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次第 中国地名・人名の書き方に関する問題
〔議 事〕
(記録者 武宮・中野)
(主査委員長の説明が終ってから)
安藤会長
ただ今の説明につき質問なり意見なりをどうぞ。
服 部
中国語発音かな書きの表のP.3 yenエン tienテンはP.4のyehイエのあとにイエン・ティエンと入れるべきではないか。
原
日本の発音ではイエかエかは区別がつかぬ。ただし,ティは一つ特別に入れることにした。
服 部
イエを認めるならイエンとすべきではないか。
保 科
放送局の原案者鈴木氏に説明に当ってもらおう。
鈴 木
エン・テンとした理由。ティエンとすればよいのだが,一般の人たちにテイエンと読まれる恐れがあるから,むしろテンとしておいた方が無難という考えからである。イエンは語中にはいった場合,一般人には非常に発音しにくいからエンにしてしまった。
石 黒
tingティンを認めたのはなぜか。どうしてチンにしないのか。
鈴 木
特別表記をもうけるか,どうか問題となり,たとえば都などについてもトゥとする論もあったが トー にした。しかしtiの音は日本語の表記には ティ と一応つかわれるから,いっぺんにチンとせず ティン とした。ティに関しては不統一の点もあるが,原音に近く,しかも日本人の発音に適するようにという妥協を認めてほしい。
服 部
hsiu,shuがシューになっている。Chin chingが区別されているなら,同様にshuシューshiuシユーとすべきではないか。
鈴 木
トゥ・チュウを区別したいと思っていろいろ考えた。しかしチュウとチューは,読むにも区別がつけにくいから,両方ともチューにした。
服 部
しからば,チャンもチアンも一つでよいではないか。
鈴 木
放送局ではアナウンサーにチアンとチャンとを発音しわけてもらっている。これはそんなに困難ではない。
佐 伯
チウとしてはどうか。
会 長
表記の問題については,なお検討を要する。主査委員長の報告にもあるように,本日は中間報告とみなしたい。中国語の地名・人名をかな書きにすることの可否について意見を伺いたい。
倉 石
かな書きにするのは賛成だが,現在日本人が果して中国音をじゅうぶんこなせるかどうか。実施するためには,少なくとも新制中学・高校をでた者には中国語音の発音ができる程度の教育がなされねばならぬ。
会 長
この問題は重要である。現地音で表記することに反対意見の方はお話し願いたい。細部については新しくできる委員会で検討するという条件になっている。
原
国語課でしらべた世論調査の結果は,反対が1人,趣旨には賛成だが,表記についてはいろいろと意見がある。
釘 本
世論調査といっても,これは新聞紙上にあらわれた中国の地名・人名のかな書きについての意見を国語課で整理したものである。
土 岐
現地音ということがどの程度の音であるか。ヨーロッパの地名・人名の場合でも,大部分日本人の音韻にあった形に修正し慣用してきている。それゆえ,日本人の発音しうる程度に中国の音韻を処理して,一方では日本人が中国の音韻を発音しうるように教育してゆくことが必要。
会 長
新しい主査委員会についての意見は。
有 光
現地音によるという案を作っても,実施可能のものでなければならぬ。古いものと新しくつくるものとの実施上の橋渡しのくふういかん。
原
主査委員会でも実施についての意見はたくさんでた。橋渡しについては問題が多く,結論には到達しなかった。
木 下
中国語には自分は門外漢だが,表記について一定の標準を作ってほしい。ゲーケ・シーボルトなどには20いくつもの書き方があるが,この点についても主査委員会で研究してほしい。
佐 伯
かな書き大賛成。原則を一応きめた上,さらに具体案について主査会をつくることとして,会議の進行に一段階をつけてはいかが。
会 長
案の内容と実施法には委員会を設けて細目を検討することにしたい。
(賛成の声あり)
土 岐
現地音をもって書きあらわすといっても不可能。「現地音に近く書きあらわす。」としてはいかが。
会 長
現地音にもふたとおりあり。「原」と「現」とある。
佐 伯
中国現代標準音と現地音と違うか。
倉 石
現地音というのはあいまいであるから,はっきりした方がよいのではないか。
会 長
1 根本方針としてかな書きを認める。
2 かな書きの場合,中国現代標準音とすること。
(異議なしの声)
松 坂
主査委員会の構成は会長に一任したい。
会 長
委員数は21名ぐらいにしたい。
土 岐
主査委員はあまり多くせず,審議会以外の専門家を入れた方がいいと思う。
保 科
この問題は,5月早々ぐらいには結論に達したい事情にある。審議会以外の人を頼むには適格審査などに時間がかかり,発令までには1か月以上を要する。それゆえ,公聴会のごとき形で外部の人々の意見を聞いて,主査委員会できめてゆきたい。
原
半年にわたる主査委員会の経験からいえば,専門家には原案を作ってもらって,常識家によって実施面を検討してゆきたい。
土 岐
そういう意味からも人数は少ない方がよい。21名が集まることは困難で,しかも早く運ばない。
会 長
委員数21名は多いようだが,全員そろうことはむずかしい。実際にはこれくらいの多数を委員にして,始めて順調に運営できるのではないか。
(異議なしの声)
会 長
委員21名を指名
稲田,倉石,東条,高橋,松坂,長沼,池上,藤森,鹿住,楓井,紺野,松井,滝口,服部,原(富),竹田,滑川,吉田(甲),沢登,土岐,吉田(澄)
滝 口
「かな書き」「中国現代標準音」の決議をしたが,その取扱方をどうするか。文部大臣に建議するとか,一般に強調して発表することを,この際一応決議してもいいではないか。
会 長
関連した問題ではなるが,決議したままにしておく。発表建議などはしない。一般にすすめるためには新しい委員会に検討してもらう。
古 垣
手続はそうなると思うが,新聞社・放送局などで趣旨を徹底してはいかが。
稲 田
本日の会は中間報告であるから,対外的の発表はどうかと思う。
古 垣
決定した限度において発表の手配をとる。
有 光
原則で承認した上で委員会に付託したのである。われわれの関心事は実施面である。万全の審議を尽し,方針と具体的実施法を考慮の上,世間に受け入れられるようにしたい。
佐 伯
全く具体案なしに原則をきめるのは軽率のそしりがあるかも知れないが,相当具体案あっての上,慎重を期するため,さらに新しい委員付託となったものと思う。この原則は実施の可能不可能を左右する問題ではないから,ここではっきり決定したい。
古 垣
発表しないことによって種々のおくそくが行われて誤解をまねくおそれもあり,公聴会を開くにも,今日の決定をふせておいて開くのはよくないから,本日の結果を統一した正しい発表にしたい。
会 長
2原則は主査委員会に対する方針である。原則というのは理論的のものである。2原則を終極のものとしなくてもよい。
佐 伯
原則は主査委員会がそれにもとづいて原案を作るべきものであって,主査委員会がこれをかえることは権限外であるから,この席において決をとるべきである。
滝 口
佐伯氏と完全に同一意見。
松 坂
天下の意見を問うてもらいたい。子音議会は「ひそかに事をきめて天下におしつける。」という非難がある。根本方針はこれでよろしい。細部については主査委員会を設け,天下の世論をきくことを望む。
古 垣
機微な点で実施面の心配が多いが,今日で終ったのではない。今後新しい委員会において,原則の方向に従って研究していくのである。今日の発表については,会長と事務当局で適宜処理されたい。
稲 田
決定になれば答申するか。
会 長
本日は中間の段階である。
簗 田
中国語をかなで書くことは異論がない。表記法についてはかなりの異論があると予想される。新たに構成される主査委員会は,この原則をかえないという条件であればよい。発表するには,審議会の意向として正しく発表してほしい。
釘 本
今日の総会の経過については,正式の新聞発表(司令部の検閲)をするが,発表案について一応念をおしておきたい。
「国語審議会は,第15回総会において,中国地名・人名の書き方は次の方針によるのを適当と認めた。
1 中国地名・人名は,かな書きにする。
2 中国地名・人名のかな書きは,現代中国標準音にもとづく。
その方針による具体案を審議するために,新たに主査委員会を設けることを決定した。」
松 坂
さらに広く世間に問いたいことを加えよ。
佐 伯
具体案の用意なしに方針を決定したような印象を与える。今まで審議してきたが,細部について決定するために,新しい主査会を設けるのだということを加えてほしい。
滝 口
最後に「改めて」を入れたらふくみができるのではないか。
土 岐
ふくみがありすぎはしないか。
会 長
細かいことは,会長と事務当局にお任せ願いたい。新主査委員会の名
目は「外国(中国)地名・人名の書き方委員会」としたい。
原
さきほどの報告の中に,中国に関する限りわたくしどもの成績を一応認めていただきたいと希望したが,お手もとにさしあげた「原則のプリント」をお認め願いたい。中国についていつでも問題になるのは「朝鮮」である。朝鮮を入れるか切り離すかをおきめ願いたい。
会 長
広く漢字国の地名を含めるか。
倉 石
委員の負担を重くしないか。当面は中国だけに限った方が,委員の活動を期待できる。