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文化庁月報
平成25年5月号(No.536)

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連載 「祭り歳時記 伝承を支える人々」

大善寺の藤切り祭

甲州市教育委員会生涯学習課文化財担当 飯島 泉

記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財「大善寺の藤切り祭」
指定・登録年月日:平成25年3月12日
所在都道府県:山梨県

 甲州市の勝沼地域は,国内最大のブドウ栽培地です。ブドウ栽培の歴史は古く,大善寺の本尊薬師如来坐像(重要文化財)はブドウを手にしていたと伝えられ,大善寺がブドウの発祥地だともいわれています。ブドウ栽培農家の方々は,大善寺の藤切り祭が終わると,いよいよ作業を本格化させていきます。

雨の中,藤取りの様子

雨の中,藤取りの様子


檀家の手により大蛇がご神木に吊るされる

檀家の手により大蛇がご神木に吊るされる


役行者がご神木に登り大蛇退治

役行者がご神木に登り大蛇退治


藤蔓を取り合う参拝者たち

藤蔓を取り合う参拝者たち

藤切り祭りについて

 大善寺の藤切り祭は,毎年5月8日に開催される,甲州きっての奇祭です。(えんの)行者(ぎょうじゃ)(えんの)小角(おずぬ))が金峰山において大蛇を退治した故事に由来するといわれ,「(さん)(ざん)(わた)り」など修験の修法を取り入れながら,高さ3間半のご神木(しんぼく)に吊るした大蛇を切り落とすことで,役行者の大蛇退治を再現しています。
 大蛇もご神木も藤(づる)で作ります。大蛇は13(ひろ)の長さの根を7巻き半に巻き,太い端を顔に細工して仕上げます。ご神木はヒノキの柱を立て,縦に3本藤の根を垂らし,その3本に19個の藤蔓のタガを付け,カシの葉を巻きつけます。役行者に扮した修験者が大蛇を切り落とすときには,19このタガを梯子がわりにしてご神木を上っていきます。
 大蛇が切り落とされると,ご神木のまわりに集まっていた人たちが競って大蛇を奪い合います。大蛇の藤蔓は縁起物としてご利益があるといわれており,特に頭部は一つしかないため,毎年壮絶な奪い合いが展開されます。
 明治期には,この頭部を取った村が柏尾山(かしおさん)(大善寺領)の下草刈りの権利を得たといい,その年の村内の産業や経済に影響を及ぼすようなイベントだったことがわかります。

藤切り祭を支える人たち

 5月2日に藤取りをします。藤蔓と呼んでいますが実際は藤の根です。前年に目をつけておいた藤の根を沢の斜面に沿って掘り出しますが,大蛇用の藤蔓は長さに加えて頭部の大きさも必要で,気に入ったものが取れるまで作業は終わりません。
 掘り取った藤蔓は,乾燥を防ぐため池に入れておき,5月6日の旗立てで大蛇とご神木に使われます。
 これらの作業は大善寺住職の号令のもと,檀家総代の方々が行っています。毎年のことですので手馴れた様子で作業していきますが,平日に行われることが多いため,若い人の不足が心配されます。

藤切り祭と富士山信仰

 大善寺には,祭の主人公である役行者の像が保存されています。山梨県の文化財に指定されているこの像は,もともと富士山と甲府盆地を隔てる御坂(みさか)山地(さんち)の,富士登山のための街道沿いに安置されていたもので,役行者を介して藤切り祭と富士山信仰は,何か関連があるものと推測されます。
 今後,映像による記録保存を進めながら,文献等の調査を行い,祭の起源や富士山信仰とのかかわりを探っていきます。

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