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文化庁月報
平成25年6月号(No.537)
連載 「鑑 文化芸術へのいざない」
国立西洋美術館
コレクションの価値を高めるデータベースへの挑戦
国立西洋美術館は2008年3月,収蔵作品データベース
をインターネット上に公開しました。これにより「美術館で何が見られるか」という情報提供ができるようになった今,いかに情報の質を高めコレクションの価値の向上に寄与するかという課題に挑んでいます。当館情報資料部門の取り組みをご紹介します。
「収蔵作品管理システムの画面」
システム導入のきっかけは組織改革
当館に情報システムが導入されたのは,館の方針として収蔵作品管理体制の強化が打ち出されたことがきっかけでした。本格的なデータベース・システムの導入には予算・人員・スペースの確保が欠かせませんが,組織の成長に収蔵作品管理システムの構築が必須と判断されたことは,この種の大がかりなプロジェクトを実行に移す決め手となり,また情報社会のニーズに即した事業を繰り広げていく大きな原動力ともなりました。
システムの導入に際して掲げられたコンセプトは二つ。一つはデジタル技術を使って,美術館活動の基盤となる「収蔵作品登録管理(レジストレーション)」業務を支援すること。もう一つはインターネットから従来の紙媒体まで,様々な事業展開の基礎となるデータを集積することでした。
「公式ウェブサイトの「常設展」ページ」
「美術館で今,見ることのできる作品は何か」
一つめのコンセプトの「レジストレーション」は,作品の保存・継承の責務を持つ美術館の根幹に関わる業務プロセスのことです。これをデジタル技術によって支援すると同時に,対外的な利用者サービスにも応用していこうというのがシステムの狙いでした。それは「今日美術館を訪れたら,見ることのできる作品は何か?」という,美術館が社会との接点において対峙するもっとも基本的な問いに応えることです。
当時そのために用意していたのが公式サイトの「常設展マップ」です。しかし館の見取り図とともに常設展の作家・作品名を列挙しただけのその一覧表は,展示替えの度に更新作業が必要で,手間のかかる費用対効果の低いものでした。構想から3年,システムの運用開始によってこの状況は一変します。
こうして「常設展マップ」は収蔵作品データベースと連動した「常設展」ページ
に生まれ変わり,展示一覧の画像をクリックすると,自動的に詳細な作品情報(例:モネ《睡蓮》)
を得られる仕組みが完成しました。利用者が「今,何が見られるか」だけではなく,作品についての様々な知識をも吸収することのできる,当時の日本では画期的な情報サービスがここに実現したのです。
「システムのデータを活用した『国立西洋美術館名作選』の表紙(2013年刊)」
生み出された様々なプロダクト
二つめの,多様な事業展開を見据えたデータ集積への取り組みについても,この数年の間に様々なプロダクトが生まれています。紙媒体について言えば,『所蔵水彩・素描展:松方コレクションとその後』(2010年)や『手の痕跡』展(2012年)
などの展覧会カタログ,最近刊行した『国立西洋美術館名作選』(2013年)などです。これらを彩る所蔵品データや図版はこの情報システムから抽出されたものです。
またインターネット上の「常設展」ページ公開から遅れることおよそ半年,英語版データベース
の公開にも至りました。今では世界中の人々にこのページをご利用いただいています。明らかにウェブ検索でたどり着いたと思われる海外からの問い合わせも増え,収蔵品データベースの公開は当館コレクションが世界からの注目を集める一つのきっかけにもなっているようです。
「データベースを支える記録や資料の集積」
アナログ資料の集積が意味すること
情報システムに集めているデータは,作家名・作品名・制作年・技法・支持体・サイズ・署名年記・所蔵番号・画像といった,作品に関する基本情報だけではありません。制作されてからの所有者の変遷(来歴),出品された展覧会(展覧会歴),掲載された文献(文献歴)といった,作品がたどってきた歴史的経緯についての情報も蓄積しています。
あまり知られていないのは,こうした他では得られないデジタル情報の背景に,膨大なアナログ資料の集積があるということです。国立西洋美術館では代々館員が作品にまつわる記録や資料を集め,ファイリングする作業に携わってきました。データベースの来歴・展覧会歴・文献歴はこのファイルの中身をインデックス化したものに他なりません。こうした膨大な蓄積が内外の専門家に供されることで新たな言説が生まれ,より多くの人々に作品が認められるようになっていくのです。豊富な情報があることは美術館の強みになります。それに見合うだけの充分な資料保管スペースを備えているかは,コレクションの潜在価値を測る一つの指標となるともいえるでしょう。資料収集やデータの採録はきわめて地道な作業ですが,資料の裏付けを豊富に蓄えることで,コレクションの存在感を一層高めることにつながるのではないでしょうか。
国立西洋美術館
〒110-0007 東京都台東区上野公園7−7
- お問い合わせ
- 03-5777-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- JR上野駅公園口より徒歩1分,
京成電鉄京成上野駅より徒歩7分
東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩8分 - 開館時間
- 午前9時30分〜午後5時30分(冬期は午後5時まで)(金曜日は午後8時まで開館)※入館は閉館の30分前まで。
- 休館日
- 月曜日(休日の場合は開館,翌火曜日休館),年末年始,その他臨時休館
※2013年6月24日(月)〜7月8日(月) 全館休館 - 観覧料
- 一般420円(210円),大学生130円(70円)
※( ) 内は20名以上の団体料金です。
※18歳未満および高校生以下,65歳以上の方は観覧無料(入館の際,学生証または年齢の分かるものをご提示ください。
※障害者とその付添者1名は観覧無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)
※企画展は別料金。 - ホームページ
- http://www.nmwa.go.jp/jp/index.html

