国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 意見交換2

坂本会長

 微妙な問題なので,そこら辺のニュアンスはひとつおくみ取り願いたいと思う。
 教育現場におけるお立場での御発言だから,大変重要なテーマだというふうに了解して伺ったわけである。
 その他,どうぞ御随意に御発言いただきたい。

幸田委員

 意見ではなくて,ちょっと伺いたいと思って発言するのだけれども,水谷委員から先ほど御説明のあった国語大辞典は,どんなにか大変なお仕事だろうなということをただただ拝察している。
 それには,音声,アクセント,その辺も当然入ってくるだろうと思うけれども,それはどの程度まで可能なのか。外国に負けないようなとおっしゃってくださったので,外国に負けないように,この時代のアクセントではとか,何世紀の発音ではとかいうことまで含まれるのかどうか,そういうのが常に何となく気になっているので,ちょっと伺わせていただきたいと思う。

水谷委員

 アクセントそのものの研究だけではなくて,実は今音声を専門に研究している人たちが何人かいるが,イントネーションの問題に今関心があって,日本語のイントネーションの問題を機械を使いながら――「録聞見」という機械があるのだが,それでやると,割合即座に音声が視覚的な形に出るので,日本語そのものについても,東京の言葉と一型アクセン卜地域の言葉ではどんなふうに変わった形で表れてくるのか,あるいは外国人が日本語を勉強したときにそれがどんな形で出るのかというようなことを中心に,この数年間研究が続いてきている。
 コミュニケーションということを考えると,アクセントだけではなくて,イントネーションを大切にしないと人に伝えるための言葉にならないということでやっているが,問題は,さっきもちょっと申し上げたけれども,例えば方言のアクセントといったものについての資料はあるのだが,ここで問題になっている正しさの問題とか,これを使うべきだとかいうことになると,私たちの研究の立場では,充分に情報提供ができないというつらさがある。
 だから,教育の立場から,音声表現としてこれがいいであろうという情報や,実際に音声を使って放送を作ったりドラマを作っていらっしゃる方たちが,これが事柄が一番伝わりやすいアクセントの体系であるとか,誤解を防げるものであるとか,そういう知恵が集まってくると,私たちの客観的な研究にも結び付いてくるのではないかなという気がする。
 データとしては,今までに各地の方言などを録音したテープはたくさんある。だからデータはあるのだが,それを施策的にどう扱うかの問題については,今の言葉の研究の世界の中では判断の決め手を持っていないということだと思っている。これが標準であるというだけの客観的な条件をそろえていないので,ちょっとつらいなとは思っているけれども,事実をきちんとつかんでおくということは,いずれにしても方針を決めていく第一歩の問題だと思うから,その辺は私たちとしても頑張っている。
 お答えにならなかったかもしれないが,よろしいか。

幸田委員

 そのように大変なものだろうということは推測していたので,納得させていただくが,かつて,1,000年前からずっと今日まで,記号とか録音というものがなかったのだから,100年前の言葉が分からないわけである。私は,朗読をしていて,日本語の美しさは朗読でしか伝わらないのではないかと思うほど,いろいろ考えさせられるのだけれども,朗読を聞いてくださった先生たちにいろんなことを聞かれるときに全く困るのである。
 だから,せめてもうちょっと前の時代ぐらいまで,規範となるようなものが何か作られたらいいなということを念願していたのでお尋ねした。どうぞよろしくお願いする。

中西委員

 今の幸田委員のお話とちょっと違って,また元に戻るのだけれども,森山委員から,私の前の提言に対してレスポンスしてくださったので,それに対してお礼を申し上げないのはマナーに欠けるので,それをまず申し上げたいと思う。
 私は,幅広く意見を聞く必要があるという考え方を基本に持っていたいと今でも思っている。この議論の最初に,大森委員から,一体これをどうするんだという非常に基本的な提案が出されて,それに対する議論が進んできたと思うのだけれども,内閣からの告示とか,そのほかに「ことば」シリーズがあるんだというようなところで,具体的な案が先へ進んでいないような気がする。
 ここで2年間かけて決めるものは,今度は答申になるわけだけれども,ローカルという言い方は適当ではないが,割合に部分的な,ある会場の中だけで終わってしまうのではなくて,もっと全国民的に,生活者として国全体の意見の中にこの議論が入っていく,向こうからもそれに対するレスポンスがあるという格好でいくのが,一番正しいのではないかと思う。
 仮に,「ことば」シリーズを読んでみれば分かると言っても,それが各家庭にあるのかと言ったら,ないわけである。ある特定の職場とか,特定の人たちのところにはあるにしても,全国民には伝わっていかない。まして,その索引を見て,読んでくださるというのは大変奇特な方で,そういうことも一般的に期待できないかもしれない。
 そうすると,いろんな機会を通して,生活者との間でいろんなやりとりを繰り返す格好で,我々の考えたものが伝わっていき,また向こうからの材料によって我々も反省していくという格好でいくのがいいのではないか。具体的にそういう方向を探らなければ,ローカルなものになってしまい,非常に残念だと思う。私は京都から来るのだが,5時間ぐらい使って来て,それではむなしいことになってしまうということもある。
 それから,一番最初の御提案では,言葉遣いというのは非常に生活的なものであるというお話があった。生活的なものというのは,決まりというよりは感覚のようなものだから,生活の中に問題が入っていかないと,いい方向にはいかないだろうと思う。1+1が2であるという事柄なら,ルールとして教えればいいわけだけれども,そういうルールではなくて,フィーリングのようなもので言葉遣いというものは決定されていくわけだから,そういう格好で何かうまい方法を見付けて,模索して,我々の知恵の集まりを全体の中へ投げ掛けていく,そんなふうな方向を探れないだろうか,そんなふうに最初の大森委員の御提案に対して私は考えるが,いかがか。

永井委員

 今のお話の関連になるけれども,国語課長さんにちょっと質問させていただく。
 先ほど御回答があったと思うが,私も「ことば」シリーズというのは大変立派な作業だと思っているのであるが,その利用状況――前期が終わったときのパーティーで,どなたかとお話をしたことがあったのだけれども,これだけいいものがもっと普及して,一人一人がしっかり読んでいれば,今のお話ではないけれども,ゆれとか,乱れとかいうのが収まるはずのものが,そうならないのはそれが利用されていないのが現状だからだと思う。
 先ほど各小・中学校というお話があったけれども,実際の部数がどのくらい出ているのか,合本は非常に結構なことだと思うが,その見通し,それから20年たったとおっしゃったけれども,20年間の配布の状況とか,普及させるための努力というか,そういうものの移り変わりみたいなことをお伺いしたいと思う。

韮澤国語課長

 「ことば」シリーズは,経緯を申し上げると,昭和47年に,国語審議会から「国語の教育の振興について」という建議が出され,こういったものをいろいろ作る必要があるということで,それを受けて作り出したものである。
 昭和48年は1冊だけであるが,49年以来,「解説編」を1冊と先ほどお話の出ている問答形式の「問答編」が1冊ということで,毎年2冊ずつ出している。毎年それぞれ6万4,000部ほど刷り,全国の小・中・高等学校,それから図書館とか,公民館とか,そういったところに配布いたしている。
 なお,同じものを大蔵省印刷局の方から市販しており,これはベストセラーになっていて,今まで累計で175万部ほど発行されているという状況である。
 合本の方については,大蔵省印刷局の方と今相談しているところである。

永井委員

 大変よく分かった。内容だけでなくて,この審議会でやるべきことかどうか,知らないけれども,普及をバックアップするような方策なんかを考えてもいいのではないかと思う。

坂本会長

 ほかにいかがか。

北原委員

 まだ一度も発言していないので,余り話すことはないのだが,発言させていただく。
 一つは,19期の最初にも申し上げたのだけれども,言葉は単位が大きくなるほどつかみにくくて,言葉遣いとなると,単語レベルでも問題が出てくるし,慣用句的なものについての問題もある。きょう日本新聞協会さんが作られたものを見ても,いろんなレベルが出てくる。そして,どれが正しい言葉遣い,望ましい言葉遣い,逆に間違った言葉遣いであるかということになると,漢字や文字だったら,間違っているもの以外は正しいということで,きれいに書けということまで決めなくてもいいわけだが,言葉遣いについては,マイナスの間違っているということだけではなくて,許される,あるいは,望ましいというものまで含めて考えることになるので,判断の仕方が非常に難しくなってくるわけである。
 この国語審議会は,一つ一つの言葉遣いについて取り上げて,辞書を作っていくような会なのかどうか,その辺が私は根本的に疑問がある。文化庁は,実際に担当された人の名前を挙げて「ことば」シリーズを作っておられるが,あれは文化庁が作っているにしても,その限りでは問答集の回答者は分かっているわけだから,それを全部集めて,国語審議会がオーソライズするということができるのかどうか。漢字の場合はそれをやっているわけだけれども,言葉遣いはもう少し複雑あるいは幅があるので,それが一つ心配だということである。
 それから,先ほどから「ことば」シリーズをもっと普及させる方法はないかという御意見が出ているけれども,言葉遣いの教育をもう少し徹底させるような施策というか,そういうことについての検討の方向に行ってもいいんじゃないかと思う。
 「ことば」シリーズだけではなくて,辞書,国語辞典というのがたくさんあって,それにもちゃんと正しい使い方が書いてあるわけである。「おすそわけ」というのは,偉い人が下々の人に分けてやるんだから,逆をやってはいけないというのが,「放送で気になる言葉」の最初に書いてあるけれども,そういうことは辞書にも書いてあるわけである。だから,ここでちゃんと辞書を引いて言葉を使いなさいというふうに言えば,済んでしまうような面もあるわけである。
 その辺も考えると,2年間の委員会で「ア」から始めて「ワ」までずっと取り上げていくようなことは大変だし,それ以前に,方向が違うのではないかという感じもしている。私は言葉遣いの委員会なので,総会で決めていただいてからじゃないと委員会もやりにくいんじゃないかと思って,ちょっと申し上げさせていただいた。

坂本会長

 今の御発言をここで決めるわけにいかないので,少し検討させていただいて,事務局がまた運営委員会等にお諮りするというような段取りをするということで,本日のところは御了解いただきたいと思うが,いかがか。
 なかなか難しい御発言が多くなったので,頭が痛くなってきたけれども,それはそれとして,この際,何なりと御発言いただきたいと思うが,いかがか。
 きょうはその辺でよろしいということであれば,次回の総会の予定等について,事務局から事務的な連絡をしてもらおうと思うけれども,よろしいか。

韮澤国語課長

 次回の総会は,今のところ,日時,会場等は未定であるが,一応6月ごろを予定させていただきたいと思っている。日時等が決まり次第,御通知申し上げる。

坂本会長

 それでは,本日の総会はこれで閉会とする。

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