国語施策・日本語教育

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次第 議事

議事要録

(武宮・天沼)

有 光

 詳しい経過の報告をきき,委員諸君の御努力のほどがよくわかった。実施についていろいろ議論があったのは,こういうことが新しい試みであるためか,それとも案そのものに議論の余地があるのか。たとえば標準音よりも地方音のほうがよく知られているから,地方音を採用した方がいいというような議論であったのか。

 そのような意見も幾たびか出た。しかしこの案は,現在の事情において必ず実施できると確信をもっている。標準音と地方音とのちがいは,息の波の相違であって,本質的なちがいでない。

有 光

 地名に国際的慣用の例があげてある。人名についてもこの表ではショーカイセキはチヤン・チエシーとなっているが,彼は南方の人であるから,南方音のほうがよくわかるのではないか。

 原則としてはすべて標準音による。現状においてこの方向によって実施できると確信をもっている。

有 光

 UP.APなどはどちらを採用しているのか。

 地方音よりもペキン音のほうが通りがいい。

井 上

 議案にしるされているローマ字の表記は何か。

 かっこの外はウェード式,中は国音常用字彙の表記である。

井 上

 ローマ字の書き方に問題がでなかったか。

 問題がでた。かなで書くと郵便局ではローマ字に書きかえなければならぬ。これは残された問題である。しかしこの書きかえはやってできないことはない。

服 部

 議案も5ページのチュンはチョンのあやまりである。

井 上

 第3者的に考えてみて,これを世の中に発表した場合どんな反響が起るか。かなで表記したものをそのとおり発音しても中国人には通じない。かな書きをした場合には,その補助としてローマ字を添えておけば,発音が正しくされるのに便利である。議案のまえがきに「……当分の間,漢字またはローマ字をあわせ示しておさしつかえない。」としてはどうか。

 国語表記の簡易化のたてまえからいえば,漢字を入れるのさえ,やめたほうがいいのである。ローマ字を添えるとすれば,ウェード式にするか,国音式にするかが問題である。この案のねらうところは,われわれ日本人のためなのであって,中国人と同じに発音することを要求しているのではない。もし中国人に通じさせようと思えば,四声と有気・無気を加えなければならない。この案は中国人に通じる通じないを考えての案ではない。日本語の表記なのである。

井 上

 現在の日本は国際的にしめだされて,中国との交渉がない。このような状態においてきめられた案では,将来国交が回復したときに役に立たなくなる。手紙の往復が始まったとき,ペーピンのような大都市はいいが,小さなところへは郵便物がとどかないおそれがある。漢字をどんどんへらしてゆくたてまえから,ローマ字の添え書きをすることにしたいと思う。

土 岐

 さきほど主査委員長の報告の中に,準備期間をおくとあったが,そのためにしばしば実行がうやむやになった例がある。中国の地名・人名をかな書きにする論は,国語の簡易化の線にそってやっているのであって,郵便物がつくかつかぬかの心配は別問題である。実行に当っては手引を作ることも必要であるが,それができることを予想して準備機関をおくことは,国語審議会としては不適当である。この案は書き方の法式を最も妥当な線にまとめたものであるから,あとの実施はそれぞれの機関にまかせておけばよい。各新聞社でもこの案の実施については,即時実行にちゅうちょしているだけで,反対しているわけではない。わたくしは,国語審議会の立場として,この案が採択されることを希望する。

佐 伯

 今の御意見は,まえがきの5を削除するというのか。

土 岐

 いや,このままでさしつかえない。

佐 伯

 まえがき5の条項があるので,ローマ字を書いてはいけないのかという井上氏の論が出たわけである。ローマ字を書いてもよいのか。

 特殊の場合はこれに拘束されない。

井 上

 しろうとの第一印象として「当分の間漢字をあわせ示してもさしつかえない。」よりも,ローマ字のほうが手間がはぶけてわかりいいと思う。漢字には制限外のものが多くかな書きは不完全であるから,ローマ字を入れることは悪いことではない。だからローマ字を添え書きしてもさしつかえないということにしてはどうか。議案には,現にローマ字も示してある。

藤 森

 新聞社の立場としては,漢字をあてはめることもやりたくない。当分なれるまでやむを得ず漢字をあわせ示すのであって,それすら実施をにぶっているのはスペースの問題からである。
 ローマ字を併用する論が出ているが,ローマ字ではなおさら紙面をとるから,実施はできなくなる。

井 上

 新聞に入れよと主張するのではない。かな書きだけにしたら非難が起ってくるのではないか。かな書きには,縦書き・横書き・カタカナ・ひらがなと四とおりあって,かなり負担が多い。できるだけ負担を少なくするために,ローマ字を入れておくと,だんだんに世界的に認められていくのではないか。先のことを考え,現在にも即して行きたい。すくなくともまえがきに,ローマ字をあわせ示すことを書いておいたほうがいいと思うのだが,これはしいて主張するわけではない。そのほか,縦書き・横書きの基準なども大体きめておいたらよいと思う。

吉田(甲)

 当分の間漢字を入れてもよいというのは,現在中国の地名・人名は漢字で書く,その習慣をにわかに改めることができないから,やむを得ず併用するのである。ローマ字を入れることはよけいに複雑になる。漢字を併用することは事実上の準備期間と解釈して,この案がただちに実施されるよう総会として採択されたい。

松 坂

 吉田委員に賛成。ローマ字は,地図・写真などに使われるであろう。準備期間を設けることには不賛成。公用文改善協議会で横書きにすることときめたが,当分の間はしないでもよいというただし書きのために,実施されない。国語改革の先頭に立つ審議会としては,あくまでも実施を要望するのでなければ,うやむやになるおそれがある。

滝 口

 松坂氏に賛成。実施については,この案の作成に当って,各界の関係者がいろいろ考慮研究しているのであるから,実施についての案をとりきめるのは不要。このまま可決されたい。

 ただし書きは,できるだけ実施されるようにと希望してつけたのであって,実施普及が実際に行われるためには,具体的な案を作っていただきたいというのである。

会 長

 国語審議会としては,ただし書きをつけるのは,実施を引きのばすのではなくて,できるだけ早く,広く,実施を促進する意味である。きめ放しで,ほってはおかない。実施に違算がないようにされたいとしたほうが妥当ではないか。

吉田(甲),滝 口

 賛成。

吉田(澄)

 実施についてはどんな具体策があるか。

国語課長

 文部省としては大体三つの案をもっている。
(1) 手引書を作って広く流す。
(2) 教育面で,まず教官の講習会をやる。
(3) 検定教科書の基準に入れてもらう。

倉 石

 現在の日本の教育界に,中国語に対する常識が乏しい。現代の中国語音がもっと一般にしみとおることが将来の日本のために必要である。
中国語の知識を普及するのに当局が努力すれば,最初に予想されたよりも困難ではないと思う。

金田一

 中国の地名・人名は,本国で漢字を使って書いており,しかも漢字は一見してすぐわかる。これをやめてかなにすれば,新たに現代中国音を知らなければならない。準備期間を設けなければ,すこしくしいすぎると思う。ローマ字で書いたほうがよいと思う人は書けばよいのである。漢字をあわせ示してもよいというのは非常に意味があり,国民がなれるまでの準備期間の意味にもなる。急激にすぎてかえって実行不可能にならないように,適当な準備期間を設けるようにしたほうがよい。

土 岐

 金田一氏の説はおだやかな考えであるが,実施面は当局にまかせておけばよいので,審議会としては,中国の地名・人名をかなで書けばこうなる,これがいちばん適当な書き方であるという答申をすれば,われわれの仕事は終ったのである。

会 長

 審議会の役目を単にそう考えるのはどうか。国家の機関としての使命をはたすには,やはり実施面の細かい点まで考えてやるべきものと思う。

吉田(甲)

 漢字をあわせ用いるということが,実施方法を示していると思う。

藤 森

 土岐委員の説は,審議会は審議さえすれば,あとはどうでもよいというようにとれるが,審議会は,やり放しでなく,実施上の問題にも力添えをするべきである。実施を促進するについて,暗示などでなく,もっとしっかりした方法をも考えてほしい。

 この案は現在の実状に即して実施できる確信をもっている。これをこのまま採択願いたい。実施方法は別に審議されたい。

佐 野

 この案が実施可能の案であることは,みな認められると思う。世界中でチャン・チェシーといっているのに,日本だけショーカイセキとしては通用せぬ。かなで書けばこうなるのだという案を早く実施すべきである。漢字を併用することが,相当な準備期間であるから,特別な準備期間を設ける必要はない。主査委員長の報告の,「実施可能を確信する。」という言を信じ,ただちに実施されたい。手引その他の実際上の準備は当然必要であるから,答申の前文か後文かに,十分手を尽して,すみやかに実施されたいというようなことをつけ加えて,この案をこのまま採択していいのではないか。(拍手おこる)

会 長

 実施可能として主査委員会できめたものであるから,このまま採択することとし,遺憾なきを期せららえたいということを添えておいてはどうか。(拍手多数)

会 長

 この案は決定と認める。
(このあと,審議会の改組について会長の報告があり,さらに建議文案が可決された。)

建     議

 中国の地名・人名の書き方に関して,別冊「中国地名・人名の書き方の表」のとおりに議決いたしました。ついてはこの書き方の普及に関して最善の努力をされ,できる限りすみやかに実施されることを希望いたします。

(建議は8月1日会長名をもって文部大臣あてに提出された)

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