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文化庁月報
平成23年10月号(No.517)

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特集 「文化芸術への助成に係る新たな審査・評価の仕組みの導入」

鼎談 〜日本の文化芸術の現状とPDの抱負〜

 平成23年8月下旬に,以下の3氏が一堂に会し,「日本の文化芸術の現状とPDの抱負」と題して鼎談を行いました。

鼎談中の3氏(左から,近藤長官,前PD(音楽分野),中川PD(舞踊分野))

鼎談中の3氏

(左から,近藤長官,前PD(音楽分野),中川PD(舞踊分野))

《鼎談者》
 前 和男
プログラム・ディレクター(音楽分野),社団法人日本オーケストラ連盟監事
 中川 俊宏
プログラム・ディレクター(舞踊分野),武蔵野音楽大学音楽環境運営学科長
 近藤 誠一
文化庁長官

目次

  1. 1 日本の文化芸術の現状
  2. 2 PDとしての抱負

◆日本の文化芸術の現状

【近藤長官】

近藤長官

近藤長官

 このたびは,お忙しい中,お越しいただきありがとうございます。プログラム・ディレクター(以下,PD)というのは,日本で初の試みであり,大変期待されておりますが,このたびはこのような役割をお引き受けいただきありがとうございます。
 資源豊富な国々や農業中心の国々と異なり,日本のような成熟した国は文化・創造産業,いわゆるクリエイティブ産業を社会の活性化や経済の成長の中心にしていかなければなりません。また,グローバル化で人々のアイデンティティが問われている中で,自分がどういうコミュニティに育っているのかを認識し,また,国民の皆様が生き甲斐のある生活を送っていただくのに,もっとも効果があるのが文化です。その文化の振興のため,限られた公的資金を効果的にどう使っていくかを考えているところです。こうした中,アーツカウンシルといわれる組織の仕事,特に文化芸術の審査・評価や将来のあるべき姿の提言といった役割について,イギリスは一つのモデルですが,日本にふさわしいアーツカウンシルというものを作っていくということが,第3次基本方針に示されました。その具体的なステップとして,今回PD等を導入したわけです。専門知識を活用しつつ,今後の将来像を考えていただきたいと思います。理想と現実を結んでいくことは簡単ではないと思いますが,それだけにそれぞれの分野で経験とご見識のお持ちのお二方にお引き受けいただき,大変嬉しくまた大いに期待しております。
 まず,それぞれのご経験を踏まえ,日本の文化芸術の振興を図っていく上で,それぞれの分野の現状のご認識や課題についてお聞かせ下さい。

【前PD】
 東日本大震災や原発事故の影響により,海外アーティストのキャンセルが話題になりましたが,国内の公演もそうした影響や風評被害から免れておりません。ただ,そういうネガティブなことだけでなく,仙台フィルハーモニー管弦楽団が7月から定期公演を再開し,お客様がたくさんこられたということです。こういう時期だからこそ心の癒しに対する人々の期待はより大きいという認識を新たにいたしました。
 そうしたこととは別にしても,一般的に観客の嗜好が多様化し,一つのものに興味を集中するのが困難であるという現状がございます。特にオペラやオーケストラは人材をたくさん抱えておりますので,いっそう難しさもあると考えています。
 日本の文化芸術への助成システムは,決して外国に劣らないと思っています。しかし,日本芸術文化振興会別ウィンドウが開きますが出来てから20年経っており,いつまでも同じではいけない。また,検証の問題にしても,「どうして採択されなかったのか」という一種の不信感がぬぐえない。アスリートの評価などはコンマ何秒でも記録が勝っていれば勝ちになりますが,それと違って,芸術の評価は単純でない。ここに難しさがあると思います。

【中川PD】
 私が担当するのはバレエやモダンダンスなどの舞踊分野ですが,現状について申し上げると,プラスの面としては,ダンサーの質が上がっていることが挙げられます。日本人ダンサーは技術的には世界的にも通用すると思います。これは指導者等の努力の結果だと思います。また体型的にも見劣りしなくなりつつあります。このように人的な資源という面ではかなり追いついてきたと思います。
 しかし,こういったプラスの面が生かせていないということがマイナスの面として挙げられます。オリジナルの作品を作る,創作的な力が育っていない。これは,振り付け師の方等に奮起していただく必要があると思います。もう少し,国際的に認められるようなメイドインジャパンの作品が生まれ,国際フェスティバルや海外の劇場からオファーが来るような時代にしなければならないと思います。
 そのためには,日本のバレエとしての特質を意識して作っていく必要があります。日本特有の題材を生かすといったことではなくて,同じ作品であっても,日本人の感性で作ったものが出来てきていいのではないか。ヨーロッパやアメリカの人々と違う作品を作ることで国際的に発信していける。これは夢の一つなのですが,そのように思います。
 もう一つは,限られた観客しか来ておらず,それらの方を相手に年に数回の公演しかしていないということです。レパートリーを繰り返し観客の前で上演することで,上達するものです。各団体は経営状況が苦しい中で努力されていると思いますが,観客層を広げる努力を真剣に考える時期ではないでしょうか。これは今後考えていかねばならないことだと思います。

◆PDとしての抱負

【近藤長官】
 もともとバレエやクラシックは150年ほど前に西洋から入ってきたものですが,日本は150年でよく吸収してきたと思います。人材という点で言えば日本人の個々のタレントは相当高いレベルにあると思います。
 しかし,そういった一人一人の才能や情熱が,国や社会の力になっていない。これは,団体の運営の問題なのか,社会的なサポートの問題なのか,あるいは政府であれ民間であれ財政の問題なのかもしれません。あるいは,先を見て,戦略を考える努力が十分でないのかもしれません。
 本来あるべき日本の音楽や舞踊のアーティストや団体の姿を念頭に置いて,今後はPDとして,審査や評価を行う際に,どのような点に特に力点を置かれるおつもりかお伺いしたいと思います。

【前PD】

前PD(音楽分野)と中川PD(舞踊分野)

前PD(音楽分野)と中川PD(舞踊分野)

 その都度の企画でなく,団体が将来にわたって長期的な展望をたてることが必要であると思います。ただ,優秀なアーティストは,首都圏や名古屋,大阪等,大都市に集中しがちです。地方で一生懸命努力している方々を見落とさないという目配りが必要だと思います。PO(プログラム・オフィサー)や調査員も設けられることになっておりますが,やはり実際に足をのばして公演を視聴することが必要であると思います。実際に会場に訪れていなければ団体等の不信感がぬぐえないでしょう。そういった点を含めて,日本のアーティストを大切にしていきたいと考えております。

【中川PD】
 私も,芸術団体の中に不信感があるといったことを話に聞くことがありました。これはシステムの問題なのかもしれませんし,まずいところがあれば直していかねばなりません。現在のシステムを運用するにせよ,やはり足りなかった部分があると思います。選びっぱなしで公演等を観に行っていなければ,観に行ってないのになぜ選べるのかといった声が出てくるのは当然であると思います。これからは,私たちPDと,PO,そして調査員でチームを組んで,選んだものに関してはきちっと確認していきたいし,観てきた結果について専門委員会に情報提供し,そして,選ぶ側から出た意見を団体に伝えていくことが必要です。その意見に対しても,また芸術団体から意見が出ると思いますので,それをまた選ぶ側に伝えていく。こういった双方の意思疎通を図っていくことによって,現在のシステムでも運用が今よりも良くなっていくと思います。
 また,評価については,単にSとかAとかランクをつけることでなく,芸術団体と一緒に,挙げられた問題点を考えていく場にしていきたいと思います。

【近藤長官】
 PD・POやアーツカウンシル等の選ぶ側と,芸術団体が,コンスタントなコミュニケーションを行い,意見をぶつけあって,お互いの信頼関係が出来ていくということは,PD・POやアーツカウンシルが機能する上で重要であると思います。評価というものは主観的になりがちですが,皆が納得出来る客観的な評価の基準をPDとPOの専門知識を生かして作っていただきたいと思っています。
 また,イギリスでは,地方にもアーツカウンシルの支部があり,地方での芸術活動と緊密な関係を築くことが出来ていると聞いておりますが,将来の日本の文化芸術の助成のありうべき姿として,地方の支部のようなアーツカウンシルがあった方がいいのか,あるいはそういった地方支部がなくても役割を果たせるのか,この点について,ご意見をいただければと思います。

【前PD】
 地方に権限を持たせるということも,これからの検討の課題かと思います。地方と大都市圏との格差は決して否定出来ません。ただ,地方はだめだと言っていれば今後の将来はなくなってしまうと思います。まず,地方の人々が何を望んでいるかということをより正確に把握せねばならないと思います。

【中川PD】
 日本芸術文化振興基金別ウィンドウが開きますでは,アマチュアの文化活動に対する支援を行っていますが,あちらでは地域に委ねる支援は成り立つと思います。舞踊分野では,団体が大都市圏に集中していて,それ以外では大都市圏の団体と肩を並べられるような団体が育っていないのが現状と思いますので,地域に任せるような形にはまだなっておらず,時期尚早かと思います。演劇や音楽分野では,地域に根ざして活動されている団体がありますのでそういった形もありうるかとは思いますが,これから先,各地方の公立文化施設等が企画制作力を高め,優れた作品をつくれるようになれば,当然地方を何ブロックかに分けて,その中でやっていただくという形もとれるかとは思います。

【近藤長官】
 公的資金で文化芸術活動をサポートしていく体制としては,トップレベルへの支援と,文化芸術の平均レベルを上げるような人々への支援と,子どもたちに文化芸術を体験する機会を提供し文化芸術への感性を養っていくといった支援があります。いずれも大切ですが,資金には限りがありますので,民間と公的機関とで役割分担していかねばならないと思います。その点について,PDとして,どのように役割分担をし,どの点に重点を置くのが望ましいとお考えでしょうか。

【中川PD】
 今回の試行的導入はトップレベルの舞台芸術創造事業に限ったものですし,当面はトップレベルへの支援に重点を置くことを考えております。トップレベルのものは国際的に通用する水準ということですので,これは国が担当することと考えておりますし,普及,いわゆる裾野を広げる支援については地域で行うべきものと思っています。ただ,地方公共団体は財政や仕事量の面で厳しいということもありますので,そういう声が上がってきたときに役割を検討すべきと思いますが,現時点ではトップレベルに集中することを考えております。

【近藤長官】
 最後に,将来の審査・評価等の在り方に向けた第一ステップとして今回の試行的導入が注目を集めていますが,一言ずつ抱負をお願いいたします。

【前PD】
 現在の助成審査のシステムにおいては,委員会が重層的にありますが,お互いのコミュニケート,伝達というものをスムーズにしていきたいと思っております。

【近藤長官】
 今の助成システムは,委員会等がいわば三重構造になっており,申請する方からすれば,スピードも重要になって参りますのでこれをシンプルにしたほうがいいという意見もありますが,将来的にもっと効率化した方がよいということはお考えでしょうか。

【前PD】
 効率化を考えるべき問題だと思いますが,評価というのは難しい領域であり,その意味では,多くの人の目に触れるということもそれだけの効果があると思っております。

【近藤長官】
 イギリスなどはもっと早く,2か月くらいで結果が出るものもあると聞いています。今のように慎重に多くの目で見た方がいいのか,それとも申請者側の立場にたってスピーディーに結論を出し,どういう方向に行けばよいのか示す方がいいのか,ある意味ジレンマがありますね。

【中川PD】
 私は,PDといういわば選ぶ側の一員でありますが,気持ちとしては両方の間に立ち,両方の意見を聞き,意思の疎通を図り不信感を軽減したい。これをまず第一に心がけたいと思います。
 審査のプロセスについてさまざまなご意見がありますが,今のやり方のどこが問題なのかということをまずはっきりさせていかないと,海外のシステムを模倣するだけでは仕方がないと思います。日本芸術文化振興会が出来て20年ほどになりますが,現在の審査のやり方は,少しでも公平かつ公正に審査を行おうとしたものですので,今までの経験から積み上げてきたものを最初から否定するのはいかがかと思います。今まで積み上げてきたものの中でどこに問題があるかを見極め,問題があればそれを整理し改良するということをやっていかなければいけないと思います。

【近藤長官】
 文化庁としましても,諸外国のアーツカウンシルに相当するものを作るということを,第3次基本方針を受けて決めましたが,今後とも文化政策部会等の場で,将来の審査・評価等の在り方を引き続き議論し,よりよい仕組みを作っていきたいと考えています。本日は,どうもありがとうございました。


鼎談した3氏(左から,中川PD(舞踊分野)近藤長官,前PD(音楽分野))

鼎談した3氏(左から,中川PD(舞踊分野)近藤長官,前PD(音楽分野))

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