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文化庁月報
平成24年2月号(No.521)

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連載 「言葉のQ&A」

「役不足」とは,何が足らないのか?

文化部国語課

 「部長,どうして私をプロジェクトチームに入れてくださらなかったのですか。」「君を外したのは,役不足だったからだよ。」 ……この会話の中で使われている「役不足」とはどういう意味でしょうか。「国語に関する世論調査」で「役不足」の意味を尋ねたところ,多くの人が本来とは違う意味でこの言葉を使っていることが分かりました。

  • 問1 「役不足」は,本来どのような意味で使う言葉なのでしょうか。
  • 答 「役不足」とは,その人の能力に対して,与えられた役や役目が軽すぎることを言う言葉です。

 まず,「役不足」を辞書で調べてみましょう。


「日本国語大辞典 第2版」(平成12〜14年 小学館)

やく-ぶそく【役不足】〔名〕(形動)

[1]振り当てられた役に対して不満を抱くこと。与えられた役目に満足しないこと。
[2]その人の力量に対して,役目が不相応に軽いこと。軽い役目のため実力を十分に発揮できないこと。
[3](誤って,役に対して自分の能力が足りないの意と解したもの)役割を果たす力がないこと。荷が重いこと。「役不足ですが,一生懸命つとめたいと思います」

「大辞林 第3版」(平成18年 三省堂)

やくぶそく【役不足】

[1]俳優などが与えられた役に満足しないこと。
[2]能力に対して,役目が軽すぎること。「―で物足りない」
〔「役不足ですが頑張りたいと思います」などのように,自分の力量をへりくだる意味で用いるのは誤り〕

 このように「役不足」とは,ある人にとって,その人が与えられた又は与えられようとしている役目や役職が軽すぎることを言う言葉です。
 では,このことを踏まえて,冒頭の会話にもう一度注目してみましょう。
「部長,どうして私をプロジェクトチームに入れてくださらなかったのですか。」
「君を外したのは,役不足だったからだよ。」
 「役不足」という言葉をどのように理解しているかで,このやり取りは正反対の意味を帯びることになります。「私」が「役不足」を本来の意味で理解していれば,「能力を認めてもらった上で,自分を当てるほどの重要な役職ではないという判断の下に免除されたのだ。」と解釈しますし,反対に,「能力が足りない」という意味で理解していたなら,「自分では力量不足で,その役職が十分にこなせないと判断されたのだ。」と受け取ることになるでしょう。更に言えば,部長がどちらの意味を込めたつもりで使っているのかも問題になります。場合によっては,部長の言葉の真意を測りかねて,疑心暗鬼に陥ることさえあるかもしれません。
 このように,使う人によって正反対の意味で用いられることのある言葉は,コミュニケーションの上で重大な誤解を生む危険があります。特に「役不足」は,人の能力や仕事の軽重などに関わる文脈で用いられるので,一層の注意が必要でしょう。

  • 問2 「役不足」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を詳しく教えてください。
  • 答 本来の意味ではない「本人の力量に対して役目が重すぎること」として理解している人が半数を超え,本来の意味を選んだ人の割合を10ポイント上回っています。

 平成18年度の「国語に関する世論調査」で,「彼には役不足の仕事だ。」という例文を挙げて,「役不足」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。【 】内は平成14年度調査の結果)

(ア)本人の力量に対して役目が重すぎること・・・・・・・・・・・・・・ 50.3%  【62.8%】
(イ)本人の力量に対して役目が軽すぎること・・・・・・・・・・・・・・ 40.3%  【27.6%】
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.9%   【 2.8%】
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.3%   【 1.8%】
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6.2%   【 5.0%】

役不足

 全体では,本来の意味ではない(ア)「本人の力量に対して役目が重すぎること」を選択した人の割合が約5割となっており,本来の意味である(イ)「本人の力量に対して役目が軽すぎること」よりも,10ポイント高くなっています。年代別のグラフを見ると,50代以上では,本来の意味を選んだ人は3割代となっています。
 なお,「役不足」については,平成14年度にも同じ調査を行っています。平成14年度調査では,本来の意味ではない(ア)を選んだ人の割合が62.8%,本来の意味である(イ)が27.6%という結果でした。両者の間には35ポイントの差がありましたが,平成18年度調査までの4年間で,本来とは違う意味を選んだ人は13ポイント減り,一方,本来の意味を選んだ人は13ポイント増加しています。「国語に関する世論調査」の結果が報道などによって広く知られたことで,この言葉の本来の意味を確かめる機会が得られたからかもしれません。
 「役不足」の意味に揺れが生じている理由としては,荷が重すぎる,大役すぎるときに使う「力不足」「力量不足」といった言葉と混同していることなどが考えられるでしょう。

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