国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 新しい時代に応じた国語施策について

清水会長

 それでは,議事に入りたいと思う。
 本日は,「新しい時代に応じた国語施策について」について,審議経過報告という形で,文部大臣に報告申し上げるということをあらかじめ御了解いただきたい。前回の総会の後,ただ今庶務報告にもあったように,第1委員会は3回,第2委員会は小委員会も含めると実に8回という大変精力的な御審議をしていただいた。また,御案内のとおり,第1,第2の合同委員会を,委員会に所属していない委員にもできるだけ御出席いただくということで,6月4日にやらせていただいた。
 本日の報告案は,その時のいろいろな御意見を踏まえて,更に6月11日と12日に第1委員会,第2委員会を開いていただき,また小委員会などもお開きいただき,御検討いただいたそのまとめである。両委員会の委員の先生方には大変な御苦労をお掛けしたわけであるけれども,その最終的な報告案についての概要の御説明をちょうだいして,それから,御了解を得たいと思う。よろしくお願い申し上げる。
 まず,北原主査から第1委員会の報告案についてお願いをしたいと思う。

北原(第1委員会)主査

 それでは,第1委員会関係の御説明を申し上げるが,御承知のように,今期の審議会では第1委員会と第2委員会を設けて,それぞれ敬語を中心とする言葉遣い,主としてワープロ等における字体の問題について審議してまいったわけである。私はその第1委員会の主査を仰せつかった関係で,「現代における敬意表現の在り方」の概要を御説明申し上げる。
 敬語の問題は,前々期の第19期で「現代の国語をめぐる諸問題」を検討した時から,言葉遣いの中心課題として取り上げられてきたわけである。前期の「言葉遣いに関すること」という議論の中でも,特に敬語について,昭和27年の建議「これからの敬語」の見直しを中心に議論を続けてまいった。その2期を受けて,今期は,最初から敬語に絞って言葉遣いの問題を検討したということである。
 今日の社会において敬語が必要なのはなぜか,あるいは実際に敬語が使われているわけであるけれども,それはどういう効果があるのか,そういうことを考えて,第1委員会では,その理由を敬語はコミュニケーションを円滑にするためのものであるという観点に紋って考えることとした。
 第1委員会の議論の中で,コミュニケーションを円滑にするということは,相手とのいい関係の下でお互いの考えを伝達し合うことであるが,そのためには狭い意味の敬語だけではなくて,いろいろな配慮の表現が使われている。したがって,それらの配慮の表現も含めて検討しなければならないという意見が出されて,そういう方向で考えてまいった。
 これから具体的な標準を示す必要があるわけだけれども,その場合に,敬語という狭い範囲であると,正しいとか誤りであるというようなことを割と容易に示せるけれども,いろいろな配慮の表現ということになると,標準を示すのはかなり難しいかと思われる。そうは言っても,時代はそういう時代であるということで,その辺を全部踏まえて考えるというのが,それこそ国語審議会の仕事ではないかというようなことで,共通認識をしたわけである。
 コミュニケーションと言ってもいろいろなものがあって,話す相手が非常に親しい関係にある場合には,敬語を使わない方がかえってうまくいくなどということもある。このことは前期20期の報告でも指摘してあるけれども,敬語を使うということは非常に難しいわけで,これは単に上位の人を敬うというだけではなくて,親しいか親しくないかという観点,改まっているか打ち解けているかという場面の観点,話し手自身の品格を示すというような観点,こういう辺りも必要になってきて,上下関係とか目上・目下という単一な観点からはとらえ切れない面がある。
 第1委員会のまとめたものは「現代における敬意表現の在り方」ということで,これを大きく三つに分けてある。今日,配布されている案を御覧いただきたいと思うけれども,Iが「コミュニケーションと言葉遣い」,Uが「敬意表現の在り方」となっていて,もう一つ,Vとして「現代敬意表現の使い方」というところで具体的な標準を示すことになろうかと思う。この3部の構成で答申をまとめるべきではないかと現時点では考えているわけであるが,今期はそのIとUをまとめたというところである。Vは22期に期待するということである。
 この報告案にまとめた「敬意表現はどうあるべきか」という理念であるけれども,いろいろ御審議いただいて,「敬意表現は非常に多様である。その多様性を積極的に認めて,これは我が国語の豊かさの一つであるというふうに認めて,そういう多様な中から一人一人が自分で納得できる表現,言い方を選んで,自分の人格を伴った表現として使っていくことが現代にふさわしい。」というふうに我々は考えた。言い換えると,豊かさと自由,選択は一人一人の自己責任において行う。今は既に成熱した社会であるというふうにとらえて,その中に住んでいる個人というとらえ方で,一つの言い方だけを押し付けるというような狭い考えは採らない。こういう敬語あるいは敬意表現を各人が使うためには,国民一人一人が現代の社会状況とそこでのコミュニケーションの大切さをしっかり認識して,言葉に関する意識を一層深めていくことが大切だろうという考え方である。
 こういう考え方に立って,教育の方面では,敬意表現を含めた言葉遣いの能力を醸成するようにしていかなければならないというようなことも,「付」で述べている。
 これが第1委員会関係のまとめということである。

清水会長

 それでは,御質問は後ほどにして,第2委員会の水谷主査から御説明をお願いする。

水谷(第2委員会)主査

 初めに,第2委員会の委員の先生方の御苦労,それから委員会に属していないほかの皆様からの御助言など,いろんな形でお力添えをいただいて,やっとまとめることができたということについて御礼を申し上げたいと思う。
 一言で,もし今の成果を評価するとすれば,来期の審議へ向けての土台作りができた,お城の石垣がやっとできたという印象を持っている。書籍等における文字使用の実態調査を手掛かりにして試案を構築していった。来期には違った視点からの検討を重ねていくにしても,これが基礎になると信じている。
 この内容については,総会の中で,今までにほとんど御紹介してまいった。表現等について修正に努力したところはあるが,ほとんど変わっていない。念のために御確認いただくために,繰り返しになるけれども,全体についてざっと触れさせていただきたいと思う。
 資料の15ページの「第2表外漢字字体表試案」というところの冒頭部分に,「この試案は,常用漢字表にない漢字(以下「表外漢字」という。)の字体問題について,次のような基本方針に基づいて作成したものである。現実の文字の使用状況について分析・整理し,表外漢字の字体問題に関する基本的な考え方を提示するとともに,併せて印刷標準字体を示す。」とある。
 少し飛ばして,「なお,この試案については,本表に掲げる印刷標準字体・簡易慣用字体の細かい字形の検討など幾つかの問題が残されている。これらの問題は次期に継続して審議を行い,「表外漢字字体表」としてまとめることを予定している。」。これが今期報告の基本である。
 そして,次の16ぺージの経緯等について述べた中で,下から3分の1程度のところに,簡易慣用字体の選定に当たっての姿勢について触れている。「この簡易慣用字体の選定に当たっては,字体問題の将来的な安定という観点から,特に慎重な検討を行った。なお,今期審議会は,次に述べる「漢字出現頻度数調査」の結果に基づいて簡易慣用字体を選定し,表外漢字字体表の試案としてまとめているが,簡易慣用字体の選定については,次期審議会において更に検討する必要がある。」という形で触れている。
 繰り返しになるが,その次のところにちょっと書かれているように,3750万9482字という漢字の出現頻度数調査を凸版・大日本・共同の協力の下に実施し,それに基づいて進めたということが述べられているが,この作業を進める過程でいろんなことが分かってきた。予想することのできたこともあるが,数値的にはっきり出てきたことによって,その問題点が明らかになったこともある。
 17ぺージの下から二つ目の「しかしながら」で始まる段落の中で触れているが,現代の文字生活において,漢字使用全体に占める表外漢字の割合は,決して高いものではない。例えば,同調査のうち,凸版印刷が行った調査によれば,常用漢字の1945字だけで,対象漢字延べ数2236万642字――これは名簿に出ている漢字を除いたものであるが――の96%を占めていることが確認された。残りは4%である。表外漢字は,人名漢字を入れても4%にすぎない。その4%から更に人名漢字の分を除くと,2%台にすぎない。量的には非常に少ない。ところが,一方で字種の数では5000字近くある。だから出現頻度は低いけれども,字の種類としては多いという表外漢字の使われ方の特徴を端的に示しているわけで,表外漢字は単純に頻度数だけでは処理できない面もあるということが分かってきた。
 そういったような問題が幾つかあるが,頻度数を基にして調べていったやり方が一つの発見をもたらした。それはよかったと思っている。

水谷(第2委員会)主査

 それから,全体の漢字の拾い方について,18べージの冒頭から半分近くの部分のところに,この字体表の適用範囲と字体表が示す字体の範囲について紹介してある。
 (1)の「適用範囲等」については,「表外漢字字体表は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送等,一般の社会生活において,表外漢字を使用する場合の字体のよりどころを印刷標準字体と簡易慣用字体とに分けて示すものである。」という形でとらえているわけである。すなわち,この表は,芸術,専門分野,あるいは個々人の字体使用に立ち入るものではなく,それから,飽くまで印刷標準字体であって,手書きの場合を拘束するものではないという前提に立って進めてきたわけである。このことも前からずっと通して総会の場で御紹介してきていて,御確認をいただいている。
 (2)の「表外漢字字体表が示す字体の範囲」では,検討対象とすべき漢字として,常用漢字は対象外としたということは基本的な方針であった。それから,人名漢字については,法令で決められて施行されているという意味でも,常用漢字に準じて対象外とすることが妥当であるという判断をして進めてきた。
 その上で,漢字出現頻度数調査で,常用漢字に準じるような頻度数を示す表外漢字を対象としたわけである。これがその後の文に書いてあって,具体的には凸版の調査で頻度数順位の3200位以内の表外漢字を一応の範囲としたということである。
 表外漢字の中で,常用漢字とかなり接近して同じように使われているという枠をまず調べた。それに,18ぺージの真ん中から下の方にかけて書いてあるように,別の観点からの漢字を補って検討対象の範囲を定めた。その中から,対象とする漢字として978字をまず取り上げた。それが後の「参考」のところの資料にある。そして,その中から字体・字形上に問題があると判断した215字を選び出して,それを「本表」に掲げたわけである。後で表の方を御覧いただくと,具体的な中身についてはお分かりいただけるかと思う。
 また,デザインの違いと字体の違いについても,御報告をしてきているが,19ぺージの一番下の段落のところでデザインの違いと字体の違いについて触れている。このデザイン差の問題に関しても,常用漢字表のときのデザイン差に対する考え方に準じて整理を行い,「参考」の資料の中で,表外漢字のデザイン差の例を示している。
 本報告の趣旨は,現在のワープロ等に表れる漢字の字体の問題についての答えを用意していくということであるが,この問題の周辺に存在している幾つかの課題があって,それも当然意識しておかなければならない。すなわち,関連事項として20ぺージに挙げているが,(1)の「学枚教育との関係」,(2)の「情報機器との関係」,(3)の「各種の基準等」である。国際的な文字コードの問題とかかわっていくということも大きな課題であろう。学校教育の中での扱いについても配慮が必要である。各種の基準についても,この報告の方向の中で協力を要請したいという考え方をここで示しているわけである。
 表については,先ほど少し触れたが,常用漢字に近い頻度で使われている表外漢字978字を選んで,その中から問題のある215字を選び,いわゆる康熙(き)字典体,すなわち伝統的な字体で印刷標準字体を掲げた。さらに,その215字に対応する略字体等の中から使用頻度の順位に応じて,多く使われている略字体等から優先度を与えて,表に付けてあるような簡易慣用字体を示したわけである。これは飽くまでも一つの試案であり,簡易慣用字体の選定も頻度順位4500位いうところで区切った,そういうやり方である。可能性としては,5000位までというのもあり得るかもしれないし,4000位までというのもあり得るかもしれない。しかし,数量的に処理していく今回の土台の作り方の中でも,更に吟味する余地は当然ある。今後は数量的な行き方だけではなくて,ほかの見方から,この簡易慣用字体を決定していくということも次期の課題として避けられないことであろうと思っている。
 以上,十分に触れられなかったが,第2委員会の報告のおよその中身である。

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