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文化庁月報
平成23年10月号(No.517)

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特集 「文化芸術への助成に係る新たな審査・評価の仕組みの導入 」

報告書取りまとめに当たっての“雑感”

昭和音楽大学教授 根木昭

 第3次「文化芸術の振興に関する基本的な方針」に示された「諸外国のアーツカウンシルに相当する仕組みを導入する」ことを念頭に,平成23年度から,独立行政法人日本芸術文化振興会にプログラムディレクター(PD)とプログラムオフィサー(PO)が配置されました。本稿は,このことを検討するために設けられ,筆者が座長を仰せつかった「調査研究会」の報告の概要とPD,POの位置付けについて説明し,あわせて,諸外国のアーツカウンシルと振興会の相違について感じていることに触れようと思います。

目次

  1. 1 はじめに
  2. 2 調査研究会の報告
  3. 3 振興会の助成の構造と今回のPD,POの配置
  4. 4 基本的な事柄についての“雑感”

はじめに

 平成23年度から,独立行政法人日本芸術文化振興会(以下「振興会」)にプログラムディレクター(以下「PD」)とプログラムオフィサー(以下「PO」)が配置され,振興会の文化芸術団体等に対する助成業務が一段と充実・強化されることになりました。
 平成23年2月8日,文化芸術振興基本法PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(252KB))に基づいて第3次「文化芸術の振興に関する基本的な方針」(以下「第3次基本方針」)が閣議決定され,その中で「文化芸術への支援策をより有効に機能させるため,独立行政法人日本芸術文化振興会における専門家による審査,事後評価,調査研究等の機能を大幅に強化し,諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入する。このため,早急に必要な調査研究を行うとともに,可能なところから試行的な取組を実施する。」ということが示されました。
 これを受けて,振興会に設置された「文化芸術活動への助成に係る審査・評価に関する調査研究会」(以下「調査研究会」)において,9回にわたって検討が行われ,平成23年6月10日に報告書PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(412KB))が取りまとめられました。この報告書の中で,振興会の助成業務へのPD,POの関わり方や職務内容が示され,それをもとにこのたびの配置となって実現したものです。

調査研究会の報告

 調査研究会の報告書の内容については,別稿で詳しく紹介されますが,かいつまんで要約しますと,第3次基本方針を踏まえ,文化芸術活動への助成に係る計画・実行・検証・改善(PDCA)サイクルの確立に向けて,振興会が行う審査,事後評価,調査研究等の機能を大幅に強化するため,平成23年度からPD,POを配置して試行的に行う新たな審査・評価の仕組みの在り方について提言したものです。
 具体的には,[1]文化庁から交付される補助金により振興会が実施する「トップレベルの舞台芸術創造事業」のうち,平成23年度は「音楽」と「舞踊」の2分野において,専門的な知識や調査研究に基づく助言や情報提供を行うPD,POを配置し,[2]これらPD,POの専門性を生かした審査の実施の在り方,審査結果の公表等の検討,事後評価の役割・方法・結果の活用,調査研究の充実等に言及するとともに,[3]PD,POの機能・役割,求められる資質・能力等について提案しています。
 なお,平成23年度の試行の成果と課題について,平成24年度以降にその達成状況や結果を検証・分析し,引き続き将来における審査・評価等の仕組みの在り方について検討することも付言しています。

振興会の助成の構造と今回のPD,POの配置

 ところで,現在,国の文化芸術団体等に対する助成は,振興会による(1)「トップレベルの舞台芸術創造事業」と,(2)「芸術文化振興基金事業」(以下「基金事業」)に大きく分かれます。
 (1)は,かつての文化庁による事業が平成21年度に振興会の補助事業に移され,平成23年度から新たな助成制度として実施されているものです。また,(2)の基金事業は,[1]「芸術家・芸術団体による芸術創造普及活動」,[2]「地域文化の振興を目的とする活動」,[3]「文化団体による文化振興普及活動」に対する助成から成っています。
 (1)は,我が国の芸術水準の飛躍的向上を図るため,音楽,舞踊,演劇,伝統芸能,大衆芸能など,各分野のトップレベルの芸術創造活動に対して行う助成です。(2)の基金事業の[1]は,これに準ずる現代舞台芸術の公演や伝統芸能の公開のほか,美術の展示,国内映画祭,多分野にまたがる公演・展示その他の活動に対して行う助成です。一方,[2]と[3]は,文化会館・美術館等の文化施設における公演・展示,アマチュア等の文化団体が行う公演・展示,文化財の保存・活用・伝承等に対して行うもので,いわば,主として地域における各種の文化芸術活動に対する助成です。
 従って,(1)「トップレベルの舞台芸術創造事業」と,これに準ずる(2)の基金事業の[1]「芸術家・芸術団体による芸術創造普及活動」に対する助成と,[2]「地域文化の振興を目的とする活動」及び[3]「文化団体による文化振興普及活動」に対する助成という,いわば三層構造として一応理解してよいでしょう。
 先に述べましたように,今回のPD,POの配置は,これら三層構造のうち「トップレベルの舞台芸術創造事業」に関わるものであり,かつ「音楽」と「舞踊」の2分野に限って試行的に措置されたものです。とはいえ,報告書では,PD,POの機能・役割については,助成業務全体を通ずる一般化したものとしてとらえています。

基本的な事柄についての“雑感”

 さて,今回の調査研究会では,第3次基本方針やこれを審議していた文化審議会文化政策部会の「審議経過報告」で示された次のような基本的な事柄に関し,委員の間での認識は必ずしも同じではありませんでした。ここでは,“雑感”として筆者の個人的な見解だけを記しておきたいと思います。

 (1)一つは,「諸外国のアーツカウンシルに相当する新たな仕組みを導入する」(第3次基本方針),あるいは「新たに『日本版アーツカウンシル(仮称)』の導入に向けた検討を行う」(審議経過報告)とされていることのようです。
 我が国には“諸外国”(?)にあるようなアーツカウンシルがなく,これに相当する仕組みを導入する必要があるということのようです。そして,その典型例として英国のアーツカウンシルが念頭に置かれ,また,それと関連して,我が国の民間助成財団の成功事例なども想定されているように見受けられます。
 つまり,英国のアーツカウンシルや我が国の民間助成財団では,助成それ自体を目的とし,審査機構を含む意思決定の体制がきちんと整備されている。しかるに,振興会は,国立劇場・新国立劇場の運営など性格が違う役割も担っているため業務が拡散し,審査機構や意思決定システムが極めて不十分であるといった認識によるものと推測されます。
 しかし,振興会が基金業務を担うことになったのは,基金発足時(1990年)の原資の拠出先として特殊法人(当時)しか認められなかったことにあります。また,そもそも振興会が,基金業務と国立劇場・新国立劇場の運営業務を担うことは,文化政策としてそのような体制を選択しているのであり,あえて"諸外国"のアーツカウンシルに倣わなければならない積極的理由は見出し難いのではないでしょうか。
 責任体制については,英国のアーツカウンシルでは,審査部門による審査結果について評議会が最終的に意思決定をするとともに責任を負い,我が国の民間助成団体でも,理事会がそれを担うことになっているようです。一方,振興会では,最終的な責任は理事長が負いますが,実質的・具体的な審査は,専門委員会−部会−運営委員会の3段階で行われる仕組みとなっています。
 おそらく,助成に関する限り,振興会には,評議会や理事会に相当する意思決定機関がないことが指摘されているのではないかと思われますが,運営委員会以下の審査機構全体が,審査を行うと同時に実質的な決定機関として機能していることに鑑みれば,現在の振興会の執行体制に重大な欠陥があるとは考えられません。
 ただ,助成規模が膨大なこと,担当スタッフが少ないことなどから,審査機構と相手方である文化芸術団体との間の意思疎通の点で不十分さがあったことは否めません。今回のPD,POの配置は,この点を補完するものとして大いに期待できると思われます。

 (2)二つは,“諸外国”のアーツカウンシルは(おそらく我が国の民間助成財団も),PD,POなどの専門家を配置して,審査・事後評価等の仕組みが十全に機能し,いわゆるPDCAサイクルも確立されている,という認識に立っていることです。
 英国のアーツカウンシルの助成対象はプロフェッショナルが中心で,おおむね相手方を把握でき,双方のコミュニケーションも含めた審査や事後評価ができるもののようです。このことは,我が国の民間助成団体も同様で,もともと助成額がそれほど大きくないこともあって,相手方との間のきめ細かい対応が図られている模様です。
 しかし,先に述べましたように,振興会の助成は三層構造になっています。(1)については純然たるプロフェッショナルであり,(2)の[1]もこれに準じる団体であるため,相手方の把握はある程度可能です。今回のPD,POの配置は,(1)についてであり(ただし,「音楽」と「舞踊」の2分野),いわば顔の見えるプロフェッショナルが相手です。その意味で,これからきめ細かな対応ができるものと考えられます。
 一方,(2)の[2]と[3]では,アマチュアを含む幅の広い相手が対象となっており,その実態はなかなかとらえ難い状況にあります。我が国の文化政策は,「文化の頂点の伸長」と「文化の裾野の拡大」を両軸に展開されており,欧州などのプロフェッショナルに傾斜した助成の在り方とは異なっています。つまり,裾野の部分まで目配りしなければならない反面,これらは数も多く継続的に把握することは困難といえます。
 将来的には,PD,POは,基金事業も含めて対象とすることが予想されます。また,より基本的には,現在の三層構造を改めることも課題になると思われます。「裾野の拡大」が文化政策の重要な機能である以上,(2)の[2]と[3]についての対応の在り方も考えていかなければならないでしょう。その際,"諸外国"のアーツカウンシルや我が国の民間助成財団の助成とは異なる方法論が必要になるものと思われます。

根木昭

(氏名)根木 昭  (職業)昭和音楽大学教授


【経歴・活動欄】
旧文部省,文化庁,長岡技術科学大学,東京芸術大学を経て現職。東京芸術大学・長岡技術科学大学名誉教授。法学博士。 専攻:文化政策論。
著書:『文化政策学入門』『文化行政法の展開』『日本の文化政策』ほか。

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