HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 国語審議会(終戦〜改組) > 第9回総会 > 議事録
議事録 審議(常用漢字表について)
三 宅
では,議事を進行する。常用漢字表について主査委員長代理安藤委員より審議経過について報告する。
安 藤
簗田委員長に代り標準漢字表再検討に関する審議経過ならびにその結果についてのべる。(略)
三 宅
幹事長より文部省国語調査事業について説明があります。
保 科
文部省国語調査事業の概略について説明(略)
三 宅
では,漢字表について検討していただくが,まずまえがきからお願いしたい。
吉 田
(まえがき朗読)
三 宅
御質問・御意見のある方は御発言願います。
藤 村
主査委員会の調査について敬意を表するものであるが,賛否をきめる前に,わたくし個人として納得のいくよう2〜3か条の質問をしたい。先ほどの説明によれば,漢字の数を制限するということは,かなづかいと密接な関係をもつように思うが,その点について一々研究したか。数をへらして漢字の負担をへらすのはけっこうであるが,そうなると今まで漢字にかくれていたかなづかいが表面にでてくると思う。かなづかいの問題については,いかに考えているのであるか。
保 科
かなで書くことが多くなると,お説のようにかなづかいが問題となってくる。主査委員会においても,当然かなづかいを改定しなければならぬということは認めている。よって,今後の仕事として,かなづかいの整理を進めたいと考えている。
藤 村
将来,わが国語の表記の上で漢字かなまじり文を用いるというお考えのようであるが,それでは今後表音式かなづかいになるという見通しであるか。また,それにつてはどれだけの語数について調査しているか。
保 科
字音かなづかいの方は,表音式になると思う。国語の方は全部表音式にするのも一法であるし,活用語はのぞくのも一法である。それらについては調査を進めている。
活用語の問題になると活用形の問題を伴うので,それをどうするかは現在のところ決定していないが,だいたい表音式にするように進んでいきたいと思う。
藤 村
それでは字音も国語も表音式にかえたいという希望だけで,はっきり見通しはないものと了解する。つぎに,かなづかいを改めるということと,発音符号を用いるということとの得失についてうかがいたい。
保 科
将来,ローマ字で用いるについても必要と思うが,すでに国語課で発音符号の成案はできている。
藤 村
常用漢字表では現在の新聞・雑誌等のひん度を参考にせられたと思うが,1字1字の文字について調べたか。それとも語について考えたか。
保 科
ひん度については,いろいろの方面から調査した。これには使用度数・実際のことばを基準とした特殊研究にもとづいて行った。たとえば,じゅうりんとか,ぜいたくとかいうことばは,かなで書いてもわかる。すなわち,漢字を用いなくても表記できるかどうかということを研究した。
藤 村
ひん度についてはだいたい機械的なものと解釈した。つぎに,むずかしい漢字をかな書きにするということであるが,それには画の多い漢字を簡易なものにするということが考えられる。しかし,活字体と筆写体とはおのずから別である。この両者を一体にするという考え方から,なぜ活字体と筆写体をわけて能率を考慮しなかったか。
保 科
すでに国語審議会では字体整理案を発表し、筆写体と活字体とを近づけることを考慮している。
藤 村
最後にうかがいたいのは,教科書の編修,官庁文書の調整,その他いろいろの方面に,かかる漢字の制限を認めるのは必要と思うが,案としては永久的の性質を持つものか,当面の時世に応じた暫定的のものとするか。
保 科
先刻安藤委員から説明があった様に,本案は決定的なものであってはならぬゆえにこの表を発表して5年ぐらいたったら修正を加える必要があるものと思う。審議会としては,時を見て修正して行きたいと思う。
藤 村
しからば,暫定的なものと,解釈してよろしきや。
保 科
社会の情勢に従って修正を加えていきたいという意味で,本案があやふやなものであるという意味ではない。
藤 村
かなづかいとの関係についてもっと具体的に知りたいと思う。どの程度に困難がましてくるかということもその一つである。また,ひん度も機械的なもので安心できない。常用の国語が基礎になってそれからでたものがほしい。また,活字体と筆写体とは相当ちがったものであってよろしいと思う。そういうような関係で,もう一歩進んだ研究がほしい。そんなわけであるから,本案はどこまでも暫定的なものと考えたい。場合によっては,動議としても提出したい。
山 本
審議会が一貫して国語改良に努力したことを多とする。今日かかる業績がでたことは,まことにけっこうと思うが,いろいろ質問したいことがある。
まず,常用漢字ということばであるが,常用とはどういう意味であるか。
保 科
常用漢字表という名は大正12年の案にはじめて用いた。世間の日常生活において,もっとも広く用いられるという意味でつけたのである。昭和17年7月の案には標準漢字表となっている。当時は社会の情勢からこの方が適当と認めたのである。
山 本
これだけの文字があれば世間で日常用いてじゅうぶんであるという意味からつけたのであるか。
保 科
だんだんなれていけば,これでじゅうぶんやっていけると思う。
山 本
わたくしも以前から実際にやって見ている。わたくしの全集の中でこういう問題を自覚して書いた作品をしらべてみると,800字ぐらいのもあるが,だいたい1200〜1300である。しかし,それらをこの案にあたってみると必ずしも一致していない。漢字を制限するならなるべく少ない方がよいことはわかっているが,実行できないものをきめてもしかたがない。事実,先日の憲法草案などでも62字はみでている。この62字は,もっとへるとも思われるが,中にはどうしても入用な文字があるのではないか。新聞社の人も見えておられるようであるが,実際にこれでじゅうぶん書けるかどうか。
保 科
個人の使用している漢字の数は,職域によりいろいろちがう。多くて1000字,もっと少ない人もある。ただ同じ整理にしても,甲と乙とはそれぞれ内容がちがう。最初,常用漢字のでた時は1960字であった。各新聞社では実行したが,広告その他,新聞社独自の意見で変更できないものはどうにもならぬ。それで各社ともそれぞれ自社の常用漢字をもった。そういうことはやむを得ないと思う。だいたい教科書の方はこれでやっていくという御決意のように聞いたが,新聞・法律その他特殊なものはやむを得ないのではないかと思う。強制はできない。
三 宅
入江委員の御意見を承りたい。
入 江
先日の憲法改正草案を検討してみると62字はみでる。中には改めることのできるものもあるが,又,且,但,訟,租等どうしても必要なものもある。いますこし法律等の要求をおいれ下さるようお考え願いたい。専門の用語中,どうしても必要な漢字は認めていただかなくてはならぬと思う。
小 汀
これでは権威がないと思う。わたくしの方の新聞(日本経済)ではルビをやめているが,一般には新しい漢語をどんどん作りだしている。一見してこの表では到底新聞はやって行けないことは明らかである。不自然なことをやっても長つづきしない。国語審議会としてはこういうことより,日本語を正しい方向に進めて行くという仕事をやったらどうか。本案は実施不可能と思う。また審議会の意見には不満の意を表明する。
宮 川
略字の採用をもっと広範囲にやっていただきたい。
山 本
さきほど,小汀委員はかかる制限は必要ないといったが,これはやった方がよいと思う。しかし,数だけ制限しても意味がない。音訓の整理も同時に発表していただきたい。つぎに名詞などむずかしいものはかな書きにするというが,ひらがなにするのか,かたかなにするのか,はっきりきめてもらいたい。
つぎにかなづかいの問題である。帽子の帽がなければかなで書くといっても,バウシかボウシかわからぬ。動植物の名はかなで書くというが,コヒ・タヒ・アフヒ・ウグヒスなど書く時には,一々字引を引かなくてはならぬ。ゆえに,かなづかいの規定もいっしょに発表しなければ意味がない。また,漢字を制限するとかなが多くなり,句とう点がはっきりしないと困る。こういう関連した問題をおいて漢字の制限案だけだしても,世の中で使われない。
保 科
この漢字の後には,ただちに音訓の整理に着手する。かなづかいの方も,つぎの仕事としてやって行きたい。句とう法・おくりがな法・わかち書き等についても案ができている。
三 宅
かな書きはかたかなかひらがなか。
保 科
それは,まだ決定していない。
山 崎
問題ははなはだ重要と思うので,今日急に決定することは無理と思う。
三 宅
では,次回に慎重に審議したい。きたる5月8日(水)午後1時半からお願いしたい。
12時半閉会