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文化庁月報
平成25年5月号(No.536)

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連載 「地域日本語教育の現場から−全国リレー紹介−」

日本地図

 現在,日本の外国人登録者数は200万人以上,大学等の日本語教育機関における日本語学習者数も13万人を超えています。
 日本全国津々浦々で,日本語を学ぶ外国人と,日本語を教える日本語教師が日々奮闘しています。文化庁では,そんな地域の日本語教室の様々な取組を支援しています。ここでは,各地の日本語教室の取組と日本語教師,外国人学習者,ボランティアの方々の声を北から南へリレーでつないで紹介していきます。

のしろ日本語学習会(秋田県能代市)
―地域ではぐくむ生活者としての自立支援―

能代市航空写真

のしろ日本語学習会代表 北川 裕子
文化庁地域日本語教育コーディネーター研修修了(平成22年度)
秋田県生涯学習指導員,地域外国人相談員,秋田県子育てサポーター
学校加配日本語指導者・中国残留邦人自立支援通訳者

1・地域と世界を結ぶ小さな教室

今年春の「日本語教室開講式」今は能代市の委託事業ですから市役所から挨拶があります。町全体で支える日本語教室です。

今年春の「日本語教室開講式」今は能代市の委託事業ですから市役所から挨拶があります。町全体で支える日本語教室です。

 秋田県能代市は秋田県北西部に位置し,世界自然遺産白神山地とそれに連なる山々,今に受け継がれる風の松原,夕日を鮮やかに映し出す日本海は,地域の誇れる宝です。
 人口約59,000人のうち,外国人登録者数は260人(平成23年度)で,その8割が日本人の配偶者。いわゆるお嫁さんが多い地域であり,出身もフィリピン・中国・韓国・インドネシア・パキスタン・ロシアなど,民族・言語・学歴・学習経験・職歴等も,実に多種多様です。

 そんな能代にある「のしろ日本語学習会」は平成3年に始まった地域の日本語教室です。20年以上前,当時は,外国人住民と外国人との接触経験がない日本人との間で,文化や習慣の違いによるトラブルが生じたり,日本人の差別意識の表れともとれる場面に出会うこともあり,住民の間には「壁」がありました。そんな折,私が能代市から中国残留帰国邦人家族に対する日本語指導の依頼を受けまして,そのことをきっかけに,日本に定住・帰化する外国人と日本人の多文化共生意識を見据えた日本語教室を立ち上げようと決心しました。当初は協力者も少なく大変でしたが,「国際理解は結局人間理解だ」という気持ちで続けてきました。

 今は能代市からの委託で教室が開催できるようになり,周辺町村からも日本語指導を任されています。複数の地域で日本語支援をするメリットは,学習する場所は違っても,交流活動で顔を合わせ一緒に楽しむ機会を共有することで,受講生同志のネットワークが作れることです。
 今までの実績が信頼につながり,学校教育委員会や行政からも地域の日本語教室の拠点として相談を受けるなど評価をもらえるようになりました。

 現在ボランティアは約20名。高校生から主婦,現職・退職教員,会社員など年齢も背景も様々な市民の方に協力いただき,日本語指導だけでなく,保育,広報,生活相談,こどもたちに対する学習指導など,それぞれの得意分野を生かして協力しながら活動しています。

2・自立する生活者を支援する日本語教室

子育て教室での授業。小さいこどもがハイハイできる教室ではスリッパを並べたり,座っての挨拶を練習したりと日本文化の学びがいっぱいです。

子育て教室での授業。小さいこどもがハイハイできる教室ではスリッパを並べたり,座っての挨拶を練習したりと日本文化の学びがいっぱいです。

 「のしろ日本語学習会」は能代市公民館で週2回,初級レベルから「話す・読む・聞く・書く」の4技能を含めた指導を行っています。

 外国人が多い都市と違い,地方では行政の通訳・多言語による対応は難しく,生活していくためには外国人住民に自立し必要な情報を得てもらうことは重要な意味を持ちます。

 教室に通う学習者が望むのは,日本語を学ぶことと同時に「自立した生活」を送ることなのです。教室の卒業生の中には,中国語講座や韓国語講座の講師など・能代市の通訳や翻訳のお手伝いをする卒業生もいて,先輩住民として教室を,地域を,支える側に立ってくれています。

 能代は,大学も国際交流協会もない町です。そのような町で日本語教室を実践していく上で,日本語支援者自身の日本語指導や国際理解教育の学びが必要になります。私自身,文化庁の日本語教育コーディネーター研修を受講したり,「生活者としての外国人」のための日本語教育事業に採択されたことで最前線の専門家を能代に招いたりして,様々な学びを得ることができました。このことは日本語教室にも有益であると同時に,町全体が多文化共生について考える機会にもなりました。地方の町だからこそ,必要な事業であり,機会だったと思っています。

地域に必要とされる教室になるために

 能代市在住の外国人は,日本でこどもを産み育てる人が多いのですが,日本語が理解できない外国人の子育てには困難が伴います。様々な場面で日本語が必要なのですが,小さいこどもがいる母親は夜間の教室に通えないことが多いことが分かりました。そこで10年前,昼の時間に育児支援付きの教室を始めました。お母さんが教室で日本語を学習している間,子育てサポータ−がこどもの相手をするのです。

 「母親は言葉より育児を優先すべき」という意見も多かったのですが,支援を始めてから「国が違えば子育ての仕方も違う」ということが分かってきましたし,予防接種や健診などの情報が十分に得られなかったり,日本語が未熟な母親から言葉を教わったため発音がしっかりせず学習障害と誤解されるケースもあったことから,今後一層の支援の必要性を感じています。

 この取組に対して,平成22年には内閣府から「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」が授与されました。これは大きな励みになりました。

3・支援者の声 −子どもたちへの学習支援を担当した高校生R・Kさん

「のしろ日本語学習会」は私たちの誇り(R・Kさん)

第56回NHK杯全国高校放送コンテスト テレビドキュメント部門 秋田県最優秀作品賞作品 「ココロをつなぐ教室」編集者の一人でもあるR・Kさん(写真右)

第56回NHK杯全国高校放送コンテスト テレビドキュメント部門 秋田県最優秀作品賞作品 「ココロをつなぐ教室」編集者の一人でもあるR・Kさん(写真右)

 のしろ日本語学習会の扉を開くと,ふだん目にしない光景があります。小さい子からお年寄りの方々,日本人や外国人が机や黒板に向かい,熱心に勉強しているのです。

 私はこの教室に参加して初めて,自分の地域に外国人の方が多く住んでいることを知りました。そして言葉の壁や文化の違いに戸惑う彼らを,縁の下の力持ちとして支える北川先生の熱い思いを知りました。
 外国人の母親を持つこどもたちの教育の場として,様々な面を持つこの教室は,北川先生はじめ地域の人達によって今日も守られています。

 私はこの学習会が能代にあることを誇りに思っています。過疎化が進み,かつて栄えた姿を失いつつある私たちの地域に,全国に胸を張って自慢できるものが,のしろ日本語学習会です。

4・日本語学習者の声 −日本語教室で学んだ韓国からのお嫁さん−

−最初は大変だった・・・でも頑張ればできる!多くの人に知ってほしい−

日本語を学び,今では地域の人たちに韓国語を教えるなど町に必要な人財として活躍しているさっちゃん(中央)

日本語を学び,今では地域の人たちに韓国語を教えるなど町に必要な人財として活躍しているさっちゃん(中央)

 日本語を勉強することで多くの人たちと出会って受け入れてもらって私の国のことも話せる自分がいます。
 自分に自信がつきました。私は韓国から来て,日本の文化も習慣も何も分からないで結婚しました。でも,自分が努力するといろいろな人たちが助けてくれます。
 最初は意地悪だとか怖いと思った人も分かってくると私の誤解だと気が付きます。

(作文の一部を抜粋したものです。リンク先は最後に)

5・私たちの教室が目指していること−言葉は文化を映し出す鏡−

 この教室を作ることになったとき,強く意識したことがあります。それは,外国人住民への日本語支援と同時に,日本人住民が国際化を身近なものとして一緒になって関われる「まちづくり」を起点とした教室を目指そうということでした。

 外国人と日本人は,言葉はもちろん,これまで接してきた文化や習慣が違います。言葉はその国の文化や習慣があってこそ成り立つもので,日本語という言葉だけを教えても日本の社会や文化,考え方を理解してもらうのは難しい。私たちは,ともに能代に暮らす住民として,日本の,能代の文化や習慣を様々な体験を通して伝えたいと考えています。

 花見・バス旅行・茶会・書道・生け花・盆踊り・日本料理教室・忘年会などの行事を通じた地域の文化体験や交流は,外国人住民にとって新鮮な体験となると同時に,日本人の側にも,能代で生きる外国人住民が一人の人間であることを肌で感じる機会となり,理解者・支援者を増やすことにつながっています。このような行事は能代市民の皆さんの協力,行政の力添えがあってこそできることです。

 このような活動を通して,日本人も外国人もいっしょに能代のまちづくりに関わっていく中で,皆が能代の文化,能代の子供たちを大切に思う気持ちを持って,互いに支え合えるようになることを願っています。そして,日本語教室が皆の居場所,学びの場となり,地域を支えるハブとして機能していけるよう,これからも皆さんと活動を続けていこうと思っています。周辺の町から総勢300名以上が集まる「のしろ日本語学習会主催の盆踊り会」を今年も開催する予定です。

 皆さんも一緒に踊ってくださいませんか。お待ちしております。

市の協力で開催する「のしろ日本語学習会主催の盆踊り」は今年16回目になります。高齢者の皆さんも盆踊りを一緒に楽しむことで受け入れてくれます。
市の協力で開催する「のしろ日本語学習会主催の盆踊り」は今年16回目になります。
高齢者の皆さんも盆踊りを一緒に楽しむことで受け入れてくれます。

 

 【次回予告:7月号は石川県です。お楽しみに。】

のしろ日本語学習会

活動場所
秋田県能代市公民館・能代市働く婦人の家(託児室)
活動日時
【日本語講座】
 毎週火曜 午後7時〜9時   (就学児童・大人)
 毎週木曜日午前10時〜12時 (子育て支援室・入場時同伴受講可)
【日本語ボランティア養成講座】
 月2回
 講義:日曜10時〜12時,実施講習:火曜19時〜21時
【ふれあい交流事業】
季節の行事・催しなど。随時開催。
問い合わせ先
能代市市民活力推進課 (0185-88-2148)
のしろ日本語学習会 代表 北川 (090-3640-0459)
URL
http://njsl016.web.fc2.com/別ウィンドウが開きます
映像データ
http://njsl016.web.fc2.com/newpage1.html別ウィンドウが開きます
第56回NHK杯全国高校放送コンテスト テレビドキュメント部門
   秋田県最優秀作品賞作品 「ココロをつなぐ教室」
作文全文
http://nihongohiroba.com/?p=436別ウィンドウが開きます

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