国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第3委員会における審議状況について2

水谷(第3委員会)主査

 「機能」という点については,@として新しい事物・新しい概念を表すという機能を持っているではないか。例えば「ネットワーク」のようなものがそうだろう。これは日本語に言い換えれば,網を張った何かということになろうか。やっぱり「ネットワーク」で一つの機能を持っているわけである。A専門用語として取り入れる。例えば「オゾン」。B外来語に伴うイメージを活用する。新しい,しゃれた,高級なといったようなイメージを利用して使う。「職業婦人」と言うよりは「キャリアウーマン」と言った方が格好がいい。婉曲表現として,何か「便所」というのは嫌だ,「トイレ」と言えばそれが避けられる。こういった必要に応じて使われて, 日本語として既に定着しているものがこれらの中にはかなりたくさんあるということである。
 それでは,「外来語・外国語増加の問題点」は何かということについて,こんな見方を用意して見ていこう。@社会的に情報を共有できず, 日本語によるコミュニケーションを阻害するおそれがある。これらの問題点などは,先ほど御紹介したいろんな資料の中に出ているような情報をも踏まえて,この枠組みとして用意してきているものである。A世代間コミュニケーションの障害となる(特に高齢者にとって),B日本人の外国語学習の障害となる(原語の意味から外れた外来語・和製語)があって, それを英語を話すときに使ってしまうこともあるのではないか。C外国人にとって難解である。英語話者にとって,英語から入った日本語の片仮名言葉は非常に難しく,分からない。D日本語の表現をあいまいにする。表意文字の漢字で書かれた漢語と違って概念がつかみにくい。あいまいな語の使用により,全体が明快で論理的な表現にならなくなる。内容をぼかす使われ方がある。これは外来語だけの問題ではないので,この枠が適切かどうかも審議の対象になると思う。括弧に入っているが,Eとして日本語の軽視・伝統破壊につながる。これは完全に出来上がっているものではなく, このような問題点について枠を立てて整理して,考えを進めていこうという趣旨で項目を立てたものである。想定される結び方としては,「無限定に用いる(特に外国語)ことは,社会的なコミュケーションを妨げる」であろうというような,ーつの結論を出していくことができるのではないかと考える。
 そういった考え方,問題点を前提にしてまとめてみると,恐らくこんな形になっていくのではないかと考えている。すなわち,「外来語・外国語の取扱いについての考え方(試案)」というところである。そこでは枠を五つ示してあるが,もしかすると少し動くかもしれないし,今日,何か違う知恵がいただけるかもしれないと思っている。
 分類ということを考えると,まずIとしては,広く一般的に使われ,国民の間に既に定着しているとみなせる言葉で,これらは今更変えることができない。「夕バコ」とか,「カッパ」とか,「カステラ」のような言葉という枠があるであろう。「ガイド」とか,「ストレス」とか,「ボランティア」「リサイクル」「PTA」――いや, これはまだなっていないという御意見も今日伺えるかもしれないが, こういう仲間があるであろう。
 Uは,一般への定着が十分でなく,かつ比較的容易に日本語に言い換えられる言葉があるはずだ。これは「言い換える」という扱いを示そう。「アカウンタビリティー→説明責任」という言い方が,比較的容易に言い換えられると言えるかどうかについては自信はないけれども,「アカウンタビリティー」よりは「説明責任」の方が通じるであろう。「インセンティブ」と聞いても,分からない人がたくさんいる。「コンセンサス」は, このごろは割合よく使われるようになってきているけれども,「合意」とか「総意」という言葉で行けるではないか。「スキーム」は,先ほど学術用語的な範疇で出ていたけれども,「計画」に言い換えたらどうか。「プレゼンス」も「存在」とか,「出席」とか,そういった言い方はどうだろうか。「ユーザー」というのは, もしかするとユーザーという言葉が格好がいいという面で使われているとすれば,問題があるかもしれないが, もしそうでないとすれば「利用者」「使用者」という言い方の方がだれにでも分かるのではないか。
 Vの枠として,一般への定着が十分ではないが,@適当な言い換え語がない語,A言い換え語があってもそれ自体が難しくむしろ外来語のまま理解を進めることが望ましい語,B国際的に共通に使われている語。こんなふうな,どちらかと言うと,言い換えない方がいい言葉もあるはずだ。その場合には,注釈を付けるなどして,分かりやすくする方法を工夫すべきであろう。上の@とAの例の場合には,「アイデンティティー」「デリバティブ」「ハード・ウエア」「バリアフリー」。バリアフリー辺りだと, もしかすると言い換えがあった方がいいのかもしれないが, これは今後の審議の課題だと思う。Bの例は「ヘッジ・ファンド」とか「レッド・データ・ブック」。これらの言葉は国際的に共通に使われる言葉であるから,むしろその言葉自体を日本人も覚えた方がいいのではないか。

水谷(第3委員会)主査

 Wの枠として, ローマ字表記語の頭文字を使った略語。少なくともこの類のものは初めて出すときには訳語を,テレビなどでも――新聞もそうであるが――実際には出していらっしゃる。そのやり方を踏襲することになると思うが,BODは「生物化学的酸素要求量」――「生化学的」と言った方がいいかもしれない。CAIと日本語訳の「コンピュータを用いて個別指導を行う教育システム」は,どっちが分かりやすいのか分からない, CAIの方がいいという御意見もあるかもしれない。でも,少なくともこういうやり方の枠を用意するものがあるだろう。
 Xとして,外国語の短縮形について,日本語に言い換える。「エンプラ」は「エンジニアリング・プラスチック」,「デマケ」は「デマケーション」というような形で,枠を立てて整理していこう。そして試案として打ち出そう。こんなふうに考えている。
 次に,7ぺージであるが, これは「姓名のローマ字表記の問題」。国語審議会における検討の経緯として,第20期の国語審議会の経過報告で,「姓名のローマ字表記の問題」が取り上げられており,そのときの結論は「今後,各方面で十分議論されることが必要である。」として,「これまでのような名を先にする習慣を是とする意見」と「これまでの習慣を見直すべきであるとする意見」の両論が併記されていた。今期はこの問題に結論を出してしまおう。それを前提にして検討を進めていこうとしている。
 (2)のところであるが,今までに出た主な意見である。

 姓名のローマ字表記の問題について,国語審議会が見解を打ち出すべき時期に来ていると考える。
 個人的には以前から「姓一名」の順で表記しているが,そろそろ一般に提起していい時期だと思う。欧米人と付き合うときでもフルネームでなければ姓で呼ばれるのが自然な感じがするし,すぐにファーストネームで呼び合うことには抵抗を感じる。
 単純なシステムにするという意味で,漢字・仮名書きでもローマ字書きでも「姓一名」の順にするのが良い。検索にもその方が便利である。
 日本語の国際的な広がりが進む中で,“本家"としての日本語を大切にする立場に立つなら,「姓一名」の順が良いという結論になろう。
 多言語・多文化の時代という観点から,英語人にも姓名の多様性について理解を求めることが必要ではないか。
 国際交流基金ではかなり前に,発行する文書における日本人のローマ字による姓名表記を「姓一名」の順に統一しており,他の分野でも「姓一名」順の表記が見られる。
 英字新聞や英語の教科書で,-般の現代日本人は「名一姓」の順,歴史的な人物や知名度の高い人物は「姓一名」の順になっているものがあるのは,おかしいと感じる。
 自分の名を「名一姓」の順でローマ字表記したところ, 日本人の名は「姓一名」の順だと知っている西洋人に,名を姓と誤解されたことがある。
 小学校では4年生でローマ字を習い, 自分の姓名を口ーマ字で書く練習をする。今後はパソコンの導入に伴い,キーボードのローマ字入力も習得するようになる。その際に「姓一名」順で覚えたものを中学でひっくり返すよりも,小・中で統一がとれている方が望ましい。

 いろんな雑誌,書籍などの書き方の中にも――後の資料の方に入っているが――「名一姓」方式でない「姓一名」方式がかなり増えてきているという状況だと思う。一番最後の資料で, ワシントン・ポストの記者自身が, ワシントン・ポストの日本人の名前の書き方について自分は提案したい,「姓一名」でやりたい,しかし, それは日本人が決めるべきものであるから,日本から提案があったら受け入れようということが書いてある。「姓一名」と言っても,姓と名の間に「,」を入れるとか,姓の部分に大文字を使うとか,様々な方法があり得るわけであるから,この際,中国や韓国のようなアジアの国がやっているように,日本の場合も「姓一名」方式にきちんと移行させた方がいいのではないかという意見が,第3委員会では今固まりかかっている。すなわち,以上のような論議に基づいて,ローマ字による日本人の姓名表記について,「姓一名」の順で表記することを提案しようという雰囲気になってきている。
 どうぞ皆さん方から忌憚(たん)のない御意見をお伺いできたらと思う。
 以上である。

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