文化庁月報
平成25年6月号(No.537)
連載 「言葉のQ&A」
「奇特な方ですね。」は,褒め言葉か。
「彼は最近ではなかなかお目に掛かれない奇特な人だ。」のように使われる「奇特」。「国語に関する世論調査」では,約5割の人が本来の意味で使っている一方で20代以下の若い世代では本来と違う意味で使っている人の方が多いことが分かりました。
- 問1 「奇特」とは,本来どのような意味なのでしょうか。
- 答 優れて他と違って感心なこと,という意味です。
「奇特」を辞書で調べてみましょう。
「岩波国語辞典 第7版新版」(平成23年・岩波書店)
きとく【奇特】 特別にすぐれていること。また,行いが感心なこと。殊勝。「―なことだ」▽「きどく」とも言う。
「明鏡 第2版」(平成22年・大修館書店)
きとく【奇特】 行いや心がけがまれに見るほどすぐれていること。殊勝。きどく。「今時―な人もあるものだ」〈注意〉近年,「こんなものを買うなんて奇特なやつだ」など,風変わりの意でも使われるが,誤り。
「奇特」は,他と違って特別に優れていることについて使われる言葉です。「明鏡」が指摘するように,奇妙なことや風変わりなことという意味で用いるのは,本来の使い方ではありません。夏目漱石の文章から例を見てみましょう。
漱石は,普通であれば隠居してしまうような年齢になってから仏の道に入った趙洲和尚の心掛けについて「奇特」と言っています。それに倣って努力したいと言っていますから,「奇特」は賞賛の意味で用いられていることが分かるでしょう。ここでは,「まれに見るように優れている」という意味で用いられています。(「ひそみに倣う」=人の言行を見習うことを謙遜して言う表現。)
なお,「奇特」は古くは「きどく」と言われました。17世紀の初めに編
- 問2「奇特」について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
- 答 本来の意味である「優れて他と違って感心なこと」と答えた人がほぼ半数ですが,20代以下では,本来の意味ではない「奇妙で珍しいこと」と答えた人の方が多くなっています。
平成14年度の「国語に関する世論調査」で,「彼は奇特な人だ。」という例文を挙げ,「奇特」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)
〔全 体〕
(ア) 優れて他と違って感心なこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49.9%
(イ) 奇妙で珍しいこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25.2%
(ウ)(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.1%
(エ)(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4.1%
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16.7%
〔年代別グラフ〕

全体の調査結果を見ると, 本来の意味である(ア)「優れて他と違って感心なこと」と回答した人の割合は約5割となっています。一方,本来の意味ではない(イ)「奇妙で珍しいこと」と回答した人の割合は2割代半ばにとどまっています。
しかし,年代別に見ると,20代以下では(イ)の割合が,本来の意味である(ア)を上回っており,30代以上と対照的な結果となっています。20代以下の若い年齢層では,本来の意味ではない「奇妙で珍しいこと」の方が優勢になっており,グラフから考えると,この傾向は,その後も続いている可能性があります。
「奇特」の意味が「奇妙で珍しいこと」として用いられている理由としては,「奇」という字が「奇妙」のほかに,「奇抜」「奇怪」という言葉や,「奇をてらう」といった言い方でもよく使われるので,これらの意味が影響していること等が考えられるでしょう。

