国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第19期国語審議会 > 第7回総会 > 次第・議事要録

次第・議事要録 協議3

沖原副会長

 いろいろ御意見が出た。まず「日本語」と「国語」の用語の問題が最初に出て,それから国語大辞典の問題,話し言葉と書き言葉の関係をどうするのか,あるいは交ぜ書きの問題,「常用漢字表」の見直しが必要ではないか,官公庁の片仮名語の問題,ただいま江藤委員からあった他省庁への対応をどうするか,ワープロ等の機器の出現に対してどう対応するのかといったようなことが取り上げられてきたが,そういうことについての御意見,あるいはそれ以外の御意見があったら,御発言いただきたいと思う。

村松委員

 初めに,どうでもいいような話だが,2ぺージの4行目,既にお気付きかと思うが,「……実行されている。」というのは,その後の「法令や……」にかかると思うんで,この「。」は「,」の間違いではないかと思うが,違うのか。

韮澤国語課長

 これは私どもとしては「。」のつもりである。

村松委員

 了解した。私が伺いたかった大切な点は,「常用漢字表」の修正が可能なのかということである。あるいは「常用漢字表」の修正が可能でないならば,少なくともそれに補遺を付ける。それこそ“補てん"というわけだが,それが可能なのかどうかということである。中西委員が言われたように,ニーズに文字が追い付いていないという異様な事態が発生しているのは,これは修正すべきだと思う。漢字制限によって,古い表現が随分消えた。例えば「鬼哭(こく)啾(しゅう)々」とか「雪が霏(ひ)々として降る」とか,そういう表現は一定の年齢以上の人か,あるいは専門家でなければ使わなくなっていると思う。これはもうしようがない。
 しかし,ここに出ているような日常使われている漢語,それが片方だけ平仮名で書く。ついこの間の新聞で初め何を言われているのか分からなかったのは,ペルシャ人,イラン人が新宿駅に大勢集まっているという記事で,「い集」と書いてある。前から来ている平仮名とつながった言葉かと思って,何の意味だろうと思ってちょっと考えてみたら,「蝟集」なのである。「集合」と「蝟集」では違うんで,新聞記者は「蝟集」と書いたんだけれども,「蝟」の字がないものだから,「い集」としてしまった。これは言い換えは不可能である。
 そういう何十年かの漢字制限にもかかわらず,生き残ってきた漢字表現がたくさんある。そういうものに対して漢字の対応の方ができないでいるというのは,非常に奇妙な事態だと思う。これにどうやって対応し直すのかというのは,根本的には「常用漢字表」だろうけれども,「常用漢字表」をまたいじくるのが大変であるというのならば,補遺を付けることが具体的に可能かどうかをちょっと御検討いただきたいと思う次第である。

沖原副会長

 先ほどの「常用漢字表」の見直しの問題について,更に補遺等のことも考えられるのではないかということであったが,それについての御意見はないか。どうしたらいいというような,あるいはそれ以外の御意見でも結構であるが……。
 事務局に伺うが,「常用漢字表」というのはどういう性格のものになっているのか。つまり,訂正不可能なものなのか。

韮澤国語課長

 今の「常用漢字表」の問題であるが,御承知のように,「常用漢字表」は,内閣訓令,内閣告示等で定められているものであり,一たん定めたからといって,未来永劫(ごう)絶対変えないというものではもちろんないわけであるが,一方で安定性の問題等もいろいろある。そういったこともあって,この問題については,現在問題点の指摘をしていただいているので,また20期以降の御審議の中で御議論いただければというふうに考えている。

佐久間委員

 「常用漢字表」の中で,書かなければならない漢字,要するに,書けた方がいいという漢字と,読めればいいという漢字,これを二つに分ける方法はないものか。書くのは難しいけれども,読む必要はあるんじゃないかという漢字はかなりたくさんあると思う。

林(大)主査

 私の申すことは御返事ということでなくてお聞きいただきたいのであるが,読む漢字,書く漢字というのは,小学校の漢字教育のときにそういうことが唱えられたことがあって,読めるだけで済ませばいい,書くのは後,あるいは書かなくてもいいというような考え方があるというのは,漢字教育の上では説かれたことがある。特に漢字教育のことに御熱心な石井先生という方は,読む漢字をごく小さいときから教えればそれでできるんだということを説いておられるわけである。常用漢字とか当用漢字それ自体も,そういうことが考えられないわけでもなかったけれども,それはそういうふうには定めていないわけである。その辺は問題点として承っておくことが必要ではないかと思っている。

沖原副会長

 大野委員は高等学校の校長会の会長でいらっしゃるが,今のようなことは教育の現場,学校等では何か論議があるか。それで困っているとか,今のままでいいんだとか。

大野委員

 私は国語関係ではないので,多分国語教育関係では何か議論はあると思うが,全国の校長会としては全然議論になっていない。

渡辺委員

 この問題は戦後から随分大きな問題で,しょっちゅう現場では取り上げられてきた問題である。小学校で配当漢字として1年生には何文字,2年生には何文字というように配当されたのは33年である。そのころから現場で随分問題があって,読む漢字と書く漢字を同時並行して教える教育と,いや,読めてもなかなか書けないんだというような意見もあって,43年には文字数を小学校では少し増やして,881字のほかに115字を備考漢字として中学校の方から下ろした。その後,国語審議会あるいは教育課程審議会でも,もう少し読める漢字数を増やしたらどうかということがあって,52年には,115字下ろした漢字を小学校の配当漢字に入れて,996字の読み書きができるようにということになってきた。
 それから,56年に常用漢字が発表されて,かなり文字数が増えてきた。それで見直しをしなければいけないということで,国立国語研究所の資料などを使って見直しをし,小学校ではなかなか言葉として出てこない漢字については上の方に上げようということで,中学校に10字上げた。それから,易しい漢字でも大体読める,書ける漢字は下に下ろそうということで下ろして,1,006字,これが小学校の現在の配当漢字になっている。
 その取扱いはどういうふうにしたかと言うと,配当漢字は読む漢字,そのうち大体が書ければいいというようにして,すべて読めるものを書けるようにするということではなくて,そのうちの大体を書けるようにしようというように措置がしてある。
 それから交ぜ書きの問題も,常用漢字表の審議の時に随分問題になって,結局文字数を増やす必要があるということで増やした。それで小学校でもそういうことを考慮して,その学年の上の学年に出てくる漢字については仮名を振ろう,ルビを付けよう,読める漢字を増やそうじゃないかということで,かなり増えてきた。それから,書ける漢字と読める漢字を今回は区別をして,例えば常用漢字以外の漢字で,名前,地名,県名,その他易しい漢字があるわけだが,そういうものについてはルビを振って読めるようにしようということで,今回措置した。
 そういう意味で,小学校の国語教育,特に漢字教育については,いろいろ経緯があって,そういう措置をしたから,かなり読める漢字も多くなってきているし,また書く漢字も最低これだけは書けるようにしようということで,小学校は措置したわけである。
 中学校の方は,大体1,000字を書けるようにしよう,読む漢字については常用漢字がとにかく読める,それ以外についてはルビを振って十分に読めるようにしよう,そういう措置がしてある。

沖原副会長

 「常用漢字表」の問題は,学校ではそういうふうにしているということである。
 もう少し御発言をいただけたらと思うが……。

林(大)主査

 先ほど「目安」「よりどころ」の定義のことがお話に出たが,とても難しくて,あれが出たときから私分からないでいる。こういう問題を扱うときに,初めから「国語」の問題,「日本語」の問題,定義のことが非常に問題になるわけであるけれども,「目安」「よりどころ」も非常に難しい問題がある。というのは,あれは「送り仮名の付け方」を審議した時に,一方では「当用漢字音訓表」の改定が並行して行われていて,「音訓表」の方ではこれは「目安」であると言われたが,「送り仮名の付け方」の方では「よりどころ」であるという議論があり,結局「送り仮名」の方は「これはよりどころを示すものである」と書いて,片方では「音訓の使い方の目安である」,こういうふうに示したわけである。
 私は「目安」と「よりどころ」とは意味が違うと思う。同じレベルで議論する問題ではなくて,どうも違うと思ったのだが,そういうふうにお決めになってしまった。しかし,その了解は,「よりどころ」と書いてあっても,厳重なよりどころではなくて,緩いよりどころ,「目安」というのも,それは標準なんだけれども――「標準」という言葉もそのときは使いたくなかったのだが,標準だといって押し付けるような標準ではないから,「目安」といっておこうじゃないかということになった。両方とも押し付けるものではないというところは同じだったが,別の表現が使われたわけである。
 だから,その当時の辞書,あるいはそれ以後の辞書を見ても,「よりどころ」には,これは緩い規則であるぞなんてことは書いてない。しかしながら,国語審議会で決めたところの範囲では,そういう気持ちがあったということにはなるわけである。それでその後の議論では,「目安」「よりどころ」と言っても,厳密な統制主義ではないということをあれで表しているのだと,そういう共通理解をしてきたようなものであったかと思う。
 「目安」という言葉にしても,私は納得できないところがあったのだけれども,その当時以来行われていることで,先ほど問題をお出しになったので,申してみた。

沖原副会長

 その他,御意見はないか……。
 本日は大変貴重な御意見をお聞かせいただいた。本日の御意見を十分に参考にしながら,問題点整理委員会で更に御検討をお願いしたいと思っている。
 なお,本日御欠席の委員の方にはこの「報告〔素案〕」をお送りして,御意見があれば,文書で出していただくように事務局から提案をしていただくことになっている。本日御出席の皆様方におかれても,更に御意見があれば,事務局の方に御連絡いただければ有り難いと思っている。
 なお,今後の日程等について事務局から説明する。

韮澤国語課長

 お手元の資料の中に「今後の日程について(案)」というのが入っている。
 現在の第7回の総会の次には,本日の御意見等を踏まえて,問題点整理委員会を3月から4月にかけて2回ほどお開きいただいてはどうかと考えている。そしてそこで報告案をおまとめいただいて,4月の下旬に全員協議会をお開きいただければと思っている。メンバーはこの総会と同じである。このときはいろいろと文章の細かい点等も御審議いただくことになるので,記録を取らないというものである。そして,そこで出た御意見を基にして,5月中旬に問題点整理委員会で最終的に報告を調整させていただき,6月の中旬ぐらいの総会で報告を御採択いただければというふうに考えている。
 また,先ほどお話があったが,本日の「報告〔素案〕」について,現在出た御意見以外でいろいろ御意見等があれば,私どもに文書なり,電話なり,ファックスなどで,お送りいただければと思っている。次回の問題点整理委員会を3月上旬に予定しているので,恐縮ながら,2月中にこちらの方までお送り願えればと考えている。

沖原副会長

 全員協議会というのはどういう性格か,この会とどう違うのか,御説明をお願いする。

韮澤国語課長

 今度の4月ごろの全員協議会については,報告案の文言等,非常に細かいところまで御議論いただくことになるので,記録は取らない方がいいのではないか,記録を取らない形での総会というようなことでお考えいただければと思っている。

沖原副会長

 以上のようである。これで終わりたいと思うが,よろしいか……。
 きょうは長い間いろいろ貴重な御意見をいただいた。これで終わりたいと思う。

トップページへ

ページトップへ