国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 意見交換1

坂本会長

 前回の総会では,現代の国語をめぐる様々な問題について,改めてその所在を明らかにするとともに,今後適切な対応が望まれる問題にはどのようなものがあるか, どのようにそれに対応していくのがよいかということについて,幅広く全体的な立場から審議・提言をお願いしたいという趣旨の文部大臣のごあいさつがあった。また,文化庁長官からも,戦後の国語審議会の審議の経緯について御説明があって,現在の時点で,国語をめぐってどのような問題が指摘されているかということについて,例を挙げながらの説明があった。
 また,その後,審議会の運営について御相談をいただくための運営委員会の設置についてお決めいただき,さらに,現代の国語をめぐる諸問題についての意見交換を行った。
 初めての会合であったにもかかわらず,大変活発な御意見がいろいろ出されたが,まだ発言しておられない委員も大勢おいでになるし,また当日御欠席の委員もおられる。また,御出席になって,まだ言い足りないという方もあるだろうから,それらを含めて,現代の国語をめぐる諸問題についてという広いテーマで,本日も前回同様,引き続き活発な御意見の御開陳をお願いしたいと思う。

寺島委員

 最近,新聞の投書欄に,簡略漢字というか,略した字体が不統一だというのが出ていた。個人的に言うと,私は漢字表のころから委員をやっているから,もう漢字のことはたくさんだという気もややあるけれども,不統一だという意見だから,一応きちんと国語審議会としての方針を出さないといけないんじゃないかと思う。

坂本会長

 不統一だというのは,どういうところが不統一だと……。

寺島委員

 例えば「佛」がそうなっていたかどうか,ちょっと記憶が不確かだけれども,つくりが「ム」になっている。「う」も「ム」になっていると思うが,「沸」のように「ム」になっていないものもある。そのような指摘をニ,三回新聞で見た。
 また,例えば,よく問題になるが,「芸」という略体は間違いであるという説もあり,その辺はどうするのか。許容するのか,やめるのか――やめるのはまずいのかもしれないけれども,そういう問題もあるので,やらなくてはいけないんではないかと思う。

坂本会長

 いかがか。今の寺島委員の御発言で,略字も行き過ぎると問題があるんではないかというような……。
 私も現場にいたころ,NHKの番組の発表でフランスの映画を「仏映画」と漢字で発表したら,ある人が仏様の映画だと思って見たけれども,一向に出てこない,なぜNHKは仏様の映画だなどと表示して,番組発表をするのかと言って,えらく怒られた。私,当時,編成部長をしており,番組の方の発表を担当していたので,仏様の映画のはずはないと思って見たら,「仏映画」を仏様の映画とお思いになったという,笑えないような笑い話があった。

山川委員

 私,ちょっと宣伝させていただくが,月曜日の7時半の「ウルトラアイ」から今の「くらべてみれば」という番組に至るまで,14年間,科学番組をやっている。
 この間,「漫画と活字」というテーマで,文字を速く読む速読の名人に実験をしてもらった。速読の術というのはどういうふうに読んでいくかというと,漢字をぱぱぱっと拾い読みしているわけである。つまり,漢字というのは情報量が多くて,非常に効果的なのである。それを速読術の人はいち早く看破してやっている。
 これはなかなか面白いということで, もう一つ実験をしようということになり,2歳の子供に2日間猶予を与えて,まず初日に平仮名を見せる。それから漢字も見せる。例えば「虎」という字を見せておく。そして,とらの絵を見せる。「とら」という音をいわば刷り込むわけである。仮名も「あ」とか「え」とか,いろいろ教えるわけであるが,その二つを比べてみた場合,2日後にどちらをよく覚えているかというと,幼児は難しい「虎」という字の方をはるかに頭にしっかりとたたき込んでいるわけである。これもまた非常に面白い現象だと思う。つまり,小さい子供は漢字を絵としてとらえているということである。これは,今後,漢字の略体化とか,制限とか,そういうことに大きな問題を含んでいるんではないかと思う。

坂本会長

 いかがか。事務局に伺うけれども,当用漢字表・常用漢字表等の設定は,今の寺島委員の御発言とどういうかかわりが出てくるのか……。

河上国語課長

 むしろ委員の方に。林委員とか……。

坂本会長

 林委員,いかがか。今の「常用漢字表」とのかかわりについて御説明いただけるか。

林(大)委員

 私,ここで答弁役になるのは具合が悪いけれども,どういうふうに申し上げたらいいか。一つは,寺島委員がおっしゃったのは,今までのやり方について,修正をする必要があるだろうというお話だと思う。私,その修正が適切に行われることは必要だろうと思うが,字体の問題は,一つには,そう簡単にいかない面がある。近ごろは,電子技術の方で母型が作られるので,割合に簡単にはなっているが,全体を今までのように統一しようと思うと,ちょっと厄介ではないかという気がする。ただ,それは克服できると言われれば,それでも結構だと思う。
 それから,戦後字体を改めたときに,非常に悪い評判を受けた点は,従来の習慣を大きく変えたというところにあったので,この40年間やってきた形を今また変えると,「そら,変えた」「また変わった」といって,新聞が大騒ぎされるんじゃないかという気がする。それも一時的なことかもしれないが,そういう問題がある。
 それから,山川委員のおっしゃった「虎」の字のことであるが,前々から,石井勲先生が漢字は幼児のときから教えた方が効果があるということを言っておられる。確かに「常用漢字表」には入っていなくとも,「虎」を覚えることはできるし,「亀」を覚えることもできるだろうし,「熊」も覚えられる。ただ,今は漢字制限じゃなくなったけれども,今の漢字の字数の中で教育をしていこうとなると,このような漢字を覚える力を転じて,肝心な常用漢字の学習にも有効だという証明をする必要があろうかと思う。
 幼児が具体的な漢字の形について反応が速いということは確かなことだと思うけれども,それがすべての我々の日常生活の漢字に及ぼせるかどうか,また,6年生まで,あるいは中学生までという学習手順をどう考えるか,そういうことがもう少し検討されてもいいんじゃないかと思っている。

坂本会長

 今の寺島委員の御発言のテーマも,簡単な答えは出せないんじゃないかと思うので,そこら辺の扱い方は慎重にするということに落ち着くのかなと思うけれども,問題提起としては,我々,案外見過ごしているところを指摘されたような感じもする。

服部委員

 これは参考になるかどうか分からないけれども,一つの問題点ではあると思うのは, この間,私,ベトナムのハノイヘ行ってまいったが,そこで郷土研究家というか,年寄った人が,古いお寺が残っているから,そこへ御案内するということで,そのお寺へ行くと,全部中国語である。古いお寺で書いてある文字は全部漢字である。歴史をひもとけば,なるほど,もっともなことだなと思ったのだが。そこでいろいろ話している間に,案内してくれた人が「ハノイ」は昔「昇龍」という名前だったんだと言う。また,昔の漢字表記を見てその語の成り立ちを検討すると,なるほどなと思うし,土地の名前,品物の名前も,その漢字を見ると,なぜそういうふうになったかという故事来歴が浮かんでくるのだが,今,ベトナムはローマ字で,全然そういうことがなくなってしまって,非常に残念だということを言っていた。
 そういうことを考えると,やみくもに略字にすれば,今の子供たちは昔からの漢字というものの特微を失ってしまうことにもなるんだなと,そのときにふっと思って,一つの問題点ではないかと感じて帰ってきたのだが,これもひとつ参考にしていただければありがたいと思う。

寺島委員

 私は,何もみんな簡略化しろと申し上げているわけではない。ただ,簡略化の統一がとれていないということだから,統一をとらない理由があるのなら,とらない理由を説明するなど,それくらいのことは,国語審議会として考えておいた方がいいのではないかという程度のことなのである。
 それから,例えば「働く」という字は,実際には「働」になっているけれども,「仂」というのも一般的には大変多く使われている。私は「働」を「仂」にしろということではなく,その辺も,一般的には「仂」も使っているけれども,正しくは「働」なのだというふうに,もう一度意識をするといったことは必要ではないのかということである。

俵委員

 多分同じ記事だと思うが朝日新聞の「論壇」に,今御指摘になったことが,具体的な漢字の例をたくさん挙げて出ていた。大変分かりやすいと思うので,コピーして皆様にお配りできたら,今寺島委員が言われたことが非常によく分かるのではないかと思う。
 ただ,ここには最後に,そのためには,国語審議会などで一方的に審議決定するのではなく,広くみんなの意見を取り上げようというようなことで結ばれているので,御紹介するのはどうかなとも思ったのだが,例が非常にたくさん挙げられているので,もしよかったら,事務局の方にお出しする。

坂本会長

 それは事務局の方で……。

諏訪委員

 私は新聞記者だが,新聞社にもワープロが入ってきて,ワードプロセッサー化がかなり進んでいるが,ワープロで字を打つと,今おっしゃった異字体が出てくる。校閲の方でそれをまた現代の常用漢字の字体に戻してくるということがあって,無駄なことをやっているような感じがするのだが,調べてみると,犯人はJISらしい。JISの規格で,第1水準,第2水準が決まっているので,各社の辞書によって違うのだろうけれども,いろんな書体,字体が混ざってくる。今,我々が書いている普通の字体と違うものが出てくる場合がある。変換,その他をやっていくと,妙ちきりんな字が出てくるということがしばしばあるわけである。
 そこで,この前の国語審議会でも問題が出たと思うが,これだけワープロが普及して, 夕イプライター的にワードプロセッサーを使って書いていくことが広がっているのに,通産省の工業規格――工業標準化法というのを見てみると,これは生産能率の増進,生産の合理化,取引の単純化,消費の合理化とあり,言葉も単純に合理化できる面もあるとは思うが,それは記号としての言葉であって,日本語,国語全般のことではない。
 JISでこれだけやってきたから,今から急に変えることは難しいかもしれないが,今何とか手を打たないと,将来,国語の体系が二つになる。つまり,国語審議会が作っている文化庁,文部省のシステムと,通産省が指導しているJISのシステムと,ニつ系列ができることになりこれは混乱の元になるのではないか。今から早く手を付ければ,混乱は比較的最小限度に抑えられる。だから,ここで,通産省も,人名漢字の法務省も含めて,文部省が中心になって,ジャパニーズ・ランゲージ・システムみたいなものをお作りになることをお考えになった方がいいんじゃないかと思う。

坂本会長

 今の御発言は,なかなか重要な御発言かと思う。確かに,我が国は多少縦割りシステムで,そういう点にやや問題があるような体験を持たないでもないので,この点は,むしろ国語審議会として文部大臣にアピールすることになるのだろうか。長官いかがか。

川村文化庁長官

 ワープロを作られる側の方として,三次委員がおられるので,何か。

坂本会長

 いかがか。御発言いただけるか。

三次委員

 私は,その辺はよく存じていないけれども今御指摘のあったような事実があるだろうと思う。
 ただ,ワープロをデザインするときは,JISの第1水準,第2水準,そういった規格によっているので,手書きにするか,ワープロにするかは別として,その水準自体が統一されていれば,おのずから結果的にはそろってくるんじゃないかと思う。その規格の立て方というところで,省庁間の意見の差があれば,その段階で調整というか,統一を図るべきだろうと思う。
 それから,今の話題とは関係ないのだが,先日,東南アジアの方へ旅行して,中国本土に参ったところ,あそこは漢字を非常に簡略化している。例えば国際の「際」の字など,説明されないと分からないぐらいになっていた。その結果,新聞を2種類出しているという。つまり,国内の中国人と海外にいる古い字しか知らない方とに二通り出すということになっているそうである。
 だから,国語の扱いというのは,利用される世代が,古くからの人と新しい人がいるし,いわゆる需要性といったことを考えていかないと,ニ通りの新聞を出さないといけないという変な具合になってしまうのではないかと思うので,そういった点でも,今の字種・字体の決め方に注意すべきだということには私も賛成である。

服部委員

 この問題は,雑誌関係でも非常に大きな問題になっているので,ぜひ統一して,きちっとしてもらいたいと思う。国語審議会で通っている字体でやってもらった方がいいと思う。文部省関係と通産省関係との連絡を十分とっていただければ,不統一は起こらないだろうと思うのだが,この辺をひとつ十分連絡をして,まちまちにならないようにしていただくことが重要じゃないかと思う。

坂本会長

 この前の18期のときも,たしか姓名の漢字がかなり幅広く許容されて,あの問題は私も質問したのだが,それは法律的に間違ったことではないということで,なるほどと思った。しかし,一般の人々は,通産省だ,文部省だといって受け取るわけではないから,大筋には,国語審議会という立場における決定を尊重していただくような傾向になってほしいと思う。

林(大)委員

 また答弁みたいなことになって,申し訳ないが,JISのことについて申し上げる。 
 JISは,通産省関係で,日本工業標準調査会で決められたわけであるが,そこでは,常用漢字に敵対するものとしてあれを決めたわけではなくて,常用漢字を含んで,実用の世界ではなお漢字が必要だという考えから,その漢字の番号を付けるということを標準化したわけである。
 一々の漢字の番号を覚えていないが,とにかく最初は六千何百字についてのコードを付けた。コードを付けることが問題であったわけで,そのコードを付けるのに,まず第一には,その当時の当用漢字に番号を付けて,少し余裕があるので,そのほかの漢字も番号を付けて第1水準というところに入れた。それから,当用漢字からは離れているけれども,あとの約3,000字をそこへ加えて,第2水準と言っている。それは漢字制限をとり外したというものでもなく,それを使いなさいという奨励でもなくて,もし使うとすれば,情報交換するために,こういう番号,コードでという約束であった。
 ところが,一方では,印刷業界あたりでは,注文があると,これがどんどん使えるようになったんだ,どうぞお使いくださいと言っているかのごとくとられる向きがあって,それで混乱をするところがあったわけである。
 だから,一方では今おっしゃるとおりで,通産省との間の連絡ということが私は大いに必要だと思っているが,JISに関しては,あそこで字体を決めたとか,使用範囲を決めたとかいうことではなかったということだけ,ちょっと申し上げておこうと思う。

坂本会長

 いずれにしても,お互いの意思疎通,情報交換が十分でないという点については,この際,反省して,対応すべきじゃないかというふうに理解すればよろしいかと思うが,いかがか。
 そういうことで,国語審議会としては,委員のみなさんの一つの総意としてそういう御提言があったので,文部省,文化庁にこの問題について対応してほしいということで,現在の寺島委員の御発言のテーマについての一応の締めくくりにしてよろしいか。

浅野委員

 今,寺島委員,諏訪委員がおっしゃったことと関連するのだが,問題は略字体だけではない。今お二方の委員が御指摘になった問題のほかにも,JISのコードには,辞書にない字体,旧字体,略字体,正字体も整合性を欠いているし,異字体も相当に入っていて,私ども新聞界では,記者用ワープロというものを別に作らないと,こうした問題に対応できない状態になっている。略字体だけではないということを一言申し添えておきたい。これは,私どもの新聞用語懇談会の方からも強く言われている大きな問題点である。

坂本会長

 話を伺えば伺うほど複雑になって……。

村松委員

 整合性という問題であるが,今御指摘があったように,略字体の問題だけではないと思う。
 その一つは,漢字の中に,略字と当て字との問題がある。略字はいいとして,当て字は本来の意味とは全く違った文字が持ち込まれている。「欠席」の「欠」の字は,「ケツ」という音はたしかなかったように記憶しているが,そういう略字体というのは,歴史,伝統を全く無視したやり方である。
 それから,平仮名の方にしても,私はこの前の審議会でも申し上げたが,例えば「むつかしい」と書くときは「つ」でいいが,「むずかしい」のときは「ず」になる。「神通川」と「神通力」は,片方が「つ」で,片方が「ず」になって,誠に奇妙なことになっている。
 私は,自分では,略字はいいけれども,当て字は一切使わないという方針でいるが,とにかくそういう問題を拾ってくると,どうしても過去の国語審議会の決定事項とぶつかってくる。
 ここで,国語の政策についていろいろ勝手な意見を出せというお話であるが,過去のそういうものを見直していいのかどうかということが前提として出てきていないと,お話ししても無駄だということになってしまうので,そこのところをまず決めていただくというか,何も根本を修正するということではなくて,微修正ならよろしいとか,この範囲ぐらいまでならとか,そういうことを前提として明瞭にしていただかないと,議論できないんじゃないかという気がする。それが1点である。
 もう一つは,林先生に度々御答弁をいただいて恐縮であるが,動植物の名前を片仮名で書けというのはいかなる根拠で,どういう過程で出てきたのか。

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