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文化庁月報
平成25年6月号(No.537)

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連載 「日本の伝統美と技を守る人々 重要無形文化財保持者編」

重要無形文化財「日本刀」 保持者 天田あまた 昭次あきつぐ 氏

東京国立博物館名誉会員 小笠原信夫
天田昭次 (撮影:トム岸田)

(撮影:トム岸田)

重要無形文化財「日本刀」
指定年月日:昭和30年5月12日


保持者:天田あまた 昭次あきつぐ
認定年月日:平成9年6月6日
(生年月日)昭和2年生 (在住)新潟県在住


【重要無形文化財および保持者のプロフィール】

 日本刀は,良質の鉄材・玉鋼を原料とし,折り返し鍛錬によって製作されるもので,強い衝撃にも折れたり曲がったりしないという特質を持ちます。今日では美術刀剣として,美しい姿や刃文を持つ日本刀が製作されています。
 天田誠一(天田昭次)氏は,日本刀鍛錬伝習所で学び,戦後は古名刀を手本として独自に研究を進め,優れた作刀技術を体得されました。また,永年にわたり玉鋼の研究に努め,自家製鉄による鉄を用いた作品によって,高い評価を得ています。

日本刀 天田昭次先生の技と基本理念

刀の形を調整する天田氏 (撮影:トム岸田)

刀の形を調整する天田氏
(撮影:トム岸田)


剣 銘・不動丸 (平成17年制作)

剣 銘・不動丸
(平成17年制作)

 武器としての宿命をもつ日本刀が伝統技術として高く評価される所以は,木炭製鉄によって生まれたこうを用いることによります。柔らかい心鉄を強靱な鋼で包む方法で,美的な作品に仕上げるという伝統は日本刀ならではの技術です。
 基礎となる鋼は「現在のものは昔のものにどうしても追いつかない」と言われていますが,「その昔の鋼」に挑んだ人が天田昭次先生です。「すばらしい地鉄ができさえすれば,焼刃はすぐでも小乱れでも調和が取れている限り,こだわる必要を感じません。自分の作った鉄を素直に鍛えた結果」の作品であると断言されているように自家製鉄を続けています。
 以前の話となりますが,ある鑑刀家が,「模古剣亦一楽こけんをうつすもまたいちらく」と書きました。天田先生のいう「古名刀の再現」と似ているようですが,前者は古名刀を模す現代刀匠の技のことで,本歌に近づくことに喜びを感じることであり,後者は姿形を真似ることを意味するのではなく,鎌倉時代の古い鉄の繊麗さの神髄を究めることへの挑戦の覚悟の言葉です。自分が満足できる作品を生み出したいと希う気持ちから発せられた,天田先生の鉄に取り組む姿勢がよく窺えます。この事こそが伝統技術の必要条件であり,この精神の有無が作品の完成度に微妙な影響を及ぼすものではないでしょうか。
 『慶長けいちょう以来いらい新刀しんとう問答もんどう』という刀剣書があります。この本は鉄質の良さが名刀の条件であると繰り返し書いています。「きたえ板目肌いためはだにして,地鉄じがね至って詰まり,引張り(弾力)強く,鉄色黒青く鋭く冴えて,底に明るみ有りて,上白く見えて,水々しく一面に光り麗しく,小錵こにえ多く勇みあり,匂ひ深くはぜやか(爆ぜやか)に白し(意訳)」という表現がありますが,まさに天田先生の鉄に対する想いと一致するものでしょう。
 天田先生は昭和15年から終戦まで日本刀鍛錬伝習所に入門し,軍刀製作の修行を経験しています。
 戦後は,古名刀を手本として独自の鍛法きたえほうを修め,美術刀剣の製作に励みました。特に,昭和52年,同60年,平成8年の三回にわたり,新作名刀展で最高賞である正宗賞を受賞するなど,非常に高い評価を受けました。
 天田昭次先生の作品はとくに地鉄の鍛えが抜群で,にえのよくついた刃の作風を得意とされていますが,直刃も丁子刃ちょうじばの作品もあります。茎仕立なかごじたてから鋒までの姿は素直な曲線美といえる一貫した姿の作品です。短刀は無反りで尋常な姿のものや,身幅が広く反りのつくものがありますが,いずれも沸出来にえできの作風となります。

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