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次第・議事要録 第2委員会における論議の概要について1

清水会長

 第1委員会関係については,また後ほど御意見を少しちょうだいすることとして,ここで,第2委員会の方の御論議について御報告いただきたいと思う。水谷主査,よろしくお願いする。

水谷(第2委員会)主査

 それでは,第2委員会の論議の概要について御報告申し上げる。
 御報告の中身は,一つは,資料2にある論議の概要を中心とした全体にかかわる問題についての御報告,もう一つは,この事柄に深く関連しているJIS規格の漢字の字体に関する実態についての御紹介である。二つ目の方は小林副主査の方から報告をさせていただきたいと思っている。
 資料の冒頭から読ませていただく。「第2委員会は,先の第4回総会以降,3月24日,4月15日及び5月12日の計3回開催され,「第2委員会における検討事項」に掲げられた項目について更に論議を重ねた。以下に,これまでの論議の概要を報告する。」。
 これは3ぺージまで続いているが,この中身は,実は前回までこの場でしてきた「論議の概要」の報告とは少し性格を変えてある。前回までは,委員会の中で出てきた意見を列挙する形で,こんなことが出たと報告したが,今回は,この後,答申に向かってその原案を作っていくためにまとめる方策を考え,そのための柱立てを用意して,その柱立てで全体を構築し,その枠組みについて総会で御意見をたくさんいただいて,今後の委員会での討議に役立たせていただくという発想でまとめたものである。
 したがって,中身としては,1の「総論ににかかわること」の部分と次のぺージの2の「代表字体の選定にかかわること」の二つの部分に分かれているが,そこにはある意味では目次のような形で中身が柱として立ててある。今日一番お願いしたいことは,こういう観点に従って記述していくやり方で穴はないだろうか,こういう見方を用意しないと,説得力のある,あるいは受け入れてもらいやすい答申にはならないのではないかというお考えをお出しいただけたら一番有り難いという,そんな気持ちで用意したものである。
 それから,今の冒頭の部分の「なお」以降であるが,「なお,代表字体選定のための作業を8月から9月にかけて集中的・効率的に行うため,第2委員会の中にワーキンググループ(字体小委員会)を置くこととした。メンバーは主査の指名により,樺島,輿水,前田の各委員及び主査・副主査で構成することになった。」。8月1日及び8月11日,12日,この時期から集中的な作業をそのメンバーによって進めたいと思っている。いろんな貴重な意見を既に今まで委員会の中でいただいているが,ある意味では整合性を保つために,あるいは資料としての適切性を模索するために,さらに, 案として提出できる具体的な素材を理屈の通った形で列挙していく形で進めていきたいということで,ワーキンググループで作業していきたいと思う。
 四角い枠の中に,今までの了解事項というか,基本方針として,こんなことでやっているということをまとめたものがある。「現実の文字の使用状況(ワープロ等の表外漢字における字体問題を中心として)を整理し」――言葉が足りないが,ここは本当は「現実の文字の使用状況について分析・整理を行い」としたいと思うのだが――その上で「漢字の字体問題に関する基本理念を提示するとともに,併せて,代表字体を示すという方向で答申をまとめることとする。」。
 もともとこの問題が表面化し,課題として取り上げられた理由は,ワープロ等で森おう外の「」が「鴎」で出てきて,「」は出ないとか,機種によって「」が出たり「鴎」が出たりする,というような問題が存在するということであり,その混乱状況をどうすべきかということで審議が始まっている。これまで調査活動あるいは検討活動を続けてきた結果,問題点はかなり表面に浮かび上がってきて,ある意味では一定の範囲の問題だということが少しずつ見通しが付いてきた。もう一方では,それにしてもそれを解決するためには社会的に犠牲を伴う可能性もある。どのような妥当性の高い解決案を用意するかということが今大切だと思っている。
 二つの部分に分かれた「1総論(基本理念)にかかわること」も,読みながら話を進めさせていただく。
 「(1)表外字における字体問題の経緯(国語審議会で取り上げる理由,JIS規格との関係)」とあるように,JIS規格等について触れた上で,考えなけれならないであろう。
 「(2)検討範囲(印刷文字のうち,JlS第1・第2水準の表外字を中心に検討する理由)」。なぜそこに焦点を絞ったかということについても触れる必要があるであろう。
 「○手書き文字や低画素数の文字のことは別とする。」は,ここに書かれるべき事柄の一つであるが,どこまで答申として打ち出す――例えばある決まりを用意するのであれば,その影響が及ぼされるべき範囲はここまでですよということを明記する必要があるであろう。これは実は前期の報告の中にも同じようなことが言われているのだが,低画素数の文字のことは別にする,手書きの文字のことも別にするという打ち出し方でいいかどうか。低画素数というのは,御承知のことと思うが,新幹線の電光ニュース,あるいはタクシーでも最近見掛けるようになったが,ああいったような画素数の非常に少ないものの場合だと,漢字によっては点画が省略されたり,簡単な形に変えられたりということが実際に行われている。そうせざるを得ないような状況があるわけで,そういうところまで及ぼすものではない,検討範囲としてはここまでだということを言う必要があろう。

水谷(第2委員会)

 「(3)適用範囲」。実際にこの決まりを使う範囲としてはどうであろうか。
 「○従来の内閣告示・訓令のように,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活における漢字使用を対象とし,各種専門分野及び固有名詞(人名・地名)等は対象にしない」。そういう行き方でいいのだろうか。第2委員会全体の雰囲気としては,今そういう感じで話合いが進んできているけれども,本当にそれでいいんだろうかということを,更にきちんと詰める必要があると思っている。専門分野の問題や固有名詞の問題を考えるに当たっては,それを考えることに意義があるかどうか,あるいはそれを考え切ることができるかどうかということが課題として存在しているはずだと思われる。
 「(4)基準の性格」。しからば,性格は一体どういうものになるのだろうか。その下に○が二つあるが,対照的な二つの立場を列挙してある。上の○は「緩やかな目安にとどめ,実際の運用はそれぞれの分野にゆだねるものとするか。」,あるいは次の○のように「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送などの分野では,できるだけこれに従うというような規範性を持たせたものとしたらどうか。」。多分,このどちらかに決めていかなければならないはずである。
 「(5)表外字を扱う基本姿勢」としては,国語審議会の基本的な立場とも言えるのだが,「@過去の漢字政策との関係」をどう位置付けるか,「A現代の文字生活における常用漢字表の意義」,「B検討範囲外の表外字についての考え方」ということである。ここで言っている「検討範囲外」とは,(2)のところで「検討範囲」を一応言っているように,JISの第1,第2水準のところまでを当面の検討範囲にするという考え方で今検討を進めてきているが,先ほども庶務報告の中で報告があったように,JISが今後規格化しようとしている第3水準,第4水準といったものも含めて,その先の文字,表外字についてはどう考えるのかということも示さなければならないであろう。
 次のぺージへまいって,「(6)字体・字形・書体の定義とその考え方」。今期の答申の中では,第2部としてその具体的な中身について述べられることになると思う。総論となる第1部についても当然そうなのだけれども,使われる言葉について,――作業を進める段階においても大切なことであるが,――字体とか,字形とか,書体といった言葉についてのきちんとした定義付け,概念の確認をした上で進めていかなければ,あいまいな結果が生まれる可能性がある。だから,このことを重く見,そして大事にしたということを答申の中でも述べることになるであろう。
 具体的な例としては,「@筆写体と活字体との関係」。「A関係する用語の定義。「標準字体」「許容体」「通用体」「異体字」「代表字体」等」。例えば,「」を「代表字体」あるいは「標準字体」とし,「鴎」を「許容体」とするというような対応関係を基本として,一つの考え方を示していくことになるわけだが,その言葉の持つ意味は何であるかということについても,きちんと定義を記述しておく必要がある。
 「B康熙(き)字典体の位置付け」はどうであろうか。常用漢字表では「いわゆる康熙字典体」という言葉が使われているけれども,今回も「いわゆる康熙字典体」という言い方でいいのだろうか,あるいは「康熙字典体」というものに依存するやり方の意義はどうなのだろうか。
 「C「字体の差」と「同一字体におけるデザインの差」」。これは大きな問題の柱になる。「鴎」か「」かという例が挙げてあるが,これが字体の差であるとすると,「言」の一画目が横の棒か縦の棒か斜めの点かという差は何なのか。この二つの違いは,字体の差とデザインの差というふうに扱っていいのかどうか。この辺りについては,委員によっても考え方に差があるようである。第2委員会の中だけではなく社会全体に様々な考え方があるようで,「言」の一画目の形状については,ある人たちにとっては字体の差であり,ある人にとってはデザインの差にすぎないという見方があるわけである。このような問題についてもきちんとした定義付けをして進めなければならないであろうと考える。
 「(7)その他関連する事柄」として,まず,「@固有名詞に用いられる漢字の字体についての考え方」。アとイは対立する考え方である。
 アの方は「今までの審議会の基本方針(固有名詞は対象とせず)をもう一度世の中に示す。」というもので,例えば「検討した上で答申では標準を示さないということにしたらどうか。」。
 それに対して,イは,「JISとの関係もあり,固有名詞に踏み込む。(ただし,どこまで踏み込むか,報道関係での扱いにまで言及するかは検討の必要がある。)」。その際の例として,「固有名詞は一般名詞と区別して扱うという方針を立てるか。」。人名に用いられる漢字の場合,例えば,「高」と「」とがあるが,この二つの字などに見られるように,意味は同じだけれども,別の字体であるいう認識で,異体字のグループとして別の枠組みを考える,そういう形もあるのではないか。固有名詞の問題を扱うとすればということだけれども,そうしたらどうだろうか。あるいは固有名詞として使う場合にだけ問題になる漢字にはどんなものがあるのかをきちんと見極めておく必要があるであろう。これは出された意見から関連するものをちょっと列挙したものであるが,このようなものを土台にして中身を詰めていくという段階にある。

水谷(第2委員)主査

 Aの「学校教育との関係」で,「ア.生徒が常用漢字表の枠の中で学習生活を送るという基本線は堅持する。」。これは「堅持する」と言い切っているが,そのことを委員会の中でも,あるいは総会の中でも決めていかなければならない。そういうプロセスが予想されるわけである。この場合の「生徒」というのは,もちろん児童・生徒で,義務教育の段階の子供たちということになると思う。
 イは「「国語科における漢字教育」及び「教科書の表外字」との関係」。国語科で行っている漢字教育の内容とほかの教科書等に表れてくる漢字とは,全く一致しているわけでなくて,表外の字が随分使われる。使われ方もいろいろあるようである。この辺についても意見を出さなければならないであろう。
 Bは「国際社会との関係」で,「国際的な文字コードの問題などにどの程度言及するか。」ということがある。作業の中身,あるいは対象とする領域が非常に限られたとしても,この問題は,ただ単にワープロ等から打ち出される文字の問題だけではなく,国際社会における今後の日本語自体の在り方というものに当然かかわってくるわけであるから,それを見通した上での考え方,判断というものが求められるに違いない。中国,韓国,台湾を含めて,あるいは世界のほかの国の文字のコード問題とも関連して,一定の流れの中で私たちの判断の姿勢が求められていると考える。
 こういったような全体の基本理念にかかわることについての部分――今例として挙げたようなものは,実は今まで挙がっていた意見の中から具体例をかなり落としたもので,枠組みとしては,こういった内容で,総論,考え方を用意しようというふうに考えている。この点についても,こういう見方も織り込んでほしいという御意見を今日賜れれば有り難いと思っている。
 次に2の「代表字体の選定にかかわること」について御説明申し上げる。
 <選定に当たっての基本方針>が,枠で囲って示されている。「前期の報告内容を踏まえ,現実の文字の使用状況(使用習慣,頻度,目慣れなど)を尊重して決定する。なお,「字体の差」と「同一字体におけるデザインの差」とは区別して扱うという方針で検討する。」。
 これは今のところ合意が得られている方針であり,この方向で作業を進めていく。特に代表字体の選定ということ――当初あった問題,すなわち,一つの文字に二つの字体が使われることがあり,一般の人々が困っているという現実があったわけで,その問題を解決するために代表字体を一つに決めようということを作業の目標とするわけであるから,そのためにはデザイン差の問題と字体差の問題とを区別することを前提として進めなければならないということが,今,合意として考えられているわけである。もっとも,このことがすべての問題に適用できるかどうかというのは,決して容易なことではなく,恐らくこれからワーキンググループで一つ一つの文字について徹底的に検討していくと,考え方を修正することも起こるかもしれないということは予想している。
 「(1)選定の方針にかかわること」の@は,「JIS漢字の位置付け及び扱い」である。
 「ア.JIS規格で問題となる漢字の確認(第2次規格(昭和58年)での字形変更との関係等)」は,第2次規格で字体が変わったものがあることが現在の問題点の出発点になっているということで,前回までの総会の中で繰り返し御報告したかと思う。
 「○ワープロの略字体を康熙字典体に戻すか」,「○ワープロの略字体は許容体若しくは通用体として認めるか」というような議論をするためには,JIS規格で問題になる漢字について確認をする必要がある。
 次のぺージヘ移る。「(2)選定のための基本的な考え方」。アは,可能な選択肢として何があるかということで,@からCのようなものが考えられる。

@表外字で略字化できるものはすべて略字化する。
A基本的に略字化するが,略字化を及ぼさない例外を定める。

 @は,常用漢字の外にある漢字について,例えば冒の「」という漢字などについて,略字化できるものはどんどん略字化していってしまえという考え方が一つあり得るということである。しかし,基本的にはそうしても,ここまではやり過ぎだ,冒の「」まで「涜」とするのは行き過ぎであるから,略字化を及ぼさない例外を定めるというのが,Aに当たるものである。

B表外字はすべて康熙字典体とし,略字体は一切認めない。

 現在のJIS漢字には,表外字の中に,後ほど小林委員の方から具体的な例をもって御紹介するが,略字体が採用されているものがあるけれども,それも全部元へ戻せ,康熙字典体に戻せ,略字体は許さないというのがBの考え方である。

C康熙字典体を本則とし,略字体を許容する。

 実際に世の中で,広く使われている略字体は,認めようじゃないか,許容しようではないかという考え方である。
 これら四つの柱――もっとあるかもしれないが――, こういう行き方の中のどれかを選択することになると思う。固さという点から言えば,Bが一番固く,Cがそれに続き,Aが続き,@が一番緩いということになるだろう。

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