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文化庁月報
平成24年11月号(No.530)

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連載 芸術文化に関する人材育成

人材育成には時間と労力が

公益社団法人日本劇団協議会会長,演出家 西川信廣
文化庁芸術家在外研修の成果発表 『ポルノグラフィ』

文化庁芸術家在外研修の成果発表
『ポルノグラフィ』

 日本劇団協議会では昨年度より『日本の演劇人を育てるプロジェクト』事業(文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」採択事業)として,(1)「日本の劇」戯曲賞,(2)文化庁芸術家在外研修の成果発表,(3)新進演劇人育成公演,(4)新進劇団育成公演,(5)新進演劇人集中講座を実施しています。

 これは以前から個別のプログラムとして実施していた事業なのですが,新たに若い劇団を育てようと(4)番を加えて,これからの演劇人を育てるための大型プロジェクトとして改めてスタートしました。

 それぞれの事業は,協議会に加盟している劇団,創造団体の経験を踏まえた「演劇の智」,そして「横のつながり」を活かして将来の演劇界を牽引する若い人たちを育てることが大きな目的です。

新進演劇人集中講座 「日本の近代・現代劇へのアプローチ」

新進演劇人集中講座
「日本の近代・現代劇へのアプローチ」

 例えば(5)番の新進演劇人集中講座はいわゆるワークショップ形式の講座です。加盟劇団独自の俳優養成術や人脈を活かして運営し,国内外から講師を招き広く演劇界に門戸を開いています。俳優が成長するためには様々なことがステップアップにつながります。一つにそれまで学んできた方法とは違う形の演技術,演劇に対する考え方に触れたとき,大きく成長する場合が少なくありません。しかし,他の創造集団の俳優術,演劇観に触れる機会はそれほどありません。ここではその場を提供しています。私も所属する文学座が協力し「日本の近代・現代劇へのアプローチ」という講座を受け持っていますが,毎回様々な場所で演技を学んできた人たちが参加してきます。戯曲への取り組み方,役作り,相手との関係作りなどを私と講師助手の俳優も交えてテキストに取り組むのですが,時には異種間格闘技のようになって大きな刺激をお互いが受けています。それら一つ一つが参加者の飛躍へのきっかけになればと思います。

「日本の劇」戯曲賞2011最優秀賞受賞作品 『にわか雨,ときたま雨宿り』

「日本の劇」戯曲賞2011最優秀賞受賞作品
『にわか雨,ときたま雨宿り』

 (1)番の「日本の劇」戯曲賞は文化庁の舞台芸術創作奨励賞の流れを引き継いで始まりました。この賞の特徴は,受賞作品が必ず上演されるということです。しかも,第一線で活躍している演出家,俳優たちが中心になって受賞作に取り組みます。劇作家の清水邦夫さんは「劇作家が書いた戯曲はまだ寝ている。それを起こすのが演出家や俳優である」と仰っていました。やはり劇作家の生み出した言葉は演出家の解釈や俳優の声と体を通してこそ本当に生きた劇言語になるのだと思います。昨年度は私の演出で鈴木穣さんの『にわか雨,ときたま雨宿り』を上演しました。その過程では,作家と私とドラマドクター(演出家とは別の視点からのアドヴァイザー)で何度も議論し書き直しを繰り返し,刺激的な現場になりました。作家の鈴木さんには苦しみと,喜びが入り混じった時間になったかもしれません。しかし,公演終了後「忘れられない作品になった」と仰っていたので,この経験を活かしてより質の高い作品を生み出すことが期待されます。その他の三つの事業も,参加する演劇人が公演と人的交流を通して創造的で刺激的な時間を過ごします。さらなる成長につながる良い機会だと思っています。

 昔,英国の演出家に演出の仕事を一言でいうと何かと問うたことがあります。その時の多くの回答は「忍耐」「待つ」でした。これは,演出の仕事だけでなく人材育成も同じだと思っています。人材育成には時間と労力とそしてお金がかかります。物を作るように合理的にスピードを上げて時間も労力も節約して…とは行きません。なにしろ相手が人間だからです。また,時間も労力もお金もかけたからと言って必ずしも優秀な人材に成長するとは限らないという難しさもあります。しかし,お金はともかく,人材育成は時間と労力をかけてコツコツと続けて行くことだと思います。そのことで必ずや優秀な才能が開花する,それを信じながら。

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