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文化庁月報
平成25年4月号(No.535)

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連載 「伝建地区を見守る人々 伝建歳時記」

2つの寺町と町並み保存の取組
−金沢市卯辰山麓・寺町台伝統的建造物群保存地区−

金沢市都市政策局歴史文化部歴史建造物整備課主任技師 神谷 研史

 藩政期に形成された金沢の寺院群。地元住民と行政,それぞれの町並みに対する思いと保存に向けた取組が,貴重な歴史的風致を今に伝え,これからのまちづくりにつながっています。

金沢市の伝統的建造物群保存地区

金沢市の伝統的建造物群保存地区

金沢の寺院群の形成

 金沢は,「百姓ノ持チタル国」と称されていた天文11年(1546)に,本願寺が政庁として置いた金沢御堂を中心に形成されていた寺内町が起源と考えられています。織田信長の家臣であった佐久間盛政らの攻撃によって金沢御堂が陥落すると,その3年後の天正11年(1583),前田利家がこの地に入ります。
 利家を藩祖とする加賀藩による金沢城下町の形成過程において,元和・寛永期(1615〜1643) の施策により,卯辰山山麓,小立野台,寺町台にそれぞれ寺院群が形成されました。これら3寺院群の形成目的は種々の想定がなされていますが,当時勢力のあった浄土真宗寺院への警戒も含めた,城下の防御拠点としての軍事的役割が大きかったとみられます。また,城下町形成の一翼を担う,都市計画的な要因が大きかったとも考えられます。

歴史的町並み保存への金沢市の取組

 今日まで戦火や大きな災害に見舞われることがなかった金沢には,数多くの歴史的町並みや用水,みちすじなど城下町特有の遺構が今もなお町のいたるところに残されています。
 金沢市において歴史的町並み保存の取組が本格的に開始されたのは,昭和43年の「金沢市伝統環境保存条例」制定に遡ります。本市固有の伝統環境を都市開発による破壊から守るため,特に重点的に保存すべき区域を「伝統環境保存区域」として定め,建築物の形態・意匠の誘導や緑の保全等を図りました。卯辰山麓及び寺町台の寺院群は,当初よりこの伝統環境保存区域に指定されています。この条例に基づき,昭和45年より寺院土塀修復事業,昭和55年より寺院山門修復事業を開始し,現在も行っています。また,平成14年には寺社等の建造物や周囲の緑からなる寺社風景の保全を目的とする「金沢の歴史的文化資産である寺社等の風景の保全に関する条例」を制定し,小立野台と寺町台の2区域を指定しています。
 金沢市伝統環境保存条例は,現在は景観法に基づく「金沢市における美しい景観のまちづくりに関する条例」へと引き継がれ,保存と開発との調和のとれた都市景観の形成を図っています。寺院群の町並み保存に向けては,卯辰山麓は平成9年度及び平成16年度から2ヶ年,寺町台は平成20年度から3ヶ年にかけて,それぞれ現況や保存対策に関する調査を行いました。

七面小路(卯辰山麓地区)

七面小路(卯辰山麓地区)

旧野田道(寺町台地区)

旧野田道(寺町台地区)

卯辰山麓における地元住民の取組

 金沢市の取組が始まった頃から,この貴重な町並みを守っていこうという地元の意識は高く,卯辰山麓では昭和63年に「卯辰山を愛する会」が結成されます。この会の主な活動は,寺院群に関する勉強会の開催や,寺院群を巡る散策ルートを設定することでした。この活動を受けて,金沢市は平成2年度から14年度にかけて3寺院群の散策ルートの整備を行っています。
 卯辰山麓の保存対策に関する調査が進むと,平成19年には地元から住民主体のまちづくり団体組織の提案があり,「卯辰山山麓地区まちづくり協議会」が発足しました。協議会は,住民を対象にした,地区を巡る魅力再発見探訪会を主催するなど,地区の保存に向けて地元の気運が高まっています。

寺町寺院群を巡る会での住職講話

寺町寺院群を巡る会での住職講話

寺町台における地元住民の取組

 寺院の鐘は時代とともに撞くところが少なくなってきましたが,「寺町に鐘の音を残そう」という運動が寺町台の住民の間に起こり,平成6年,地元有志により「鐘音愛好会」が結成されました。毎週土曜日の夕方に鐘を撞く活動は現在も続いており,「寺町寺院群の鐘」は平成8年に環境省の「残したい日本の音風景100選」に選定されています。
 平成19年には,寺町台の歴史的町並みを保存し,それに調和したまちづくりを行政と協働で推進することを目的に,「寺町台まちづくり協議会」が発足しました。協議会では,年に数回「寺町寺院群を巡る会」を開催し,寺院の見学や住職の講話,寺院群の歴史やまちづくりなどについて地域住民が話し合う場を設けています。

重伝建選定記念式典での鐘撞き(卯辰山麓地区)

重伝建選定記念式典での鐘撞き(卯辰山麓地区)

重伝建地区選定とこれからのまちづくり

 行政と地元住民が協働し,歴史的町並みの保存に向けた取組により,平成23年11月,旧北国街道から卯辰山の中腹に向かって伸びる細街路沿いに寺社と町家が特徴的に混在する「卯辰山麓」が,「寺町」という種別では全国初となる重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されました。さらに,平成24年12月には,加賀藩主前田家墓所へ至る旧野田道と白山への参詣路である旧鶴来道沿いに形成された2つの寺町から成る「寺町台」が,重伝建地区に選定されています。
 同じ「寺町」という種別でありながら,異なる特徴を持つ2つの重伝建地区においては,それぞれの歴史的風致をふまえた修理修景を進めていくとともに,防災計画の策定や防災施設を順次整備し,地区の保存整備を進めていきます。今後も引き続き,協議会をはじめ地元住民と金沢市が手を携え合いながら,歴史的町並みの保存に取り組んでまいります。

 (関連ホームページ) 歴史都市金沢のまちづくり別ウィンドウが開きます

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