文化庁月報
平成25年5月号(No.536)
イベント案内
東京国立博物館
特集陳列「江戸時代が見た中国絵画」
重要文化財 寒江独釣図 伝馬遠筆 南宋時代・13世紀
日本人と中国絵画
日本は中国を除けば,世界で一番多くの中国絵画を保有している国です。なぜでしょうか。それは千年にわたる交流の中で,日本の歴史が大切に守り,伝えてきたからです。本展覧会では江戸時代を中心に,日本人がどのように中国絵画を伝え,守ってきたのかを展示します。
例えば,馬遠「寒江独釣図」(重要文化財)。南宋絵画の傑作と言われたこの作品は,昨年おこなわれた本格修理によって,画面が上下に切れていることが分かりました。このことはこの作品が,本来より大きな画面の一部分であった可能性を示唆しています。床の間での鑑賞に合うように中国絵画を小さく切り取ることは,日本ではよく行われていました。寒く静かな水面に釣り糸を垂れる一人の高士。内面の孤高までも描き出した南宋絵画の傑作とされた作品です。この作品を描いたのは中国人ですが,一番大切な表現要素であるこの独特の構図は,実は,日本人によって作り出された可能性が高いのです。
左:寒江独釣図(模写) 狩野養信模 江戸時代・19世紀
右上:寒江独釣図(模写) 伝狩野元信模
右下:寒江独釣図(模写) 伝狩野探幽模
“中国”?,“日本”?
ではこの作品は“中国絵画”なのでしょうか,それとも“日本絵画”なのでしょうか。作品の伝来を知れば,作品の国籍や所属を近代的な「国家」の概念から線を引くことが,いかに限定的なものであるのか,考えさせられることでしょう。作品はそれを作った地域のみの歴史であるばかりではなく,それを大切に伝来し,守ってきた多くの人々の歴史でもあるからです。
本展では,東京国立博物館の摸写や,箱,添え状などの付属品も同時に展示します。この「寒江独釣図」には四幅の摸写が伝わります。それは元信,探幽,養信など,みな狩野家歴代の当主たちによって写されたものでした。この作品は三重の木箱に入れられて,美しい更紗の裂に包まれています。これらの付属品を見れば,この作品が日本の歴史のなかで,いかに大切に扱われたかを知ることが出来ます。それは間違いなく,中国で作られた絵画が,日本の歴史の一部分となっていった証でもありました。
左:天保九如図 谷文晁筆 江戸時代・19世紀
右:重要文化財 山水図 李在筆 明時代・15世紀
東洋館のアジア美術コレクション
これらの箱に入れられた付属品は,普段は展示されることはなく,ほとんどが初公開となります。同時に,江戸の中国画学書を展示することで,日本人がどのように中国絵画を伝世,研究してきたのかも展示します。
今年は1月に東洋館がリニューアルオープンしました。この素晴らしいコレクションも,実はこのような日本人の歴史がアジア美術を集めてきた集大成であり,決して偶然の産物ではないことも,この展示を御覧いただければ,きっとお分かりいただけるに違いありません。
(東洋室研究員 塚本麿充)
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- 一般600(500)円,大学生400(300)円
※( )内は20名以上の団体料金です。
※特別展の場合は別料金となります。
※障害者とその介護者各1名は無料です。入館の際に障害者手帳等をご提示ください。
※高校生以下および満18歳未満,満70歳以上の方は,総合文化展について無料です。入館の際に年齢のわかるもの(生徒手帳,健康保険証,運転免許証など)をご提示ください。 - ホームページ
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