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文化庁月報
平成24年8月号(No.527)

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連載 「言葉のQ&A」

「世間ずれ」の意味

文化部国語課

 「彼は世間ずれしているから,この仕事には合わないだろう。」 などと使われる「世間ずれ」。
 「国語に関する世論調査」では,世代によってこの言葉が違う意味で用いられている傾向があることが分かりました。

  • 問1 「世間ずれ」とは,本来どのような意味でしょうか。
  • 答 世間を渡ってきて,ずる賢くなっているという意味の言葉です。

 「世間ずれ」を辞書で調べてみましょう。


「日本国語大辞典 第2版」(平成12〜14年・小学館)

せけん-ずれ【世間擦】 実社会で苦労して,世間の裏表に精通し,悪賢くなること。

「明鏡 第2版」(平成22年・大修館書店)

せけんずれ【世間擦れ】〔名・自サ変〕 実社会でもまれ,ずるがしこさを身につけていること。「まだ―していない青年」「―のした男」 [注意]世間からずれていることの意で使うのは誤り。

 辞書が示すように,「世間ずれ」は,世間を渡ってもまれてきた結果,ずる賢くなっているという意味です。「ずれ」は漢字を当てれば「擦れ」であり,「明鏡」が指摘しているように,「世間からずれている」という意味ではありません。「日本国語大辞典」で「ずれ」を引いてみましょう。

「日本国語大辞典 第2版」(平成12〜14年・小学館)

ずれ【摩・擦・摺・磨】《語素》(動詞「すれる(摩)」の連用形から) [3]名詞について,そのものと長いこと接して慣れが生じる意,また,そのために純真さやまじめさが失われる意を表す。「世間ずれ」「人ずれ」「(わる)ずれ」など。

 社会で経験する様々な摩擦や人との接触に慣れ,その結果,元々の純真さを失ってずる賢くなる,というのが「世間ずれ」です。

  • 問2 「世間ずれ」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
  • 答 本来の意味である「世間を渡ってきてずる賢くなっている」と答えた人が過半数でしたが,30代以下の世代では「世の中の考えから外れている」という意味で使っている人の方が多いという結果でした。

 平成16年度の「国語に関する世論調査」で,「世間ずれ」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)

〔全 体〕

(ア) 世の中の考えから外れている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32.4%
(イ) 世間を渡ってきてずる賢くなっている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51.4%
(ウ) (ア)と(イ)の両方の意味で使う・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3.3%
(エ) (ア)や(イ)のどちらの意味でも使わない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7.8%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5.1%

〔年代別グラフ〕

世間ずれ

 全体では,本来の使い方である(イ)「世間を渡ってずる賢くなっている」と回答した人の割合が5割強,本来の使い方ではない(ア)「世の中の考えから外れている」と回答した人の割合が3割強と,本来の意味を選んだ人の割合の方が上回りました。
 しかし,年代別の結果を示すグラフがX型になっているように,30代と40代の間で本来の意味とそうでない意味とを選んでいる人の割合がはっきりと逆転します。この言葉は,年配の世代では「世間を渡ってずる賢くなっている」という本来の意味で,一方,若い世代では「世の中の考えから外れている」という意味で,それぞれ多く使われているという結果が出ています。
 このように「世の中の考えから外れている」という意味での用法が広がっているのは,「ずれ」を「擦れる」の「ずれ」ではなく,物事が食い違う,外れるという意味の「ずれ」として受け取ってしまうからです。「擦れる」というのは比喩的な表現ですから,「世間とずれている」と解釈する方が簡単ということがあるかもしれません。また,「世間離れ」などの言葉から影響を受けていることも考えられます。
 加えて,冒頭の「彼は世間ずれしているから,この仕事には合わないだろう。」というような文では,発信者(送り手)と受信者(受け手)のそれぞれが別の意味で捉えていても,文脈による違和感がないため,話がスムーズに進んでしまうところがあります。グラフの形を見ると,今後も「世の中の考えから外れている」という意味での使用が,増えていく可能性がありそうです。

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