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文化庁月報
平成25年4月号(No.535)

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連載 「日本の伝統美と技を守る人々 重要無形文化財保持者編」

重要無形文化財「能シテ方」保持者 (かた)(やま)(ゆう)(せつ)

武蔵野大学客員教授 羽田 昶
片山幽雪

重要無形文化財「能シテ方」
指定年月日:昭和30年2月15日


保持者:片山(かたやま) (ひろ)太郎(たろう) 芸名:片山 幽雪
認定年月日:平成13年7月12日
(生年月日)昭和5年生(在住)京都府京都市


【重要無形文化財および保持者のプロフィール】

 能シテ方は,ワキ方,囃子方,狂言方とともに能を成立させる技法の一つで,曲中の人物に扮し,内容を謡い舞いして演じるものです。能シテ方は主役であるシテのほか,舞台の進行に重要な役割を担う地謡や後見をも務め,能はすべて能シテ方を中心に構成された歌舞劇となっています。
 片山博太郎(片山幽雪)氏は昭和11年に初舞台を踏み,父である8世片山九郎右衛門の薫陶を受けたほか,観世華雪や観世雅雪にも師事し,能シテ方観世流の技芸を的確かつ高度に体得しています。観世流を代表する演者の一人として活躍するいっぽう,これまでに能楽協会理事長,京都観世会会長,京都能楽養成会教務理事等を歴任し,多くの優れた後継者をも育成しています。

「関寺小町」シテ (平成17年3月26日「関寺小町」を観る会/於 京都観世会館) 金の星渡辺写真場 渡辺真也 撮影

「関寺小町」シテ
(平成17年3月26日「関寺小町」を観る会/於 京都観世会館)
金の星渡辺写真場 渡辺真也 撮影

 片山家は,300年以上前から京都で確固たる位置を占めてきた家柄で,代々の当主が,関西観世流の総支配人的な立場にありました。すでに幽雪さんの長男清司さんが当主として10世九郎右衛門を名のっています。五流の家元は別にして,一つの家で十代も続いているのは稀であり,それだけ責任の重い観世流の名家です。のみならず,平成7年日本芸術院会員,平成13年人間国宝,平成21年文化功労者の栄誉に輝き,観世清和宗家の意向で,幽雪と号するとともに観世流で初めての「老分」という芸事総監督ともいうべき地位に就いたのも,実績と実力の結果であること衆目の一致するところです。さかのぼれば,幽雪さんの父博通(8世九郎右衛門)は24世宗家観世左近元滋の実弟で,母は京舞の4世井上八千代。そして今,長女は5世井上八千代で,その夫君は9世観世銕之丞という,まことに華麗な芸術一家です。
 しかし,こうした系図の詮索立てが重要で本質的なことではありません。幽雪さんは,幼少期に父上,19歳からは観世華雪に師事し,ついで雅雪・寿夫にも教えを受け,早くから銕仙会同人としても活躍しています。恵まれた立場,京都という土壌,そのみやびな伝統に安住することなく,真摯に,実直に,修業し研究を重ねてきました。その演ずる能は,いつも,曲の内容や演技演出を考えぬき,厳しい稽古を経て,面や装束の選択に思いを凝らしたことが感じられる,丁寧な神経の行き届いた仕上がりを見せます。しかも,美しいだけでなく,しなやかな強さを感じさせます。それでいて,若き日には「夕鶴」「智恵子抄」などの新作能を,近年は「長柄」「阿古屋松」などの復曲能を手がけるように,進取に富んだ実験的な作業にも積極的です。
 30代で「卒都婆小町」,40代で「姨捨」を披いたのち,三老女も一再ならず演じていますが,ことに最奥の秘曲とされる「関寺小町」を,平成14年に名古屋で披き,平成17年に京都で再演したのち,ことし平成25年5月に国立能楽堂で3度目の舞台を見せてくれるのは,東京の観客にはありがたいことで,快挙と言わねばなりません。深刻なテーマを持つ夢幻能「檜垣」「姨捨」に比べて,「関寺小町」は老女の日常を淡彩に描いた現在能,そこに巧まざる深い味わいを感得させる風の曲で,その意味では老境に上演を重ねるにふさわしい演目と言えましょう。

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