国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 協議2

氏原国語調査官

 最後に,第3次規格の話に移るが,第2水準については,先ほどもお話し申し上げたように「凜」と「熙」という2字が加わった。それから,これは一般には余り知られていないが,平成2年の第3次規格でも実は字形が随分変更されている。第2次規格で変わったということはよく話題になるが,第3次規格で変わったことはほとんど話題にならない。どういうものが変わったのかというと,資料5で言えば,4ぺージの表3の「1990年改正での字形変更」,そして5ぺージ,6ぺージにわたるけれども,こういったものが実は225字も変わっている。実際には,微細な違いである。
 なぜこういったことが起こったのかというと,「参考資料集」の71ぺージ,下から2行目からのところであるが,「この第3次規格において文字概念を表示する印刷文字は,財団法人日本規格協会文字フォント開発・普及センタ-の協力によって,同センターがリョービイマジクス株式会社に製作委託を行って作成した書体(平成明朝体)を用いた。デザインの差によって,字形の細部については第2次規格の印刷文字との差異はあるが,規定の本旨を変えるものではない。」ということで,第3次規格からは平成明朝体に変わるのである。その時に随分デザインを変えたということである。
 具体的にはどういうふうに変わったか,一つだけ申し上げる。「参考資料集」の13ぺージを御覧いただくと,17区の34に「餌」という字がある。これは何が変わったのかというと,13ぺージをよく見ていただきたいのだが,「耳」の一番下の横画がすっと抜いた形になっている。そして133ぺージの同じく17区の34「餌」というところを見ていただくと,「耳」の一番下の横画にウロコが付いている。明朝体の特微のウロコで止める形になっている。こういった細かいところであるが,フォントを作っている会社とかフォントデザインを考えているところでは大きな意味を持っているのである。この変更はどこから来ているかというと,「常用漢字表」に挙げられている「耳」の字形では,一番下の横画がすっと抜く形になっている。つまり平成明朝体を作るときに,部分字形を含めて,「常用漢字表」に挙げられている字形と同じ形にしたということがあったようである。そのような形で,実は第3次規格でも字形変更が行われたわけである。
 資料5の7ぺージを御覧いただきたい。第3水準及び第4水準ということで,現在,実際に作成のための作業が始まったところである。2年間ぐらいで第3水準,第4水準を作ろうということになっている。字種の数は,「要約」というところに書かれているように,日本工業規格JIS X 0208――これは先生方に今見ていただいたものであるが,これを補うものとして,第3水準(約2000字)及び第4水準(約3000字)の計約5000字の拡張文字集合を追加する。そういった話で動いている。
 それでは,ここには一体何が入るのか,どういう漢字が入るのかということになるわけであるが,8ぺージの一番下の行に「文字収集の典拠及びそこから追加される文字の例」と見出しがあり,9ぺージに実際にその中にどんなものが入ってくるのかということが書いてある。9ぺージの1から8までであるが,1「一般に広く使われている用字用語集で使われている記号類」,2として「高校までの教育で必要とされる漢字・記号類」,3は飛ばして,4として「地名用の漢字の内,郵政省,地方自治情報センター,国土地理協会及び国土地理院などから提供された,明確な地名典拠と読みのある地名漢字」,5として「人名用の漢字……」といったことで,重点が置かれているのは地名・人名,それから高校までの教育で必要とされている漢字。つまり今教科書に出てくる漢字でよく話題になるのは小平の「」という字で,JISの第1水準,第2水準に入っていないとか,中国の深経済特区というときの「」 という字がない。そういったことで,少なくとも高校までの教科書に出てくる漢字については,JISの規格できちんと対応するといったことで計画が進められている。
 開発期間は,そこにあるように,2年間とするということであるから,大体2年か2年半ぐらいで第3水準,第4水準を作る。その場合には,第1水準, 第2水準と一緒に第3水準,第4水準を使うことにするといった形で,拡張の計画が今動きつつある。
 以上である。

清水会長

 ありがとうございました。

清水会長

 漢字の推移というのはなかなか歴史があって,数学を解くような感じがした。
 第2委員会でいろいろ御検討いただいて,細かいところというか,いろいろ御説明があったコード作りの経緯が特に印象に残った。また第1委員会,第2委員会,それぞれの委員の先生方の御関心もいろいろあろうかと思うけれども,まず,御質問をちょうだいすることにしたい。今の御説明で,更にここのところはどういうことだというようなことが何かあったら伺わせていただくことにしたいと思うが……。

山川委員

 質問ではないが,すごく面白いと思った。こういうものは大変に勉強になるので,テレビ番組にでも――テレビでなければできないと思うが,国民みんなに教えてほしい内容であるということもしみじみ分かった。これは何とかひとつ皆さんのおカで具体化したいし,それを勉強ではなくて私たちの毎日の暮らしの言葉ということを強調して,前面に持ち出して提示化するという方向を,NHKでも何でも申し入れるべきだと思う。私は今離れているものだから。(笑い)
 それから,第1委員会の方は,「ゆれ」とか「乱れ」とかいろいろ言うが,「迷い」なんだと思う。だから,その迷いを解いてあげる。国民の皆さんが迷っている。それを解いてあげる。その解き方としてのポイントは,やはり心が伝わるのはどちらなのか。心を伝えるというのは,言葉を伝えること,正確に伝えることであるから,どうしたら心が伝わるのかを考えていく,大変大ざっぱな言い方であるけれども,そんな感想を持った。
 教えていただいて, ありがとうございました。

清水会長

 このごろの若者は,心を伝えるために新しい言葉を作ってしまうということがあるようだし,それが混乱の基になっているようだ。今のお話のように,そういった意味での基準と言ったらおかしいけれども,標準になるものをどういうふうに決めていくかというのは大変難しい問題だと思うが,どうぞ御自由に御質問なり御意見なりをちょうだいできればと思う。

俵委員

 この後, ちょっと失礼しなければならないので,先に質問させていただきたいと思う。
 私も大変興味深く,JIS漢字について伺って,なるほど,こういう仕組みで,こうなってきたんだなというのは分かった。そもそもJISの漢字を選ぶときに地名・人名に大変重きが置かれているというお話で,実際にそうだなと思ったのであるが,素朴な質問として,なぜこんなに地名・人名に重きが置かれたのか。

大島国語課長

 今,JISを担当なさっている通産省の担当官がここに来ているので,本当なら,正確にはそちらの方から答えてもらいたい気もするが,そもそもJISの場合には,現代の国語を書き表すために必要な文字というのを集めてきて,それにコードを振る。それに必要な限りでコードを振って情報交換用に使うという趣旨であるので,現代の日本語を書き表すのに固有名詞というのが必要であることから,おのずと地名・人名に重きを置かざるを得なかった。そもそもJISがどういう漢字を集めるかという方針からして,地名・人名に重きを置かざるを得なかったというふうに私どもは理解している。
 ただ,第3水準,第4水準を作ろうという動きが出ているけれども,特に人名関係では,先ほど説明があったように,日本生命の人名表というのが非常に決定的な意味を持った。しかしながら,考えてみると,例えばNTTの表外漢字の資料があるが,それも5000字ぐらいあるわけで,人名用漢字がかなり不足しているということが,第3水準,第4水準をお考えになるときの一つの大きな理由になったんじゃないかと思っている。
 したがって,今後,JISの方で第3水準,第4水準を作るときも,更に固有名詞の関係を増やす方向で文字をお集めになって,コードが振られるのではないかという予測をしている。

俵委員

 ありがとうございました。私,ちょっと早口で言ったので,言い方がうまくなかったかもしれないが,地名・人名が大事ではないとは全然思っていないのであるけれども……。
 ちょっと余計なことかもしれないが,ワープロで変換される人名というのは機種によって随分違うというか,なぜこの名前が変換されて,この名前が変換されないのかなという,かなりばらつきが感じられて,あるとき,このワープロはなぜこんな変わった名前まで変換するんだろうと言ったら,それは社長の親戚にそういう名前の人がいるんだと気軽に言われたことがあって,今日の問題とはちょっと違うかもしれないが,ワープロでは何を基準にしているのか分からないなということを日常の中では感じたりしている。

三次委員

 今の俵委員の御意見はもっともだと思うが,ワープロでは,JISの規格というのが絶対的な権威を持っているわけである。したがって,第1水準,第2水準までが大体現在のワープロに共通して実装されている文字だと思う。その中身は,先ほど御説明があったように,5年ごとぐらいに変わっているけれども,JIS規格ということで,各ワープロのほとんど絶対的な規格になっているので,全体として入っている文字は余り変わらないと思う。だから,ワープロの機種によって変わるとか,社長の趣味によって変わるとか,そういうことはないんじゃないかと私は思っている。

井上委員

 今のことであるけれども,半分は私の考え方を述べて,それから御質問をさせていただきたいと思う。
 なぜ固有名詞が重視されたか,社会言語学的に考えれば,ワープロの普及の初期,片仮名しか使えないときに,何のために片仮名が使われたかというと,実はあて名書きに使われたわけである。ワープロが普及するときに買った人は,住所録なんかを作って,この字は出るとか出ないとか騒いだわけなんで,それを考えたら固有名詞を重視するのは当然だったわけである。
 それから,法規的に見れば,文部省で騒いでいたのは,常用漢字や一般的な用字についてであって,その時に固有名詞に関しては結局別扱いにしたのである。固有名詞に関しては,今度は法務省の扱いになってしまって,JISで入れるときに,固有名詞で使われている限りは幾ら入れても国語審議会では文句を言えなかったわけである。しかしながら,固有名詞でない一般の漢字についてたくさん入れるとしたら,国語審議会としては,何でそんなに入れるんだ,常用漢字で十分じゃないかということが言えたということである。以上のようなことがあったんじゃないかと私は推測している。
 そこで質問であるが,通産省の方においでいただき,大変有り難いと思う。この「漢字字体関係参考資料集」を予習したが,あちこちでびっくりした。言語学とか文字論の立場から言うと,こんなことは考えられないというところがあった。文部省側では,国語審議会なんかが一般的な人の考え方を吸い上げているのであるが,通産省というか,JISの方ではこれを作るときに何をやったんだろうかと思って愕(がく)然としている。幸いにエイズと違って死者は出なかったが,過去にこんなことをやったのかと思い,びっくりした。
 例えば,ローマ字についての定義を見ると,「英語及び西欧語を書き表すときに,主な構成要素となる表音文字」なんて書いてある。第3水準・第4水準関係の資料の中では,名前もローマ字でなくラテン文字と書いてあって,いいのだけれども,アルファベットをローマ字と呼んでいることもおかしいし,ローマ字と呼んだ上で,日本語じゃなくて外国語を書き表すために使われる文字だと書いてあるのもおかしい。日本語を書き表すためには,漢字,仮名以外にローマ字もあるわけで,それは国語審議会でもちゃんと規定しているのである。だからローマ字に関してはどうも視野が狭過ぎると思った。
 振り返ってみると,名前の付け方も変で,漢字符号と称しているのに,最初の方には,ラテン文字,キリル文字,ギリシア文字も入っているし,特殊文字も入っている。これが漢字符号の中に入っている。それなのに,この間も申し上げたが,ローマ字の長音記号「^」とかが全然入っていない。今回の第3水準に入るらしいということは分かったのだけれども,そもそも出発の時に間違っていたんじゃないかと思う。ローマ字の長音記号については最初から入っているべきだったんじゃないかと思う。しかも半角,全角両方がそろうべきだったのではないか。そのために,私の観察では,ワープロつづりと言われるローマ字つづりが普及したんじゃないかと思っている。例えば,「オー」というのに「OU」とつづる。そういうのが普及したんじゃないかと思う。

井上委員

 それで質問であるが,第3水準に入った長音を第2水準の方に移すということは,空いているところがあるようだから, 可能かどうかということである。ワープロメーカーでは,結局, 第1水準, 第2水準の漢字しか入らないようなワープロを売っているようで,第3水準で取り入れられても,ワープロメーカーではなかなか採用できないということも聞いている。そうすると,質問は二つになるけれども,ワープロメーカーでは,第3水準,第4水準の漢字もワープロに入れる計画があるか,その実用性はどうかということを最初に伺いたい。これからワープロは第3水準も入るんだ,ISOのユニコードも入るんだということになれば,第2水準に移動する必要はないと思うけれども。
 先ほどの説明から離れるが,第2委員会の方も,漢字,漢字と言っているけれども,日本語の正書法に使われるのは漢字だけではないので,もうちょっと視野を広げていくべきじゃないかと思う。
 そこで,二つの質問についてどなたかにお答えいただきたい。ワープロメーカー又は通産省の方に,第3水準,第4水準が実際に普及するのかどうかを伺いたいと思う。

小田(工業技術院情報電気規格課)

 私は担当レベルのものであるから,こういう場で発言させていただくのは恐縮であるけれども,今第3水準, 第4水準を担当させていただいているので,是非使えるもの,是非使っていただきたいということを前提に議論している。まず,案を作って,駄目だったらあきらめて捨てるぐらいの覚悟で取り組もうということで,委員会で一緒に議論させていただいている。
 それから,ちょっと話が前に行って恐縮であるけれども,規格名称と技術内容の適切さについてコメントをいただいたので,ちょっと回答させていただく。規格名称は,規格の中の規定内容が一番分かりやすいようにということで,用語の数とか規格名称を定格的に表すということで,この規格の場合は漢字というものが大きな集合であるということで,不自然さはいろんなところから指摘されているところであるけれども,このようになっている。
 このような感じでよろしいか。

三次委員

 私,富士通から来ているので,ワープロを作っているという立場で,多分こうではないかという――決まっているとか何とか,そういうことは申し上げられないけれども,ちょっとお答えに努力してみたいと思う。
 まず,字数が相当増えるので,それだけ入れる記憶装置のスペースがあるのかどうかということが一つ問題になると思うが,技術の進歩で記憶容量がどんどん増えているので,今回第3水準, 第4水準ということで5000字増えるということであるけれども,そういう面については,一般的に言って,それを入れる入れ物の方のキャパシティーは増えるだろうと思う。したがって,入れ物が非常に窮屈なので,入れたくても入らないということはなくなるのではないかと思う。
 それから,従来のこれに相当するところで補助漢字というのがあって,第1水準,第2水準,補助漢字というふうになっていたが,補助漢字についてはほとんど実装したワープロがなかったということも事実だと思う。ただ,この補助漢字については,私の感じでは性格があいまいであって,位置付けがはっきりしていなかったのではないか。今回は,第3水準,第4水準ということで,かなり性格がはっきりしているので,多分業界としては受け入れるのではないだろうかという感じがする。メーカーの立場では,たくさん売れるものを作りたいわけであるから,特殊なものを作るということはやりたくないわけで,この規格が世の中のニーズに合っていれば自然と受け人れられていくのではないか。
 一般的であるけれども,私の感じではそんなようなことである。

氏原国語調査官

 私の方からもお答えを申し上げたい。
 先ほど資料5の7ぺージのところ,「JIS漢字の拡張計画」について,時間がなかったので,ほとんど御説明しないままに終わってしまったので,申し訳なかったと思っているが,まず井上委員の御質問の中で,第3水準に入るものが,例えば第2水準に入れられるのかどうかということがあったと思う。
 これについては,資料5,7ぺージの「要約」の第2パラグラフに,「今回追加するJIS漢字コードの拡張文字集合(新JIS漢字コード)は,JIS X 0208――これが今までの第1水準,第2水準のことである――の文字集合を補い,JIS X 0208が当初符号化を意図していた,現代日本語を符号化するために十分な文字集合を提供することを目的として設計する。そのため,JIS X 0208と同時に用い,JIS X 0208を補完するものとし,また,現状の使用環境で直ちに実装できるように,第3水準及び第4水準として追加する」とある。これは第1,第2水準と一緒のときだけ第3,第4水準を用いる。つまり第3,第4だけで単独に用いることは考えられていない規格である。このことは8ぺージの「開発の方針」の「運用」の項に明記されている。そうすると,第3水準のうちの一つあるいは幾つかだけを第2水準に入れるということは,第2水準そのものの変更ということになってしまうので,そもそもそういうことは設計段階から考えられていないわけである。

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