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文化庁月報
平成25年7月号(No.538)

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連載 「地域日本語教育の現場から−全国リレー紹介−」

日本地図

 現在,日本の外国人登録者数は200万人以上,日本語学習者も13万人を超えています。
 日本全国津々浦々で,日本語を学ぶ外国人と,日本語を教える日本語教師が日々奮闘しています。文化庁では,そんな地域の日本語教室の様々な取組を支援しています。ここでは,各地の日本語教室の取組と日本語教師,外国人学習者,ボランティアの方々の声を北から南へリレーで繋いで紹介していきます。

「公益財団法人 石川県国際交流協会」
〜地域日本語教室のパートナーとしての活動〜

公益財団法人 石川県国際交流協会 専任日本語講師 今井武

1. 石川県および石川県の地域日本語教育について

輪島市千枚田の夕日

輪島市千枚田の夕日

■石川県について
 石川県は,北陸地方の中部に位置し,福井県,岐阜県,富山県に接し,北には能登半島が張り出しています。
 2011年には能登半島が「世界農業遺産」に指定されるなど,白山と能登半島を抱く自然豊かなところであるとともに,輪島塗,九谷焼,加賀友禅などの伝統文化と,国内有数の城下町金沢を中心とした近代的な街づくりが共存しています。
 2015年の北陸新幹線開通を控え,国内外からの観光客誘致が活発になっています。
 日本語教育についての歴史も古く,1981年には「金沢を世界へひらく市民の会」が中心となり日本語教師養成講座を実施,1983年には海外から日本語研修生を招くプログラムが民間主導で始まっています。

■石川県の地域日本語教育の特徴
 県人口は約116万人(うち金沢市約46万人),そのうち外国人住民数は約1万人で,県人口比は0.87%となり,全国から見ると外国人住民の比率が高いわけではありません。また,地理的に南北に細長い石川県では,約20ある地域日本語教室はそれぞれが離れていて,交通手段の制限も影響し,教室間の情報交換の機会も限られていることが課題でした。

 また,県の市町それぞれに人口や産業構造,交通を含めた街の成り立ち等が異なり,それに応じて各地の教室もそれぞれ特徴が異なっています。例えば,金沢や加賀では大学に通う留学生やその家族を対象とした教室,製造業が盛んな小松市では日系ブラジル人を対象とした就職や就労に配慮した教室,能登など外国人住民が少ない地域では日本人の配偶者を対象とした教室と,対象もニーズも様々です。県内19市町のうち,教室が一つのみの市町が八つ,一つもない町も五つあります。

■「在住外国人施策に関する指針」の策定
 県が2007年に石川県在住外国人を対象に実施したアンケート調査によると,日本語学習,母国語による情報提供,交流機会の提供等についての要望が多いことが分かりました。特に能登地区では,調査対象者の半数が日本語学習支援を希望しました。

県国際交流課実施アンケート
県国際交流課実施アンケート

 そこで,2008年3月,石川県は「在住外国人施策に関する指針」を策定しました。その基本目標に「日本語習得機会の確保」を明記し,取り組むべき施策として「全市町における日本語学習機会の提供,支援」,「日本語講師及び指導ボランティアの育成及びネットワーク化」,「外国人雇用企業等と連携した専門日本語教室の開催の検討」,「公民館等校下単位での日本語教室の開催の推進」を挙げました。
 ※「校下」は主に北陸地方で「学区」の意味で用いられる言葉です。
 http://www.pref.ishikawa.lg.jp/kokusai/tabunka/shishin/shishin.html別ウィンドウが開きます

 既にこの指針策定から5年が経過していますが,日本語教室が開催されていない地域もまだあるなど,これから取り組む課題はまだ残っています。しかしながら,地域の日本語教室が地域行政と連携して教室を運営したり,外国につながる子供やその保護者への支援を小中学校,大学と連携して行うなど,新たな取組も自治体,教室の壁を越えて始まっています。

2. 公益財団法人 石川県国際交流協会の地域日本語教育に関する取り組み

石川県国際交流協会のあるリファーレビル

石川県国際交流協会のあるリファーレビル

 県の「在住外国人施策に関する指針」を受けて,県は2009〜2012年度にかけて「多文化共生推進員」を配置しました。これは,県内の奥能登,中能登,加賀の三つのブロックに,2年間の任期で日本人住民1名,外国人住民1名を「多文化共生推進員」として市町単位で配置するものです。推進員は,地域の日本人住民と外国人住民の架け橋となり,また各市町の多文化共生担当者とともに市町の窓口としても活躍されました。現在は推進員の活動は終了しているのですが,これがきっかけとなり,引き続き地域で活躍される方もいらっしゃるなど,住民と市町担当者との協力関係,市町をまたいだネットワーク作りの基礎が作られたと思います。

 一方,私が所属する石川県国際交流協会は,日本語教員の養成・研修,各教室への日本語教育に関する助言やサポートなど,日本語教育に関連した事業を実施しています。
 日本語教室を立ち上げる地域では、多文化共生推進員経験者の方や各市町の多文化共生担当者の方から意見を伺いながら、「外国人に日本語を教えたい人のための基礎講座」を現地で開催しています。そして,その受講者の方が「日本語サポーター」として中心になって教室を支えてくださっています。

 「日本語サポーター」に対する継続的な支援としては,各地の教室にお邪魔し,実際の授業にも参加させてもらい,一緒に教室の課題を考える「日本語講師スキルアップ出前講座」を開催しています。これにより,県内の地域日本語教室の緩やかな連携づくり・情報交換などができるようになればと考えています。

 このほかにも,文化庁の「生活者としての外国人」のための日本語教育事業等を活用して次のような取組を行っています。

「にこにこ話そうクラス」には有料の学校型授業の受講者も多くやってきます。

「にこにこ話そうクラス」には有料の学校型授業の受講者も多くやってきます。

■やりとりを中心とした相互交流型の授業を考える
 地域日本語教室が地域へと開かれた存在になっていけばいくほど,支援者も学習者も様々な方が教室にいらっしゃるようになりました。背景や参加動機の異なる方が共に地域を作っていく上でも,日本語の習得に役立てる上でも,参加者同士のやりとりを重視した教室運営を目指そうと,幾つかの教室が取り組んでいます。
 当協会でも初期指導の「ようこそ石川日本語クラス」や相互交流型の「にこにこ話そうクラス」の運営,教材「ようこそにほんごへ」の作成を通して,各教室とノウハウの交換ができないか探っています。

■石川県日本語教室フォーラム
 県内の地域日本語教育の課題や知見を共有できるよう,各教室に呼びかけて年に2回フォーラムを開催しています。

3. 県内の地域日本語教育に関わる人の声

 県内で活動する地域日本語教室の中から二つの教室を御紹介します。一つ目の能美市日本語講師会は長い歴史を持ち,大学や親子サロンなどと積極的に連携しています。もう一つの輪島日本語教室はまだ3年目ですが,参加者が地域へ貢献しようと積極的に頑張っています。

■「能美市における「日本語教室」の活動について」
能美市日本語講師会 山本外喜男
能見市日本語講師会活動の様子

能見市日本語講師会活動の様子

 1990年,能美市に「国立大学法人・北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)」が開設され,留学生や研究員,その家族が居住し始めました。1997年に地域のボランティア数名による日本語支援が始まり,その後,石川県国際交流協会主催の日本語講師養成講座を修了した「辰口国際交流協会」(現在のNomi国際交流協会)の有志が中心となり活動を続けました。現在は,能美市教育委員会生涯学習課と連携し,「Nomi国際交流協会」と「能美市日本語講師会」が協力して,週1回,次の活動を行っています。

  • ○北陸先端科学技術大学院大学の留学生,研究員を中心に季節の行事を楽しみながら,日本語を学ぶ教室。
  • ○子育て中でも日本語を学習できる,送迎と託児付きの教室。日本人の親子との交流ができるように市の親子サロン開催日に合わせて同施設内で開講している。
  • ○企業の研修生も参加できる土曜日の教室。研修生の他に日本人の配偶者も参加し,地域住民との交流イベントも実施している。
  • ○気軽に誰もが集える空間を大切にしている「世界のともだちサロン」。各国の料理紹介や日本の行事体験のほか,ホームビジットの機会を設けたりもしている。
  •  各教室の参加者は10〜30名ですが,国籍に関わりなく互いに助け合う関係が生まれてきています。

 2010年に能美市主催で「日本語講師養成講座」が開講され,これまでに約20名が受講しましたが,家庭や仕事の関係等で,日本語教室等の活動に実際に参加できる方は多くはありません。外国人住民と共生していく上で,日本語教室はいろいろな形で地域社会への窓口のような役割を担うと思います。これから,活動に参加する方が増えることを願っています。能美市では,今後も「養成講座」を開く予定で準備を進めています。
 Nomi国際交流協会HP別ウィンドウが開きます

■「地域に溶けこむ輪島日本語教室」
輪島日本語教室 伊藤三津子
輪島日本語教室の皆さん

輪島日本語教室の皆さん

 輪島と言えば「朝市」が有名ですが,2011年には「能登の里山里海」として美しい自然と伝統文化が世界農業遺産に認定されました。観光で訪れる外国人も多く,多言語の環境整備を進めています。しかし地域に住む外国人には余り目を向けられていないのが現状です。
 2009年に輪島市で日本語講師養成講座を開講し,受講した仲間と2011年に初めて日本語教室を作りました。夜7時から1時間半,市内の公共施設で活動しており,毎回5〜6名の学習者が参加しています。
 当初,講座を受けただけの素人集団でしたから,思うようにいかないこともありましたが,「私達のできることで活動していこう」と,地域の情報誌や育児に関する雑誌,市内の地図,交流型の教材などを使って「普段着の実用的な日本語」を学習しています。
全員が一つの部屋で学習しているので,日本語が分からないとき,学習者同士が母語で教え合う姿も見られます。また,学習者の子供たちも一緒に参加して,日本語で全員と交流するゲームの時間も作っています。

 また,教室の参加者が協力して,市のゴミ出しポスターを多言語化して行政に提供したり,日本語スピーチコンテストにも積極的に参加したりするなど,地域社会に参加していくように努めています。徐々に各地域に点在していた外国人同士の輪も広がり,「困ったとき相談ができる場所として教室を頼りにしている」という学習者の声を聞くたびに,今後も「輪島になくてはならない教室」を目指していきたいと思います。
 輪島日本語教室HP別ウィンドウが開きます

 このように石川県の地域日本語教室は,各地域の特色や背景に合わせてそれぞれの特徴的な活動を進めています。当協会では,各教室の取組や課題を共有し,それぞれの教室の活動に役立てるために,文化庁の「生活者としての外国人」事業として,研修会やフォーラムの開催,教材「ようこそにほんごへ」の作成などを行っています。

4. 地域日本語教室への外国人参加者の声

 最後に地域日本語教室で学んだ外国人住民の声をお届けします。

能美市  南 麗娜(リナ)

 私は日本へ来て5年になります。最初は簡単な単語しか分かりませんでした。
 能美市に住んで3か月目から,Nomi国際交流協会の日本語教室に参加させていただきました。何も分からない私に,先生が丁寧に日本語を教えてくださいました。当時は友人がいなかったので,日本語教室でいろんな国の方と交流するのがとても楽しかったです。

衣料販売店で日本語で接客する南さん。習い覚えた日本語を駆使して頑張っています。

衣料販売店で日本語で接客する南さん。
習い覚えた日本語を駆使して頑張っています。

 日本語教室に通い始めて,3年目で日本語能力試験2級に合格する事ができました。そして衣料販売店の仕事にも就く事が出来ました。仕事では,いろんなお客さんと話す機会があり毎日ドキドキしながら接客しています。業務用語や外来語を使う事も多く,分からない時は,先生に相談したりいろいろ教えていただいたりした事もありました。

 

 昨年4月からは,子どもが保育園に通うようになり,お母さんたちとも楽しく話ができてうれしいです。こうしていろいろな方と日本語でお話する事ができるのも,日本語教室へ通っているおかげだと思っています。
 今,私は,何通りも読み方がある「漢字」に苦労しています。日本語には「丁寧語」「尊敬語」「謙譲語」などもあって,本当に難しいです。でも,これからも日本語教室に参加して,もっともっとうまく話せるようになりたいです。

5.終わりに

石川県国際交流協会授業の様子

石川県国際交流協会授業の様子

 県内各地の地域日本語教室にはなかなかお邪魔できないのですが,伺ったときに感じるのは,各教室とも,そこに参加している日本人住民と外国人住民の努力,熱意,協力で成り立っていることです。実際には課題や困難も多いでしょうし,本当に頭の下がる思いなのですが,皆さん実に楽しそうに活動されていて,私もいつもそこに地域の方と同様に迎え入れてもらっているなと感じます。

 また,地域日本語教室が,コアになって活動する日本語支援者の方だけでなく,たまにしか来られなくても行事には欠かせない活躍をする方,地道に教室の広報をしてくれる自治体の担当者の方,時々教室をのぞきにくる先輩外国人住民など,様々な関わり方で多くの方に支えられていることで,動いていることもよくわかりました。

 国や自治体の制度的な支援はまだ足りない部分がありますが,それぞれの教室は日本語を学ぶ場としてだけでなく,地域で外国人住民と日本人住民が出会う場として,すでに「かけがえのない場」として存在しています。

 各教室の良さはそのままに,しかし支援者や学習者に共通する課題を解決するためのツールや機会を共有できるような形をこれから作っていければと思っています。

【次回予告:9月号は神奈川県です。お楽しみに。】

公益財団法人 石川県国際交流協会

〒920-0853 石川県金沢市本町1-5-3 リファーレ3階

活動場所
石川県国際交流センター(石川県金沢市本町1-5-3 リファーレ3階)
問い合わせ先
076-222-5931 koshi1@ifie.or.jp
URL
http://www.ifie.or.jp/別ウィンドウが開きます

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