文化庁月報
平成25年5月号(No.536)
連載 「若手映画監督の声」
「僕の土台を築いてくれたndjc:若手映画作家育成プロジェクト」
「ndjcがあって今がある」僕はそう思っています。
僕がndjcに参加したのは2008年,製作実地研修で短編映画「琥珀色のキラキラ」
を35mmフィルムで撮ってから5年近くの歳月が経ちました。
そしてこの春,ついに長編映画「チチを撮りに」
で,劇場公開デビューを果たすことが出来ました。
5年が長かったのか?短かったのか?希望と苦悩と焦りが入り交じった日々でした。でもそんな中でも僕が諦めずに映画を続けてこられたのは,間違いなくndjc2008で得た貴重な経験,そして感動があったからだと思います。
ndjc2008現場写真
【35mmフィルムでの撮影現場】
35mmフィルムで映画を撮りたい
映画学校を卒業して二年で助監督をドロップアウトしてしまった僕にとって,35mmフィルムでの映画製作は,一つの夢であり,憧れみたいなものでした。
ndjcではそれが経験できる―この機会を逃すわけにはいかないと応募し,まだ選ばれるのかも分からない内から,僕は35mmフィルムで映画を撮る姿ばかり想像していました。
参加作家5人に選ばれたという電話を頂いた時は,嬉しくて,興奮して,ちょっと涙が出たのは内緒です(笑)
【ndjc2008『琥珀色のキラキラ』】
「これが映画だ!」と実感した35mmフィルムでの映画撮影6日間
第一線で活躍されている映画職人の中に,まだ半人前の僕が一人。対等な立場とまではいかなくても【臆せず自分のやりたい事をちゃんと伝える】【曲げるべきではない意思は曲げない】この二つの思いを胸に,約4ヶ月の準備期間は無我夢中でした。
そして2008年の12月,ついにクランクインの日を迎えました。今の僕の映画人生の土台を築いてくれた運命の6日間が始まりました。
35mmフィルムでの撮影には,独特の緊張感がありました。“フィルムに自分の思いと意思を焼き付ける感覚” ・・・もちろん失敗すればテイクを重ねれば良いのですが,すぐに消去できるデジタルと違い,一度焼き付けたら二度と消せない責任の様なものを僕はひしひしと感じていました。スタッフ,キャスト含め,この1テイクへかける集中力が,独特の緊張感を生んでいました。カメラの中でカラカラと回るフィルムの音は,僕にとって快感と責任感の音でした。
一度,茨城で撮影している時に,どうしても思ったようなカットを撮れず,何度もテイクを重ねている内に,フィルムを回しすぎてはいけないんじゃないかという思いにかられ,自分としてはOKテイクではないのにOKを出しました。そんな僕に気づいたスタッフから「監督,納得いかなかったらもっとフィルム回しても良いんですよ」と言われ,助けられたことがありました。その後,納得できるカットが撮れ,フィルムであろうとデジタルであろうと,映画は納得いくまでやるべきだと,改めて教えられました。
実は,僕がテイクを重ねたせいで,その日回す分のフィルムが足りなくなり,僕に心配かけないように内緒で,急遽東京から茨城まで追加のフィルムを持って来て貰っていたそうです。やはり映画は一人では作れないと痛感したことを,今でも憶えています。
僕は心の中で思っていました「こ,これが映画だ!」
【劇場公開デビュー作『チチを撮りに』全国順次公開】
【第63回ベルリン国際映画祭にて】
フィルムからデジタルへ,でも,映像を焼き付ける感覚は忘れない
僕の劇場公開デビュー作「チチを撮りに」は,デジタル撮影でしたが,ndjc2008で経験した,スタッフ・キャストが1テイクに集中し,思いと意思を映像に焼き付けるあの感覚は,今でも僕の原点です。
「チチを撮りに」は,幸運にもSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012において,日本人初の監督賞を受賞し,その後,ベルリン国際映画祭正式出品,アジア太平洋映画祭・最優秀助演女優賞(渡辺真起子),アジアンフィルムアワード・最優秀助演女優賞(渡辺真起子)と,世界へと羽ばたいてくれています。現在,日本でも全国順次公開中です。
今後も,ndjcでの経験を忘れることなく,映画に,自分の思いと意思を焼き付けていこうと思っています。

