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文化庁月報
平成25年6月号(No.537)

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連載 「文化交流使の活動報告」

文化交流使が顕わにする「日本文化」の現在

公益社団法人企業メセナ協議会
事務局長 荻原康子

 日本文化は国外でどのように受容され,求められているのか。あるいは相互理解や国際交流に果たす役割とは何か。このたび「文化庁文化交流使フォーラム2013」の司会を務めさせていただき,6人の文化交流使の方々が報告された内容から(),少し考えをめぐらせてみたい。
 「文化交流使」に期待されていることの第一は日本文化の発信なわけだが,受け入れ先によってその意義はさまざまに異なる。例えば墨アーティストの海老原露巌さんは今回,イタリアを訪れてベネチア大学での講義などを行ったが,現地の書道家や研究者らの理解の深さ,真摯に希求する姿に感銘を受けたという。教養としての日本文化の受容,高い知的関心事としての憧れがベースにあってのことだろう。
 一方で,同じくヨーロッパ各都市で積極的な公演を行った生田流筝曲の榎戸二幸さんは,本物の日本文化を伝えることの大切さを訴える。欧米ではキャリアや技術の十分でない人が弟子をとっているケースもあり,芸術性の高い都市でレベルの低い演奏を流布されることで,日本文化が軽んじて見られるのではないかと危惧を抱く。今後,インターネットを活用して箏曲の普及ができるのではないかと具体策を講じ始めている。
 雅楽演奏家で作曲家の真鍋尚之さんは,ドイツの作曲家と協働し一年間で18曲の笙のための作品を初演,引き続き現在もヨーロッパでの活動を続けている。笙や雅楽などほとんど知られていないなか珍しさで売るのは簡単だが,それは一時的なものでしかない。新しい曲を創造していく中でこそ本当の理解が進み,継続した活動を可能にするという。
 ここであらためて,文化交流使の役割を問うてみると,能楽師の辰巳満次郎さんが述べた「日本の精神性は何か,日本の文化とは何かを伝えること」なのだと思う。書や琴,雅楽や能そのものを実演やワークショップで紹介するにとどまらず,個々の活動を通じていかに深く相手と接し,包括的に日本を知ってもらうことができるか。そこに心掛けたという辰巳氏は,韓国に文化交流使として赴いた。「近くて遠い国」韓国との隔たりを埋める,文化外交使節の役割すら担う。
 日本舞踊の藤間万恵さんは2010年9月からの10カ月,中国で活動した。まさに尖閣諸島を巡る問題が表面化した時期だ。欧米諸国とはまったく異なる反応の中,「自分たちのルーツを日本舞踊に見出している」という指摘が興味深い。日本の芸能の本家本元は中国・韓国,大陸から伝わった文化を自家薬籠中の物とし展開してきたのが我々である。自国が発祥でありながら人から人へ舞踊の伝承がなされてこなかった中国では,外国文化への興味とは違う,飢餓感にも似た関心があったという。
 和楽器奏者の井上公平さんは今回,AUN&HIDEとしてユニットを結成し,タイ,ベトナム,カンボジア,ラオスを巡った。現地の民族楽器のミュージシャンと29回の公演を行って実感したのは「音楽に国境はないが,国籍はある」。互いに固有の文化を尊重しながら人間同士のつながりを深めていくこと。自国の文化を体現するアーティストのなせる技だ。
 文化交流使が国外で顕わにする日本文化のありようと,その価値。個々のアーティストが道筋をつけ,日本の姿を世界に知らしめようとする努力に敬意を表し,後に続く方々への手厚いバックアップがなされることをさらに望みたい。

能ワークショップの様子
能ワークショップの様子

会場の様子

会場の様子

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

※フォーラム当日,登壇予定の藤本吉利氏(和太鼓奏者)は都合によりご欠席。

【参考】
・文化庁文化交流使について
http://www.bunka.go.jp/kokusaibunka/bunkakouryu/
・「文化庁文化交流使フォーラム2013」結果概要
http://www.bunka.go.jp/kokusaibunka/bunkakouryu/houkoku_10/index.html
・「文化庁文化交流使フォーラム2013」報告書
http://www.bunka.go.jp/kokusaibunka/bunkakouryu/houkoku_10/pdf/hokoku.pdfPDFファイルが別ウィンドウで開きます
・「文化庁文化交流使フォーラム2013」動画一覧
http://www.bunka.go.jp/kokusaibunka/bunkakouryu/houkoku_10/doga.html
・「文化庁文化交流使フォーラム」Facebook
https://www.facebook.com/JapanCulturalEnvoyForum別ウィンドウが開きます

荻原 康子

荻原 康子
公益社団法人企業メセナ協議会 事務局長

 複数のアーティスト・イン・レジデンス事業の運営・調査に関わった後,INAX文化推進部に所属。1996年よりキュレーター・オフィスにて美術展の企画運営,美術館設立構想等を手がける。2001年,民間による芸術文化振興の連合体である企業メセナ協議会に入局。顕彰事業「メセナアワード」,機関誌「メセナノート」,セミナー等を担当するほか,コーディネート事業としてアサヒグループ芸術文化財団主催の美術館展シリーズお企画協力。GBFund(東日本大震災 芸術・文化振興支援ファンド)の設立にも携わる。2011年より同協議会事務局長を務める。

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