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文化庁月報
平成23年9月号(No.516)

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連載 「言葉のQ&A」

(げき)を飛ばす」の意味

文化部国語課

 「監督が立ち上がって選手に檄を飛ばしています。」 ―スポーツの中継などで「檄を飛ばす」という言葉がよく使われています。多くは,選手に気合いを入れる,激励するというような意味で使われているのですが,本来の意味とは随分違っています。

  • 問1 「檄を飛ばす」の本来の意味を教えてください。
  • 答 「檄」は自分の信念などを書き記して,広く人々に知らせる文書のこと。「檄を飛ばす」は「自分の主張や考えを広く人々に知らせて,同意を求める。」という意味の言葉です。

まず,「檄」とは何であるのかを国語辞典で調べてみましょう。


・「日本国語大辞典」第2版(平成14年 小学館)

 げき【檄】 [1]古代中国で,召集または説諭のための文書。木札を用いたという。めしぶみ。さとしぶみ。[2]相手の悪い点をあばき,自分のすぐれている点を述べて,世人に同意を求める文書。現代では特に,一般大衆に自分の主張や考えを強く訴える文章。檄文。ふれぶみ。

・「大辞林」第3版(平成18年 三省堂)

  げき【檄】 自分の主張を述べて同意を求め,行動への決起を促す文書。檄文。

 元々「檄」は木札などに書かれた「文書」でした。自分の主張や考え方を述べて,広く同意を求める文書という意味も持っています。この意味を踏まえた上で,「檄を飛ばす」という成句の意味を確認しましょう。


・「日本国語大辞典」

 げきを飛ばす 人々を急いで呼び集める。また,自分の主張や考えを,広く人々に知らせて同意を求める。飛檄。また,誤って,がんばるよう激励するように用いられることもある。

・「大辞林」

 檄を飛ば・す 檄を方々に急いで出し,決起を促す。〔現代では「激を飛ばす」などと書き,激励したり発奮させたりする意に用いられるが,本来は誤り〕


 このように「檄を飛ばす」は自分の考えを広く伝えて,同意を求めたり,決起を促すという意味です。どちらの辞書も,激励するという意味で用いるのは誤りであると指摘しています。
 続いて,文学作品から,「檄を飛ばす」の本来の使い方を見てみましょう。森林太郎(鷗外)が翻訳したエドガー・アラン・ポー「十三時」の結びです。

 己はこんな怪しからん事を黙って見ているに忍びないので,早速スピイスブルク市を逃げ出した。そこで天下の麦酒(ビイル)(だる)(づけ)のキャベツの(すき)な人(たち)に檄を飛ばして(すくい)を求める。寄語す。天下の義士よ。決然()って,隊を成してスピイスブルクに(ちん)入して,市の秩序を(かい)復し,狂暴者を議事堂の塔の上より蹴(おと)そうではありませんか。(エドガー・アラン・ポー「十三時」 森林太郎訳 大正元年)

 ここで「己」は,市の秩序の回復のために結集するよう人々の決起を呼び掛けています。「天下の義士よ。」以下が檄の具体的な内容です。

  • 問2 「檄を飛ばす」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を詳しく教えてください。
  • 答 全ての年代を通して,「元気のない者に刺激を与えて活気付けること」を選んだ人が多くなっています。

 平成19年度の「国語に関する世論調査」で,「檄を飛ばす」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)

(ア) 自分の主張や考えを,広く人々に知らせて同意を求めること・・・・・・・ 19.3%
(イ) 元気のない者に刺激を与えて活気付けること・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72.9%
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.2%
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.6%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5.0%

檄を飛ばす

 年代別の結果を示すグラフからも分かるとおり,この言葉については,全ての年代を通じて,本来とは違う「元気のない者に刺激を与えて活気付けること」という意味で使う人が多くなっています。60歳以上を除いた年代では,「元気のない者に刺激を与えて活気付けること」を選んだ人が7割を超えています。
 「元気のない者に刺激を与えて活気付けること」という意味として用いられるようになってきた原因としては,ふだん余り目にすることのない「檄」を,日常よく使われる「激励」の「激」と混同してしまう人が多いということがあるのかもしれません。

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