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文化庁月報
平成23年4月号(No.511)

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連載 「言葉のQ&A」

「敷居が高い」の使い方

文化部国語課

 御存じのとおり,「敷居」は家の門や玄関,部屋の出入口などの引き戸や障子,ふすまなどを開け閉めするために床に設置される溝のついた横木のこと。ある場所に行きにくい,入りにくい気持ちを「敷居が高い」という言葉で表現することがありますが,「国語に関する世論調査」の結果からは,この慣用句の本来の使い方が忘れられつつある状況が分かります。

  • 問1 「あのレストランは高級すぎて敷居が高いよ。」と言ったら,その使い方はちょっとおかしいと指摘されました。「敷居が高い」の本来の使い方を教えてください。
  • 答 「敷居が高い」は,もともと,不義理や面目の立たないことがあって,その人の家に行きにくい,という意味で使われていました。

  明治期以降の文学作品を調べると,「敷居が高い」は,不義理なことや面目の立たないことがあって,その人の家に行きにくい,という意味で用いられることが多かったようです。典型的には,次のような使われ方が普通でした。

 「初めは井筒屋のお得意であったが,借金が(かさ)んで敷居が高くなるに従って,かのうなぎ屋の常客となった。」(岩野泡鳴 「耽溺(たんでき)」 明治42年)

ここでは,借金がたまっているという不義理のために,得意にしていた店(=井筒屋)に行きにくくなってしまった状況を,「敷居が高い」という言葉で表現しています。

 また,現在手にすることのできる国語辞典も,ほとんどが同様の意味だけを掲載しています。

『大辞林 第3版』(平成18年・三省堂)
「不義理・不面目なことなどがあって,その人の家に行きにくい。」
『広辞苑 第6版』(平成21年・岩波書店)
「不義理または面目ないことなどがあって,その人の家に行きにくい。敷居がまたげない。」
  • 問2 「敷居が高い」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
  • 答 30代以下の世代では,「高級過ぎたり,上品過ぎたりして,入りにくい」の意味で「敷居が高い」を使う人が多くなっています。

 平成20年度の「国語に関する世論調査」で,「あそこは敷居が高い。」という例文を挙げて,「敷居が高い」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。
(ア) 相手に不義理などをしてしまい,行きにくい・・・・42.1%
(イ) 高級過ぎたり,上品過ぎたりして,入りにくい・・・45.6%
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10.1%
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・0.3%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1.9%

 グラフは年代別の結果を示したものです。これを見ると明らかなとおり,40代を境に,50代以上では本来の意味である「相手に不義理などをしてしまい,行きにくい」,30代以下では「高級過ぎたり,上品過ぎたりして,入りにくい」を選んだ人が多くなっています。現在は,本来の意味から「不義理や面目の立たないことをしている」という前提となる理由の部分が欠け,その家に入りにくい,という結果だけを残して用いられるように,その使い方が変わってきている状況が分かります。

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