」に限らず,各項にこういう書き方がしてあるわけである。それについていろいろ議論をしたが,結論としては試案のとおりということになった。
 例えば,「書くことができる」ということについて,「ことができる」というのは,可能の意味なのか,許容されるということを言っているのか,はっきりしないじゃないかという御意見があった。「ことができる」については,注のところばかりではなく,Uの最初にある説明の文の中にも,「一般的に,第1表に示す仮名の範囲で書き表すことができる。」という表現がある。これは原音や原つづりに従って書こうという必要がない場合には,心配は要らない。1表でちゃんと書けるのだということを言っているのであって,前から読み通していただければ,そのことがお分かりいただけるだろうというわけで,これも試案のとおりでよいということになった。
 それから,注や語例について検討し,下に書いてあるような項目について修正をした。まず,ただいまの「イェ」の項であるが,「「イェ」は,外来音イェに対応する仮名である。」の例として,試案では「イェーツ」と「イェスペルセン」が載っていたわけだが,地名も挙げておいた方がいいということもあって,「イェルサレム」と「イェーツ」の二つを挙げることにして,「イェスペルセン」を削除した。
 それから,「一般的には,「イエ」又は「エ」と書くことができる」という注の例として,上に合わせて,「エルサレム」「イエーツ」と書くことができるというふう例を整理した。これが一つの修正である。
 それから,第3項に「クァ」「クィ」「クェ」「クォ」のことがあるが,その例として,「クァルテット」「クィンテット」「クェスチョンマーク」「クォータリー」というのが挙がっており,その注1に,「一般的には,「クア」「クイ」「クエ」「クオ」又は「カ」「キ」「ケ」「コ」と書くことができる。」となっている。これが第1表の書き方である。それで,その例として,「クアルテット」「クイズ」「クインテット」「クエスチョンマーク」「クオータリー」等とあったところを,1行目にある例に合わせて,「クイズ」はもうだれも「クイズ」と言っていて,「クィズ」と書くということを考えている人はほとんどなさそうだから,こういうものは省いて構わないだろうということで,1行目と同様に「クアルテット」「クインテット」「クエスチョンマーク」「クオータリー」というふうにした。つまり「クイズ」を省いたということである。
 それから,12,13ページの,「留意事項その2−V」について。13ページの最後にある第8項,つなぎの符号の問題である。ここに「複合した語であることを示すための,つなぎの符号の用い方については,それぞれの分野の慣用に従うものとし,ここでは取決めを行わない。」として,「ケース バイ ケース」のように字をあけてあるだけのもの,それから「ケース・バイ・ケース」と中黒を入れてあるもの,試案ではそれだけであったけれども,ハイフンの例も挙げておいた方がよかろうということで,何も一重のハイフンをハイジョする意味ではないから,ここへ例を挙げて,「ケース−バイ−ケース」を補うことにした。「マルコ・ポーロ」「マルコ=ポーロ」の方はそのままである。
 つなぎの符号については,もう少し積極的に使うことを決めてもいいという御意見があったけれども,複合した語を読みやすくするためにつなぎの符号が必要であるということは,ここにつなぎの符号のことに言及しておけばお分かりいただけるものと考えた。また細かく調整をするよりも各分野での慣用にお任せすることにして,ここでは取決めを行わないという試案の考え方のままにしたわけである。

林(大)主査

 次に,14ページ以下の「付録」(用例集)であるが,これについては,語例について意見の出ているものを検討した。修正したところが3か所である。それは,先ほどの「イエ」「クオ」のところで出た例である。用例集には「イェーツ」(人),「エルサレム」(地),「クオータリー」のように一方の例だけが挙げてあった。それを「イエーツ/イェーツ(人)」の二つ,それから「エルサレム/イェルサレム(地)」の二つ,「クオータリー/クォータリー」の二つとした。ただいま私が発音で申したけれども,書き方としてこの両様を認めるということである。
 その他,語数についても,いろいろ御意見があって,これでは少ないから,もう少し多くした方がいいという御指摘もあったけれども,適当な範囲というのはどれくらいの語数になるかということも問題であるし,定めにくいところがあるので,まず試案の程度でよろしかろうという結論である。
 なお,ここには何語か原つづりを示したものがあるが,それと同様に,すべてにわたって原つづりを出してはどうかという御意見もあったけれども,原つづりを出すと,原音の問題が出てまいって,また新たな問題を起こすことになるかと私などは考えたわけである。ここに原つづりを出しているのは,意味上区別するために注記をしたわけであって,原つづりを示すというのが目的ではないので,試案のとおり,原つづりは出さないでおくことにした。
 以上のとおりであって,修正という点は,比較的単純な,簡単なところにとどまって,全体的には試案のままというふうに申し上げてよろしいかと思っている。
 これについては,難しいところを避けて通ったという印象を与えることになるかもしれないけれども,委員会としては,繰り返し,蒸し返し,いろいろ議論をいたしたところもあって,結局はこういうふうにして,皆様のおかげで,妥当な,穏当な線に結論が出たということになろうかと思っている。
 長いこと,委員会の先生方にもいろいろ御協力をお願いいたしたが,そのおかげで,こうやってまとめることができたかと思っている。
 しかし,なお,これについて御質問があったら,お答えをいたしたいと思うし,また副主査はじめ委員の方々からも補っていただくことができようかと思う。
 また,最終的な結論のところへはまだ時間もあろうかと私は思っているが,御質問ばかりでなくて,新たに御意見がいただけるならば,お聞かせいただければ幸いだと思っている。

坂本会長

 外来語表記委員会では,今御説明いただいたように,大変努力されて,各方面から寄せられた御意見を参考にして,いろいろな角度から検討されたということがうかがわれるわけである。
 ただいまの御報告について,委員の皆様から,御質問あるいは御意見があれば,ぜひひとつ御発言いただきたいと思う。
 格段の御発言はないか……。
 結果的に,試案に対して余り大きな変更はないという方向を示していただいたわけであるが,この際,細かいことでもお気付きの点や御注文があれば伺っておいて,外来語表記委員会で更に御検討いただけると思うが,いかがか……。
 そういうことで,方向としては,おおむね委員の皆様方の御了承がいただけたように了解できるかと思うけれども,これからは答申の原案の作成ということで,表記委員会で検討を進めていただいて,次回は全員協議会という形で答申の原案について御審議いただくことにしたいと思う。日程等については,後ほど事務局から説明してもらうけれども,おかげさまで,この問題もどうやら先が見えてきたような状況である。

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