国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 協議1

坂本会長

 それでは,これから協議に入らせていただきたいと思うが,ただいまの第1・第2両委員会の御報告について,まず御質問があれば御発言をいただきたいと思う。御質問はよろしいか。
 それでは,御質問だけでなく,御意見でも何でも結構であるから,どうぞ何なりと御自由に御発言をいただきたい。
 御質問,御意見等については,野元,水谷両主査,石綿委員,並びに委員会所属の委員の先生方からも適宜御発言がいただけたらと思う。
 今の御説明を聞いただけで,こっちは頭の中がこんがらがって,どうしたらいいのかなと思うような騒ぎである。
 せんだっても,阪神大震災の実況放送を見ていたら,私の場合はNHKのことを言うのが穏やかだと思うが,NHKの画面を見ていても,「3階(サンカイ)がつぶれております」と言うので,私はあれは「サンガイ」じゃないのかなと。実況をリポートしている特派員みたいなのが「サンカイ」というので,私のように,あれは「サンガイ」じゃないかと言っているのは今や時代遅れで,「サンカイ」の方が正しいのかなと思ったりするのだけれども,やはり「1階(カイ),2階(カイ),3階(ガイ)」と言う方が適切なのではないかと思ったりして,大変くだらない発言をして恐縮であるけれども,こういう問題はやはり国語審議会などで十分御議論いただくことになるんじゃないかなと思って,あえて発言したわけである。
 せっかくの機会であるから,ひとつ御遠慮なしにどうぞ。

石綿座長

 ちょっと説明し残したところを補足させていただく。
 この文書には24ドットのことが出ていて,それが非常に印象的かと思うが,24ドットというのは昔のプリンタで,現在は,私は技術はよく知らないが,少なくとも48ドットは使っているので,非常に細かい漢字を表現できる。
 例えば,「曇」という字は,横の棒がたくさんあって,24ドットだと全部正しく表現するのが難しいと言われていたが,今はそういうことはない。
 そういうわけで,8ぺージにある電光ニュースなどで漢字をどう表現するかというのは,そういう場合ももちろんあるわけだけれども,それはそういうものとして別に考えて,普通のプリンタとしてはそういう条件をかなり考えないで済む。今は本来の正しい漢字の形を表現できるような,そういう立場で考えることができる。そういうふうになっているということであって,したがって,ここで扱うべきは,そういう略字体でなくて,きちんとした漢字が書けるという前提でお話しいただければということである。
 以上,ちょっと抜けていたかと思ったので,補足した。

坂本会長

 いかがか。どうぞ御自由に御発言いただけたらと思う。

加藤委員

 総会で大変くだらないことを申し上げて失礼するけれども,きょう配布されている資料自体が,先ほどの情報化の問題を見事に象微している感じがする。
 というのは,恐らく資料それぞれが異なった文書作成ワープロで処理されて,皆レーザープリンタを使っておられるけれども,プリンタの種類とフォントが全く違う。
 それから,資料1の方は36字の45行で組まれていて,資料2の方は33字の44行で組まれている。一見したところ全部つながっているようだけれども,こういうところで配布される資料は,いったんテキスト文に落とせば,同一のプリンタで出るので,その方が国語審議会にはふさわしいかなという感じを持った。以上である。

坂本会長

 なかなか皮肉な御発言のようだけれども,これは文化庁の方で答えてもらわないと。

韮澤国語課長

 加藤先生の御指摘はそのとおりだと思うので,これから私どもも気を付けてまいりたいと思う。
 一つ特別な理由があったのは,第2委員会の報告の中に先ほどから問題になっている「」という字にいろんな字があったり,ワープロに出る字,出ない字とがあって,単純に行かないところがあり,一々手書きで書き入れたりという作業があった。
 そんなこともあって,こんなふうになっているわけであるが,これからはできるだけそういうことがないようにしていきたいと思う。

坂本会長

 それだけ日本語は厄介だということなんだろうと思う。
 いかがであろうか。

長尾委員

 第1委員会,第2委員会の内容について,いろんな問題点が指摘されているが,この問題点についてはいろんな例示がなされていて,こういう例があるから問題だというふうになっているわけだけれども,こういう問題になる例というものをできるだけ網羅的に挙げて示さない限りは,本質的な問題が見えてこないんじゃないか。
 確かにある特別なイグザンプルの場合には,こういうふうに問題があるということは簡単に挙げられるけれども,それじゃすべての問題はどうか,それぞれの問題について,例えばどういう敬語の乱れがあるかとか,漢字の問題でも混乱に陥っている文字はどれとどれであるかということをきちっと挙げないと,本当の意味でのきちっとした理論,あるいは解決ということができないのではないかという気がするので,審議会あるいは委員会としてはそういう方向の努力をすべきではないかと思うが,いかがか。

坂本会長

 御指摘の点は,現実の問題になると,なかなか難しい点があるのかとは思うけれども,いかがであろうか。

水谷(第2委員会)主査

 ごもっともだと思う。どこまでやれるかは別にしても,やり方としては,そういう方向で努力すべきだと思う。

坂本会長

 一応100点満点の答案ができるかどうかは別として,考え方としては,そういう考え方で努力するという御回答もあったので,御了解いただけるか。
 せっかくの機会であるから,ほかにどうぞ。

山口委員

 第2委員会の方の報告を大変興味深く拝聴していたのだけれども,水谷主査が,今後の方向ということで皆さんに伺いたいとおっしゃってくださったので,2ぺージ目の上から四つ目の○であるけれども,「ワープロ等の情報機器が急速に普及したのは近年のことであり,こうした機器が人々の書記能力,文章表現力,思考力にどのような影響を与えるかについては今のところ未知数である」とあるが,これは是非調査していただけると非常に有り難い。ワープロを使うと,どのくらい漢字能力が落ちていくのかとか,そういうことを知ると,ワープロがやがて学校教育にも採り入れられていく可能性もあるので,私などはそこら辺を調査していただきたいという感じがする。
 と言うのは,英米の人に比べて,スペルなんかは日本人の方がはるかに書けることの方が多くて,あれは機械の発達と何か関係があるんじゃないかと前から心配していたので,そこら辺は,学校教育との絡みもあるので,是非調査いただけると有り難いという気持ちでいる。

水谷(第2委員会)主査

 先ほどもちょっと申し上げたのだが,私どももそういう問題意識は持っていて,次の3ぺージのところにあるが,押上,山崎,森山の各委員に,小・中・高等学校で調査をお願いしたわけである。もしかすると私が申し上げるよりは,調査してくださった先生方から皆さんに御紹介できるような情報が出てきた方がいいかと思うが,そこにあるような,書記能力や文章表現力,思考力に関してのいろんな興味深い意見が出てきている。
 ただ,この調査はワープロが好きな先生方にお願いしてやっているので,そうでない人たちはどうなのだろうか,違う環境の学校ではどうだろうか,時間をかけた場合にどんな結果が出るだろうか,そういうことを考えていくと,相当大規模なきちんとした調査をしないと軽々しく意見が言えないということが分かってきて,少なくとも方向としてはどこかで――そう言うと,きっと国語研究所でやれと言われるかもしれないが――やらなければいけない重要なことだと認識している。
 もしお三方の委員の方から,今の件に関して何かコメントがおありだったらいただけるといいかなと思うが,いかがか。

韮澤国語課長

 コメントがあったら,おっしゃっていただけないか。

押上委員

 私は小学校である。御依頼があったので,調査項目を立てて今お話の3点で依頼をした。実は,文部省が,小学校にコンピュータ22台,中学校40台という方向を定めて,今後,この点での強化を図るという施策があることは御案内のとおりである。全国的には,小学校の場合はまだ普及率が非常に低いわけで,東京の場合でも,実は22台設置されている区というのは,私の知るところでは1区しかない。十数台入っている区市が五,六区市の状況である。私は世田谷区であるが,世田谷区の場合は,各学校に来年度8台入れるという状況である。
 したがって,この調査依頼をいただいた時に,全国で先導的というか,先進的に進めている学校で,しかも,この道にかなり堪(たん)能な教職員が配属されている学校をピックアップして調査をさせていただいた。ただ,その場合も小学校の場合は,触る,慣れる,親しむという方向であるので,言語にかかわっているソフトがほとんどないわけである。そういうわけで,NHKでお作りになったものやその他のソフトを使って,あるいは自作のものを使ってという状況であった。
 したがって,この点について調査を進めていくということの必要性は十分に分かるが,若干時期尚早かなという考えを持っている。

坂本会長

 いずれにしても,国語審議会としては,そういう方向を把握して進まなければいけないんじゃないかということは,覚悟するというのは言い方が穏当でないかもしれないけれども,ある程度覚悟する必要があるのではなかろうか。

林(雄)委員

 私は通信社の編集部にいるのだが,編集は電子編集と言って,スクリーンで編集するようになっている。全社的にそういうことを始めて1年以上になろうか。それから言うと,もちろん科学的な調査をやったわけではないが,若い記者の書く能力――ワープロでどんどん記事を書かせているが,誤字の率は確実に増えているし,筆記のスピードは落ちている。会見などでメモを取る速さは落ちている。我々は電子編集のためにワープロで記事を書けということを社の方針として強制しているわけであるが,そういう意味で言うと,自筆で書く能力は明らかに落ちているし,間違った字を書く率も増えていると思う。
 また,ワープロの場合は,同音異義語がいつも変換の場合に問題になるが,似たような同音異義語で,どっちが正しいか分からないというケースの場合に,変換ミスを見付けることの能力が若干落ちてきていると思う。私は決してワープロ反対論者ではないが,自筆で書く能力,その他漢字の識別能力はやはり落ちるかと思う。以上は我々の現状の話である。
 私,一つ質問があるのだが,私は新米の委員であるので,略字体についての考え方はよく分からないが,ワープロでは,字を打てば,正しい字,あるいは非常に字画の多い難しい字も簡単に出てくる。その場合はワープロで略字体を出す必要はないわけである。難しい字をなるべく早く,分かりやすく,覚えやすいように書かせるのが略字の意味だったとすると,ワープロだけを使う場合には,その意味がなくなってくると思うのだが,略字体そのものについて一体どういう考えで――これまでの考えとは違って,ワープロという機械を使って字が出れば,略字というものについての考え方をこれから変えることになるのか,あるいは考え直すということが第2委員会の報告の中にはあるのか。

石綿座長

 御質問の意味がよくつかめていないのであるが,どういうことなのか。ワープロでどうして略字を使うのかという御質問なのか。

林(雄)委員

 そういうことでもあるかもしれないが,書く場合に,私は略字体で非常に便宜をしているわけだけれども,略字体というものを作ってきた経過から言って,どういうものか,余りよく分からないので,ちょっと質問という形になっているのだが,難しい旧字体もワープロを打てば出てくる。そういう正しい,難しい字がワープロで簡単に書ける場合には,略字体というものを維持したり持っている意味がなくなってきはしないかということである。あるいはこういう難しい字がワープロで出るのに,略字体というのが要るのか要らないのかということである。

石綿座長

 難しい質問で,どういうふうにお答えしたらいいか,分からないが,略字というものをどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか。私がきょうお話ししたのは,表外字で,非常に難しい,画数の多い字がある。現在のところ,本当は正しい字を出したいと思っても出ないようになっていて,どうして出ないのだという質問が非常に多く来る。それはさっき言ったような事情で,ある時期のJISにそういうふうな表外字の略字を入れて,そしてそれが普及したために,そういう略字が出てきてしまっているが,もう少し時間がたてば,みんなが正字を搭載した新しいワープロを買うようになれば――そういうものが売れるかどうかは分からないけれども,そういうものが売れるようになれば,その問題は自然に解決されるということである。
 ただし,例えば「」でも,どうしても「鴎」が欲しいという御質問であれば,つまり「」が正しいので,それが出ればいいという人と「鴎」が是非欲しいという人の両方いた場合はどうなるか。いわゆるJIS規格に純粋に従う限り両方出る。その場合,「鴎」という字は必要ないのではないかという御意見なのか。

江藤委員

 わきから勝手な解釈を申し上げて申し訳ないけれども,林委員がお聞きになったのは,今座長がお答えになったような意味ではないだろうと私は思う。そうじゃなくて,もっと根本的な問題だと思う。
 略字ということになると,漢字制限というような政策を維持する必要があるかということだと思う。なぜならば,ワープロで旧字体,正字がぽんぽんと出てきてしまう。その判別能力については,現場の記者諸君に多少の問題があるかもしれないけれども,難しい漢字を機械が機械的に印字してくれる。にもかかわらず,一方で略字というものをいつまで維持している意味があるのか,電子機器の導入によって,漢字制限政策という戦後50年行われてきた政策が全く無意味化したんじゃないかということを言っておられるんじゃないかと思う。
 実は,私,たしか朝日だったと思うけれども,数年前にこの問題について短い文章を書いたことがある。そこで正に林委員がおっしゃったようなことを書いた記憶があるが,間違っているだろうか。

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