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文化庁月報
平成25年4月号(No.535)

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連載 「いきいきミュージアム 〜エデュケーションの視点から〜」

「アール・デコてくてくトーク」

東京都庭園美術館 八巻香澄

 「今日はみなさんを,普通のオフィスビルやマンションを見るのが楽しくて仕方ない特異体質にしてしまいます。」東京都庭園美術館の新しいエデュケーションプログラムをご紹介します。

目次

  1. 1 イラストを描きます。自分でね
  2. 2 何か見つけたらシェアしましょう。みんなでね
  3. 3 じっくり見ると色々分かるんだ。私もね

イラストを描きます。自分でね

 「アール・デコてくてくトーク」は,街中に残るアール・デコ建築(1920年代〜30年代に建てられた建築)を見て歩くというプログラムです。東京都庭園美術館の建物がこのアール・デコ建築の代表例なので,通常は館内で見どころを紹介していますが,リニューアル休館するにあたり,美術館の外に出て他の作例を見る活動を始めました。

自分だけのビンゴシート完成!これだけでもちょっと嬉しい。

自分だけのビンゴシート完成!これだけでもちょっと嬉しい。

 このプログラムでは,最初に一時間かけて,アール・デコ建築の特徴を描きこんだビンゴシートを作ります。その後街歩きをしながら,アール・デコ建築を観察してビンゴシートにある項目と同じ特徴を探し出すのです。

 ポイントは自分でイラストを描くところ。自分で手を動かす過程で形が頭にインプットされるので,後で同じ形を見つけやすくなります。絵を描くのはちょっと苦手という人でもリラックスして参加できるように,ファシリテーター(進行役)を務める学芸員が,アール・デコ建築によく使われる素材や窓の形,装飾モチーフなどを紹介しながら,黒板でイラストの描き方も説明しています。

何か見つけたらシェアしましょう。みんなでね

「あ!あれ見て」「どれどれ?」初対面だけど打ち解けて会話

「あ!あれ見て」「どれどれ?」初対面だけど打ち解けて会話

 次にビンゴシートを持って,街中に残る古い建物を12軒ほど見学します。必ずしも状態の良い有名な建築ばかりではなく,改修を加えながら使い続けている雑居ビルなども含まれます。この時,ファシリテーターは見どころの解説はしません。「何か発見はありますか?」と声をかけ,参加者の発見・発言を促すだけです。ビンゴに描きこんだ特徴を発見したらそのマスにチェックをいれ,ダブルビンゴになった人から景品の缶バッジをもらえます。

 大きな声でみんなに伝えるのは少し気恥ずかしいものですが,みなさん積極的に声を出してくれるのは,ビンゴというゲームの形式を使っているおかげです。フェアプレイをするためには,全員で情報を共有しなければならないですものね。

じっくり見ると色々分かるんだ。私もね

キラキラした目で建物を見上げる参加者のみなさん

キラキラした目で建物を見上げる参加者のみなさん

 参加者のみなさんはすっかり「アール・デコ建築の特徴を探す目」になってしまっているので,より新しい建築を見た際にも「あそこにアーチがある!」「あれもスクラッチタイルですよね?」と反応し続けてしまいます。街中のオフィスビルをまじまじと見る経験はそれまでなかったと思いますし,それらを鑑賞の対象と捉えてもいなかったでしょう。でも建築の素材や形を見るのが面白いと気が付くと,アール・デコに限らず次々と新しい発見が見えてくるのです。

 実はこのプログラムを始める前は,アール・デコ建築について正確な知識を持ってもらうことを目的と考えていました。しかしプログラムの実践を通して,「じっくり見ると,いろんなことが自分でも発見できる」という自己肯定感を持てば,自ずから学びが始まるということを,参加者のみなさんに教えていただきました。だから私たちスタッフは,学びが始まる環境を整えることに専念しています。

 参加者の方から送られてきた事後アンケートに,「つい建物を見上げてしまうようになりました。ビンゴシートを持ち歩こうかな」とありました。ミュージアムにおける体験(展覧会を見る,プログラムに参加するなど)が,その時楽しいだけに留まらず,その後の日常の見え方をちょっと変えるきっかけになれば,ミュージアムとしてこんなに嬉しいことはありません。

東京都庭園美術館

〒108-0071 東京都港区白金台5-21-9

お問い合わせ
03-3443-0201
開館時間
現在,リニューアル工事のため休館中。2014年開館予定
ホームページ
http://www.teien-art-museum.ne.jp/別ウィンドウが開きます

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