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文化庁月報
平成24年7月号(No.526)

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特集 「霞が関から文化力プロジェクト」

霞が関三丁目地区の文化力と地域連携
<文化の力をまちづくりへ,地域連携の核を作る>

霞が関コモンゲート管理組合(管理者 株式会社新日鉄都市開発)所長
青柳 理郎

目次

  1. 1 霞が関三丁目南地区の歴史
  2. 2 再開発と地域連携
  3. 3 文化力とまちづくり

1 霞が関三丁目南地区の歴史

 江戸時代,この地区の大部分は日向延岡藩内藤家の上屋敷で,江戸城内に位置し,東側に虎ノ門,南側には外堀の石垣,そして西側には溜池がありました。外堀の石垣は,霞が関コモンゲートの再開発を機に展示スペースができ,当時の姿そのままで保存され,江戸時代の土木文化を生き生きと現代に伝えています。

明治時代の東京女学館と外堀 国立国会図書館蔵

明治時代の東京女学館と外堀
国立国会図書館蔵

 明治4年に,その屋敷跡に工部大学校(現東京大学工学部)の前身である工部寮が設立されました。明治20年には同校が移転し,翌年に学習院大学が仮校舎として利用,明治23年には東京女学館が移転してきました。明治から大正にかけて,この地は教育文化の重要な一端を担っていたのです。
 大正12年の関東大震災をきっかけに東京女学館が移転し,官庁を霞が関に集約することが決定されたため,昭和8年に文部省庁舎,昭和10年には会計検査院庁舎が竣工しました。
 また,これに先立つ昭和2年に華族会館が,昭和3年は霞山会館が竣工しています。華族会館は現在,霞会館と名称を改めていますが,日本の伝統的な精神文化を後世に伝える活動をしており,戦前までは能楽堂が併設されていました。一方,霞山会館は日中の文化や人の交流を積極的に促進しており,日中文化の懸け橋となっています。
 昭和39年には,霞山会館が建て替えられ霞山ビルが竣工,同時に,国立教育会館,東京倶楽部ビルディングも竣工しました。国立教育会館は,全国の教職員の研修の場で,館内には虎ノ門ホールがあり,クラシック音楽の演奏会が数多く開かれていました。東京倶楽部は国際親善と国際的相互理解のための活動を行っています。
 さらに,昭和43年には,我が国最初の超高層ビルで,日本の建築文化を代表する霞が関ビルディングが竣工しました。この建物の前の広場では,屋外コンサート等がしばしば開催されていました。
 このように,20世紀のこの地区は,日本の行政や経済の中心のひとつであるとともに,日本の文化活動や教育,国際交流の発信拠点としての歴史を重ねてきたといえましょう。

2 再開発と地域連携

 21世紀になり新しいまちの姿が望まれる中,平成13年に内閣の都市再生本部により都市再生プロジェクトの第一次決定がなされ,中央合同庁舎第7号館(文部科学省,会計検査院)の再整備計画が打ち出されました。これを受け,この地区の官民の地権者等により「霞が関三丁目南地区まちづくり協議会」が設立され,まちづくりの方向性について議論がなされ,「まちづくり提案書」が取りまとめられました。
 この提案書では,官民が共存する新しい官庁施設整備の先導的モデルとして,高度な業務機能と国際的な商業・文化・交流・情報機能をあわせもつ複合的な都市機能を導入・整備する「二十一世紀型シビックコア」の形成を提言しています。特にソフト面では,文化等の歴史的蓄積を継承・発展させて,文化・情報等の知的交流や地域交流活動の場を形成し,新たな都市コミュニティ活動を活発化させることを目指しています。
 提案書をもとに,各ビルの建て替えや増築計画とともに,賑わいや交流の場として地区共通のオープンスペース(中央広場「霞テラス」)等の設置が計画されました。
 中央合同庁舎第7号館はPFI手法を用い,霞山会館とともに再開発事業として建て替えを行い,平成19年に官民共同による超高層ビル,霞が関コモンゲートが誕生しました。そして,霞が関ビルディング,東京倶楽部ビルディングとともに,新しい街づくりについての様々な活動を始めました。

3 文化力とまちづくり

 霞が関三丁目南地区の歴史を振り返ると,文化に深くかかわってきたことが分かります。このため,この地で「まちづくり提案書」にあるような「歴史的蓄積を継承発展させた文化・情報等の知的交流や地域交流活動の場を形成」することは,非常に意義の深いことではないかと考えています。
 地区内で行われている音楽会,文化セミナー,寄席といった「霞が関から文化力プロジェクト」は,まちの活性化といった点で重要な役割を担っています。また,ここで働く方々にとっては,この地が単に仕事をするだけのための場所ということではなく,こうした文化活動に参加することで自分自身を取り戻し,心の潤いを回復する場にもなりうるのではないでしょうか。「人は文化に接したり,文化に参加することで元気になれる。」という河合隼雄元文化庁長官の呼びかけは,こうした文化の力を指しているのではないかと考えております。

昼休みのコンサート

昼休みのコンサート

 霞が関はオフィスや官庁からなる街なので,文化力イベントを行う際も地域にお勤めの方々に受け入れてもらえるような工夫を行っています。ミニコンサートでは仕事帰りに気軽に立ち寄って良質の文化に触れることができるよう,玄関ホールであったり,中央広場であったり,帰りの導線に近い日常の空間を文化スペースとして活用しています。また,プログラムも専門性の高いホールでのコンサートとは違い,クラシック音楽を普段あまり聞いたことがない人でも一度は耳にしたことがある曲目を選んでいます。コンサートでは,音楽の演奏だけでなく,曲の解説や楽器の紹介等,文化を身近に感じてもらう工夫もしています。今でも「通りすがりで参加した」方は来場者の10%くらいはいらっしゃるので,演奏者のご協力を得て途中の入退場もできるようにしています。

 また,地域の関係者との連動も重要視しています。
 地区内には保育室があるため,昼間のイベントにはなるべく保育室のお子さん達を招待して楽しんでもらっています。なかには,昼休みの時間を利用して,保育室に預けたご自身のお子様と一緒にコンサートをお聴きになるお父さんの姿もありました。お子さんにとってはお父さんと音楽を一緒に聞くことができた大切な思い出となることでしょう。
 隣接するビルに中央共同募金会があるため,毎年10月1日に中央広場「霞テラス」で「赤い羽根共同募金」の街頭募金開始イベントを開催してもらっている他,東日本大震災発生以降の文化力イベントでは,同会の募金箱を会場に設置して「震災復興支援イベント」と銘打って活動を行っています。

 文化を通してできた交流は,文化力以外の連携にも発展しています。
 毎年夏は中央広場「霞テラス」で,地区内にオフィスを構える官民の有志組織が実行委員会を結成して「霞の打ち水」を行っています。各組織の職員や当日の飛び入り参加者により,消費期限切れで廃棄予定の非常用備蓄飲料水約2,300リットルを広場に撒き,気温を1〜2度下げることができました。また,地域の各ビルが協力してガーデニングショーを開催して中央広場「霞テラス」を花で飾ったり,各ビルの管理スタッフによる合同消防訓練を行う等,地域連携がますますさかんになってきています。

 このようにして,地域の権利者や管理関係者,そして官民の在館組織とその勤務者が,文化の力を通して繋がり,霞が関三丁目南地区を活気のある街に育てています。「文化で街を元気にする」活動は,まちづくりの核になっているとも言えます。

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