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文化庁月報
平成23年10月号(No.517)

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連載 「言葉のQ&A」

「他山の石」の意味

文化部国語課

 「先生の生き方を他山の石として頑張っていきます。」 ― このように,「他山の石」という言葉は,「自分が手本にしたい目上の人の良い行い」という意味でしばしば用いられているようです。しかし,本来の意味は違っており,冒頭の言い方では「先生」に失礼な発言をしたことになってしまいます。

  • 問1 「他山の石」の本来の意味を教えてください。
  • 答 「他山の石」は,中国最古の詩集「詩経(しきょう)」にある故事に由来する言葉です。「よその山から出た粗悪な石も自分の宝石を磨くのに利用できる」ことから「他人のつまらぬ言行も自分の人格を育てる助けとなる」という意味で使われてきました。

まず,「他山の石」を国語辞書で調べてみましょう。


・「広辞苑」第6版(平成20年 岩波書店)

 たざんのいし【他山の石】 (「他山の石(もっ)て玉を(おさ)むべし」より)自分の人格を磨くにの役立つ他人のよくない言行や出来事。「―とする」 ▽本来,目上の人の言行について,また,手本となる言行の意では使わない。

・「大辞林」第3版(平成18年 三省堂)

  他山の石 「他山の石(もっ)て玉を(おさ)むべし」に同じ。「友人の失敗を―とする」

 どちらの辞書も「他山の石」は,「他山の石(もっ)て玉を(おさ)むべし」と同じ意味としています。では,この言葉の意味を辞書で改めて確認してみましょう。


・「広辞苑」

 他山の石以て玉を攻むべし (よその山から出た粗悪な石でも,自分の宝石を磨く役には立つという意味から)自分より劣っている人の言行も自分の知徳を磨く助けとすることができる。

・「大辞林」

 他山の石以て玉を攻むべし よその山から出た粗悪な石も自分の玉を磨くのに利用できるの意から,他人のつまらぬ言行も自分の人格を育てる助けとなりうることのたとえ。


 このように「他山の石」は,他人の誤った言行やつまらない出来事でもそれを参考にしてよく用いれば,自分の修養の助けとなるという意味を示しています。また「広辞苑」のように,目上の人の言行や手本となる言行の意味には本来用いないと指摘している辞書や,似た言葉として,「人のふり見て我がふり直せ」を挙げている辞書(「成語大辞苑」主婦と生活社 平成7年)もあります。

 続いて,実際の文章の中で「他山の石」がどのように使われているか見てみましょう。次に挙げるのは寺田寅彦の「科学と文学」という文章です。

 文学者の文学論,文学観はいくらでもあるが,科学者の文学観は比較的少数なので,いわゆる他山の石の石くずぐらいにはなるかもしれないというのが,自分の自分への申し訳である。

(寺田寅彦「科学と文学」昭和8年)

 この文章で著者は,謙遜しながらも,科学者である自身の文章が文学に興味を持つ人々にとっても,「いわゆる他山の石の石くず」程度になるのではないかと記しています。つまり,文学の世界から見れば「よその山」にいる自分が科学者の立場から書いた文学論であっても,読者の参考になるところがあるのではないかと言っているわけです。「他山の石」の効果的な使い方といえるでしょう。

  • 問2  「他山の石」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を詳しく教えてください。
  • 答 16〜19歳では「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」を,30代以上では「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」を選んだ人が多くなっています。

 平成16年度の「国語に関する世論調査」で,「他山の石」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)

(ア)他人の誤った言行も自分の行いの参考となる・・・・・・・・・・・・・・ 26.8%
(イ)他人の良い言行は自分の行いの手本となる・・・・・・・・・・・・・・・・ 18.1%
(ウ)(ア)と(イ)の両方の意味で使う ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.5%
(エ)(ア)と(イ)のどちらの意味でも使わない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22.4%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27.2%

他山の石

 年代別の結果を示すグラフからも分かるとおり,16〜19歳では「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」を選んだ人が本来の意味を選んだ人の割合を上回っています。20代になるとその割合が本来の意味である「他人の間違った言行も自分の行いの参考となる」を選んだ割合に近くなり,30代以上では本来の意味を選んだ人の方が多いという結果になっています。
 また,この語については,「分からない」を選んだ人が多いのも特徴です。「分からない」を選んだ人の割合は,16〜19歳を除く年代で2割台半ばから3割強となっており,特に20代から40代まででは,最も多く選ばれた選択肢になっています。

 例えば,「人のふり見て我がふり直せ」という言葉は,字面を読めばその内容が十分に理解できるのに対し,「他山の石」の場合,それだけでは「よその山の石」という意ですから,知識で補わない限り理解することができません。そのようなこともあって,「他山の石」という言葉は,日常生活で余り使われなくなり,本来とは違う「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」と解釈する人や,「分からない」という人が増えているのかもしれません。

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