国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第22期国語審議会 > 第7回総会 > 次第・議事要録

次第・議事要録 第3委員会における審議状況について1

清水会長

 それでは,第3委員会の水谷主査,ひとつよろしくお願いする。

水谷(第3委員会)主査

 第3委員会の御報告の中身に入る前に,そこに用意されている資料の内容について, ちょっと目をお通しいただいておこうかと思う。
 一番上にあるのは,「第3委員会における論議の概要一5」ということで,今までの経緯が書かれている。 2枚目, 3枚目, 4枚目の3枚は,「外来語・外国語増加の問題」について,2回の委員会の中で現れてきたいろいろな意見をまとめたもので,箇条書き的に列挙してある。そして最後のところで方針をちょっと示してある。その後に, これから打ち出す問題点の概観と取扱いについての試案が5ぺージ,6ぺージに示してある。ここまでが外来語・外国語に関する範疇(ちゅう)である。
 7ぺージは,二つ目の課題である「姓名のローマ字表記の問題」について,会議の中で出てきた意見を列挙したもので,一番下に四角で囲んで提案の方向を示したものを入れてある。
 次のぺージからは,「付」となっているが,参考資料を並べたものである。@「外来語・外国語増加の問題に関するもの」から始まって,Hまで,国語課で調査してくださったものが紹介されている。最初に国語課長の方から説明があったものと共通するものである。Iから後は,各都道府県で外来語の使用基準を定めているところがあって,それについての現状をまとめたものである。I,J,K,Lは都道府県の持っている基準等の概観であり,M,N,O,Pは高頻度片仮名語・アルファベット表記語の一覧表になっている。Qから後は,これらの問題に関連する新聞記事が用意されている。までは外来語等に関する新聞記事であるが,から後はローマ字による姓名の書き方に関連する資料である。新聞記事あるいは外務省の資料,英字新聞の資料,英字新聞の実際の例,中学校における英語教科書の例,国際交流基金の規程の例,最後に論文が2点載せてあって,一番最後のものはワシントン・ポストの特派員の方の提言である。そこまでが資料である。
 これまでの会議の中で出てきた意見と新聞等から得られた情報,更に国語研究所にお願いして集めていただいて,分析していただいた白書,広報紙等における外来語の実態についての情報,こういったものを踏まえて今まとめの段階に入ってきているわけである。
 この後,第3委員会としては, 6月の終わりに1回,8月に入ってもう1回,計2回の委員会を開催することを予定しており,その辺りでおおよその形を整えたいと考えている。
 今日は,2回の委員会で出てきた意見等をもう一度御確認いただいて,そこに表れていない別の観点からの見方などについて御意見が賜れれば,私どもの今後の審議に役立てさせていただけるものと思っているので,最初から御報告に入りたいと思う。
 「資料3」と記した冒頭のぺージにあるように,第3委員会はこれまでに,本委員会の検討課題である「日本語の国際化をめぐる問題」のうち,国際社会における日本語についての考え方や, 日本語の国際化を進めるための方針について見解を取りまとめ,「第3委員会のまとめ素案」として,この前の第6回の総会で御報告した。
 その後,最初の庶務報告でも紹介のあったように2回の委員会を開催し,「外来語・国語増加の問題」と「姓名のローマ字表記の問題」について議論を行った。その概要が次のぺージ以降にまとめられている。

水谷主査

 最初の「外来語・外国語増加の問題」については,既にお読みいただいているかもしれないが,朗読させていただきたいと思う。

 1 外来語・外国語増加の問題
(1) 国語審議会における検討の経緯

  •  第19期国語審議会の報告「現代の国語をめぐる諸問題について」で「国際社会への対応に関すること」の一つとして「宮公庁等の新奇な片仮名語の使用」が取り上げられ,第20期国語審議会は「外来語の増加や日本語の中での外国語の過度の使用の問題」について審議経過を報告した。今期はこれを更に進め,具体的な指針を示すことを含めて検討する。

 途中21期が1期抜けているけれども,20期の継続として,現在,私どもはこの問題に掛かっているわけである。


(2)第9回,第10回第3委員会における主な意見

〔外来語・外国語増加の要因〕

 大正時代以来,外来語辞典には「最新」という言葉が冠されている。当時から現在に至るまで,外来語を知らないと時代に付いていけないということが,日本人の強迫観念になっている。
 片仮名語のネーミングには魅力がある。ある財団が作ろうとしている施設の片仮名語の仮称にクレームが付き,名称を募集したところ,応募のほとんどが片仮名語だったという事例もある。
 人を引き付けるのは外来語が持つ大きな機能であり,行政にかかわるものも含めて,命名が人を引き付けることを意識して行われるのは当然である。
 テレビ放送の現場には,人を引き付ける言葉を使わないと視聴者が減るという切実な感覚がある。
 日本は事実上多民族社会になっており,各国の言葉がどんどん入ってくる。
 学校教育の場においても, コンピュータの導入や小学校における英語学習などに伴って,片仮名語は更に増加すると考えられる。「マウスのクリック」など, いやおうなく流入する言葉がある。

〔外来語・外国語の使用に関する問題点〕

 外来語の急増は日本人の近代化のジレンマと重なっている。外国語を取り入れることが近代化のような気がしていても,肝心の英米人などには片仮名語が分かりにくい。また,漢字圏の外国人にとっても片仮名語は難解である。
 ニュアンスが少し違うからということで,和語・漢語への置き換えをせず外来語が多用されている。多少ニュアンスが違っても日本語に言い換えるべきである。
 行政関係の施設や催し物の名称などに見られる造語には,なじみのある語の組合せではあっても,出来上がった複合語としては意味の分かりにくいものがある。

これらは出てきた意見をそのままここに取り上げているので,主観的な意見ももちろんあるわけである。このようなレベルで今読んでいる理由は,今日この場で,各委員が思い付かれたことを同じような形で御意見としてちょうだいできればという意図もあって,読ませていただいているわけである。

〔外来語・外国語の言い換え等に関する問題点〕

 明治時代には漢語の造語による言い換えを盛んに行ったが,現在では社会生活で使用する漢字の量が少なくなっている。和語がドイツ語のように造語力を持っていれば,和語による言い換えが可能だが,実際には違和感の大きい駄酒落のようなものになりがちである。
 外来語を使うから表現があいまいになるとは限らない。和語もあいまいをもって良しとするところがあり,我々もそれに好感を持つことがある。
 行政の使う外来語には「コミュニティーセンター」など,聞いた感じは良くても概念のあいまいなものがあるが,同じことは和語にも言え,「ふれあいひろば」などと言われるとムズムズする。

〔国語審議会がとるべき態度〕

 外来語の使用者は注目を集めることを意図している場合が多いと考えられるが,受け手の側から見ると,その新しい語が理解の範囲にあるか,推測できる範囲にあるか,あるいはそれを超えてしまうかということになる。国語審議会としては,受け手の側に立つという態度を明確にして見解を示すべきである。
 第3委員会はこれまで,「日本人が日本語を論理的に使う能力を高めることが大切だ。」ということを議論してきた。したがって,意味があいまいなまま外来語を多用することは,我々の基本路線に反すると言える。
 例えば「パフォーマンス」という語が使われ始めたころにそういう傾向があったと記憶するが,意味をきちんと理解しないまま新しい外来語を何となく使う癖が日本人全体に付いてしまうことは望ましくない。営業目的で外来語のイメージを活用するのは別としても,一般には,明快な思考を養う観点から,外来語に対してガー ドを固くするのが良いと考える。
 国語審議会は“小言幸兵衛"路線で基準を打ち出すのがいい。それでも外来語は必然的に入ってくると思うが,一定の節度が生じるであろう。
 日本社会は開かれていくべきだと思うし,多民族化も大きな流れだと思う。日本語も世界で学ばれるようになり,広がりを持つようになった。だからこそ,一方で“本家"として日本語をしっかりしたものにしなければならない。グローバリゼーションが進むほどそれぞれの民族が自らに立ち返る傾向があり,言葉はその根幹となるものである。

水谷(第3委員会)主査

〔国語審議会が提案する場合の対象者〕

 専門家同士なら「計画」より「スキーム」の方が通りが良いという場合もあるー方で,「スキーム」という言葉があるだけでその文章を感覚的に受け付けない人もいる。安全保障の専門家同士では「アメリカのプレゼンスが大切だ。」というような言い方が分かりやすいが,一般の人には分かりにくい。
 我々の提案の対象を,外来語を使う側と使われる側とに分けて考えたい。使われる側とは非専門家ということであり,外来語の分野によって,同じ人が使う側に立つことも使われる側に立つこともある。
 外来語を使われる側に対して,例えば,「外来語が多用されたら分かったような顔をせず,意味が分からないと主張すべきだ。」というような提言をすべきではないか。
 宮庁やマスコミの出すものはすべての人に理解される必要があるので,外来語の使用にも配慮が必要だというような,考え方の枠組みを用意する必要がある。
 片仮名語を使うかどうかは表現の自由にかかわり,一般的に国が規制したりすることは難しいが,官公庁に対しては片仮名語多用について批判があるので,方策を考えざるを得ない状況に置かれていると思う。
 国語審議会の提言は,以下のように問題を整理して行うべきである。
  • @ 外来語・外国語の増加が日本語や日本語によるコミュニケーションにどのような影響を及ぼすかを分析して示す。
    A 日本語の担い手としての国民に,外来語についての考え方や,外来語の受け手としての態度について提言する。
    B 多くの人を対象とし,言葉の発信者として責任のある官公庁やマスコミに対しては, より具体的な指針を示す。

〔外来語・外国語の取扱い指針に関する留意点〕

 外来語・外国語についての指針を作成するに当たり,一般の人々の外来語の理解状況を想定するに際しては,義務教育でどの程度の外来語を受容しているのかということが一つの指標になるのではないか。
 基準を決める際に, 日本語を, 日本人の言葉としてだけではなく,外国人の使用も含めた視野でとらえたい。
 文化の基盤である日本語とコミュニケーション手段としての日本語を分けて考えるべきである。ここで検討するのはコミュニケーション手段としての日本語だと考える。
 外来語・外国語の増加が日本語の軽視・伝統破壊につながるという議論があり,これは文化の基盤としての日本語に関するものである。これについて取り上げるかどうかは検討する余地がある。
 「ハローワーク」のような行政機関による造語や,コンピュータのマニュアルなどで外国語を訳さずそのまま片仮名に置き換えて使っている語についても見解を示すべきではないか。

 といったような議論が出ていて,四角の中にまとめてあるように,こういった議論を進める中で,外来語・外国語の機能や,それらの増加に伴う問題点について整理し,広く国民一般を対象とする官公庁や報道機関等における外来語・外国語の取扱いに関する指針の試案のたたき台を一応作成した。それが次の5ぺージと6ぺージの,四角い枠の中に入れた形のものである。 5ぺージの方は問題点の概観,6ぺージの方が試案である。
 ちょっと御覧いただくと,「外来語・外国語は,以下に示すように,固有の機能や魅力を持ち,各分野で使われているが,その増加による問題が生じている。」というただし書きが付いていて,四角い枠の中を二つに分けてある。上の半分が「外来語・外国語の機能」,下の半分を「外来語・外国語増加の問題点」というふうにとらえてみて――こういった升目に入れて最終的な報告書を出すかどうかというのは今後の審議の対象になることであるが――整理をしていくためにこんな形で今示してある。

トップページへ

ページトップへ