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次第 中国の地名・人名の書き方に関する漢字主査委員会の審議経過報告

「中国の地名・人名の書き方」に関する漢字主査委員会の審議経過報告(要領)

原主査委員長

 「当用漢字表」の「使用上の注意事項」の(ハ)に「外国(中華民国を除く。)の地名・人名はかな書きにする。」とありますが,このカッコ内のただし書きについて,漢字に関する主査委員会は,その後も引きつづき深く考えながら,それについての具体的な仕事に手をつけるまでのはこびにはなかなか至りませんでした。
 ところが,たまたま,朝日・毎日・読売・放送・共同の5社では協力して「かな書き中国地名・人名一覧」というものをつくりあげ,放送協会および読売新聞で,すでに早くから,中国の地名・人名を原地音でよび,また,そのかな書きを実施してきているのであります。その趣旨というのは,「当用漢字表の制定によって,中国の地名・人名のうち,相当部分が当用漢字外のものとなった。従来でも中国の地名・人名に用いられる漢字がむずかしいため,中国の事情を多くの人々に正しく理解してもらうことが困難だった。われわれは,中国から漢字を摂取同化したが,同化されたものは日本の国語となったもので,現代の中国の国語国字ではない。中国の地名・人名がたとえ日本の漢字と形が同じでも,われわれは他の外国の地名・人名と同じく,その国の発音によるのが正しいと信ずる。隣邦への理解と親しみを深めるためには,古い感情を犠牲にして,新しい明日の人々のためを考えなければならない。」というのであります。
 5社の当事者は,いろいろの角度から研究協議を重ね,国語学者や中国学者の意見をもじゅうぶん参考にしてこの一覧をつくったのでありますが,国語審議会に対して,この一覧の調査審議についての相談があったので,漢字に関する主査委員会は,昨年11月4日にこの件に関する第1回の会合を召集されたのであります。その顔ぶれは,安藤会長,稲田,海後,松坂,西尾,池上,松村,藤森,楓井,紺野,松井,滝口,竹田,吉田(甲),滑川,沢登,土岐,吉田(澄)の各委員およびわたくしで,第1回の席上,はからずもわたくしが,主査委員長に選ばれたのであります。まず,主査委員会は,

  1. 5社の「一覧」を原案とし,
  2. 審議の方向としては,
    • (1)文部省側の方針と,原案者側の方針をなるべく近づけ,
    • (2)教科書に採用されることを予想し,また外国全体の地名・人名表記の総合審議,および国内の地名・人名をかな書きにすることにすすむ第1段階とすること。
    • (3)実施の具体的方法は,それぞれの機会にまつこと。
  3. 審議の結果
    • (1)原案とははなはだしくちがった場合は国語審議会案とするが,
    • (2)でない場合は,「5社合作」のものを,審議会が承認して採用する。
  4. 主査委員会に原案作成者その他を適当な方法で参加させる。
    おおよそこういったことを申しあわせたのであります。
    委員以外の参加者としては,
    • (1)原案関係者として
      山田(朝日),山中(毎日),藤井(読売),太田(共同),鈴木(放送),それから鹿住(松村委員代理),磯田(毎日),依岡,宍戸(共同)
    • (2)幹事以外の関係者としては
      保柳,箭内,松尾,石渡(第1編修),馬場(科学資料)などの諸氏であります。

 だいたい毎週1回,前後9回にわたる会議で問題となったおもな点は,次のようなものであります。

  • (1) 趣旨には異論はないが,実行については問題が多い。
  • (2) 国際的には共通で,教育的には簡便なものをきめるべきである。
  • (3) 歴史的な地名・人名については

イ  民国以前を今までどおりとするのが一応穏当なようだが,
ロ  このように区別すると筋が通らないし,ことに前後にまたがるものがこまる。
ハ  中国のものと日本のものとごっちゃにする思想上の錯覚をのぞくためには,全部原地よみであらわすのがのぞましい。
ニ  中国の地名・人名かな書きの方針が統一的に確立しなければ,当用漢字表実施普及上の障害となっている固有名詞の問題は少しも解決しない。
ホ  国語の1文体としての漢文教材に対して,中国現代音よみの統一的適用はむりな点がある。また,教科書は,世間の慣用よりもいちじるしくさきばしった方法を採用することはどうか。
ヘ  耳なれているものまで新しくすることは,かえって不便ではないか。
ト  当分の間,親しみの深いものにだけは,漢字にかなをふってしめしてもよいではないか。

 というような論議がくりかえされました。その結果できあがった成績が,お手もとにさしあげた,

  • 1 かな書き中国地名・人名一覧
  • 2 中国語発音かな書きの表

に書きあらわされているようなものとなったのであります。さらに,第8回では,この成績のとりあつかいかたについて討議し,
「外務省,その他関係方面とさらに連絡検討し,5社案を審議会案として
練りあげるために,委員会を増強して第3読会にはいる。」
ことに決定しましたが,第9回では,
「漢字に関する主査委員会は,いままでの調査研究・審議の経過をあげて総会に報告し,その意見をきく。」ことときまりました。
 こうしてここに「中華民国などの地名・人名のかな書きに関する件」を総会の議題として,提出したのでありますが,漢字に関する主査委員会は,5社案を検討した結果,主査委員会がみとめた

  • (1) 中国の地名・人名をかな書きにすること。
  • (2) かながきにするばあいは,原地音をもって書きあらわすこと。

 という2原則について審議をねがい,お手もとの書類にしめされている主査委員会の成績を一応承認していただきたいのであります。
 なお,漢字に関する主査委員会は,今までの経験からこの成績を国語審議会の案として発表するためには,あらためてこの件に関する主査委員会を設けて検討をかさねる必要があることを申しあげたいのであります。
 というのは,中国に関する限り,この成績でけっこう間にあう自信はじゅうぶんにあるのでありますが,この案件は,その性質上,外国全体の地名・人名の表記法の中に総合的・有機的にふくまれてあるべく,また,国内の地名・人名かな書きへの第1段階ともなり,直接には,朝鮮・台湾・満州・モウコを含む「漢字国」をひっくるめて審議研究の対象としなければならないからであります。
 実施については,さいわい報道陣の最有力者がさきに立っていてくれるからありがたいのでありますが,なお,教育面における実施の具体的方法・官公私にわたる関係すじとの連絡了解・法規上の手続きなど,そのどれもが,今までの経験から判断すれば,とてもなまやさしいものではないのであります。
 なにとぞじっくり御審議の上,この一大文化事業がうまくゆくようお考え下さることを切に願ってやまない次第であります。

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